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造影剤腎症の発症と造影剤の種類との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
造影剤腎症と造影剤の種類.jpg
先月のAnnals of Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
造影剤の種類とその副作用の発症との関連を検証した論文です。

CT検査などで病変の細かい評価を行なうためには、
造影剤を用いた検査が必要となります。

CT検査や血管造影において、
その造影剤の主体はヨード系の造影剤です。

この造影剤の副作用として、
ショックなどのアレルギー反応と共に、
大きな問題となるのが、
造影剤により腎機能が低下する、
造影剤腎症と呼ばれる病態です。

その原因は必ずしも全てが分かっている訳ではありませんが、
造影剤には腎臓の血管を収縮させる性質があり、
また尿細管の細胞に対する毒性も指摘されていることから、
複合的な要因により、
腎機能が低下すると考えられています。

定義としては、
造影剤を使用してから3日以内に、
血液のクレアチニンの数値が、
0.5mg/dL以上上昇することが、
その診断の目安となっています。

この造影剤腎症を、
極力予防することが、
造影剤を使用する検査においては求められているのですが、
今のところ決定的な方法というのは見つかっていません。

その中で1つ指摘されていることは、
造影剤の浸透圧(濃さ)が、
髙いほど造影剤腎症は発症し易く、
血清の浸透圧に近いほど発症しにくいのではないか、
という推測です。

このため、
まず血清浸透圧の2から3倍程度の浸透圧の造影剤が、
低浸透圧造影剤(LOCM)として、
1990年代以降もっぱら使用されるようになり、
そして更に血清浸透圧とほぼ同じ浸透圧を持つ、
等浸透圧造影剤(IOCM)が、
近年開発され既に活用されています。

具体的には、
イオヘキソール(商品名オムニパーク)や、
イオパミドール(商品名イオパミロン)などが、
低浸透圧造影剤に分類され、
イオジキサノール(商品名ビジパーク)が、
等浸透圧造影剤に当たります。

それ以前の浸透圧の高い造影剤と比較して、
低浸透圧造影剤にリスクが少ないことは、
ほぼ間違いのない事実です。
ただ、それでは本当に等浸透圧造影剤の方が、
低浸透圧性より優れているのかと言うと、
その点については明確なデータに乏しく、
そのため今でも低浸透圧造影剤が広く使用されています。

今回の研究はこれまでのデータをまとめて解析する方法で、
低浸透圧造影剤の種別による差と、
低浸透圧と等浸透圧の造影剤の、
造影剤腎症の発症リスクの差を比較検証しています。

その結果…

低浸透圧造影剤の種別による、
造影剤腎症の発症リスクには明確な差はなく、
等浸透圧造影剤は低浸透圧造影剤と比較して、
造影剤腎症の相対リスクを20%有意に低下させた、
という結果が得られましたが、
その差は統計的にギリギリのもので、
臨床的に明確に優位性があると、
確認されるようなレベルのものではありませんでした。

従って、
現状は低浸透圧造影剤と等浸透圧造影剤は、
いずれも使用の選択肢としては、
考慮して問題ない、という結論になるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スタチンでどれだけ寿命は延びるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

きょうはこちら。
スタチンによる寿命延長効果.jpg
今年のOpen Heartという、
British Medical Journal系列の医学誌に掲載された、
臨床医としては、
大変興味深い内容の論文です。

これは抜群に面白いので、
是非原文を読んで頂きたいのですが、
内容はあまりかいつまんで説明すると、
ちょっと誤解を招く部分があります。

なるべく慎重に、
誤解を招かないようにご紹介したいと思いますが、
内容を疑問に思われた方は、
どうか自分流に解釈はせずに、
元ネタに当たって頂きたいと思います。

高血圧や喫煙、糖尿病などが動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを高めることは、
多くの疫学データで確認され、
そのメカニズムも検証され実証されている事実です。

こうした病気になる可能性が高いと想定される場合には、
それを予防するための治療が行われます。

高血圧の患者さんに対する降圧剤の使用や、
高コレステロール血症の患者さんに対する、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤の使用は、
その予防効果の判明している、
内科的な治療の代表です。

そうしたデータを信じて、
僕も日々の診療において、
降圧剤やスタチンを処方していますし、
そうした治療を受けている患者さんも、
基本的にはそうした予防効果を期待して、
治療を継続されています。

それでは、
実際にこうした治療を受けることにより、
受けない場合と比較して、
どれだけ寿命は延びるでしょうか?

これは聞かれても、
なかなか答えることは難しい問題です。

たとえば、スタチンによるコレステロール降下療法の効果は、
心筋梗塞などの一定の期間の発症が、
どれだけ予防されたか、というような指標で、
測られることが通例です。

概ねそのリスクの高い患者さんにおいては、
治療により5から10年間の発症リスクが、
2割から3割程度低下する、
と言う結果になっています。

ただ、これは敢くまで、
そうした症状を起こしたかどうかを比較しているもので、
治療により寿命が延びるかどうかを示したものではありません。

死亡リスクを比較したデータも確かにありますが、
一定期間(通常は5年程度)の間に、
死亡した頻度を比較しているだけで、
寿命自体を比較している、
というデータではありません。

しかし、僕のようなクリニックの医者にとって、
その日に受診をされた患者さんが、
仮にスタチンによる治療をその日から開始された場合、
その治療を継続することによって、
その患者さんの生涯にどのくらいのメリットがあるのか、
ということを推測することは、
医者患者双方において、
大きな意義のあることです。

ただ、実際にはそうしたデータは殆ど存在していないのです。

勿論寿命というのは、
1つの指標にしか過ぎないものですが、
それでも誰もが興味ある、
重要な指標であることは間違いがありません。

そこで、今回の研究では、
幾つかのモデルを用いることにより、
スタチンなどの治療による、
寿命の延長効果を数学的に推測しています。

まず、疫学データから、
年齢毎の死亡率と、
心血管疾患による死亡率を算出します。
心血管疾患の発症リスクとしては、
喫煙と収縮期血圧、年齢と性別、そして総コレステロール値が、
パラメーターとして考慮されています。
リスクの高い人は、
心血管疾患に罹患して死亡する可能性も高くなるので、
その分寿命は短縮します。
そこで、ある単独の治療により、
心血管疾患の発症率が、
20から30%低下する、
ということを仮定します。
これは架空の治療ですが、
スタチンが想定されています。

たとえば、
タバコを吸わない50歳の男性で、
収縮期血圧が160、
総コレステロールが270という状態を想定すると、
心血管疾患のリスクを30%低下させる治療を、
一生涯継続することにより、
そうしない場合より平均で12.6か月の、
寿命の延長効果が期待出来る、
という推測が成り立ちます。

これまでにあまり例のない、
興味深い推測のデータです。

これは集団を平均化した場合のリスクの計算です。

それでは次に、
平均化されたコレステロール値と血圧値を示す、
心血管疾患のリスクも同一の、
50歳の男性のグループを仮定します。
この集団に対して、
スタチンの治療を生涯継続的に行ない、
そのことによって30%心血管疾患のリスクが低下する、
というように想定します。
すると、この集団での平均の寿命延長は、
7か月程度と計算されます。

今度は平均でどれだけ寿命が延長するのか、
ではなく、
全体の中でどれだけの比率の人が、
寿命延長の恩恵を受けるのかを推計します。

すると、
非常に興味深いことには、
全体の93%の患者さんでは、
寿命の延長効果は得られず、
残りの7%の患者さんにおいて、
平均で99か月という、
長期の延長効果が得られることが推測されました。

これはかなりインパクトのある結果ですが、
良く考えると当然の結果とも思えます。
心血管疾患に受傷した患者さんのみで、
そのことによる寿命の短縮が起こるのですから、
同じリスクはあっても、
9割の患者さんではそうしたことが起こらず、
従って、寿命の延長も起こらないのです。

医療関係者の中には、
コレステロールを下げる治療は、
9割の人にとっては意味のないものだ、
という言い方をしたり、
9割は過剰診断と過剰治療だ、
という言い方をされたりする人がいます。

ただ、そうした言い方は個人的には、
あまり適切なものとは思えませんし、
非常に誤解を招くもののように思います。

確かに、
平均的なリスクの集団に対して、
寿命の延長目的でスタチンを使用しても、
結果として大きな恩恵を受けるのは、
1割には届かないということは事実です。

しかし、実際に病気の発症が予防された場合には、
その恩恵は想像より遥かに大きいのです。

これは、
残りの9割の患者さんには、
スタチン治療のメリットがない、
という意味ではなく、
潜在的には多くの患者さんに、
動脈硬化を抑制するような効果は得られていて、
それは多くの場合には体感は出来ない、
目には見えないものなのですが、
一部の患者さんにおいては、
その使用により起こり得た病気の発症を予防して、
明確な寿命の延長という結果と結び付く、
ということなのだと思います。

その一方で、
こうした治療の明確な恩恵を受け取るのは、
矢張り一部の患者さんに限られる、
ということもまた事実です。

僕のような末端の医療者は、
こうした情報を元に、
その時点で患者さんがこうした治療を行なうことにより、
将来的にどのようなメリットが想定されるのかを、
なるべく正確に情報として提供し、
その上で双方に納得のゆく条件の元に、
治療を始めるのが、
現時点での理想的なあり方であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

抗うつ剤と心血管疾患の予後との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は、
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
抗うつ剤の使用と心血管疾患の予後との関連についての、
大規模な疫学データを解析した論文をご紹介します。

うつ病はそれ自体が、
心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の発症リスクになります。

ストレスはそれだけで動脈硬化や炎症、
血栓形成などのリスクになりますから、
ストレスの病気でもあるうつ病において、
動脈硬化に伴うような病気が、
増えることは理屈に合っています。

ただ、それでは抗うつ剤による治療を行なうことにより、
そうした心血管疾患のリスクが予防されるかと言うと、
その点については相反する知見があって、
一定の結論には至っていません。

最も使用頻度の高い抗うつ剤である、
SSRIを使用した13の観察研究をまとめて解析した、
2014年の報告によると、
高齢者におけるSSRIの使用により、
脳卒中のリスクは40%増加が認められましたが、
全ての年齢層での解析では、
そうしたリスクの有意な上昇は認められませんでした。

心筋梗塞においても、ほぼ同様のデータがあり、
65歳以上の年齢層では、
SSRIにより心筋梗塞の発症率の増加が認められた一方、
より広い年齢層を対象とした疫学データでは、
そうしたリスクは認められていません。

日本では使用されていないSSRIであるシタロプラムは、
その高用量(40ミリグラム以上)で、
QT延長という重症の不整脈の原因となる心電図変化を、
来す可能性が指摘されています。
日本で使用されているエスシタロプラム(商品名レクサプロ)など、
それ以外の抗うつ剤でも同様のリスクがあるとする、
ヨーロッパの監督官庁の見解もあります。
ただ、その一方でこうした多くの抗うつ剤の使用により、
不整脈などのリスクは増加しなかった、
という知見もあります。

つまり、比較的短期間の分析に限ると、
抗うつ剤の使用により、
心血管疾患は予防はされないばかりか、
むしろそのリスクが上昇するという知見が多いのです。
ただ、年齢層や患者さんの背景によって、
その結果は様々であまり一貫性はありません。
また、より長期的には抗うつ剤を含むうつ病の治療が、
心血管疾患の予後の改善に結び付く可能性も、
まだ否定は出来ません。

そこで、
「Antidepressant use and risk of cardiovascular outcomes in people aged 20 to 64: cohort study using primary care database」と題された今回の論文では、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
この問題についての、
より詳細でより大規模な解析を行っています。

2000年から2011年に掛けて、
うつ病と診断された20歳から64歳までの、
トータル238963名の患者さんの、
各種抗うつ剤の使用と、
その後5年間の心血管疾患の発症との関連性を検証したものです。

その結果…

5年の観察期間中に、
772名の患者さんが心筋梗塞に罹患し、
1106名の患者さんが一過性脳虚血発作を含む脳卒中に、
そして1452名の患者さんが不整脈の診断を受けていました。

抗うつ剤の種類と心筋梗塞の発症リスクとの間には、
5年間のトータルでは関連性は認められませんでした。
ただ、1年間に限って見ると、
抗うつ剤を使用しない場合と比較して、
SSRIの使用によりそのリスクは42%有意に低下し、
薬剤別に見ると、
フルオキセチン(日本未発売)を使用した場合に、
そのリスクは56%と最も大きく低下し、
その一方で三環系抗うつ剤であるロフェプラミン(商品名アンプリット)使用時には、
そのリスクは3.07倍と有意に増加していました。

一過性脳虚血発作を含む脳卒中の発症については、
その種別を問わず、
抗うつ剤の使用と有意な関連性は認められませんでした。

不整脈の発症については、
5年間のトータルでは抗うつ剤の使用との間に、
有意な関連はなかったのですが、
処方開始後28日以内の不整脈の発症に限ると、
三環系の抗うつ剤においては、
不整脈のリスクは1.99倍有意に増加していました。
そして、フルオキセチンは5年を超える期間において、
不整脈の発症リスクを26%有意に抑制していました。
QT延長との関連が指摘されていた、
シタロプラムの高用量の使用については、
1日量40ミリグラム以上の解析においても、
有意な不整脈リスクの増加は認められませんでした。

要するに、今回のデータの解析結果から見ると、
SSRIの使用により、
5年程度の観察期間において、
20から64歳の年齢層では、
心筋梗塞や脳卒中、そして不整脈のリスクが、
増加するということはないようです。
また、シタロプラムが有意に不整脈を誘発する、
ということもないようです。
ただ、三環系の抗うつ剤は、
短期的に心筋梗塞や不整脈のリスクを増加させる可能性があり、
逆にSSRIであるフルオキセチンは、
そのリスクを低下させる可能性があります。

これは三環系の抗うつ剤の持つ、
抗コリン作用が、
短期的に心臓への悪影響を及ぼす可能性があり、
その一方で重症のうつのような、
ストレスが亢進した状態では、
SSRIによりその負荷が軽減されることにより、
これも短期的な心筋梗塞などのリスクを予防している、
と考えるとまずまず納得のゆく結果ではないかと思います。
長期的に見ると、
心血管疾患の予後には、
継続された抗うつ剤が、良くも悪くも、
あまり大きな影響を持つことはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

サイアザイド系利尿剤による高カルシウム血症の疫学 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
サイアザイドによる高カルシウム血症.jpg
今月のJ Clin ENdocrinol Metab誌に掲載された、
サイアザイドという利尿剤による、
高カルシウム血症という副作用の疫学についての論文です。

サイアザイド系利尿剤は、
今使用されている薬としては、
ヒドロクロロチアヂド(商品名ニュートライド)や、
トリクロルメチアジド(商品名フルイトラン)などがあり、
近位尿細管のナトリウムポンプに働いて、
水とナトリウムの排泄を促進することが主な作用の薬です。

最も古い降圧剤であり。
その降圧作用と心血管疾患の予防効果は、
これまでの多くのデータにより確立されています。

ただ、その利尿剤としての性質から、
脱水や尿酸値の上昇、血糖値の上昇など、
複数の副作用や有害事象のある薬でもあります。

そうした副作用の中でも、
記載はありながらその詳細はあまり分かっていないのが、
高カルシウム血症という症状です。

サイアザイド系利尿薬には、
尿細管のカルシウムの再吸収を促進する作用があり、
そのために血液のカルシウム濃度が上昇するケースが、
報告されています。

しかし、その実際の頻度やカルシウム上昇のレベル、
カルシウムを調節するホルモンである、
副甲状腺ホルモン(PTH)との関連などについては、
これまであまりまとまったデータが存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
サイアザイド系利尿剤の投与後に発症した高カルシウム血症の事例、
トータル221例を解析し、
アメリカの一般人口の発症率と比較検証しています。

その結果…

サイアザイド系利尿剤使用後に発症した、
高カルシウム血症の事例は、
薬剤使用後平均で5.2年後に発症しており、
平均年齢は67歳と比較的高齢者に多く、
その86.4%が女性という明確な性差が存在していました。

その多くは軽度の上昇に留まり、
11mg/dLを補正値で超えた患者さんは10%で、
重症の事例は認められませんでした。

その発症頻度は1997年以降に上昇し、
2006年にピークに達し、
その後は減少に転じています。
ピーク時の発症率(incidence)は、
サイアザイド服用者年間10万人当たり20人で、
一般人口の年間10万人当たり12人を、
上回っていました。
ただ、2010年には一般人口の平均とほぼ同一になっています。

勿論高齢女性では発症率は高く、
65から74歳の女性では、
年間人口10万人当たり76.3人となっていました。

高カルシウム血症と診断がされて後も、
患者さんの62.4%はサイアザイドは継続されていて、
それでも重度の高カルシウム血症には至っていません。

一方でサイアザイドを高カルシウム血症のために、
中止した患者さんのうちの71%では、
中止後も高カルシウム血症は持続していました。

全体の24%に当たる53人の患者さんでは、
高カルシウム血症の別個の原因である、
原発性副甲状腺機能亢進症が診断されていて、
そのうち21名では副甲状腺腫が確認され、
2名では複数の副甲状腺腫が疑われました。

要するに、
サイアザイド系利尿薬による高カルシウム血症は、
かなりの部分が、
原発性副甲状腺機能亢進症とオーバーラップした現象なのです。

単純に尿細管におけるカルシウムの再吸収の促進が、
原因であると考えると、
極端な性差があることや、高齢者に多いこと、
使用後数年が経過してから発症すること、
使用を中止しても7割は元に戻らないことなどの、
説明がうまくつきません。

これが、
何らかのメカニズムにより、
長期的にサイアザイド系利尿薬が、
副甲状腺を刺激して、
副甲状腺腫の原因となっていると考えると、
原発性副甲状腺腫は高齢女性に多い病気ですから、
比較的多くの疑問を、
説明可能であるようにも思えるのです。

上記文献では、
サイアザイドの中止によっても、
高カルシウム血症が改善しなかった7割の患者さんは、
副甲状腺機能亢進症であった可能性がある、
という大胆な推測をしています。

これが確かなことであるかどうかは、
今回のデータだけでは何とも言えませんが、
サイアザイド系利尿剤を、
数年以上長期間使用している患者さんでは、
血液のカルシウムと副甲状腺ホルモンを、
一度は測定する必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「僕だけがいない街」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事も映画です。
それがこちら。
僕だけがいない街2.jpg
三部けいさんの漫画を原作にしたSFタッチのミステリー、
「僕だけがいない街」を、
何となく気の迷いで観てしまいました。

原作はコミック版を7巻まで読みました。
これは最初の2巻目くらいまでは、
かなり絶妙に面白いのですが、
その後は基本的に主人公が、
少年時代に戻って、
かつての事件を解決しようとする、
というだけの物語になってしまうので、
次第に最初のワクワク感は、
消えてゆくように感じました。

映画はラスト直前までは、
非常に忠実に原作をなぞる感じになっているのですが、
監督はテレビドラマ畑の演出家で、
テレビドラマと全く同じ質感で、
画面は展開されてしまうので、
巻頭5分くらいで、
「しまった。僕の考える映画とは、
違う世界の代物だった」
ということに気づいてしまいました。

以下少しネタバレがあります。

この作品は一種のタイムリープもので、
主人公が修正の必要な惨劇や悲劇の前に、
何度か時間が巻き戻される、
という趣向になっています。
そうしているうちに、
周りでどんどん事件が起こり、
主人公は母親殺しの犯人にされてしまいます。

ここまではとても面白いのですが、
その後事件の裏には、
自分が小学生の頃の出来事が絡んでいそうだ、
ということになると、
今度は小学生の頃まで一気に時間が戻ってしまいます。

これは時間の巻き戻しというより、
タイムトリップという感じのものなので、
それまでの短時間の時間の繰り返し、
という趣向とは明らかに違っていて、
こうしたことの起こる理由も、
全く明らかにはされないので、
ちょっとついていけない感じがありました。

勿論フィクションですから、
突拍子のないことが起こっても、
何ら問題はないのですが、
主人公だけに何故こうしたことが起こるのか、
この時間の巻き戻しには、
どのようなルールや法則性があるのか、
という点については、
もう少し説明や前提がないと、
幾らフィクションとは言え、
あまりに何でもあり過ぎて、
まずいように思いました。

原作でも最初は時間の巻き戻しに、
何らかの意味を持たせている感じなのですが、
一旦時間が子供時代に戻ってしまうと、
「子供時代に戻って歴史を修正する話」
になってしまって、
それまでの謎めいた巻き戻しには、
あまり意味がないことになってしまったように思いました。

これが原作の一番の不満です。

映画は正直テレビドラマと同レベルのクオリティで、
それ以上の物にしようという姿勢や、
映画の大スクリーンならではの表現などは皆無でした。
出演する役者さん達の演技も、
テレビドラマで披露するものと同質か、
それよりもむしろ準備不足のように見えました。
カット割りや構図にも、
特色や工夫が感じられませんでした。
刃物が刺されて血が流れるような場面がありますが、
偽物の赤い液体がただ出るだけ、
という感じのやる気のない絵作りでした。

特に原作の犯人の設定は、
まあ格別意外ということはないのですが、
その発覚の場面を含めて悪くないと思っていたので、
映画の役者さんの演技や、
不自然な老けメイクなどは、
落胆するしかありませんでした。

そんな訳で全く乗れない鑑賞だったのですが、
原作の完結とアニメシリーズの完結と、
シンクロした企画のようなので、
独立した映画としてその出来を云々するのは、
お門違いなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

タランティーノ「ヘイトフル・エイト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
何もなければ1日家で過ごす予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヘイトフルエイト.jpg
タランティーノの新作が比較的地味に公開されました。
感想など読むと「詰まらなくて長い」、
というものが多かったので、
どうしたものかな、と思っていたのですが、
実際に観た人から話を聞くと、
「最近のタランティーノでは一番面白かったよ」
と言われたので、
急遽観ることにしました。

観た感想としては、
初期の「レザボア・ドックス」と「パルプ・フィクション」を、
ミックスしたような作品で、
「遊星からの物体X」を換骨奪胎した後半になると、
とてもワクワクしながら観ることが出来ました。

タランティーノ好きには、
まずはお薦めしたいと思います。

ただ、確かに上映時間は長くて、
話が転がるまでが2時間近くあるので、
さすがにもう少し切り詰めるべきではないかと感じましたが、
この常識外れなところも、
ある意味タランティーノらしいと思わなくもありません。

以下少しネタバレがあります。

タランティーノが仕掛ける密室ミステリー、
のような宣伝になっているのが、
ちょっとミスリードで良くないと思うのですが、
実際には前作と同じマカロニ・ウェスタンの世界で、
吹雪のロッジに閉じ込められた8人の男女が、
血みどろの殺し合いを演じ、
全員が結局死亡して終わりになります。

元ネタはカーペンターの「遊星からの物体X」です。
これはSFサスペンス仕立てのグランギニョールの傑作で、
雪に閉じ込められた南極基地という設定が、
吹雪のロッジに変換され、
そこで捨て身になったカート・ラッセルが、
ライフルを構えて、
誰がエイリアンの変身であるのかを詰問する場面が、
サミュエル・L・ジャクソンが、
矢張り銃を構えて、
他ならぬカート・ラッセルを殺した犯人が誰かを、
詰問する場面に変換されています。

前半は本当に淡々と進むのですが、
コーヒーに毒が混入されたことが、
ナレーションで示されたところから緊迫が高まり、
2人の男が盛大に血を吐いて倒れると、
タランティーノお馴染みの、
残酷暴力絵巻が開幕します。

クライマックスに畳み込むと思うところで、
一旦時制が巻き戻されます。

これもお馴染みのタランティーノ・マジックですが、
巻き戻しのタイミングは絶妙で、
殺されたり、あっさりと殺されかかったりしている面々が、
元気にいっぱしの悪党を、
喜々として演じる姿が挿入されることで、
人間の儚さが漂い、
生と死が逆転したような不思議なムードが高まります。

多くの過去作品をモチーフにしながら、
こうした時制を操る巧さは、
さすがタランティーノだと思います。

閉じ込められる8人は、
1人を除いて同情の余地のない悪党ばかりで、
一般庶民は物語の開幕前に皆殺しにされています。
微妙な1人は北軍の将軍を演じるボケ老人ですが、
彼は一番恰好良く、
血みどろ残酷劇が始まる前に処刑されます。

観ている僕らは、
最初に既に殺されているような立ち場なのですが、
ある種神の視点になって、
その後の残酷絵巻を見守る他はないのです。

これがタランティーノの傑作であるかは、
微妙なところで、
どちらかと言えば目立たない地味な作品に分類されると思いますが、
それでも立派にカルトにはなっていて、
また何度か見直したい魅力には満ちているのです。

最後に上映環境についての不満ですが、
上映されている劇場はビスタサイズにしか対応しておらず、
70ミリフィルムで撮影されているのに、
テレビでシネスコ画面を観るのと同じ、
上下の切れた画面での上映になっていました。

昔フィルムの映画館では、
シネマスコープや70ミリの映画では、
ガーと横に画面が広がって、
それだけでワクワクしたものなのですが、
今の映画館の多くでは、
シネスコは上下がビスタサイズより小さくなってしまうので、
画面が横に大きく広がるということがなく、
とてもガッカリしてしまいました。

こんなことで良いのでしょうか?

それでは今日はもう1本映画の記事が続きます。

東京・春・音楽祭 歌曲シリーズvol17. タラ・エロート [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日は石原が研修会出席のため、
午前午後とも石田医師の担当となります。
受診予定の方はご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
タラ・エロート.jpg
東京・春・音楽祭の歌曲シリーズとして、
アイルランド出身のメゾ・ソプラノ、
タラ・エロートのリサイタルが1日のみ行なわれました。

エロートは今売り出し中の若手のメゾ・ソプラノで、
所謂ズボン役や、
ロッシーニのチェネレントラのような、
コロラトゥーラをレパートリーにしています。

今回の彼女のリサイタルは、
期待を遥かに超える素晴らしさで、
久しぶりに本物のドイツ歌曲の冷厳で豊饒な響きと、
本物のアジリタの至芸を堪能しました。

こうしたリサイタルを、
月に1回くらい聴く機会があれば、
もう芝居も映画も何もなくてもいいな、
というくらいに思ってしまいました。

このシリーズは歌手のチョイスが素晴らしく、
昨年のクールマンも絶品でしたし、
一昨年のマルリス・ペーターゼンも、
まさに待望の初来日でした。

ただ、歌曲だけのリサイタルになるので、
オペラで活躍している歌手の場合、
矢張りオペラアリアも聴いてみたいな、
という気持ちにはなるのです。

それが今回、タラ・エロートは、
ほぼオペラアリアと言って良い、
ハイドンのシェーナと共に、
プログラムのラストに、
本人が得意としている、
ロッシーニのチェネレントラのラストの大アリアを、
最初から予定に組み込んでいました。

僕の記憶では、
こうした大作のオペラアリアが、
この歌曲シリーズで歌われるのは、
今回が初めてではないかと思います。

勿論嬉しい驚きです。

それ以外はドイツ歌曲の名品が並ぶプログラムです。

彼女はドイツリートにはもってこいの、
硬質で深い響きのある美声で、
その歌い廻しも惚れ惚れとするような繊細さです。

それでいて声は強く声量もあって、
かなりダイナミックな表現も可能です。
シュトラウスも良いと思いますし、
ワーグナーも役柄によってはいけそうです。

アジリタはグルヴェローヴァやバルトリほど、
超高速という感じではないのですが、
早さや正確さも水準以上ですし、
何よりダイナミックな高揚感に満ちているのが魅力です。

チェネレントラの大アリアは、
少しダイジェストの感じはありましたが、
久しぶりにコロラトゥーラの素晴らしさを、
体感することが出来ました。

次は是非オペラの舞台で彼女の歌を聴きたいと思いますが、
なかなか実現は難しいかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

コーヒー摂取のストレスホルモンへの影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒーのステロイドホルモンに対する効果.jpg
今年のNutrition Journal誌に掲載された、
コーヒーの摂取時における、
体内のホルモン系の変化を検証した論文です。

コーヒーはカフェインを含み、
常用性のある飲み物ですが、
その一方で抗酸化作用のある生理活性物質を、
多く含むという報告などもあり、
また最近ではコーヒーを飲む人の方が、
総死亡や心血管疾患のリスクが低下する、
という報告が複数存在しています。

その代表的なものは、
2012年のNew England…誌の論文で、
以前記事でご紹介したことがあります。

40万人以上の健康調査において、
コーヒーを沢山飲む人の方が、
1割程度総死亡のリスクが低下した、
という結果になっています。

日本の疫学データも2015年に論文化されていて、
例の有名なJPHC研究の解析ですが、
矢張り総死亡のリスクが1から2割低下した、
とする結果になっています。

こうした知見からは、
コーヒーには何らかの健康保持作用が、
あるのではないかということが示唆されますが、
その実態は必ずしも明らかではありません。

コーヒーは消化管ホルモンやストレスホルモンを、
刺激するような作用があるとする報告があります。

消化管と脳との関連は、
脳腸相関(Brain-Gut axis)などとも呼ばれ、
近年注目されているホルモン相互の関連の1つです。

今回の研究においては、
40人の健康成人に、
160ミリリットルのカフェインを含む、
4種類のコーヒー飲料を飲んでもらい、
その後180分までの血液のホルモン値の変動や、
血圧の変動を比較検証しています。

コーヒーは、
アイスとホットのインスタントコーヒーと、
アイスのエスプレッソと、
ホットのフィルターコーヒーの4種類です。
何故この組み合わせなのかよく分かりません。

コーヒーの摂取後、
一時的に唾液のガストリン値が増加し、
血圧も軽度の上昇を示しました。
しかし、ストレスホルモンであるコルチゾールの増加はなく、
不安の尺度にも変化はありませんでした。
以上の影響はコーヒーの種類に関わらず認められました。

ガストリンは胃酸の分泌を促すホルモンで、
身体的なストレス時には、
コルチゾールとガストリンは同時に増加するとされています。

要するにコーヒーの摂取は、
カフェインの影響もあり、
交感神経を緊張させて血圧もやや上昇させるのですが、
ストレスホルモンの上昇はなく、
その意味ではリラックスを惹起するようなところが、
あるのではないかと想像されます。

基本的には安全な飲み物で、
健康にも良い影響のある可能性があるのですが、
高血圧で不安定な方や、
逆流性食道炎で胸焼けのあるような方には、
向かない可能性があるので、
その点には注意が必要だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

SGLT2阻害剤の降圧作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2阻害剤と血圧コントロール.jpg
今月のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という糖尿病治療の新薬の、
血圧降下作用とその臨床応用を検証した論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
実際に使用されているのは、
SGLT2阻害剤の1つである、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)です。

SGLT2阻害薬のもう1つの特徴は、
血圧の低下作用のあることです。

この薬は一種の利尿剤のようなものですから、
血圧が降下することはある意味当然ですが、
2型糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧を合併していますから、
血糖と共に血圧を降下させる作用のあるSGLT2阻害剤は、
一石二鳥という面があります。

更に2型糖尿病の高血圧治療において、
第一選択に位置付けられる、
ACE阻害剤やARB、更にはサイアザイド系の利尿剤は、
血液のカリウムを上昇させたり低下させたりと、
電解質異常の原因となるのに対して、
SGLT2阻害剤はそうした副作用はないと考えられています。

それでは、
通常の高血圧と糖尿病の治療を受けている患者さんに対して、
SGLT2阻害剤を上乗せすることで、
血圧にどのような影響が現れるのでしょうか?

今回の研究においては、
世界16カ国の311の専門施設において、
2型糖尿病の治療を受けているものの、
HbA1cが7.0%以上と不充分なコントロールで、
血圧も上が140以上で下が85以上と上昇している、
トータル449名の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はダパグリフロジン(商品名フォシーガ)という、
SGLT2阻害剤を1日10ミリグラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
12週間の経過観察を行なっています。

このダパグリフロジンの使用量は、
日本でも使用が認められている用量です。

その結果…

偽薬と比較してダパグリフロジンの使用により、
収縮期血圧は平均で4.28mmHg有意に低下し、
HbA1cも0.61有意に低下しました。

ベースに使用されていた降圧剤の種類による治療効果では、
βブロッカーやカルシウム拮抗薬への上乗せは有効性が高く、
その一方で利尿剤への上乗せでは、
あまり血圧の降下が認められませんでした。

有害事象では、
ダパグリフロジンの使用において、
尿路感染や脱水、腎機能の低下が認められましたが、
その頻度はそれほど高いものではなく、
トータルには有害事象に偽薬と差はありませんでした。

要するに高血圧を合併する糖尿病の患者さんにおいては、
両者のコントロール不充分な場合に、
SGLT2阻害剤を上乗せすることで、
血圧、血糖双方に良い影響が期待出来、
特に利尿剤で電解質異常などの副作用が生じるような患者さんでは、
その代わりに使用することのメリットが大きい、
という結果です。

最近SGLT2阻害剤には良い報告が続いています。

ただ、この薬は、
グルカゴンを増加させるような働きがあり、
糖尿病の病態からすると、
それではまずいのではないか、
という危惧が個人的には拭い切れません。

今後の知見の積み重ねに注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

進行前立腺癌の初期治療について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日のため、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
前立腺癌の新しい治療について.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
前立腺癌の新しい治療の選択肢についての論文です。

前立腺癌は高齢者に多い癌で、
基本的にその予後は良いことが知られていますが、
転移をしていて発見されるような癌については、
その限りではありません。

転移のあるような前立腺癌の場合、
ホルモン療法が第一選択の治療として行われます。

これは何らかの方法により、
男性ホルモンが働かないような状態にすることで、
前立腺癌は基本的に男性ホルモンで刺激される性質があるので、
ホルモン療法により癌の進行が抑制されるのです。

ただし、ホルモン療法は永久に効果のあるものではなく、
個人差はあるものの、
多くのケースでは治療が有効でなくなる時期が訪れます。

こうしたホルモン療法に抵抗性となった癌の治療の選択肢としては、
ドセタキセル(商品名タキソテール)という抗癌剤の使用に、
一定の効果のあることが確認されています。

また、前立腺癌は骨に転移することが多く、
そのために骨折や骨の痛みが生じることがあり、
こうした骨の症状を緩和する目的で、
ビスフォスフォネートと呼ばれる骨吸収の抑制剤が、
使用され、これも一定の効果が確認されています。

ドセタキセルとビスフォスフォネートの使用は、
現行のガイドラインでは、
ホルモン療法が無効になったケースに限って、
その使用が推奨されています。

しかし、元々転移のある癌の予後は悪く、
ホルモン療法はいずれ無効になる可能性が高いとすれば、
最初からドセタキセルやビスフォスフォネートを、
ホルモン療法と一緒に使用した方が、
より患者さんの予後の改善に結び付くのではないでしょうか?

今回の研究では、
その推論を検証する目的で、
診断時に既に転移があったり、そのリスクの高い前立腺癌の患者さん、
トータル2962名をくじ引きで4つのグループに振り分け、
第1のグループはホルモン療法のみを最低でも2年間継続し、
第2のグループはホルモン療法に加えてビスフォスフォネートを使用し、
第3のグループはホルモン療法に加えてドセタキセルを使用し、
第4のグループはホルモン療法とビスフォスフォネートとドセタキセルを、
全て併用して、平均で43カ月の経過観察を行なっています。

症例はイギリスとスイスの複数施設で登録されていて、
年齢制限はありませんが、
平均年齢は65歳なので比較的若い年齢層に施行されています。

その結果…

ホルモン療法のみでの生存期間の中央値は71カ月であったのに対して、
ビスフォスフォネートのみ併用群では、
事前に決められた改善基準を満たさず、
ドセタキセルのみの併用群では、
生存期間の中央値は81カ月と有意に延長し、
ドセタキセルとビスフォスフォネートの併用群では、
生存期間の中央値は76カ月に延長していました。

ビスフォスフォネートを上乗せで使用しても、
生活レベルの改善に結び付くような、
骨筋肉系の症状の有意な改善は認められず、
顎骨壊死などの合併症は明らかに多く認められました。

今回の結果からは、
進行した前立腺癌に対する、
症状緩和目的のビスフォスフォネートの使用には、
全く意義は認められず、
その一方でホルモン療法と同時にドセタキセルによる化学療法を併用すると、
有意な予後の改善効果が認められました。

今後議論の上、
ガイドラインの変更に結び付く知見となるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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