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消化管出血後の抗凝固剤の再開について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消化管出血後の抗凝固剤の再開について.jpg
先月のBritish Mdical Journal誌に掲載された、
心房細動という不整脈に対して、
抗凝固剤での脳梗塞予防を行なっている患者さんで、
消化管出血が合併症として起こった場合の、
その後の抗凝固剤の使用がどうあるべきかを、
検証した論文です。

弁膜症とは関連のない、心房細動という不整脈は、
加齢とともに生じる一般的な病気ですが、
脳梗塞(脳塞栓)のリスクが高まることが、
その予後を左右する最も大きな問題です。

その予防の目的で、
通常抗凝固剤と呼ばれる薬剤が継続的に使用されます。

この抗凝固剤による脳梗塞の予防効果は立証された事実ですが、
その一方で消化管出血や脳内出血などの、
出血系の合併症が大きな問題になります。

血を止まりにくくする薬で胃潰瘍などが起こるのですから、
通常よりも病状は悪化しやすく長引きやすくなります。

そして、一番の問題はこうした大出血を起こした患者さんの、
その後の抗凝固剤の使用をどうするべきか、
ということにあります。

再開してまた重度の出血が起これば、
生命予後にも大きな影響が生じる可能性があります。
その一方で抗凝固療法を中止してしまえば、
脳梗塞のリスクの増加が心配になります。

抗凝固療法を再開するべきか中止するべきかは、
患者さん本人にとってもその主治医にとっても、
簡単には結論を出せない難問なのです。

今回のデータはデンマークのもので、
心房細動で抗凝固剤による治療を受け、
消化管出血の合併症により入院した患者さん、
トータル4602名を退院の時点で登録し、
その後の治療法の違いとその予後との関連を、
2年間比較検証しています。
退院後90日以内の死亡事例は除外し、
治療の選択肢は、
抗凝固剤の中止以外に、
抗凝固剤単剤での再開、
より出血リスクの少ない抗血小板剤のみでの再開、
抗血小板剤2剤以上の併用や、
抗凝固剤と抗血小板剤の併用での再開、
などとなっています。
再開された患者さんの9割以上では、
プロトンポンプ阻害剤が併用されています。
抗凝固剤はワルファリンとダビガトラン、
リバロキサバンが使用されています。

その結果…

消化管出血からの退院以降の2年間で、
39.9%の患者さんが死亡されています。
心房細動での抗凝固剤治療中に、
入院が必要なレベルの消化管出血が起こると、
その予後はあまり良いものではない、
ということが分かります。
また期間中に全体の12.0%で血栓塞栓症が起こり、
17.7%に重篤な出血が起こり。
12.1%は消化管出血を再発していました。

全体の27.1%に当たる924名は、
抗凝固療法の中止を選択していましたが、
治療の中止と比較して、
その後の死亡リスクは、
抗凝固剤の単剤での再開で61%、
抗血小板剤での再開で24%、
抗凝固剤と抗血小板剤の併用での再開で59%、
それぞれ有意に抑制された、という結果になっています。

つまり、
抗凝固剤を使用中に消化管出血を来たした患者さんでは、
出血が安定して90日を経過すれば、
抗凝固剤を再開した方が、
その後の生命予後には良い影響を与える可能性が高く、
出血リスクの低減を期待して、
アスピリンのような抗血小板剤に切り替えても、
出血のリスクはあまり変わらない一方で、
死亡リスクは高まるので、
あまりそうした変更には意味がない可能性が高い、
ということになります。

プロトンポンプ阻害剤の継続使用にも、
色々な見解がありますが、
現状はこうしたケースでは、
併用が妥当だと思います。

ただ、日本においては欧米よりも、
抗凝固剤の合併症としての脳内出血の頻度が高く、
その点は別個に考える必要があると思います。
欧米では出血系合併症の大多数は消化管出血なので、
こうした研究ではそれ以外の出血は、
あまり重視されていないことが多いのです。

従って、個別の事例において、
慎重にその治療の再開は検討する必要があるのですが、
基本的な考え方として、
非弁膜症性心房細動の患者さんにおける、
抗凝固療法の予後に与える影響は大きく、
原則は安定した状態になれば、
可及的速やかに抗凝固療法は再開するのが、
現時点では妥当な選択であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとって良い日でありますように。

石原がお送りしました。
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