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失神とその後の自動車事故との関連について(2016年デンマークの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
失神と自動車事故との関係.jpg
先月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
一時的な失神と、
その後の自動車事故のリスクについての論文です。

失神というのは、
急に起こる意識消失のことですが、
それが一時的で完全に回復するものであっても、
仮にそれが車の運転中に起こるとすれば、
深刻な事故を招く可能性のあることは、
原因は少し違いますが、
先日の大阪の交通事故を考えても明らかです。

その一方で、
生涯に一度でも失神する確率は、
累積では35%に達していて、
1回失神を起こした人の3分の1は、
3年以内に再び失神を起こしている、
という海外統計も存在しています。

失神を起こした患者さんに対して、
その後の自動車の運転の可否を、
医者はどのように説明し、指導するべきでしょうか?

その責任を考えると、
非常に気の重くなる大きな問題です。

これだけ失神という症状の発症率が高いと、
全ての失神を起こした人に、
その後の運転を禁止する、というのは、
現実的ではない、という気がします。

それでは、
そもそも一度失神を起こした人は、
その後どのくらい自動車事故を起こすリスクが増えるのでしょうか?

この問題について、
多数例を長期間検証したような研究は、
これまであまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
医療データを活用して、
18歳以上で初回の失神という診断を受けた、
トータル41039名の、
その後5年間の交通事故の発症率と、
失神の既往との関連を検証しています。

その結果…

一般人口の平均の自動車事故の発症率が、
年間1000人当たり12.1件であるのに対して、
失神を起こした患者さんの発症率は、
年間1000人当たり20.6件で、
これは1.83倍有意に増加していました。

興味深いことに、
性別と年齢層毎に解析すると、
男性では高齢者の方が若年層よりリスクが高く、
その一方で女性では、
若年層の方が高齢者よりリスクが高い、
という逆の結果になっていました。

更には失神後の交通事故のリスクの増加は、
初回の失神後5年が経過しても、
矢張り有意差をもって存在していました。
一度失神を起こして入院し、
その後に交通事故を起こした患者さんの、
失神の退院後から交通事故までの平均の期間は、
315日でした。

つまり、
実際には多くの場合原因の不明な失神発作ですが、
1回失神発作を起こすと、
その後の交通事故のリスクは、
発作の既往のない人の1.83倍程度に増加していました。
しかも、そのリスクの増加は、
その後5年間は存在し続けています。
男女の年齢についてのデータは解釈が難しいのですが、
女性の場合、失神を起こすと運転を自主的に控えるケースが、
男性より多いことがその要因として想定されています。
ただ、基本的には多くの交通事故の身体的な原因のうち、
失神発作の占める割合は低く、
失神発作を1回来たして、
その原因が不明である場合に、
全てのケースで運転を禁止することは、
あまり現実的な対応ではないように思います。
その一方で、
失神後の交通事故は1年かそれ以上、
経過してから発症していることが多いので、
短期間運転を禁止する、
というような試みも、
あまり有効とは思えません。

従って、
現状は失神発作後の運転は、
充分に慎重に行なってもらう、
というくらいしか手段のないのが実際ですが、
今後こうした疫学データの解析が進むことにより、
もう少し具体的なリスク回避の対策が取れることを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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