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ニトログリセリン製剤の心不全への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ニトロールの心不全への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心機能がある程度保たれた心不全の患者さんに対する、
ニトロの製剤の効果を再検証した論文です。

ニトログリセリンは心臓を栄養する冠状動脈を拡張する作用を持ち、
このため狭心症の発作などの改善に効果があります。

また、抹消の動脈の拡張作用も併せ持っていることから、
トータルに心臓への負担を軽減するので、
心臓の働きが低下した心不全において、
運動への耐用能を高める上で有効だとされています。

しかし、躯出率と呼ばれる心臓の働きの指標が、
それほど低下していない多くの心不全の患者において、
ニトログリセリンに本当に有用性があるのか、
という点については、
あまり裏付けとなるデータが存在していませんでした。

ニトログリセリンの心不全への有効性を確認した臨床試験は、
心機能が高度に低下した患者を、
その主な対象としていたからです。

そこで今回の臨床研究においては、
アメリカの複数施設において、
50歳以上の心不全の患者で、
治療により心臓の働きの躯出率という指標が、
50%以上に保たれている110名を登録し、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分けると、
一方は一硝酸イソソルビドという、
持続性のニトログリセリンを、
1日30ミリグラムから開始して120ミリグラムまで増量し、
もう一方は偽薬を使用して、
運動耐用能のチェックを施行しています。

6週間の経過観察を行なった後、
同じ患者さんで偽薬とイソソルビドを入れ替えて、
再度6週間の観察を行なう、という手法が取られています。

その結果…

運動耐用能や心不全の状態は、
両群に違いはなく、
生活活動量についてみると、
偽薬群の方が、
イソソルビド群より優っている、
という結果が得られました。

つまり、ニトログリセリン製剤を、
心機能の安定している心不全の患者さんに使用することは、
有用性がないばかりか、
むしろ有害である可能性が高い、
という結果です。

ニトログリセリン製剤は、
狭心症においても、
発作時はともかく、
漫然とした長期使用は、
高率に耐性化を招くという知見もあり、
その使用はより限定されたものと、
考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

劇団チョコレートケーキwithバンダ・ラ・コンチャン「ライン(国境)の向こう」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日はかなり疲れてしまい、
今はちょっとグッタリしているところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ラインの向こう.jpg
近藤芳正さんの企画公演バンダ・ラ・コンチャンと、
劇団チョコレートケーキが合同で行なった初めての公演が、
今池袋の東京芸術劇場で上演されています。

脚本は古川健さんの新作で、
演出は日澤雄介さんという劇団チョコレートコンビです。
役者さんは劇団チョコレートケーキの3人に、
戸田恵子さんや近藤芳正さん、
高田聖子さんなど、
豪華なメンバーが顔を揃えました。

これまでの劇団チョコレートケーキの作品は、
取り上げられることの少ない、
歴史的な事件などを、
緻密に取材して構成されたような作品が多かったのですが、
今回は全く架空の設定である点が、
これまでとは異なっています。

ただ、実際に作品を観ると、
日本が第二次世界大戦で南北に二分され、
1950年に南北戦争が勃発するという趣向は、
要するに朝鮮戦争の話が下敷きになっていることが分かります。

日本を舞台にして、
アメリカとソ連が代理戦争をする、という話です。
戦争の経緯も、
首都の東京が一旦奪われて奪還されるなど、
朝鮮戦争の経緯を元にしていることが明らかです。

穿って考えれば、
近代史を演劇の素材として取り上げるとすれば、
朝鮮半島と中国は外せないのですが、
どちらも日本で劇作をするに当たっては、
非常にリスクが高く、
また立場の自由度が極めて狭いので、
朝鮮半島の歴史を取り上げながら、
中国と朝鮮という用語は一切使わずに、
架空の話として創作せざるを得なかったのかな、
と思いました。

以下少し作品の内容に踏み込みますので、
観劇予定の方はご注意下さい。

これまでの劇団チョコレートケーキの作品は、
ある意味清々しいくらいの真っ向勝負で、
歴史的な事件を、
正攻法で骨太に描出していました。

しかし、この作品は、
この戦争と分断された庶民の生活を、
真っ向から描く、というような性質のものにはなっていません。

1つの村が舞台で、
2つの家族が農業を営んでいて、
国境線がその村に引かれることにより、
微妙にその生活が変化する、
というドラマになっていますが、
それほどの大きな波風が立つ訳ではなく、
せいぜい1人の脱走兵の処遇が、
問題になる程度です。

そして、戦争を無視するように、
農村の日常は流れ、
ラストは戦争が終結した、という情報がもたらされるのですが、
登場人物達は、
「そんなことは自分たちの生活には関係ない」
と無視して自分たちの仕事に戻ります。

とても、リアルとは思えませんが、
牧歌的でほのぼのとしたラストではあります。

登場人物は、
軍人を演じた2名を除き、
野良仕事の扮装で登場し、
舞台も棚田のようなものが、
抽象的にイメージされたセットのみで展開されます。

何か、民藝か何処かの、昔の「農村物」の芝居を、
観ているような既視感にとらわれます。

これだけのキャストを集めて、
ちょっともったいないな、という感じがします。
寺十吾さんと谷仲恵輔さんが農民の役にはベストマッチで、
リアルで地味な芝居の方が良い、
という内容になっています。

総じて、どのような芝居にしたかったのか、
その立ち位置が不鮮明な感じがします。

一種の寓話として感じるべきなのか、
それとももっとリアルに、
庶民の生活が戦争によって分断される悲劇と感じるべきなのか、
その辺りがどっちつかずになっているように思います。

寓話として感じるべき物語なのであれば、
もっと自由な設定の方が良かったと思います。
「戦争などより庶民の生活は上にあるのだ」
というテーマは良いと思うのですが、
中途半端にリアルな設定なので、
「そんなことある訳ないじゃん」
と思ってしまうのです。

一方でリアルな設定として捉えるべき物語なのであれば、
もっと展開にもリアルさがないと、
作品として成立しないと思います。
劇中で銃が登場しますが、
構えられるだけで一度も発砲はされず、
発砲されるのでは、という緊張感すら皆無です。
これではまずいのではないでしょうか?

中途半端に危機を煽ったりはしない、
という姿勢には非常に共感が持てるのです。
しかし、現実には矢張り危機はあるのだと思いますし、
それを無視して生活は不可能なのではないかと思います。
劇団チョコレートケーキは今、
現実をどのようにして舞台化するべきなのか、
どう立ち向かうべきなのか、
ちょっと迷っているような気がします。
今はその真摯な姿勢が、
演劇としての、
新たな鉱脈に結び付くことを信じて待ちたいと思うのです。

来年は「治天の君」の再演なので、
これは初演を観ていないので本当に楽しみです。

これからも頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

ナイロン100℃「消失」(2015年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日なので、
午前中は石田医師が担当し、
午後は石原が外来を担当します。
午前中には第三回の健康教室を予定しています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ナイロン100℃「消失」.jpg
ナイロン100℃が2004年に紀伊国屋ホールで初演した「消失」が、
11年ぶりに全く初演と同じキャストで、
今下北沢の本多劇場で上演されています。

これは初演を観ているのですが、
悪くない作品だとは思ったものの、
あまりに長く淡々としていて、
途中の睡魔を抑えるのがかなり苦痛でした。
SFは好きなのですが、
第2の月とか核戦争後の世界とか、
設定が中途半端な気がするのも、
当時は違和感がありました。

今回の上演は基本的には前回と同じなのですが、
初演よりずっと感銘を受けましたし、
睡魔に襲われることも少なく、
トータルにはかなり楽しめました。

その一番の理由は、
初演にはなかった途中休憩が入ったことで、
それも、なかなか絶妙なタイミングで、
丁度大分ダレてしんどくなって来たところで休憩となり、
後半はいきなり怒涛の展開となって、
クライマックスに突入するので、
前半で少しウトウトしていた人も、
後半で気分を変えて観ることが出来るのです。

ただ、上演時間はそのために3時間を超えました。

15分くらい刈り込んで3時間以内にすれば、
もっと傑作になるのに…
とどうしても考えてしまうのですが、
ケラさんにとってはそれはポリシーに合わないことのようです。

役者さんは全員抜群と言って良く、
皆が年齢を重ねた分、
作品を覆う哀しみはより深化した、
という気がします。

特に三宅弘城さんと犬山犬子さん、みのすけさんという、
ケラさんの最も古い仲間の3人が、
年齢を重ねた哀れな滑稽さを演じて、
実に味があります。
大袈裟に言えば、
チャップリンの「ライムライト」のような哀感があったのです。

最近ケラさんは、
「渡辺えり症候群」のような病気に罹り、
政治的なご発言が多いのですが、
藝術家は良い意味で世間知らずの出鱈目で良いと思っているので、
あまり下々のことに気を紛らわすことなく、
政治的な活動は野田秀樹さんなどに任せて、
極私的な世界を深めて欲しい、
というのが僕の切なる願いです。

今回の舞台は完成度が高く、
キャストの演技も完成の域に達していて、
プロジェクションマッピングを含めて、
演出も完成の域に達しているので、
ケラさんの芝居の1つの頂点として、
推奨出来るものです。

ただ、悠然たる間合いで話の輪郭はもやもやしていて、
3時間を超える長尺なので、
ケラさんの芝居を普段観慣れていない方には、
あまり向いてはいないと思います。
犬山犬子さんの哀しさを観るだけで、
口元がほころんでしまう、
というようなケラさんのファンには、
これはもう絶対のクリスマスプレゼントだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

遺伝子検査はそれほど役に立たないこともある、という話 [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームなどの診療には出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はちょっとした雑談です。

数年前に風疹の若年層の流行が、
大きな問題になったことがありました。

その時に20代の女性で、
発熱と共に全身に米粒大の赤い皮疹が、
出現した患者さんが外来を受診されました。
場所は勿論今の品川ではありません。

頸部のリンパ節の腫脹も認められ、
風疹を疑って保健所に連絡を入れました。

通常全ての事例で個別に検査をしてくれる、
ということはないのですが、
たまたま風疹の流行が問題になっていた、
ということもあったのでしょう、
保健所の担当者の方がクリニックを訪れ、
風疹の遺伝子検査をして頂けることになりました。

同時に採血をして、
風疹の感染初期に上昇するIgM抗体と、
以前の感染の場合に上昇するIgG抗体を測定しました。

その結果…

血液検査ではIgM抗体、IgG抗体ともに陰性でした。

これは判断に迷う結果です。

そして、数日後に遺伝子検査の結果が判明しましたが、
その結果も陰性とのことでした。

要するに風疹はほぼ否定されたのです。

ただ、僕はどうも納得がいきませんでした。
患者さんは麻疹ははっきりした既往がありましたが、
風疹についてはそれはなく、
症状経過からも風疹が強く疑われたからです。

それで、
1か月後に再度検査をする機会があったので、
もう一度IgG抗体価を測定しました。

すると、
1280倍と明確な抗体価の上昇があり、
風疹であったことがほぼ確定しました。

それでは、遺伝子検査では何故陰性だったのでしょうか?

これは何とも言えませんが、
検体を採取するタイミングもあったと思いますし、
ウイルス量などの問題もあったのかも知れません。

いずれにしても、
遺伝子検査も万能ということではなく、
抗体価の測定や臨床症状などと、
適宜比較対照して、
その信頼性を高める必要があるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

男性の造精ホルモンレベルと生命予後との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
造精ホルモンと男性の生命予後について.jpg
今年のJ Clin Endorinol Metab誌に掲載された、
男性ホルモンのレベルと生命予後との関連についての論文です。

男性更年期という言葉があります。

男性ホルモンの代表は、
精巣から主に分泌されるテストステロンですが、
年齢などによるその減少が、
どのような影響を身体に及ぼすのかについては、
それほど明確には分かっていません。

テストステロンには造精機能以外に、
筋肉を維持し、骨を健康に保ち、
造血も刺激するなど、多くの作用を持っています。
テストステロンの血液濃度の低下は、
心血管疾患や糖尿病のリスクの増加に繋がるという、
複数の疫学データも存在しています。

こうした知見からは、
テストステロンが減少する男性更年期に対して、
男性ホルモンの補充療法を行なうことで、
患者さんの予後の改善に結び付く可能性が示唆されます。

しかし、そうした目的で海外で行われた、
精度の高い複数の臨床試験の結果としては、
テストステロンの補充療法は、
心血管疾患のリスクの低下には繋がらないばかりか、
心筋梗塞などの発症リスクを増加させる、
という結果が得られています。

本当にテストステロン濃度の低下と、
心血管疾患の増加とは関連があるのでしょうか?

この問題を再検証する目的で、
今回の研究においては、
デンマークおけるこれまでの4つの独立した疫学データを用いて、
30歳以上のトータル5350名の男性を抽出し、
男性ホルモンの血液濃度と、
生命予後との関連を検証しています。

総テストステロン濃度の測定に加えて、
性ホルモン結合グロブリンや遊離テストステロン、
そしてテストステロンの分泌刺激となる、
下垂体の黄体形成ホルモン(LH)などとの関連も検証しているのが、
今回の研究のポイントです。
テストステロンを分泌するレイディッヒ細胞は、
LHによる刺激を受けているので、
LH/総テストステロン比が、
造精機能の低下を反映しているとの見解があるからです。

その結果…

平均の観察期間18.5年中に、
トータルで1533名の死亡事例があり、
そのうちの428名は心血管疾患によるもので、
480名は癌による死亡でした。

総テストステロン濃度と総死亡や、
癌による死亡との間には、
有意な相関は認められませんでした。
ただ、心血管疾患による死亡については、
最も高いグループは、
最も低いグループと比較して、
38%のリスクの低下を有意に認めました。
(HR 0.72; 95%CI:0.53-0.98)

その一方で、
LH濃度の測定値では、
値を4分割して最も高いグループは、
最も低いグループと比較して、
総死亡のリスクが1.32倍(1.14から1.53)、
癌による死亡のリスクが1.42倍(1.10から1.84)、
それぞれ有意に増加していました。
また、LH/総テストステロン比が高いグループも、
総死亡のリスクは1.23倍(1.06から1.43)、
有意に高いという結果が得られました。

要するに、心血管疾患による死亡のリスクについては、
総テストステロン濃度と一定の関連が見られるのですが、
総死亡のリスクにはあまり関連が見られず、
むしろLH濃度がより相関している、
と言う結果になっています。

このデータの解釈は非常に難しいのですが、
単純にテストステロン濃度のみで判断するのではなく、
その刺激ホルモンであるLHとの関連を見ることにより、
男性のホルモン機能とその予後に与える影響は、
判断されるべきなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

早期再分極症候群の生命予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
早期再分極の新データ.jpg
今年のAnn Intern Med誌に掲載された、
早期再分極という心電図の異常と、
その長期の生命予後に与える影響についての論文です。

早期再分極(early repolarization)というのは、
通常は心電図でSTと呼ばれる部分が上昇している所見で、
分極、脱分極、再分極という一連の心臓の興奮の流れの中で、
心臓の筋肉が収縮するために一旦興奮し、
それが再び元に戻る部分が早期に起こる、
という現象を示している、と説明されています。

胸の痛みや心臓の動きの低下があって、
STの上昇があれば、
心筋梗塞や心筋炎といった病気を疑うのですが、
そうした異常がなく、
症状もないのに、
心電図の変化のみがある場合に、
そうした名前を付けているのです。

この早期再分極は若年者に多く、
特に病的な所見ではないと考えられていました。

ところが…

2008年のNew England…誌に注目すべき論文が掲載されました。
それがこちらです。
早期細分極の2008年論文.jpg
「Sudden cardiac arrest associated with early repolarization.」
と題されたこの論文では、
早期再分極を、
V1からV3以外の少なくとも2つの誘導で、
QRSの終わりのJポイントと呼ばれる部分に、
0.1mV以上のST上昇があり、
ノッチやJ波と呼ばれる上向きの結節や、
演奏記号のスラーのようななだらかな孤のような変化が、
生じているものと定義しています。
そして、突然の心停止を来した患者さんの33%に、
このスラーやJ波の変化が認められたのに対して、
コントロールの患者さんでは5%しか、
そうした所見は認められなかったと報告しています。

つまり、こうした所見は突然の心停止のリスクになることを、
示唆するような知見です。

2009年のNew England…誌には、
フィンランドにおいて30年という長期の観察を行なった、
疫学データが発表されています。
こちらです。
早期再分極論文2009年.jpg
この論文では、
早期再分極をQRSの終わりの部位(Jポイント)における、
0.1mV以上のSTの上昇が、
V1からV3(前壁)以外の誘導で見られること、
と定義しています。

すると、
特に下壁誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVf)において、
Jポイントで0.2mV以上のST上昇が認められた事例では、
早期再分極のない事例と比較して、
心疾患による死亡リスクが2.98倍(1.85から4.92)、
不整脈による死亡リスクが2.92倍(1.45から5.89)、
それぞれ有意に増加していた、
という知見が得られました。

いずれの論文においても、
JポイントにおけるSTの上昇が、
より大きいほど、
不整脈死や心停止のリスクが高い、
という点は一致しています。

ただ、早期再分極の定義については、
微妙な違いがあり、
そのまま比較出来るような性質のものではありません。

その一方で最初にご紹介した文献の著者らは、
2011年のCirculation誌に、
このJ波やJポイントでのスラーといった変化と、
心臓由来の死亡との間には、
関連は見られなかった、という結果を報告しています。
しかし、その観察期間は平均で7.6年で、
2009年の論文において、
明確な差が生じるのは10年以降ですから、
これまでのデータを否定するような知見ではありません。

今回の論文においては、
退役軍人の医療保険のデータを活用して、
心電図における早期再分極の変化と、
心臓由来の死亡リスクとの関連を、
平均で17.5年という観察期間において検証しています。

2009年のNew England…論文の30年と比較すると、
まだ開きがありますが、
それでもかなり長期の観察が行なわれている、
ということが分かります。

早期再分極の定義は、
基本的には2008年のNew England…論文と同じに、
設定されています。

ちょっと具体的にお示します。
こちらです。
早期再分極の心電図の画像.jpg
一番上の段は上向きのST上昇があり、
J波もしくはノッチが認められます。
二段目は僅かなST上昇があり、
スラーと呼ばれるなだらかな波が認められます。
三段目はSTは下向きでJ波があり、
四段目はSTは下向きでスラーがあります。

対象者は9割以上が男性で、
20661件の心電図が解析され、
そのうちの4219例(20%)で、
早期再分極の変化が認められています。
すなわち、J波もしくはスラーの変化が、
下壁もしくは側壁の誘導に認められています。
そして、いずれの誘導の変化においても、
心臓死のリスクとの有意な関連は、
認められませんでした。

つまり、これまでの知見とは異なり、
早期再分極症候群と心血管死との間には、
関連はないとする知見です。

一体どちらを信用するべきでしょうか?

個人的な見解としてはこう思います。

2008年と2009年の論文においても、
明確なリスクの増加は、
ST上昇が0.2mV以上と大きい事例において見られていて、
J波やスラーの変化が、
単独でリスクの増加に結び付いている、
という根拠には乏しいと思います。

そう考えれば、
今回の論文も2008年と2009年の論文も、
それほど違った結論に至っている、
ということではなく、
早期再分極と呼ばれる心電図の多くは、
心臓死のリスクとは無関係な可能性が高く、
そうした関連があるのはごく一部に過ぎない、
ということを示唆しているように思います。

問題はどのような変化が、
より病的なものと判断出来るのか、
という点にあるのですが、
残念ながらその点についての見解は、
論文によってもまちまちなので、
それが判明するのは、
もう少し先の話になりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

難治性うつ病に対するアリピプラゾール(エビリファイ)の有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
難治性うつ病に対するエビリファイの効果.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
高齢者の難治性のうつ病に対して、
抗精神病薬のアリピプラゾール(商品名エビリファイ)を、
上乗せで使用することの、
効果と安全性とを検証した論文です。

60歳以上の高齢者のうつ病は、
退職などの環境の変化や、
身体の病気などによる内的な変化をきっかけとして、
発症することが多く、
生命予後を含めた患者さんの予後に、
大きな影響を与えると考えられています。

その一方で、若年層のうつ病と比較して、
高齢者のうつ病は薬が効き難く、
副作用や有害事象もより多いことが知られています。
これまでの報告によれば、
うつ病の薬物治療の第一選択薬である、
SSRIやSNRIの治療において、
55から81%の患者さんが抵抗性であるとされています。

であるにも関わらず、
多くの薬剤の臨床試験は、
高齢者は対象外となっているので、
治療抵抗性の高齢の患者さんに対して、
どのような薬剤が有効であるのか、
という点についてのデータは非常に限られています。

そのため、
個々の医師が自分の経験的な判断で、
適宜他の治療薬を単独もしくは上乗せで、
使用しているのが実態なのです。

アリピプラゾール(エビリファイ)は、
非定形精神病薬というタイプの薬剤の1つで、
元々は統合失調症の治療薬ですが、
抗うつ作用もあることより、
治療抵抗性のうつ病に対しても、
その有効性が確認されています。
しかし、その多くは高齢者を対象とした試験ではないので、
60歳以上の患者さんに使用した場合の、
効果と安全性についてのデータは限られています。

ただ、以前ご紹介したように、
認知症の高齢者の問題行動に対して、
認知機能を低下させることなく有効性を示した、
という報告はあり、
その意味で高齢者のうつ病にも適した薬剤である可能性があります。

今回の研究はアメリカとカナダの3か所の専門施設において、
通常のSNRIの治療に抵抗性の、
60歳以上の大うつ病の患者さん、
トータル181名を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はアリピプラゾールを上乗せで使用し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
12週間の経過観察を行なっています。

投薬はまず468名の患者さんに、
ベンラファキシンというSNRIを、
徐方剤で1日150から300ミリグラム使用します。
12週間の治療で改善したのが191例で、
有効事例およびその他の理由で不適応とされた事例を除外して、
アリピプラゾールが適応の181名が選ばれています。
アリピプラゾールは1日2ミリグラムで開始され、
問題がなければ10ミリグラム、
必要に応じて15ミリグラムを上限に増量されます。

その結果…

治療により反応して寛解した事例は、
偽薬群で26例(29%)に対して、
アリピプラゾール群では40例(44%)で、
アリピプラゾールの有効性が確認されました。
(NTTは6.6です)

有害事象については、
アリピプラゾール使用群でアカシジアが26%、
パーキンソン様症状が17%に発症していました。
これは偽薬より有意に高い発症率です。
心電図のQT延長に関しては1例のみの報告で、
自殺企図や自殺にも両群で差はありませんでした。

このように、
60歳以上の高齢者のうつ病で、
SSRIやSNRIが無効の事例では、
アリピプラゾールの上乗せが、
寛解率を上げる上で有用な治療であることはほぼ間違いがなく、
認知機能にもあまり影響を及ぼさない、
という知見とも併せて考えると、
こうした場合には、
他の抗精神病薬より、
優先して使用するべき薬剤であると、
考えて良いように思います。

ただ、パーキンソン症状やアカシジアは、
明らかに高齢者では高く発症していて、
こうした有害事象への注意は、
より慎重であるべきだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

甲状腺癌術後の心房細動発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺術後の心房細動発症リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
分化型の甲状腺癌治療後の心房細動発症リスクについての論文です。

悪性度の高くない分化型の甲状腺癌の治療は、
欧米の標準治療としては、
甲状腺の全摘と放射性ヨードのアブレーションとの併用です。
この場合、確実に甲状腺機能低下症になりますから、
患者さんは一生、甲状腺ホルモン剤を服用しなければいけません。
それも、TSHは甲状腺を刺激しますから、
TSHを正常より抑制するように、
やや多めの量を投与することが一般的です。

日本では放射性ヨードのアブレーションは、
よりその適応が限定されていて、
甲状腺も全摘はされないことが多いと思いますが、
術後の甲状腺ホルモンによるTSHの抑制は、
しばしば行われています。

つまり、治療として、
潜在性甲状腺機能亢進症の状態を作っているのです。

ここで1つの問題は、
この医原性の潜在性甲状腺機能亢進症により、
身体に弊害は生じないのだろうか、
という点にあります。

潜在性甲状腺機能亢進症では、
心臓に負荷が係ることにより、
慢性心房細動のような、
心臓の疾患のリスクが増加する可能性があるとされています。

それでは、
甲状腺癌の術後でTSHが抑制されている患者さんでは、
実際にどの程度のリスクがあるのでしょうか?

今回の研究では、
これまでの甲状腺癌術後の予後についての疫学データを活用して、
518名の甲状腺癌術後の患者さんと、
他の条件をマッチさせたコントロール1563名を対比させ、
心房細動の発症リスクを検証しています。
各群の平均年齢は48.6歳です。

その結果…

心房細動の発症リスクは、
コントロールでは年間1000人当たり2.7人であるのに対して、
甲状腺癌術後の患者さんでは6.2人で、
他の条件を補正した結果として、
甲状腺癌術後の患者さんでは、
コントロールの2.47倍、
有意に心房細動の発症率は増加していました。

このリスクはTSHの数値自体とは相関しませんでしたが、
アブレーションの放射性ヨードの線量とは、
弱い相関を示しました。

このように、
甲状腺癌術後で放射性ヨードのアブレーションを施行した患者さんでは、
そうでない場合と比較して、
2倍以上その後の心房細動の発症リスクが高まることが確認されました。

ただ、
これが潜在性甲状腺機能亢進症による現象であるのか、
それとも手術自体や放射性ヨード治療の影響であるのかについては、
明確な結論には至りませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

長塚圭史「ツインズ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
1日研修会があるので、
もう少ししたら出掛ける予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ツインズ.jpg
長塚圭史さんの新作が、
古田新太さんら充実したキャストで、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。

長塚さんと言えば、
2000年代前半のサディスティックで暴力的で切ない世界が、
完成度という点では疑問が残りましたが、
時代の空気を間違いなく切り取っていたと思います。

ただ、海外留学をされて以降の諸作品は、
何か出来の悪い翻訳劇のようなものが多く、
正直面白さを全く感じられませんでした。

最近は少し以前のドロドロが、
戻って来たかな、という感じもあるのですが、
今回の作品も、スタイリッシュな演出やセットは綺麗ですが、
中身はどうも消化不良で、
納得の行くものではありませんでした。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台はどうやら近未来の日本で、
「原発事故」のようなことが、
どうやらもっと広範囲で起こり、
日本のみならずその「汚染」は世界規模で広がっているようです。

汚染されていないオーストラリアを求めて、
移民することがトレンドになっていますが、
それには莫大なお金とコネとが必要なようです。

舞台は海に面した田舎の豪邸で、
権力者である父親が病に倒れ、
散り散りになっていた家族が集められます。

古田新太扮する次男のハルキは、
多部未華子扮する娘のイラをオーストラリアに密航させるために、
父の遺産を目当てでそこを訪れたのですが、
家を守る吉田鋼太郎扮するリュウゾウは、
兄妹のエリコが海で死んでから腑抜けのようになり、
ローラとトムという、
謎の男女が邸内を仕切っています。
エリコの息子のタクトの子供である双子の赤子は、
本来なら一家の希望である筈なのですが、
愛されている様子はなく、
生きているのかすら定かではありません。

物語は非常にもったいぶった、
スローテンポで展開されます。

具体的な背景がしっかりと説明される訳ではないので、
何かイライラしますし、
設定はイメージ優先なので、
辻褄はとても合っているようには思えません。

前半は暴力的な古田新太が、
吉田鋼太郎と対立し、
大暴れを繰り広げるのでそれなりに盛り上がりますが、
トムにはあっさりと逆襲され、
最終的には娘に指を切り落とされると、
その後は去勢されたようにおとなしくなります。

かつてのようなドロドロの暴力シーンが展開されるのかと思いの外、
バットがただ役者さんの前に振り下ろされると、
控えめに血糊が付くだけ、
という腰の引けたものなので、
こんな感じならやらなければいいのに、
と落胆を強く感じざるを得ません。

何故多部未華子がいきなり父親の指をちょん切るのでしょうか?

意味不明でただ悪趣味なだけに思えます。

多部さんはそれからも凶悪で意味不明で唐突な行動を繰り返し、
双子の赤子を海に捨てて、
代わりに新聞紙を丸めた人形を、
ベッドに置いたりしてしまいます。

海はどうやら陸地とは別世界で、
人間以外の生き物が支配する世界のようです。

汚染された海産物を食べると、
徐々に身体は変容して海の生物に変わって行きます。

町では祭りが行われ、
一家の主人である老人はひっそりと死に、
食べることを拒否していた家族も、
むさぼるようにパエリアを食べると、
どうやら日本の中枢は崩壊したようで、
停電が訪れ、
その中で海から半魚人(?)に姿を変えた双子が戻って来ます。

そして、何ら解決も希望も感動もなく、
淡々と物語は終わります。

汚染された水で子供が半魚人になるのは、
手塚治虫の「空気の底」にありましたよね。
徐々に食べていけないものを食べて変容するのは、
映画の「マタンゴ」みたいな感じですし、
最後の半魚人はラヴクラフトのクトゥールー神話だと思います。
オーストラリアだけが安全というのは、
ネヴィル・シュートの「渚にて」のようです。

全体に1950年代くらいに流行した、
「核戦争後の終末世界」を扱った映画みたいな話です。
暗くて酷い、トラウマになるような映画が、
当時は沢山ありましたよね。

頑張ってそういう世界をやってくれるのなら、
それはそれで面白いと思うのですが、
変に社会性を取り込もうとしたり、
今の日本の現状を風刺しようとしたり、
欧米の芝居のような格調を気取ったりするので、
話が中途半端で、
とても娯楽として成立しているとは思えません。

感動もなく、ドラマもなく、冒険もありません。
前衛でも更々ありません。

そんな感じなので、
役者さんも中途半端な芝居です。

古田新太さんはコミカルさと暴力性を併せ持った、
こうした芝居にはばっちりの人選で、
勿論良かったのですが、
キャラがしっかりと書き込まれていないので、
人格は分裂したようで落着きがありません。
吉田鋼太郎さんは、
最近は手抜きに思えるような舞台が多く、
今回も安全運転に終始していたように見えました。
一番もったいなく感じたのは、
多部未華子さんで、
彼女は松尾スズキさんの舞台では抜群なのですが、
今回は意味不明の凶暴さが目立つだけで、
彼女の良さがまるで生かされていませんでした。

総じて、
過激で観客を引かせるようなものをやりたいのか、
お上品にまとめたいのかが、
最近の長塚さんの作品では明確でなく、
お上品でのったりした感じなのに、
唐突に少女が父親の指を切り落としたりするので、
観ている方はどうして良いやら分からなくなります。

「はたらく男」はあれだけ迷いがなく、
今の世相を見事に反映した、
下品で凄い芝居だったのに、
あの長塚さんは何処に行ってしまったのでしょうか?

個人的には残念でなりません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

桑原裕子「痕跡(あとあと)」(2015年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は石原が講習会出席のため、
午前午後とも石田医師の担当となります。
また、午後5時で診療を終了とさせて頂きますので、
ご了承下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
痕跡.jpg
桑原裕子さんが率いるKAKUTAにより、
2014年に初演された「痕跡(あとあと)」が、
今三軒茶屋のシアタートラムで再演されています。

鶴屋南北戯曲賞を受賞するなど、
作品としての評価も高く、
初演は観ていなかったので、
どんなものだろうと思い出掛けました。

これは非常に素晴らしくて、
シンプルでベタな話ですが、
素直に感動出来ます。

休憩なしで2時間20近い長尺ですが、
オープニングから完成度の高いセンスのある演出に、
「おっ!」と思いますし、
人物紹介がちょっとまどろっこしくて、
場面のお尻がだらっとした感じに長いので、
「おやおや…」と思うのですが、
個々の人物の心理が掘り下げられて来ると、
「ふむふむ…」という感じになり、
後半に決定的な名場面があって、
胸を熱いものがこみ上げると、
そこからは感動の涙で視界は曇り、
ラストまで一気に駆け抜けます。

ままごとの「わが星」とともに、
今年一番素直に感動出来た1本で、
演劇というものの、
シンプルに一番良い部分を、
正攻法で見せられた感じがしました。

上演は14日までですが、
ここまでの作品はざらにはありませんので、
ご興味のある方は是非。
心からの感動をお約束します。

以下ネタバレを含む感想です。
観劇予定の方は必ず観劇後にお読み下さい。

10年前のある雨の日に、
両親がけんかをしていた家を飛び出した少年が、
車にひき逃げされて、
そのまま行方不明になってしまいます。

その生死は不明のままで、
その後離婚した母親も、
半ば息子をあきらめていたのですが、
自分が癌で余命半年の宣告を受け、
最後に一度だけ息子に逢いたいと、
フリーのカメラマンと義理の妹と協力して、
息子を探し求める旅に出ます。

実はその少年は、
借金を抱えて自殺をしようとしていた中年男に助けられ、
記憶喪失であったために、
実の息子として育てられていました。

ひょんなことからその中年男と、
行方不明の息子、そして息子を探し求める母親が、
出会ってしまうので、
秘密を抱えながらそれまでは平穏であった、
中年男の日常は崩れ始めます。

その一方、
10年前に少年をひき逃げした、
サラリーマンにも人生があり、
それがまた運命のいたずらで、
犠牲者の少年の母親と出会ってしまうのです。

この極めてベタな物語を、
抑制的なタッチで描いて行きますが、
中年男の勤めるクリーニング店で、
母親は息子に再会し、
一目で母親は息子であると確信して声を掛けるのですが、
息子にも中年男にも、
中年男を守る店の経営者にも否定され、
自分の信念が揺らいだことに愕然として、
母はその場を去ります。

この場面が非常に素晴らしくて心に沁みます。
変にお涙頂戴にはならないところが良いのです。

ひき逃げしたサラリーマンの苦悩と、
決断出来ないまま全てを失うラストも、
厳しくて良いですし、
中年男の最後の決断も切なく胸に沁みます。

作劇としては、最後まで行方不明の少年が、
記憶を取り戻さない、という点が面白く、
ラストは映画のように、
母と子がすれ違った瞬間で幕が下ります。

要するに過去を忘却することが、
人間にとって幸せの一番の近道であるのだけれど、
過去はそれでも執拗に追い掛けて来るので、
そううまくはいかない、ということなのだと思います。

登場人物は多く、主筋以外にも、
外国人の偽装結婚の話などが絡みますが、
そうした脇筋と主筋との絡ませ方が極めて巧みで、
それぞれの人物にそれぞれの見せ場があり、
キャラクターが全て埋没していない、
という点に感心します。

演出はなかなかスタイリッシュで巧みなもので、
映像により雨や人物を表現する手法が活きています。
それでいてクライマックスは、
余計なことをせず、
シンプルに演技で見せている、
というところが良いのです。

役者も皆好演で、
所謂華のある人は出ていないのですが、
それを逆手に取ったように、
「冴えない人間達の葛藤」を、
リアルに演じて味があります。

中年男を演じた客演の松村武さんと、
母親役の斉藤とも子さんがとても良く、
ひき逃げ犯の苦悩を演じた佐賀野雅和さんも心に残ります。

総じて、
今ちょっと恥ずかしくてやりにくい、
「母子もの」を、
実際の事件などのディテールを絡めて重層的に構成し、
極めて真摯に舞台化した姿勢が素晴らしいと思います。

ご興味のある方は是非。
必見と言って良い水準だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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