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リードレスペースメーカの短期安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リードレスペースメーカの論文.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
リードのないペースメーカの短期の安全性についての論文です。

洞不全症候群と言って、
心臓のリズムを作る機能が低下し、
脈がとても遅くなって、
時には3秒間を超えて停止をし、
めまいなどの症状が起こることがあります。

こうした病気が確認されれば、
心臓の中にペースメーカーという医療器具を植え込みします。

僕も大学病院で循環器の診療をしていた時に、
10例程度のペースメーカーの植え込みを行ないました。

心臓の中に…
という表現をしましたが、
使用されるペースメーカーには、
大きめの金属製のライターのような本体があって、
そこから1本もしくは複数本のリードが伸び、
それが心臓の中に挿入され、
心臓の内腔に、
押し付けるようにして固定されます。

この本体は、
通常患者さんの左の鎖骨の下の、
皮膚を切り裂いてポケットを作り、
そこに埋め込むのが一般的です。

手技としては、
まず皮膚を切開してポケットを作り、
それから鎖骨下静脈を穿刺して管を入れ、
その管に沿わせてリードという、
太目の針金のような電極を心臓の中に挿入します。

挿入したら、
リードを外部の計測器に繋いで、
固定する位置を決め、
問題がなければリードを押し付けるようにして固定して、
そのもう一方を本体に繋げてから、
本体をポケットの中に入れて、
皮膚の傷を閉じます。

この方法は、
慣れればそう難しいものではありません。

合併症としては、
ポケットの部分に血の塊が出来たり、
ポケットの周辺などに感染を起こしたり、
鎖骨下穿刺の時に、
肺を傷付けて気胸になったりする、
ということが主なものです。

ただ、個人的にはそうした経験は1例もありませんでした。
確かに患者さんが抗凝固剤など、
血が止まり難くなるような薬を使用していると、
血腫は出来易いと思いますし、
感染を起こし易いような病気があると、
敗血症などのリスクは高くなると思いますが、
こうしたことが非常に起こり易い、
というまでのことはないと思います。

鎖骨下穿刺については、
ペースメーカー挿入の場合、
皮膚を切開した後に、
皮下から穿刺するので、
そのリスクはそれほど高いものではないと思います。

むしろ、
固定したリードの位置が動いていまったり、
適切な電圧が出なくなることの方が問題で、
装置の不具合で再度傷を開き、
リードを再挿入した、
というようなケースはありました。

さて、ペースメーカーの本体は、
結構ゴツゴツしたもので、
特に痩せている方の場合には、
外見的にもかなり気になるケースがあります。
また、挿入している側の腕を大きく上げると、
リードが引っ張られるというような、
生活上の不都合もあります。

そんな訳で、
リードのないタイプのペースメーカーが、
最近開発され治験に入っています。

こちらをご覧下さい。
リードレスペースメーカの図.jpg
これが上記の論文で使用されている、
リードのないペースメーカーです。

現状で2つの商品が実用化されていますが、
その機能には基本的には大きな違いはないようです。

ペースメーカーの本体は、
小さな乾電池のような器具で、
これを心臓カテーテル検査と同様に、
大腿静脈を穿刺してガイドとなるカテーテルを挿入し、
それに沿わせて心臓の中に押し込み固定するのです。

この小さな器具が、
電源とリードの両方の役割を兼ねている訳です。

今回の文献では、
このリードレスペースメーカの植え込みを行なった、
多施設の725例の患者さんの、
植え込み時の合併症などの安全性や植え込みの成功率を、
従来のリードのあるペースメーカーのそれと比較し、
術後半年の経過を追えた297例では、
半年後に問題なくペーシングが行われているかどうかを、
確認しています。

その結果、
植え込み自体は99.2%で成功し、
安全性の指標も達成していました。
植え込み半年後においても、
データが解析可能であった事例の98.3%で、
問題なく機能していることが確認されました。
合併症は25例で28件の発生があり、
そのうちの11例は心外傷で、
穿孔や心嚢水の貯留が認められた、
と記載にあります。

トータルな結果としては、
術後半年の時点で、
リードレスペースメーカの安全性にも有効性にも、
大きな問題はない、というものになっています。

これとは別の会社の製品ですが、
リードレスペースメーカは日本でも、
臨床試験が実施されていて、
近い将来通常の保険診療として行われると思います。

現時点でリードレスペースメーカを、
どう評価するのが妥当でしょうか?

まず、このペースメーカーの適応についてですが、
リードが1本で右室のみを刺激するようなぺースメーカーの代用にしか、
現状ではならないので、
その意味で適応はかなり限定されます。

生理的に近い刺激をするには、
右房も刺激して、
2本でシンクロさせる必要があるのですが、
そうした方法は現状では無理なのです。

ポケットの血腫や感染、
鎖骨下穿刺による肺気胸などの合併症が、
なくなることがメリットとして強調されているのですが、
手技上そうした合併症がないことは当たり前で、
その代わり心外傷は11例報告されていますから、
必ずしもリードレスペースメーカの方が、
リスクが低いとは言い切れません。

また、
内臓されているバッテリーの寿命は、
10年以上はあるとされていますが、
それが事実であるかどうかは、
まだ明らかではありません。
寿命が切れた時点での交換は、
理屈の上では可能ですが、
従来のリードのあるペースメーカーの場合、
リードには触れずに本体のみを取り換えれば良いのですが、
リードレスでは本体を心内腔から引きはがして交換する必要があり、
交換時のバックアップの方法を含めて、
まだ議論の余地を残しているような気がします。

当面の適応としては、
高齢者の洞不全症候群のケースは、
身体への負担は小さいに越したことはありませんし、
良い適応なのではないかと思います。

若い方への使用については、
現時点では慎重に考えた方が良いのではないでしょうか。
(敢くまで私見です)

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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