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長塚圭史「ツインズ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
1日研修会があるので、
もう少ししたら出掛ける予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ツインズ.jpg
長塚圭史さんの新作が、
古田新太さんら充実したキャストで、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。

長塚さんと言えば、
2000年代前半のサディスティックで暴力的で切ない世界が、
完成度という点では疑問が残りましたが、
時代の空気を間違いなく切り取っていたと思います。

ただ、海外留学をされて以降の諸作品は、
何か出来の悪い翻訳劇のようなものが多く、
正直面白さを全く感じられませんでした。

最近は少し以前のドロドロが、
戻って来たかな、という感じもあるのですが、
今回の作品も、スタイリッシュな演出やセットは綺麗ですが、
中身はどうも消化不良で、
納得の行くものではありませんでした。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台はどうやら近未来の日本で、
「原発事故」のようなことが、
どうやらもっと広範囲で起こり、
日本のみならずその「汚染」は世界規模で広がっているようです。

汚染されていないオーストラリアを求めて、
移民することがトレンドになっていますが、
それには莫大なお金とコネとが必要なようです。

舞台は海に面した田舎の豪邸で、
権力者である父親が病に倒れ、
散り散りになっていた家族が集められます。

古田新太扮する次男のハルキは、
多部未華子扮する娘のイラをオーストラリアに密航させるために、
父の遺産を目当てでそこを訪れたのですが、
家を守る吉田鋼太郎扮するリュウゾウは、
兄妹のエリコが海で死んでから腑抜けのようになり、
ローラとトムという、
謎の男女が邸内を仕切っています。
エリコの息子のタクトの子供である双子の赤子は、
本来なら一家の希望である筈なのですが、
愛されている様子はなく、
生きているのかすら定かではありません。

物語は非常にもったいぶった、
スローテンポで展開されます。

具体的な背景がしっかりと説明される訳ではないので、
何かイライラしますし、
設定はイメージ優先なので、
辻褄はとても合っているようには思えません。

前半は暴力的な古田新太が、
吉田鋼太郎と対立し、
大暴れを繰り広げるのでそれなりに盛り上がりますが、
トムにはあっさりと逆襲され、
最終的には娘に指を切り落とされると、
その後は去勢されたようにおとなしくなります。

かつてのようなドロドロの暴力シーンが展開されるのかと思いの外、
バットがただ役者さんの前に振り下ろされると、
控えめに血糊が付くだけ、
という腰の引けたものなので、
こんな感じならやらなければいいのに、
と落胆を強く感じざるを得ません。

何故多部未華子がいきなり父親の指をちょん切るのでしょうか?

意味不明でただ悪趣味なだけに思えます。

多部さんはそれからも凶悪で意味不明で唐突な行動を繰り返し、
双子の赤子を海に捨てて、
代わりに新聞紙を丸めた人形を、
ベッドに置いたりしてしまいます。

海はどうやら陸地とは別世界で、
人間以外の生き物が支配する世界のようです。

汚染された海産物を食べると、
徐々に身体は変容して海の生物に変わって行きます。

町では祭りが行われ、
一家の主人である老人はひっそりと死に、
食べることを拒否していた家族も、
むさぼるようにパエリアを食べると、
どうやら日本の中枢は崩壊したようで、
停電が訪れ、
その中で海から半魚人(?)に姿を変えた双子が戻って来ます。

そして、何ら解決も希望も感動もなく、
淡々と物語は終わります。

汚染された水で子供が半魚人になるのは、
手塚治虫の「空気の底」にありましたよね。
徐々に食べていけないものを食べて変容するのは、
映画の「マタンゴ」みたいな感じですし、
最後の半魚人はラヴクラフトのクトゥールー神話だと思います。
オーストラリアだけが安全というのは、
ネヴィル・シュートの「渚にて」のようです。

全体に1950年代くらいに流行した、
「核戦争後の終末世界」を扱った映画みたいな話です。
暗くて酷い、トラウマになるような映画が、
当時は沢山ありましたよね。

頑張ってそういう世界をやってくれるのなら、
それはそれで面白いと思うのですが、
変に社会性を取り込もうとしたり、
今の日本の現状を風刺しようとしたり、
欧米の芝居のような格調を気取ったりするので、
話が中途半端で、
とても娯楽として成立しているとは思えません。

感動もなく、ドラマもなく、冒険もありません。
前衛でも更々ありません。

そんな感じなので、
役者さんも中途半端な芝居です。

古田新太さんはコミカルさと暴力性を併せ持った、
こうした芝居にはばっちりの人選で、
勿論良かったのですが、
キャラがしっかりと書き込まれていないので、
人格は分裂したようで落着きがありません。
吉田鋼太郎さんは、
最近は手抜きに思えるような舞台が多く、
今回も安全運転に終始していたように見えました。
一番もったいなく感じたのは、
多部未華子さんで、
彼女は松尾スズキさんの舞台では抜群なのですが、
今回は意味不明の凶暴さが目立つだけで、
彼女の良さがまるで生かされていませんでした。

総じて、
過激で観客を引かせるようなものをやりたいのか、
お上品にまとめたいのかが、
最近の長塚さんの作品では明確でなく、
お上品でのったりした感じなのに、
唐突に少女が父親の指を切り落としたりするので、
観ている方はどうして良いやら分からなくなります。

「はたらく男」はあれだけ迷いがなく、
今の世相を見事に反映した、
下品で凄い芝居だったのに、
あの長塚さんは何処に行ってしまったのでしょうか?

個人的には残念でなりません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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