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膵臓のβ細胞の脱分化と糖尿病の発症メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
膵臓β細胞の脱分化.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
2型糖尿病の新しいメカニズムについての論文です。

これは内容的には2012年のCell誌に掲載された論文と同じです。

ただ、Cell誌のものは糖尿病のモデル動物のネズミの実験ですが、
今回の論文では、
少数の事例ではありますが、
移植のドナーとなった方の膵臓の検体を、
用いた検討になっています。

2型糖尿病というのは、
ブドウ糖を利用するのに必要なホルモンである、
インスリンが欠乏するか、
その効きが悪くなるために、
ブドウ糖を身体が利用することが出来ずに、
血糖値が上昇し、
多くの弊害が身体に起こる病気です。

インスリンというホルモンは、
膵臓のβ細胞という細胞から分泌されますから、
2型糖尿病は膵臓のβ細胞の機能と、
大きな関わりがあることは間違いがありません。

これまでの一般的な考えでは、
糖尿病が進行した状態においては、
膵臓のβ細胞はその数が減り、
個々の細胞のインスリンを分泌する働きも、
低下するという変化が起きている、
とされていました。

これは動物実験においても、
人間においても、
一応確認されている事項です。

その一方で、
膵臓にはインスリンとは反対に血糖を上昇させる作用のある、
グルカゴンというホルモンを分泌する、
α細胞という別個の細胞が存在していて、
2型糖尿病の進行した状態においては、
このα細胞の数が増え、
グルカゴンの分泌が増加します。

このグルカゴン分泌についてのこれまでの説明は、
通常の状態ではインスリンが、
グルカゴンの分泌を抑制しているのですが、
糖尿病になってインスリンの分泌が減り、
インスリンの分泌細胞の数が減ると、
その抑制が解除されるので、
相対的にグルカゴンが増加する、
というものでした。

しかし、
少し前にご紹介したように、
インスリンの高度な欠乏状態においても、
グルカゴンの過剰分泌がなければ、
血糖値は上昇しない、
という知見があり、
なかば添え物的な役割と思われていたグルカゴンが、
実はインスリン以上に、
糖尿病の進行において重要な役割を果たしているのでは、
というように考え方が変わりつつある、
という経緯があります。

2012年のCell誌の論文において、
膵臓のα細胞とβ細胞との関わりについての、
全く新たな考え方が提唱されました。

それは、
糖尿病においては、
インスリンを分泌するβ細胞が脱分化して、
α細胞に似た細胞に変化し、
インスリンではなくグルカゴンを分泌するようになるのでは、
というものです。

細胞の脱分化というのは、
最近多くの分野で注目されているキーワードです。

どの組織においても、
その組織の元になる幹細胞と呼ばれる細胞があり、
それが特定の遺伝子が発現したりされなかったりすることにより、
その組織を構成する多くの種類の細胞に分化します。

一旦分化した細胞は、
もうそのままで他の細胞になることはない、
というのがこれまでの考え方でしたが、
実は必ずしもそうではなく、
ストレスなどの影響下では、
多くの組織において、
ある細胞が一旦それより未熟な段階の細胞に戻り、
別の細胞のように変化したり、
増殖の過程で別の細胞になったりすることが、
しばしば起こっていることが明らかになったのです。

これを脱分化と呼びます。

発癌という現象も、
脱分化した未熟な細胞が、
異常に増殖した状態、
というように捉えることも出来るのです。

Cell誌論文の著者らは、
糖尿病においても膵臓でβ細胞の脱分化が起こっているのでは、
という仮説を立て、
Foxo1という転写因子に注目します。

この転写因子は、
高度の高血糖の状態においては、
その発現が抑制されていることが、
これまでの研究で明らかになっていたからです。

そこで、
このFoxo1の遺伝子が働かないようにしたネズミを作ると、
そのネズミは一見健康なのですが、
加齢や多胎妊娠などの環境下で、
著明な高血糖を呈し、
その時に膵臓のβ細胞が急激に脱分化してα細胞化し、
インスリンを分泌する力を失い、
今度はグルカゴンを分泌するように変化することが、
明確に確認されました。

更には、
これまでに作成され使用されている、
2系統の2型糖尿病のモデル動物においても、
同様の脱分化の起こっていることも確認されました。

ここにおいて、
2型糖尿病はβ細胞が減少してα細胞が増える病気ではなく、
ある種のストレス下において、
β細胞が脱分化してα細胞化する病気である、
という新たな考えが生まれたのです。

ただこの時点では、
このメカニズムはあくまでネズミでのみ確認されたもので、
人間においてもこうしたことが起こるかどうかは、
まだ確認はされていません。

そこで今回の論文では、
臓器移植のドナーの方の膵臓の組織を採取して分析することで、
人間でもこうした膵臓β細胞の脱分化が、
生じているのかどうかを検証しています。

2型糖尿病の患者さん15名と、
糖尿病のない臓器移植ドナー15名の、
膵臓のランゲルハンス島を採取し、
ホルモン分泌能や遺伝子検査、
免疫染色や電子顕微鏡による形態学的検査など、
様々な方法により、
糖尿病の患者さんにおける、
膵臓のβ細胞の変化を検証しています。

その結果…

脱分化を起こしたβ細胞は、
コントロール群では8.7%であったのに対して、
糖尿病群では31.9%で、
ホルモンを分泌しない分化度の低い細胞も、
コントロール群の3倍糖尿病群では多く見られました。
そして、グルカゴンやソマトスタチンを分泌する細胞に、
それがかつてβ細胞であったことを示す、
転写因子が認められました。

つまり、
人間においても、
糖尿病の状態では、
インスリンを分泌するβ細胞が脱分化して、
グルカゴンを分泌する細胞に変化していることが、
ほぼ確認されたのです。

これまで基本的には元に戻すことは不可能、
と考えられて来た、
インスリン分泌細胞の再生に、
新たな可能性を示すものであることは間違いがなく、
糖尿病の治療を今後一変させるような、
インパクトを持つ可能性があるように思います。

今日は糖尿病発症の新たなメカニズムについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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