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抗生物質関連脳症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後とも、
いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗生物質関連脳症.jpg
今年のNeurology誌に掲載された、
抗生物質の副作用としての脳の症状についての解説記事です。

抗生物質の副作用として、
稀ですがせん妄などの意識障害やけいれん、
脳症に伴う異常行動や興奮などがあります。
その頻度は通常1%未満と報告されていて、
それほど頻度の高いものとの認識はなく、
やや軽視されやすい傾向があるように思います。

ただ、
第4世代のセフェム系抗生物質という位置づけになる、
セフェピム(商品名マキシピーム)という注射の抗生物質は、
集中治療室に入室した患者さん100人の調査で、
15人に脳症と思われる症状が出現した、
という報告が論文化されています。

集中治療室に入室されるような患者さんは、
髙い頻度でせん妄などの精神症状が起こりますから、
通常は薬の副作用よりも、
別の原因が疑われることが多く、
実はICU症候群とみなされていたような事例が、
抗生物質関連脳症であった、
という可能性は否定出来ません。

つまり、
現状のこうした副作用の頻度は、
実際より過小評価されている、
という可能性があるのです。

今回の総説においては、
これまでの抗生物質関連脳症の、
症例報告などをまとめて検討し、
その薬剤毎の特徴を解説しています。

抗生物質関連脳症の報告を解析すると、
概ね3種類のパターンに分けられることが明らかになりました。

その第一は痙攣や筋肉の緊張を伴う脳症で、
抗生物質としては、
セフェム系のうちのセファロスポリン系と呼ばれるタイプの薬剤と、
ペニシリン系の薬剤が殆どです。
GABAという神経伝達物質の受容体が関与していると想定されています。
ペニシリンとセフェムはいずれも、
βラクタムと呼ばれる抗生物質のグループに含まれ、
このβラクタムはGABAAR、
という受容体に結合する性質があります。
受容体の阻害作用や脳内への移行については、
薬剤毎に差があるので、
こうした脳症の起こし方の違いは、
そうした構造の違いから生じているようです。
検査では一時的な脳波の異常が典型的で、
MRIでは異常を示しません。

最も報告事例の多いのは、
前述のセフェム系のセフェピムで、
これはこの薬の側鎖の構造が、
より強力にGABAARを阻害することが、
その理由だと考えられています。

他にペニシリンや、
セフタジジム(商品名モダシンなど)などの、
セファロスポリン系の抗生物質が、
同じ種類の脳症の原因となります。

このタイプの副作用は、
抗生物質の投与開始後数日での発症が典型的で、
使用を中止することにより、
概ね5日以内には症状はが改善します。

第2のグループは幻覚妄想や興奮、
せん妄などを呈する脳症で、
けいれんは稀でMRIでも所見はなく、
脳波異常も認められません。
症状は投与開始後数日で出現し、
使用中止で5日以内には改善します。

原因薬剤としては、
キノロン剤と呼ばれる薬剤、
特にシプロフロキサシン(商品名シプロキサンなど)や、
オフロキサシン(商品名タリビットなど)。
マクロライド系と呼ばれる抗生物質のうち、
特にクラリスロマイシン(商品名クラリスなど)。
スルフォンアミド系の薬剤、
特にST合剤(商品名バクタなど)。
そして、日本では使用されていない、
プロカインという麻酔剤を配合した注射用ペニシリンがこのグループです。

こうした薬は、
ドーパミン系のニューロンの過剰刺激により、
脳症の症状が出現していると思われます。
プロカインを含むペニシリンに関しては、
プロカインがコカインと似た動態を取り、
シナプスのドーパミンレベルを増加させることが、
病態であることが分かっていますが、
マクロライドやキノロン剤の作用メカニズムについては、
まだ不明の点が多く残っています。

第3のグループは、
原因薬剤の使用開始後、
3週間程度経ってから症状が出現するという点に、
その特徴があります。
使用中止により症状は改善しますが、
改善にも13日程度の期間を要します。
そして他の種類の脳症とは異なり、
白質病変などの比較的特徴的なMRIの異常所見を呈し、
それも薬剤の中止により改善することが特徴です。

原因薬剤は限られていて、
メトロニダゾール(商品名フラジールなど)と、
イソニアジド(商品名イスコチンなど)がそのほぼ全てです。
ただ、メトロニダゾールとイソニアジドの脳症を、
一括りにするのは乱暴かも知れません。

イソニアジドの脳症は、
シナプス前のGABAという伝達物質の産生を阻害することが、
そのメカニズムであることが判明しています。

一方でメトロニダゾールによる脳症のメカニズムは、
クリアには分かっていません。
ただ、ウェルニッケ脳症という、
ビタミンの欠乏によって起こる脳症と、
似通ったMRI所見を示していて、
このことから代謝障害が関与している可能性が示唆されます。

このように通常頻用される抗生物質により、
稀ですが多彩な脳症の発症が報告されています。

短期間の抗生物質の使用であれば、
症状は短期間で改善するので、
問題となることは少ないのですが、
こうした病気のあることを知っておくことにより、
別の脳症と誤診して、
無駄な治療や検査の行なわれる事態が回避出来ますし、
速やかな薬剤の中止により、
改善の見込める病気でもあるので、
抗生物質を使用する際には、
常にその可能性を、
臨床医は頭の片隅には、
置いておくことが重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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