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バイアグラ(シルデナフィル)によるインスリン感受性改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バイアグラのインスリン感受性改善効果.jpg
先月のJ Clin Endocrinol Metab誌にウェブ掲載された、
男性の勃起障害の治療薬であるバイアグラに、
インスリンの効きを良くして、
糖尿病の発症を予防する効果が期待出来るのでは…
という興味深い知見です。

今回が初めての知見ということではなく、
これまでにもこうした知見はあるのですが、
3ヶ月という長期間の使用を行ない、
人工膵臓(グルコースクランプ)という手法を用いて、
厳密なインスリン感受性の検証を行なっている点がポイントです。

糖尿病の治療薬は沢山ありますが、
糖尿病になる前にそれを予防する薬、
ということになると、
あまり決め手となるような治療はありません。

最近はグルカゴンの役割がクローズアップされているので、
やや古い考え方と言えなくもありませんが、
糖尿病はインスリンというブドウ糖を利用するのに必要なホルモンが、
欠乏しているか、その効きが悪いことで、
発症する病気だと考えられています。

インスリン分泌とインスリン抵抗性の異常です。

特に肥満のタイプの2型糖尿病では、
インスリン抵抗性の比重が大きく、
まずインスリン抵抗性があって、
それにより膵臓は刺激されて高インスリン血症となり、
その後膵臓は疲弊して、
インスリン分泌も低下する、
というのが模式的な流れです。

インスリン抵抗性は内蔵肥満(メタボ)とも関連が深く、
動脈硬化を進行させる因子でもあります。

従って、まだ糖尿病になる前に、
インスリン抵抗性を改善するような方法があれば、
それは糖尿病の予防になる可能性があります。

勿論運動や食事制限のような生活改善は、
こうした予防効果のあることが分かっています。

ただ、現実的にはそれのみで糖尿病を予防することは、
非常に困難です。

薬剤としてはこれまでに、
メトホルミン(メトグルコ)とチアゾリジン誘導体(アクトスなど)で、
一定の糖尿病予防効果の知見があります。

ただ、チアゾリジンは心臓への負荷が強まることが知られていて、
トータルにそれを糖尿病予防のために用いることは、
あまりお勧めは出来ません。
現時点では従ってメトホルミンが唯一の選択肢で、
トータルに寿命の延長のために、
メトホルミンを長期使用するという試みもあるようです。

ここでもう1つ、
男性不妊の治療薬として使用されている、
シルデナフィル(バイアグラ)に、
インスリン感受性の改善作用があるのではないか、
という興味深い考え方があります。

シルデナフィルはPGE5(phosphodiesterase5)阻害剤です。
この酵素は血管内皮において、
c-GMPのシグナルを活性化することにより、
血流の増加作用があります。

そのために陰茎の勃起が促されるのですが、
このc-GMPシグナルは、
同時に筋肉において、
グルコース輸送体を細胞膜に誘導することにより、
インスリン感受性を増す作用があることが分かっています。

c-GMPのシグナルを活性化する因子としては、
別個にNO(一酸化窒素)が知られています。
このNOも血管の内皮細胞で産生され、
血管内皮機能を調節すると考えられています。
ただ、NOの過剰は線溶系に影響を与え、
そのバランスを乱すこともあると考えられています。

その点、
PGE5の阻害によるc-GMPシグナルの活性化は、
NOを介さない作用であることにより、
線溶系のバランスを乱すことなく、
インスリン感受性を改善する可能性があるのです。

メタボの状態にしたネズミの実験では、
12週間シルデナフィルとNOの原料であるアルギニンの使用により、
インスリン感受性と筋肉細胞のブドウ糖の取り込みが、
より活性化したという知見があります。
同様に糖分を多量に摂取させたネズミに、
8週間シルデナフィルを与えたところ、
血管内皮機能と耐糖能が改善した、
という知見も報告されています。
人間においては、
3週間のシルデナフィルの使用により、
膵臓のβ細胞の機能が改善したとする報告もあります。

今回の研究では、
肥満のある被験者に対して3ヶ月間のシルデナフィルの使用を行ない、
その前後でグルコースクランプという厳密な方法により、
インスリン感受性とインスリン分泌を比較し、
また凝固線溶系のマーカーも測定することによって、
どのような変化がシルデナフィルの、
比較的長期の使用により生じるのかを検証しています。

BMIが25以上の前糖尿病状態(糖尿病予備群)の42名を、
本人にも施行者にも分からないように、
くじ引きで21名ずつの2つのグループに分け、
まず、グルコースクランプによる精査を行なった上で、
一方はシルデナフィルを1日75ミリグラム、
3回に分けて使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
3ヶ月間継続し、
その後にもう一度グルコースクランプを行います。

シルデナフィルの1回25ミリグラムというのは、
日本では使用用量ですが、
海外では低用量でも50ミリグラムなので、
これは勃起不全の治療としては、
使用されない低用量を、
3回に分けて使用する、ということを意味しています。
従って、これで持続勃起になるとか、
性欲亢進になる、というようなことは、
想定されていないのです。

その結果…

3ヶ月のシルデナフィルの使用により、
インスリン感受性の指標は有意な改善を示しましたが、
その一方でブドウ糖で刺激されたインスリン分泌については、
第1相、第2相とも、
両群で有意な差が認められませんでした。
シルデナフィルは線溶系の指標であるtPA(tissue-plasminogen activator)には、
変化を生じさせない一方で、
線溶の阻害因子であるPAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)を、
有意に低下させました。

つまり、
シルデナフィルはインスリン分泌には影響を与えずに、
インスリンの効きを良くすることにより、
インスリン抵抗性を改善します。
これはc-GMPを介した作用と考えられ、
tPAを変化させずにPAI-1を低下させていることから、
凝固線溶系に対しても、
血栓症などの予防効果が期待されます。

このデータは例数は少ないのですが、
厳密な手法を取っているという点で信頼性は高いものです。
これまでに同様の試験は他にも複数ありますが、
インスリン分泌を各相毎に評価し、
それとインスリン抵抗性を分離して測定したデータは、
今回のものが初めてだと思います。
その点がこの論文の意義です。

勿論バイアグラには、
急性の視神経障害や血圧低下、肝障害など、
多くの副作用や有害事象も報告されていますから、
安易にその継続使用に道を開くことは、
あるべきではないと思いますが、
今後の臨床的な知見の積み重ねによっては、
バイアグラが、
インスリン抵抗性改善剤として使用されることは、
そう遠い将来のことではないかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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