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ジャック・オディアール「ディーパンの闘い」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画の話題です。

今日はこちら。
ディーパンの闘い.jpg
昨年のカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したフランス映画、
「ディーパンの闘い」を観て来ました。

最近は大きなシネコンで映画を観ることが多かったので、
椅子の座り心地もいいし、
観客席は段差があって前の人の頭は邪魔にならないし、
随分と映画の鑑賞環境は快適になったものだな、
と思ったのですが、
この作品は日比谷の映画館でしかやっていなくて、
一応シネコンなのですが、
昔ながらの地下の映画館は、
客席の段差もなく椅子も汚くて、
要するにアート系の映画になると、
今でも昔と環境は変わらないのだな、
と実感しました。

スリランカから亡命してフランスに渡った、
擬似家族の3人の男女が、
フランスで再び理不尽な暴力に晒される、
という話で、
その主人公のスリランカの革命戦士を、
実際にフランスに亡命したかつての革命戦士が演じる、
という趣向が話題の作品です。

それではリアリズムの映画なのかと言うと、
必ずしもそうではなくて、
幻想的なカットが挟まれ、
幻想とも現実ともつかない、
ちょっとモヤモヤしたラストが待っています。

「タクシードライバー」との相似を指摘する評が多いのですが、
確かに前半の抑えたタッチから、
後半の主人公の暴力に結び付く辺りは、
似通ったところがあります。

あちらもカンヌのパルムドールでした。
どうもカンヌのグランプリというのは、
ラストでやや狐につままれるような、
変な映画が多いという気がします。

今回のカンヌの審査員はコーエン兄弟で、
そう分かると、如何にもコーエン兄弟の好きそうな作品です。
ノワール的な感じがありますし、
急な暴力が描かれるところも、
コーエン兄弟の映画ではお馴染みで、
モヤモヤして説明しないラストも、
そう言えば「バートン・フィンク」に似ています。
案の定絶賛しているようです。

要するに、素直に面白いと思ったり、
素直に感動したり出来るような作品とは、
ちょっと性質が違っているのです。

以下ネタバレを含む感想です。

物語はスリランカで、
革命戦士で闘いの中家族を失った男が、
無関係の女性と女の子と3人で、
別人の家族3人のパスポートを使って、
フランスに亡命します。

実際には3人には絆はなく、
妻役の女は親戚のいるイギリスに行きたいと、
絶えず文句を言っています。
両親役の2人とも、
娘役の子供を思いやる姿勢はありません。

ただ、現実には3人一緒でないと生活は出来ないので、
仕方なく「家族」でいるのです。
男は移民が多く半ばスラム化した集合住宅の、
管理人の仕事を得て、
その集合住宅に3人で暮らし始めますが、
フランス語が話せないことがネックになり、
最初からなかなか仕事はうまくいきません。

やがて、移民の若者のグループ同士の抗争が始まり、
ヤクの売人の家族の介護の仕事を請け負って、
その売人と交流を持つようになった妻役の女性は、
その抗争に巻き込まれ、
その危機を知った夫役の男は、
彼女を助けるために、
抗争の渦中に身を投じます。

実際は他人である家族再生の物語に、
移民や貧困などの社会問題を取り込み、
その上かつては最強の革命戦士であった男が、
しがない管理人として耐え忍び、
最後は命を掛けて、
行きずりに過ぎなかった女を助けるために、
暴力抗争の渦中に身を投じるという、
「これ高倉健さんじゃん」というような、
鉄板のストーリーまで織り込んでいるのですから、
随分と贅沢な盛り合わせです。

ただ、ハリウッドの娯楽アクションでも良いような話が、
そうはなっていません。

全体に突き放したようなショットが多く、
物語の背景もあまり丁寧には説明されません。
スリランカの密林をゾウが通るような、
イメージショットが随所に織り込まれ、
主人公のラストの暴力も、
「タクシードライバー」のような計算された殴り込みではなく、
思いつきだけの行動で、
すぐに反撃を受けて血まみれになってしまいます。

ラストがまたもやっとしているのですが、
女を助けた後で暗転すると、
イギリスで新たな子供も授かって、
幸せそうにパーティーに興じる、
3人の擬似家族の姿がソフトフォーカスで描かれて終わります。

ただ、
その前に車を奪って走る場面で、
流れ弾に頭を撃ち抜かれているように見えるので、
どうやら、その時点で男は死んでいて、
その後は彼の願望の映像、
ということのようです。

こういう終わりはどうももやっとして、
あまり好きではありません。

これは普通に考えると、
男は死んで女は助かり、
助かった女がイギリスに逃れて、
そこで男を思い出して終わる、
というのが通常のストーリーラインで、
まともにはしたくなかったのだと思いますが、
途中で女の子の存在が、
殆ど描かれなくなってしまうなど、
あまり上出来な改変であるとは思えません。

悪い映画であるとも思いませんが、
カンヌのグランプリというのは割といつもこんな感じで、
すっきりと面白い、と言えるような映画は、
滅多に選ばれないような気がします。

これはWowowで観れば良かったかな、
というのが正直なところです。

フランスのテロを予見した作品、
のような評があったのですが、
とてもそのような予見的な作品とは思えませんでした。
そういうことを言う人は、
都合の良いものは、
何でも結び付けるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

少年王者館「思い出し未来」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はまずこちら。
少年王者館.jpg
独特の演出手法で、
幅広く活躍している天野天街さんが主催する、
劇団「少年王者館」の新作公演が、
今下北沢のザ・スズナリで上演されています。

僕は天野さんの作品は、
あまり良い観客ではなく、
ポツポツとしか観ていません。
正直かなり出来にはムラがあって、
なかなか良いな、と思う作品のある一方、
何を見せたかったのか、
まるで分からない、というような作品もあります。
少年王者館の本公演は、
10年くらい前に観ているのですが、
筋はなく単調で繰り返しの多い舞台は、
演技やダンスのレベルも低く、
その時は最後まで観続けるのが苦痛でした。

そんな訳で大分ご無沙汰だったのですが、
KUDAN Projectの「真夜中の弥次さん喜多さん」は、
中身の詰まった力作で、
天野演出を見直した気がしたので、
今回は久しぶりに足を運びました。

今回は…非常に良かったです。

1時間20分ほどの作品ですが、
「真夜中の弥次さん喜多さん」に劣らず、
アイデア満載で中身がギュッと詰まっていて、
極めて濃密で充実した観劇体験でした。

今年これまで観た舞台の中では、
文句なく一番の出来で、
感銘を受けましたし、
すぐにもう一度観たくなりました。

少年王者館と天野天街さんの良いところは、
全て入っていると思います。

十八番のプロジェクションマッピングもありますし、
夕沈さんのダンスも、
後半にはたっぷりと用意されています。
廃工場のセットも良いですし、
破れた障子が暗転の一瞬で元に戻ったりの、
お馴染みの天野マジックも冴えています。
衣装も照明も音効も、
しっかりとプロの仕事をしています。

物語ももっと何もないかと思っていると、
切ないドラマが、
ノスタルジックなアングラの呼吸で仕組まれていますし、
ガロの漫画のような懐かしい風景の中に、
卑小な人間の生活から、
宇宙空間や相対論的な時空の歪み、
輪廻転生までが豪快に詰め込まれ、
その無間地獄から、
ダメなお父さんの発明した白い麦わら帽子のタイムマシンで、
セミの鳴く真夏のユートピアに逃れるという、
胸が熱くなるようなラストも良いのです。

何より役者陣が皆本当に頑張っていて、
ダンスもレベルが高く、
いつもの無間地獄のような台詞の繰り返しが、
本当にそれだけで感動するような水準に達していました。

その台詞の繰り返しを聞いているだけで心地良く、
永遠に聞いていたい、観ていたい、
と感じたのは僕だけではないと思います。

決して新しい作品ではありませんが、
小劇場演劇としては、
珠玉のような逸品であることは確かで、
心の底から強くお薦めします。

小劇場万歳!
天野さん良い芝居をありがとうございます。

それでは2本目の記事に続きます。
次は映画です。
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