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遺伝リスクの告知とその与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
遺伝リスクの告知とその影響.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
認知症と心血管疾患についての遺伝リスクと、
その告知の影響についての論文です。

遺伝子検査は最近かなり身近になりました。

単独の遺伝子があることで、
高い確率で発症するような、
遺伝性の強い病気の診断のための検査は、
特定の専門医療機関でのみ施行されています。

また、抗癌剤の有効性を決定するような遺伝子検査もあり、
これも癌の治療に限って、
その専門医療機関でのみ施行されるのが通例です。

こうした遺伝子検査は、
健康保険の適応になっていますが、
通常の医療機関で行われることは少ないので、
一般の多くの方にとって、
遺伝子検査はあまり医療機関で行われるものではありません。

その一方で多くの遺伝子検査と称されるものが、
ネットなどでは一般に販売されています。

この遺伝子検査の中身は玉石混交ですが、
SNPと呼ばれる点遺伝子変異を解析し、
環境要因と遺伝要因が複雑に絡み合う病気の発症において、
その遺伝要因の一部に関連するものを測定し、
それを平均的なリスクと比較して、
何倍というように表現することが通常です。

こうしたSNPの中には、
その意義が確立しているものもありますし、
ただ単独の論文で報告されているだけ、
というレベルのものもあります。

このような意味づけが確定していない検査について、
医療機関がどのように関わるべきか、
という点については、
まだ意見は集約はされてないようです。

さて、こうしたSNPの中で、
その意義がほぼ確立したものとして、
APOEのε4という遺伝子があります。
この遺伝子の有無により、
アルツハイマー型認知症の発症には違いがあり、
また心血管疾患のリスクも増加するという報告もあります。

この遺伝子タイプの解析は、
日本でも複数の遺伝子検査会社で施行されています。

このAPOEのε4は、
アルツハイマー型認知症のリスクの判定として、
行なわれていることが多いのですが、
実際には心血管疾患のリスクとも関連しています。

それでは、
この検査結果を説明する場合に、
アルツハイマー型認知症のリスクとしてのみ、
受診者に説明する場合と、
心血管疾患のリスクについての説明する場合とで、
受診者のその後の行動や結果から受ける心理的な影響には、
差があるのでしょうか?

ちょっと回りくどい感じの問題提起ですが、
上記文献の著者らは、
以前にAPOEのε4の検査を、
アルツハイマー型認知症のリスク判定として施行し、
その後の心理的な影響を観察した論文を発表していて、
その結果としては、
その後受診者はうつ病を発症するなど、
ネガティブな影響は見られなかった、
とする内容になっていました。

今回の研究は更に心血管疾患のリスクについての説明を付加することで、
別個の心理的、また行動的な変化がみられるかを検証しています。

アメリカの4か所の病院において、
健康成人257名を登録し、
APOEのε4の検査を行って、
くじ引きで2つのグループに分けると、
一方は認知症に対する告知のみを行ない、
もう一方は認知症のリスクに併せて、
心血管疾患についてのリスクの告知も行ないます。

その上で、
12か月の経過観察を行ない、
うつ尺度などの心理的な変化と、
その間の生活改善などへの取り組みの有無を比較します。

その結果…

アルツハイマーリスクのみの告知群では37%、
心血管疾患リスクも併せて告知する群では27%の対象者が、
APOEのε4の遺伝子を持っていました。

12か月の時点で、
認知症リスクのみの告知群と、
心血管疾患を含めた告知群との間で、
うつ尺度の数値には有意な差は認められませんでした。
APOEのε4のキャリアーのみの解析では、
心血管疾患を含めて告知した群の方が、
認知症のみの告知群より、
うつ傾向は少ないという結果になっていました。
遺伝子の変異の有無には関わらず、
心血管疾患を含めて告知した群の方が、
より生活改善への行動変化を伴っていました。

要するに、
認知症と心血管疾患のリスクを両方告知した方が、
その後の予防のための選択の幅は広がり、
リスクを減らそうというポジティブな行動に繋がる、
という結果です。

本当でしょうか?

心血管疾患のリスクについては、
そうしたことは日本でもある程度言えるのではないかと思います。

血圧や減塩、コレステロールや中性脂肪の管理、
内臓脂肪の減少や体重の適正化など、
予防のためにするべきことは、
誰でも1つくらいはあるからです。

そうした改善を数値化して、
リスクが低下したと言われれば、
遺伝リスク自体は変わらなくても、
何となくホッとしたような気分になるものです。

しかし、認知症の予防という点については、
リズムを伴う運動の習慣を持つ、
趣味を持って多くの人と触れ合うなど、
あまり数値化出来るような目標ではないことが多く、
何をすれば良いのか、
と迷ってしまうことも多いのではないかと思います。

従って、この2つの告知はニュアンスの違うもので、
高齢者社会が本格化する中で、
認知症のリスクの告知に関しては、
その方のパーソナリティを理解した上で、
より慎重な告知とその後のフォローが必要になるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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