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ジカウイルスの母体感染と胎児の小頭症の事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ジカ熱による小頭症の報告.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ジカウイルスの母体感染から、
胎児に小頭症が発症した事例の症例報告です。

ヤブ蚊によって媒介される感染症である、
ジカウイルスによるジカ熱は、
1947年にアフリカのウガンダで、
ジカ森のアカゲザルからウイルスが分離されたため、
ジカ熱と名付けられました。

最初に報告されたのはアフリカですが、
その後東南アジアや南アジア、
ポリネシアなどでも報告が見られ、
昨年よりブラジル、コロンビア、エクアドルなどの中南米諸国で、
流行が拡大して大きな問題となっています。

このジカ熱の病原体であるジカウイルスは、
日本脳炎ウイルスやデング熱ウイルスと同じ仲間の、
フラビウイルスというRNAウイルスに分類され、
その性質も日本脳炎やデング熱に似通っています。

つまり、
人間から人間への感染は、
原則としては殆ど起こらず
(性行為感染が起こり得るとの報告はあります)、
ヤブ蚊に刺されることによって、
人間の体内にウイルスが入ります。
ウイルスが侵入しても、
多くは症状が出ずに終わります。

ジカ熱はデング熱に似て、
発症した場合の症状も、
発熱や関節痛、筋肉痛や湿疹などで、
概ね風邪と見分けは付かず、
デング熱より軽症です。

それだけであれば、
大きな問題はないのですが、
今回のブラジルの流行のケースでは、
小頭症と呼ばれる胎児の脳の障害が、
母体のジカ熱の感染の事例で非常に多く発症し、
その関連が大きな問題となっています。

ブラジルにおいては、
4000例を超える小頭症の事例が、
ジカ熱の流行後に報告されていて、
これはそれ以前の20倍という急激な増加です。

ただ、その全てに母体のジカ熱の感染が、
確認されているという訳ではありません。

ジカ熱の症状自体は軽度の風邪症状ですし、
診断は全例で行われているという訳ではなく、
症状のない感染もあるからです。

また、ブラジル以外でも、
これまでにジカ熱の流行はあったのですが、
このような小頭症の発症の増加は、
あまり報告されていなかった、
という点もやや奇異な感じを受けます。

今回の報告はスロベニアで診察された、
25歳の妊娠女性が、
おそらくはブラジルの滞在中にジカ熱の感染があり、
その後に胎児に小頭症のあることが確認され、
中絶後に胎児の解剖を行なって、
ジカ熱ウイルスの感染を脳内で確認した、
という事例です。

患者はブラジル滞在中の妊娠13週の時点で、
高熱や関節痛、皮疹などの症状が出現しています。
妊娠20週までの検査では特に異常の指摘はなかったのですが、
ヨーロッパに帰国した後の妊娠29週から32週の時点の超音波検査で、
胎児の発育不全と小頭症、水頭症の所見を認め、
脳内と胎盤には複数の石灰化を認めています。

そして、32週の時点で、
胎児の予後は極めて不良との判断があり、
妊娠は強制的に中止され、
胎児は取り出されて解剖に供されています。

胎児の脳にジカウイルスの構造が認められ、
遺伝子検査でその存在が確認されると共に、
完全なその遺伝子構造の再構成に成功しています。
確認されたジカウイルスの遺伝子は、
アジア由来のものと相同性があることが確認されました。

つまり、
母体の妊娠早期のジカウイルスの感染により、
それが胎盤を介して胎児に垂直感染し、
脳の異常を来したことが、
ほぼ確認されたのです。

胎児の脳以外の部分には、
全く異常が見られなかったことより、
ジカウイルスの垂直感染においては、
ウイルスの中枢神経親和性は極めて高いと想定されました。

今回の事例は妊娠32週の時点で、
記載によればまだ生存している胎児を、
強制的に中絶している、
という点が、
勿論倫理委員会を通している、
というような記載はあるのですが、
倫理的にどうなのか、
という違和感を感じさせます。
「母親の希望により」という記載がされているので、
母体に危険があった、
ということではなさそうです。

その是非はともかくとして、
日本では通常はなされないような判断であったことは、
間違いがないように思います。

この報告および、
他の少数ですが同様の知見により、
妊娠早期のジカウイルスの感染により、
胎児への垂直感染が起こり、
その感染は脳に親和性がある、
ということは間違いがなさそうです。

ただ、厳密に言えば、
小頭症自体は感染とは別個に生じた可能性も、
完全に否定は出来ません。

そして、
何故ブラジルでのみそうした事例が多いのか、
全てのそうした事例を感染の影響と考えて良いのか、
というような事項については、
まだ不明の点を多く残しています。

しかし、いずれにしても、
今後こうした点については、
明らかにされる日は近いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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