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2015年の演劇を振り返る [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

大晦日、皆さん如何お過ごしでしょうか?

今日は今年の演劇を振り返ります。

今年は以下の公演に足を運びました。

1.革命アイドル暴走ちゃん「うぇるかむ★2015~革命の夜明け~」
2.劇団鹿殺し「ランドスライドワールド」
3.親族代表「親族旅行記」
4.シソンヌライブ[trois]
5.ほりぶん「とらわれた夏」
6.トム・プロジェクト・プロデュース「スイートホーム」
7.劇団道学先生「あつ苦しい兄弟 港のふたり編」
8.ゴキブリコンビナート「ゴキブリハートカクテル」
9.東京芸術劇場RooTS Vol.02「狂人なおもて往生をとぐ」
10.世田谷パブリックシアター プロデュース「マーキュリー・ファー」
11.NODA MAP「エッグ」
12.PARCO PRODUCE「いやおうなしに」
13.シス・カンパニー「三人姉妹」
14.カタルシツ「地下室の手記」
15.ポップンマッシュルームチキン野郎「独りぼっちのブルース・レッドフィールド」
16.TRASHMASTERS「砂の骨」
17.M&Oplaysプロデュース「結びの庭」
18.こまつ座&世田谷パブリックシアター公演「藪原検校」
19.木ノ下歌舞伎「黒塚」
20.アガリスクエンターテイメント「紅白旗合戦」
21.アマヤドリ「悪い冗談」
22.PARCO PRESENTS「趣味の部屋」
23.燐光群「クイズ・ショウ」
24.劇団ヴォードビルショー「田茂神家の一族」
25.坂上忍「或る、致し方ない罪に対するやるせない復讐のはじまり」
26.月刊「根本宗子」バー公演「ご無沙汰してます」(チームA公演)
27.鴻上尚史「ベター・ハーフ」
28.シベリア少女鉄道「この流れバスター」(オリジナルver.)
29.シベリア少女鉄道「この流れバスター」(フレッシュver.)
30.シアターコクーン・オンレパートリー「禁断の裸体」
31.劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン」
32.拙者ムニエル「わくわくステーション」
33.突撃金魚「ゆうれいを踏んだ」
34.月刊「根本宗子」第10号「もっと超越した所へ。」
35.イキウメ「聖地X」
36.唐組・第55回公演「透明人間」
37.カムカムミニキーナ「スワン・ダイブ」
38.岩井秀人×快快「再生」
39.山海塾「海の賑わい 陸の静寂ーめぐり」(新作)
40.第5回ブス会「女のみち2012 再演」
41.ままごと「わが星」
42.城山羊の会「仲直りするために果物を」
43.ねもしゅーせいこ「夏果て幸せの果て」
44.シス・カンパニー公演「草枕」
45.トム・プロジェクト プロデュース「エンドロール」
46.日本総合悲劇協会「不倫探偵~最後の過ち~」
47.TEAM JACKPOT 第10回公演「Mother」
48.新宿梁山泊第55回公演「二都物語」
49.マームとジプシー「Cocoon」
50.さまぁ~ずライブ10
51.イルネス製作所
52.こまつ座「父と暮らせば」
53.「7人ぐらいの兵士」
54.パルコ・プロデュース公演「マクベス」(佐々木蔵之介1人芝居)
55.野田秀樹「障子の国のティンカーベル」(鞠谷友子)
56.ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」
57.ミナモザ「彼らの敵」
58.男子はだまってなさいよ!⑩「男子!レッツラゴン」
59.劇団☆新感線「五右衛門vs轟天」
60.日本の30代「ジャガーの眼2008」
61.NINAGAWA・マクベス
62.TRASHMASTERS「そぞろの民」
63.イキウメ「カタルシツ」
64.サディスティックサーカス
65.維新派「トワイライト」
66.カンニング竹山「放送禁止2015」
67.タクフェス「くちづけ」
68.赤堀雅秋「大逆走」
69.月刊「根本宗子」再び第7号「今、出来る、精一杯。」
70.唐組第56回公演「鯨リチャード」
71.革命アイドル暴走ちゃん「Rebirth オーストラリア凱旋ver.」
72.月刊「根本宗子」第11号「超、今、出来る、精一杯。」
73.大人計画ウーマンリブ「七年ぶりの恋人」
74.「ブルーシート」
75.第6回ブス会「お母さんが一緒」
76.シベリア少女鉄道「Are you ready? Yes,I am.」
77.マクドナー「スポケーンの左手」
78.ブロードウェイミュージカル「シカゴ」
79.KAKUTA「痕跡」
80.長塚圭史「ツインズ」
81.ナイロン100℃「消失」
82.劇団チョコレートケーキwithパンダ・ラ・コンチャン「ラインの向こう」
83.「タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ」
84.「残酷歌劇ライチ光クラブ」
85.つかこうへい「熱海殺人事件」(いのうえひでのり演出版)
86.パラドックス定数「東京裁判」(pit北/区域閉館公演)
以上の86本です。

それ以外に歌舞伎を今年は数本観ています。
1.新橋演舞場初春花形歌舞伎「石川五右衛門」
2.六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」
3.明治座五月花形歌舞伎(昼の部)
4.明治座五月花形歌舞伎(夜の部)
5.スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」
6.歌舞伎座十二月大歌舞伎(夜の部)
猿之助と海老蔵が興味の中心で、
他はあまり現時点で興味がありません。
玉三郎も吉右衛門も藤十郎も、
良い時に何度も観ているので、
もうあまり観たいと思えません。
勘九郎と染五郎はナルシスティックな毒気が、
僕には拒否反応を起こします。
体操の10点満点のような演技も苦手です。

今年の私的なベスト5はこちらです。
今年は再演は抜群の作品が多かったのですが、
初演と初プロダクションのものは総じて不作であったように思います。
同じプロダクションの再演は外しての選出ですが、
かなり選ぶのには苦労しました。
①ゴキブリコンビナート「ゴキブリハートカクテル」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-02-21-1
これは体感型で周遊型のアングラ演劇の大傑作で、
これほど徹底した迷路の密室劇は、
アングラ全盛期にもなかったと思います。
「見なくても良い」と言わんばかりの受付は最低ですが、
それに耐えて体験する値打ちはあります。
以前の作品も観たかったと、
それだけは後悔の日々です。
サディスティックサーカスで披露された、
インチキミュージカルも最高でした。
本当はこうしたマニアにしか向かない作品を、
1位に据えるのは抵抗があるのですが、
今年は凡庸な作品が多かったので仕方がありません。

②月刊「根本宗子」第10号「もっと超越した所へ」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-05-16
今年最も活躍したと言って良い根本宗子さんですが、
作品の質にはかなりムラがありました。
その中ではこの新作が、
緻密でエネルギッシュな作劇で、
特にラストのダブルクライマックスには、
これまでにない突き抜けたところを感じました。
来年も予定は目白押しですが、
もう少し1作1作を大切にして欲しいと思いました。

③維新派「トワイライト」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-09-23-1
大掛かりな借景で、
唯一無二の野外劇を上演し続けている維新派ですが、
今年は奈良の曽爾村で、
いつもながらの美しい舞台を披露してくれました。
屋台村での上演前のイベントや食事も、
維新派ならではの楽しみです。
ただ、一時より大仕掛けは減り、
シンプルになった舞台は、
やや物足りない物を感じることも正直なところです。

④アガリスクエンターテイメント「紅白旗合戦」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-03-21
シチュエーションコメディを得意としている若手の劇団の新作ですが、
この作品は非常に緻密な作劇で、
特に反発していた先生と生徒を、
何とかして1つの同意に至らせようというラストの件が、
とても見事に構成されていて感銘を受けました。
惜しむらくは俳優の演技の質が安定しておらず、
一部の俳優の未熟な演技が、
しばしば観客の集中を妨げていたことを残念に感じました。
これからも活躍が楽しみです。

⑤TRASHMASTERS「そぞろの民」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-09-19-1
社会派の劇団は今沢山あるのですが、
今の世界をどう捉え、どのように舞台化するかについては、
かなり迷いのある集団が多く、
中途半端に抽象的な設定にしたりして、
何が言いたいのか分からないような作品が多かったように思います。
その中では、この「そぞろの民」は、
リアルタイムで集団安保の問題を真正面から描き、
大島渚の映画を彷彿とさせるような、
背筋の伸びるような緊張感のある舞台で好感を持ちました。
最初から最後まで現実を俎上にした議論のみしかないのです。

以上の5本も、
文句なしに推奨、という感じではありません。
その意味で今年の新作は、
僕の観た範囲では不作だったように思います。

その一方で再演については素晴らしい作品が沢山ありました。
こちらは非常に充実していて、
10年間くらい分の感動を味わったような思いもありました。
それでは極めてレベルの高い、
再演のベスト5です。

①ままごと「わが星」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-06-06
星の一生を円形の舞台でラップで綴った、
極めて完成度の高い感動に溢れた名作です。
台本、演技、演出、全てが完璧と言って過言ではありません。
全ての演劇を愛する方必見の、
ある種の奇跡と言って良い舞台で、
僕が生涯で観た演劇作品の中でも、
10本の指には確実に入ります。

②ミナモザ「彼らの敵」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-08-01
実在の人物を主人公にした社会派の舞台を得意とするミナモザですが、
この作品は面目躍如の快作で、
1人の若者の心の奥底を、
緻密な解剖のように描いて行きます。
西尾友樹さんと菊池佳南さんの演技がまた素晴らしく、
心が抉られるような稀有の舞台体験でした。

③KAKUTA「痕跡」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-12-12
現代的な幾つかの親子関係を、
一歩間違えばかなりベタなお涙頂戴のストーリーにまとめながら、
極めて誠実な仕事で、
リアルで感動的な舞台に仕上げた逸品です。

④パラドックス定数「東京裁判」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-12-29
今年最後に観た1本は、
男5人のみ、一切の演劇的な仕掛けなしで、
東京裁判という大きなテーマを、
被告の弁護人の立場のみから切り取った、
鮮やかな台詞劇の雄品です。
劇団チョコレートケーキが今年はやや拡散的で、
密度の薄い芝居になってしまったので、
彼らの芝居が一服の清涼剤のように心に残りました。

⑤ブス会「女のみち2012」
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2015-05-30-1
これはちょっと変化球なのですが、
AVの撮影現場を女の視点で描いて、
とんでもないクライマックスのある怪作で、
小劇場のいかがわしさと、
ストレートな感動と快感とを併せ持つ面白い作品です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

つかこうへい「熱海殺人事件」(2015年いのうえひでのり演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは今年末年始の休診中です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
熱海殺人事件.jpg
つかこうへいの熱海殺人事件を、
劇団新感線のいのうえひでのりが演出し、
活動休止前のつかこうへい事務所の、
オリジナルキャストでもある、
風間杜夫と平田満が出演する、という、
今年一番びっくり仰天した企画が、
先日まで新宿の紀伊国屋ホールで上演されました。

熱海殺人事件は初演はつかこうへい事務所ではないのですが、
その後何度もつかこうへい事務所が上演して、
つかこうへいの代表的なレパートリーの1つとなりました。

1982年の活動休止前で、
僕が観たのは1979年の舞台でしたが、
三浦洋一、平田満、加藤健一、井上加奈子というキャストでした。

木村伝兵衛部長刑事は、
確かに風間杜夫さんも何度か演じましたが、
三浦洋一さんの方が回数は多かったと思います。

つかこうへいさんは、
自分の出自を公表して舞台復帰して以降は、
その作品は1982年以前とは大きく変質し、
熱海殺人事件自体も、
全く別個の作品のように塗り替えられました。

ただ、つかさんが亡くなってからは、
1982年以前の台本や台詞による上演も、
行われるようになっています。

今回の上演は、
僕が観た1979年の舞台と、
ほぼ同じ台詞での上演だったように思います。

熱海殺人事件はつかさんの作品としては珍しく、
文庫本の戯曲集に収録されていて広く読まれていたのですが、
それは外部演出の初演版のもので、
つかさん自身が演出するようになって以降の作品は、
かなりその初演戯曲とは、
台詞や内容の異なるものになっています。

ただ、今回のバージョンはその中では、
比較的初演の台本と同じ部分が多いものです。

オープニングは白鳥の湖が大音量で鳴り響く中、
何かを木村伝兵衛が受話器に向けて叫んでいる、
というもので、
大山金太郎の入場は、
熊田刑事が呼びに行くと、見付からず、
女性刑事がスポットを持って出て来てそれを客席に向け、
客席から大山が歌いながら入場する、
というものです。
これはいずれも初演の台本にはない演出ですが、
僕が観た1979年の上演でも同じでした。
大山登場の曲はオリジナルは「マイウェイ」でしたが、
今回は曲は違っています。

それから、
熊田刑事の台詞は、
「ここは私にお任せ下さい」
以降など初演版とはかなり違っていて、
熊田刑事の生い立ちも、
独白の中に加えられています。
大山の殺人に至る独白では、
村の相撲で「愛のうっちゃり」で勝った、
という件が入っています。
勿論これも初演版の戯曲にはありません。
ラストは初演版の木村伝兵衛のやや社会派チックな名台詞はなく、
女刑事が結婚式当日だったというネタがあって、
その後は熊田のおんぼろライターで、
木村伝兵衛がたばこに火をつけ、
「良い火加減だ」
という台詞で終わります。

例の「東京へは何度も…」など、
オリジナルでおなじみの曲も幾つか使われ、
首絞めのラストでは、
生ギターが入って泣かせになる趣向も昔と同じです。

おそらく、1982年以降に上演された「熱海殺人事件」としては、
最もつかこうへい事務所時代の雰囲気を、
再現した上演だったと思います。

ただ、複雑で微妙な印象が残りました。

まず、戯曲が矢張り今には合わないな、
ということは強く感じました。

「ブスは死ね!」みたいな台詞が連呼されたり、
農作業従事者や被爆者などが、
平然と差別的にののしられたりする台詞は、
昔はこれで笑えたのですが、
今聴くとどうしても、
「そんなことを言ってはいけないんだよ」
というようなストップが社会的に掛かっているので、
素直に笑えないような微妙な空気になるのです。
こうした台詞で笑うという行為自体が、
たとえ閉じた劇場という空間であっても、
「人間としていけないことをしている」
というような気分を醸し出してしまうのです。

伊藤計劃が「ハーモニー」で描いたような唾棄すべきユートピアに、
今の社会はもう既になっているような気もします。

それから、
高度成長期の、
誰もが必要以上に背伸びをしていて、
東京が名実ともにアジアの中心であった時代の空気が、
この作品が笑いのめしているものの本質なのですが、
そんなものは今は存在していないので、
なかなか作品で揶揄しているものの実体が、
つかみにくくなるのです。
それで、なおさらに表面的な差別的な言辞だけが、
心に引っ掛かる結果になってしまうのではないかと思います。

役者は特に、
最近狂い咲きのような芝居が多かった、
平田満さんにかつての狂気を期待したのですが、
今回の上演に関しては、
どちらかと言えば「気のいいおじさん」のモードで、
台詞に張り詰めたところがなく、
演技も小さいので正直失望しました。

僕はつか芝居を本当の意味で体現している役者は、
かつての平田満さんの口跡だったと思っているので、
今回の台詞を置いているだけのような芝居は、
仕方のないことなのでしょうが、
残念に感じました。

昔を知らない方には声を大にして言いたいのですが、
昔の平田さんの迫力は、
こんなものでは到底なかったのです。

風間杜夫さんの芝居は、
想定内のものだったのですが、
矢張り安全運転の感じが否めませんでした。

勿論仕方のないことは百も承知の上なのですが、
このような守りに入った安全第一の芝居をするのであれば、
今回の上演はしない方が良かったと思います。

いのうえひでのりさんの演出は、
かつてのつか作品のコピーから入り、
今の演出を確立した歴史の感じられるもので、
オリジナルを重視した視点に、
つか作品への愛を強く感じました。
ただ、僕はいのうえさんも今回の2人の芝居には、
大きな失望を感じたのではないか、
とそんな風に思えてなりません。

矢張り伝説は伝説のままが一番であったような気がしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

パラドックス定数「東京裁判」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診となります。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
東京裁判.jpg
男のみのキャストで、
骨太な会話劇が特徴の劇団「パラドックス定数」の、
代表作である「東京裁判」が、
今数回目の再演として、
閉館が決まっているpit北/区域で上演されています。

僕はこの劇団は今回が初見ですが、
非常に素晴らしい舞台で、
小劇場ならではの美しい結晶体のような芝居です。

後半は切なくてボロボロ泣いてしまいましたし、
本当に観て良かったと思いました。

その題名の通り東京裁判を扱っているのですが、
5人の日本人の弁護人が主人公で、
目には見えない戦勝国の判事と検事達に対して、
「勝者が戦争を裁くことが出来るのか?」
という一点突破の無謀な弁論に挑む姿が描かれます。

舞台は地下倉庫のような、
かつての渋谷ジャンジャンを思わせるような小劇場で、
黒い素の舞台に机と椅子だけが置かれ、
最初から最後まで音効は一切なし。
唯一の演劇的な仕掛けは、
ラストに被爆者である弁護士が立ち上がると、
照明が絞り込まれるという演出のみです。
それ以外は照明も地明かりのままなのです。

つまりは、ほぼ史実通りの台詞だけで、
1時間40分ほどの上演時間を、
動きも殆どなく押し切るのです。

普通はかなり無謀な試みと思えるところです。
音効くらいちょっと入れないともたないかな、
と思ってしまうところですし、
もう少し個々のキャラクターを浮かび上がらせるような、
人物描写の台詞も入れたくなるところです。

しかし、そうしたことは一切せずに、
純粋な台詞劇として成立させているところに、
この作品のある種の潔さがありますし、
この作品に限って言えば、
その試みは成功していると思います。

正直、最初の30分くらいはまどろっこしい感じもあります。
実際は聞こえる筈の判事や検事の台詞や、
実際には聞こえていた筈の効果音などを、
一切取り払っていながら、
その間合いだけは空けているので、
観客として会話のリズムを掴むのが難しいのです。
しかし、中盤から後半になると、
そんなことはあまり気にならなくなります。
前半は全ての声が聞こえていた方が、
勿論わかり易いのですが、
後半もその調子であれば、
今度はそうした音は全て邪魔になると思います。
この辺の引き算の発想は、
なかなか普通の演出家や作家には、
真似の出来ない芸当ではないかと思いました。

トータルにはモノトーンの三谷幸喜、
というような感じがあります。
三谷幸喜さんでも書きそうな話の展開ですし、
後半の盛り上げ方や落としどころは良く似ている部分もあります。
ただ、三谷さんであれば、
もっと人物をコミカルに彩色して、
「食べやすい芝居」に仕上げたと思うのですが、
そうしたことはしていない分、
後半の感動はより大きなものになっているのです。

役者さんは5人とも水準を超えた芝居で、
これも成功の一因です。
ただ、とても1946年に生きていた人には見えない、
というところが、
仕方のないことですが少し残念には感じます。
劇団チョコレートケーキの実録ものは、
意外に「昔いたのじゃないか」
と思えるような役者さんを配置していて、
その辺りは一考の余地があるように思いました。

いずれにしても小劇場としては、
必見と言って良い水準の見事な舞台であることは確かで、
その上ちょっと歴史のお勉強も出来たような気分になります。
公演は大晦日まで続きますので、
本物の小劇場のマスターピースに触れたい方は、
是非劇場に足をお運び下さい。
心にちょっと刺さりますよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

降圧治療の方法とその効果について(2015年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックの年内の診察は今日までになります。
本日は午前午後とも通常通りの診療で、
年明けは1月5日からになります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血圧コントロールの効果Lancet.jpg
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
降圧療法の心血管疾患予防効果を検証した論文です。

これは今までの臨床試験のデータなどを、
まとめて解析したメタ解析の論文ですが、
収縮期血圧が130を切るような目標を設定した降圧治療が、
実際に有効であることを確認する内容になっています。

大規模な疫学データを解析した結果としては、
血圧が115/75を超えると、
それより高ければ高いほど、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患は増加する、
という明確な傾向があることが確認されています。
このデータは年齢は40から89歳の範囲において、
男女差や人種差はなく成立しているとされています。

つまり、血圧が高いことは心血管疾患のリスクになるのです。

しかし、それでは目標を定めて、
薬剤により血圧を下降させることより、
心血管疾患が予防出来るのか、
ということになると、
そこまで明確なことが実証されている訳ではありません。

ある時点で治療をせずに血圧が120であるということと、
薬剤を使用して低下した血圧が120である状態とは、
同一ではないからです。

概ね収縮期血圧が150を超えるレベルでは、
その方の背景や持病に関わらず、
血圧を薬で低下させることにより、
一定の心血管疾患の予防効果のあることはほぼ明らかです。

しかし、140を下回るくらいの収縮期血圧になると、
データはどのような集団に対して、
どのような方法を用いて治療を行なうのかによっても、
導かれる結論には大きな相違があります。

以前もご紹介したように、
2型糖尿病の患者さんを対象とした、
ACCORDと呼ばれる大規模臨床試験では、
収縮期血圧を120未満に低下させることの有用性は、
確認をされませんでした。

その一方で今年発表されて大きな話題となった、
SPRINT試験という大規模臨床試験では、
糖尿病以外の心血管リスクのある患者さんを対象として、
収縮期血圧を120未満とする降圧が、
140を目標とする降圧治療と比較して、
心血管疾患のリスクを25%有意に低下させる、
というデータが得られています。

今回のデータはこれまでのデータをまとめて解析したメタ解析で、
上記のACCORDとSPRINT試験も勿論含まれています。
トータルで125の研究の613815人のデータを解析した結果として、
上の血圧が130を切るような降圧治療により、
10mmHg血圧を降下させることにより、
心血管疾患のリスクを20%、
虚血性心疾患のリスクを17%、
脳卒中のリスクを27%、
心不全のリスクを28%、
それぞれ有意に低下させていました。
更に住民研究のみにおいては、
総死亡のリスクも13%有意に低下させていました。
ただ、腎不全のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。

この降圧による心血管疾患予防効果は、
糖尿病の患者さんと腎臓病の患者さんにおいては、
そうでない患者さんと比較して、
やや弱まる傾向が認められました。

降圧剤の種類と効果との関連については、
βブロッカーの心血管疾患、脳卒中、腎不全への予防効果は、
他の薬剤より劣っていて、
脳卒中の予防効果はカルシウム拮抗剤が最も優れていました。
また、心不全の予防に関しては、
利尿剤が最も優れ、
カルシウム拮抗薬は他の薬剤より劣っていました。

トータルに見ると、
130を切る降圧目標を設定することにより、
心血管疾患の予防効果は全ての患者さんにおいて確認されていますが、
糖尿病の患者さんでは有効性はあるものの、
糖尿病でない患者さんと比較すると効果は低く、
腎不全の予防効果は確認されていません。
βブロッカーは降圧のみの目的として使用する薬剤としては、
あまり適切とは言えず、
心不全のリスクが高いケースでは利尿剤を優先して降圧を行ない、
脳卒中のリスクが高いと想定されれば、
カルシウム拮抗薬を優先して使用することが、
より高い予防効果につながると考えられます。

SPRINT試験がNew England…誌に載り、
Lancet誌にこのメタ解析が掲載されたことで、
降圧治療の世界的な考え方は、
どうやらこの方向にシフトすると考えて良さそうです。

全てを鵜呑みにする必要は勿論ないと思いますが、
臨床医の端くれとしては、
「あいまいな降圧」
「何となく血圧の薬」ではなく、
どのような予防効果を期待して、
どのような薬剤を用い、
どのレベルの降圧目標を設定するのかを、
患者さんとともに考えて、
共通の方向性を個別に設定することを、
日々の診療の中で心がけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スターウォーズ/フォースの覚醒 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
スターウォーズ ジェダイの覚醒.jpg
「スターウォーズ/フォースの覚醒」を、
新宿の映画館で3D吹き替え版で観て来ました。

映画は中学と高校の時が一番沢山観ていて、
特に大学卒業以降はあまり観ていません。
ただ、スターウォーズに関しては、
これまでの6作品は全て封切りで映画館で観ています。

1977年(日本公開は78年)の第1作(エピソード4)の時は、
今はなき日劇で観てから、横浜でも観ました。
「エクソシスト」で怪奇映画が一般の娯楽になり、
「スターウォーズ」でSF映画が一般の娯楽になったのです。
丁度登校拒否で高校を休んでいた時だったので、
ある種の執着と孤独の残像とともに、
今でも強く印象に残っています。

ただ、ワクワクして観たのは2作目の「帝国の逆襲」までで、
後は何となく惰性で観たような気がします。

特にエピソード1以降の三部作は、
絵葉書を観ているようで面白くはありませんでした。

今回の新作はでも、
非常に面白くて、
特に1作目をリアルタイムで観た人には、
懐かしさに胸が熱くなるような感じがあります。

やや後ろ向きな作品なのですが、
昔懐かしい冒険活劇という感じに回帰しているので、
それを非常に高いクオリティで再現されると、
矢張りグッと来るのです。

基本的には第1作(エピソード4)の、
リメイクと言って良いようなストーリーラインなのですが、
第2作(帝国の逆襲)のテイストを、
同時に突っ込んでいます。
そこに更に40年前の登場人物を、
実際に30年後という設定で登場させ、
観客のノスタルジアを解放させてくれるのです。
女戦士と黒人を主役に据えて今風にして、
ジブリ(主にナウシカ)やハリー・ポッターの要素まで、
貪欲に取り込んで一体化しています。

「アラビアのロレンス」のような砂漠が登場したり、
自然の風景を多く登場させて、
CG一色ではなく、
自然の風景の中に宇宙船が飛んでくるような場面が多いのも、
昔の映画のようでとても心が和みます。
トータルに1977年のビジュアルを忠実に再現していて、
敢えてレトロな感じを狙っていながら、
クオリティは明らかに高いので、
とても楽しく観ることが出来るのです。
ミレニアムファルコンのモンスターチェスまで出てくるのですから、
マニアにはたまりません。
台本は本当に練り上げられていて、
40年前のキャストが登場するタイミングなども、
まさに抜群です。

個人的にはシリーズ全作を通じて、
ベスト3には確実に入る1本で、
正統なスターウォーズの全てがあると言って過言ではなく、
エピソード1から3は記憶から消去したい感じです。
第1作の好きな方には非常にお勧めです。

3D版はあまり3Dならではの構図がなく、
視野は狭くなって見づらくなるので、
どちらかと言えば2Dで大きな画面で観る方が、
良いように思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

舞台版「残酷歌劇ライチ光クラブ」(2015年河原雅彦演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が診療の予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ライチ光クラブ2.jpg
元々は東京グランギニョルが1985年に上演した舞台を、
2006年に古屋兎丸さんがオマージュとして漫画化し、
それを原作として再び舞台化され、
来年は映画公開も控えている「ライチ光クラブ」が、
鹿殺しの丸尾丸一郎さんの台本と、
河原雅彦さんの演出で、
残酷歌劇と銘打って、
今原宿で上演されています。

グランギニョルの初演は、
僕は観ていません。
2012年に江本純子さんが台本・演出に当たった公演があり、
好評であったようですが、
それも未見です。

要するにあまり興味はなかったのですが、
漫画はなかなか迫力があって面白く、
小劇場の舞台がその記憶の中で、
20年後に漫画にリニューアルされて、
それが更に再度新しい舞台になる、
という特異な経緯も面白く、
今回はちょっと興味を持って観に行くことにしました。

結論としては、
漫画の原作に忠実な舞台で、
如何にも丸尾丸一郎さんという台本、
そして如何にも河原雅彦さんという演出の作品です。

原作はドラマとしては非常に面白く、
ラストのカタストロフ(大虐殺劇)の段取りも、
極めて巧みに出来ているので、
これはもう、そのままやれば一定の面白さは、
ほぼ確保されると言っていいのですが、
それ以上の面白さが、
舞台化によって引き出されたかと言うと、
そこまでは言えない結果になっていました。

ミュージカル仕立てになっているのですが、
なかなか曲も良く、
「ロッキー・ホラー・ショー」のような雰囲気で、
作品世界を邪魔していません。

ダンス・パフォーマンス集団が共演していて、
それなりに面白いダンスなのですが、
3人の女性のパフォーマーが、
配役もはっきりせずにうろうろしているのは問題だと思いました。
特に最後に殆どの登場人物が殺し合うカタストロフがあるのですが、
その場面でも3人のパフォーマーが生きて踊っているのは、
役柄の位置付けも不鮮明なので、
まずいと思いました。

一番の問題は、
過激でグロテスクな舞台にするのか、
それともスタイリッシュな舞台にするのか、
その辺りが不鮮明であることで、
おそらく丸尾さんと河原さんのコンビとしては、
もっと過激な舞台にしたかったのではないか、
と推測するのですが、
若手の男優さんを集めて、
女性客の多い客席では、
そこまで過激にすることも出来ず、
血しぶきは飛ぶもののあまりリアルな感じではなく、
性描写もぼんやりとしか描かれません。
最後に水が出たりしますが、
今更な感じですし、
薔薇の処刑であるとか、
ライチ畑が炎に包まれて2人の少年が大やけどを負う場面など、
原作漫画の肝となる部分が、
凡庸にしか描かれていない点にも失望します。

それでいて、
泥臭くもあり、
スタイリッシュな感じにはなっていないので、
何処か中途半端な感じが残るのです。

この作品にはフランケンシュタインの怪物を思わせる、
機械人間が登場しますが、
グランギニョルの初演では嶋田久作が演じた役柄を、
ダンサーの男性が演じていて、
これも違和感がありました。
これはもう間違いなく嶋田久作さんへの当て書きなので、
ちょっと大柄なだけのダンサーが、
この役を演じても面白みがないのです。

僕の勝手な推測ですが、
グランギニョル版の「ライチ光クラブ」のイメージの元ネタの1つは、
唐先生の「少女都市」で、
そこでは少女を捕らえて肉体をガラスに変えようとするマッドサイエンティストを、
麿赤児さんが演じていて、
その奇怪な怪物としての姿が、
この機械人間の原点だと思います。
そうした怪物としての存在感がないと、
この役は成立しないと思うのです。

そんな訳で漫画をなぞっただけの、
やや段取り的な芝居になっていたことは残念でした。
これなら漫画を読めば充分だと感じてしまいました。
漫画版の方が、
ずっと過激でエロチックで、
危ないロマンチズムに溢れた怪作であるからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

甲状腺腫瘍総説(2015年アメリカの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には出かける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺腫瘍の総論.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
甲状腺腫瘍についての総説記事です。

格別目新しい知見はないのですが、
この問題について整理をしておきたいと思います。

甲状腺腫瘍は人口の4から7%には存在していて、
そのうちの8から16%が悪性であるという統計があります。
これは何等かの原因により甲状腺腫瘍を疑い、
検査をして見付かる腫瘍の頻度ですが、
超音波検査を全人口で行えば、
19から67%に甲状腺腫瘍が見付かる、
というデータも存在しています。

つまり、甲状腺腫瘍はその気で探せば非常に多く見付かる、
ということが分かります。

特別の場合を除いて、
甲状腺腫瘍を発見することを目的とした検診は推奨されていません。

従って、
ガイドラインにある甲状腺腫瘍が疑われた場合の対処方針というのは、
敢くまで「たまたま」見付かった甲状腺腫瘍を対象としています。

甲状腺腫瘍を診断するための検査として、
最も有用性が高いのは、超音波検査です。

それ以外には、
放射線の治療歴などの病歴と、
癌などの家族歴、
診察所見、
血液でのTSHの測定は必須と考えられています。

これはまず、TSHの測定のみを行なって、
それでTSHの抑制が認められれば、
甲状腺機能亢進症を疑って、
ヨードシンチを施行する、
というのがアメリカのガイドラインのアルゴリズムになっています。
これで放射性ヨードの集積が腫瘍の部位に認められれば、
甲状腺ホルモンを腫瘍が産生している可能性を疑い、
他のホルモン値の測定などを行なうのです。

甲状腺髄様癌という、
特殊なタイプの癌の早期診断には、
カルシトニンの測定が有用とされていますが、
現行のアメリカのガイドラインでは、
その施行は推奨されていません。

日本で使用されているカルシトニンのキットは、
欧米と同一ではなく、
その感度も特異度も欧米の物より劣り、
かつ基準値も大きく異なっているので、
日本でカルシトニンを測定することの信頼性は、
あまりないのが実状です。
馬鹿馬鹿しくも悲しい事実だと思います

超音波検査を施行することにより、
腫瘍の大きさとその形状などの所見から、
腫瘍が悪性であるかどうかの推測を行います。

上記文献にある具体例をお示しします、
こちらをご覧下さい。
甲状腺癌のエコー所見その1.jpg
図のAは非常に典型的な乳頭癌の所見です。
辺縁がややいびつな低エコーのしこりで、
内部エコーは不均一です。

Bは矢張り辺縁が不整な、
癌を疑わせる腫瘍です。

Cは内部エコーが不整の充実性の腫瘍で、
幅よりも厚みが大きいことが特徴です。
濾胞癌を疑わせる所見です。

Dは内部に微細な石灰化があり、
矢張り癌を疑う所見になります。

今度はこちらをご覧下さい。
甲状腺腫瘍のエコー所見その2.jpg
図のAは大きな卵殻状の石灰化で、
通常は良性の所見です。

Bは嚢胞の中に充実性の部分が盛り上がっていて、
その部位に微小な石灰化があります。
これは嚢胞に合併した乳頭癌の事例です。

Cは頸部のリンパ節の所見です。
嚢胞様の構造の中に充実性の部位があり、
通常のリンパ腺の所見とは違っています。
これは甲状腺癌のリンパ節転移の所見です。

Dは嚢胞性の部分がモザイク様に分布しているもので、
基本的には良性の腫瘍の所見です。

このように、超音波所見により、
ある程度腫瘍の良性と悪性とを推測することが出来ます。
こちらをご覧下さい。
甲状腺癌のエコー所見のリスクの表.jpg
超音波所見と腫瘍の大きさから、
次のステップである、
穿刺吸引細胞診の適応を選択します。

充実成分のない嚢胞性の腫瘍は、
ほぼ確実に良性なので、
細胞診の適応にはなりません。

エコーレベルが低くない充実性のしこりで、
微小石灰化などの他の悪性所見がなければ、
大きさが1.5センチを超えた時点で、
細胞診を検討します。

基本的に悪性所見を伴う大きさが1センチ以上のしこりは、
穿刺吸引細胞診の適応となりますが、
それより小さなしこりに関しては、
遺伝性の腫瘍など、
特定の悪性のリスクが高いと想定される場合を除いては、
悪性を疑わせる所見があっても、
積極的な細胞診の対象とはならないのです。

超音波所見とそれを基にした穿刺吸引細胞診の施行は、
日本でも概ね同じ考えで行われていますが、
現行の日本のガイドラインである、
「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013」では、
これまでの知見の羅列というニュアンスが強く、
明確な所見の重み付けには踏み込んでいません。

今日は甲状腺腫瘍の診断についての総説を、
主に超音波診断に絞ってまとめてみました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

EPAに内臓脂肪燃焼効果?…という話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後とも、
いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
EPAの脂肪燃焼効果.jpg
今月のScientific Reports誌にウェブ掲載された、
魚の脂の成分に、
脂肪細胞を燃焼させるような効果があるのでは、
という内容の論文です。

内容はよく吟味された緻密なものだと思います。

医療系のニュースで紹介され、
丁度健康教室の資料作りで、
EPAの話を整理していたところだったので、
「ふーん」という感じで読んでみました。

京都大学の河田照雄先生のグループの業績です。

この先生は脂肪細胞の代謝を研究されていて、
その絡みで多くの食品やその成分と、
脂肪代謝の改善作用との関連を論文にしています。

最近報道されたものでは、
トマトの成分に矢張り内臓脂肪の燃焼効果があるのでは、
というような内容をPLOS one誌に発表されていました。

PLOS one誌もScientific Reports誌も、
速報性とオープンアクセスが特徴のウェブのみの媒体で、
毎日数十篇から時には100編くらいの論文が、
ウェブで公開されています。

ですからこうした媒体での論文は、
勿論立派な業績ではあるのですが、
その後の知見の積み重ねを持って初めて、
そのデータの信頼性が担保される、
という性質のものだと理解する必要はあると思います。

EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、
青魚の脂の成分で、
n-3脂肪酸という表現はこの2つを併せたものと同じです。
疫学研究では、魚を多く摂る人の方が、
心臓病や脳卒中の発症率が低い、
というような報告が複数あり、
EPAやDHAに動脈硬化の予防効果があるのではないか、
という推測があります。

EPAには中性脂肪を下げ、血管の内皮障害や炎症の抑制など、
動脈硬化の予防に結び付くような、
多くの作用が実験的には報告されています。

何度かご紹介しましたが、
2007年のLancet誌に掲載された、
JELISという大規模臨床試験があり、
これはスタチンへの上乗せで高純度のEPA製剤を使用したところ、
心血管疾患の発症率が19%低下した、
という結果になっています。
これでEPAの心血管疾患予防効果は、
大きく注目されたのですが、
その後の主にEPAやDHAのサプリメントを使用した試験では、
そうした結果は再現されていません。

そのため、
欧米ではn-3脂肪酸のサプリメントは、
どうも心血管疾患の予防には、
使えないのではないか、
という見解が主流です。

一方で日本においては、
EPAを含む2つの製剤が医療薬として認可を受け、
それほどの根拠はないのにも関わらず、
その使用が継続されています。

EPA熱はそんな訳でかなり醒めた感じがあるのですが、
動物実験などにおいては、
まだ新たな知見が次々と報告されています。

上記文献もその1つで、
イントロダクションではJELIS研究が引用されています。

これまでにもEPAの使用により、
内臓脂肪が減少する、というような報告はあることから、
それを事実と仮定して、
そのメカニズムをネズミの実験で検証しています。

脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があります。

白色脂肪細胞は脂肪をため込む細胞で、
その一方で褐色脂肪細胞は、
脂肪を燃焼させて熱を発生させる細胞です。

褐色脂肪細胞には、
UCP1(ミトコンドリア脱共役蛋白質1)という、
一種のエネルギー変換器のような蛋白質があります。

身体の細胞はブドウ糖などを代謝して、
それをATPというエネルギーに変えるのですが、
そのエネルギーを熱に変換するのがUCP1です。

よく運動で脂肪を燃焼させて熱に変える、
というような言い方をしますが、
これは概ねUCP1を持つ細胞でのみ成り立つ理屈です。

UCP1を活性化させる刺激は、
交感神経の緊張なので、
運動のみならず、寒冷やストレスなど、
交感神経が緊張するような刺激であれば、
それが熱産生に結び付いて、
UCP1が発現している脂肪細胞であれば、
脂肪は溶けて熱になるのです。

問題は人間においては褐色脂肪細胞が非常に少ない、
という点にあります。

これが、運動しても脂肪が減り難い主な理由です。

ところが…

通常はUCP1が発現していないとされる白色脂肪細胞でも、
たとえば交感神経のβ3受容体が刺激されると、
白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞様に変化して、
UCP1の発現が見られるようになる、
という知見が存在しています。

つまり、場合によっては、
脂肪をため込むだけの細胞が、
脂肪を燃焼させて熱に変えるような細胞に、
変化することがあるのです。

この白色脂肪細胞が変化した、
褐色脂肪様細胞を、
元々の褐色脂肪細胞と区別する意味で、
ベージュ細胞と呼ぶことがあります。

ちなみに医師の方が、
ベージュ細胞という報道を見て、
これは「褐色脂肪細胞」という言い方が正しい、
というニュアンスの発言をされているのを読みましたが、
それは誤りだと思います。
両者は違うものだからこそ、
「ベージュ」という言い方をしているのです。

内臓肥満のあるような人では、
内臓脂肪の多くが白色脂肪細胞であると考えられますが、
それを適切な刺激によってベージュ細胞に変えることが出来ると、
そうした人でも脂肪を簡単に燃焼することが可能になり、
内臓脂肪や肥満の解消に繋がることが期待されます。

今回の文献ではネズミの実験において、
EPAやDHAを含む魚の脂を摂取することにより、
交感神経が活性化し、
その結果としてUCP1が白色脂肪細胞に発現して、
ベージュ細胞が増加することが確認されています。
体重も減少しています。

つまり、EPAに内臓脂肪燃焼効果があるのでは、
ということを示唆する結果です。

ただ、これはネズミの実験で、
ネズミは人間よりも褐色脂肪細胞が多いという特徴があるので、
必ずしも人間でも同じことが成り立つとは言えない、
という点には注意が必要です。

臨床用量の高純度EPA製剤で、
体重が減少するというような知見はなく、
この理屈で言えば、
交感神経が緊張していることになりますが、
そうした現象を示唆する臨床データも、
あまり聞いたことがありません。

シンプルに考えて、
魚を食べると交感神経が緊張する、
というのも、
にわかには考え難いという気がしますし、
仮にそうしたことがあるとすると、
心臓に負荷が掛かるような事態になれば、
トータルに健康的な結果には、
ならないように思います。

たとえば、甲状腺機能亢進症では、
こうした変化が起こっているので、
体重が減少するのだと考えられますが、
それは甲状腺機能亢進症であることが健康的である、
という結論には至らないのと同じことだと思います。
ネズミの実験で人間の「健康」は測れないのです。

そんな訳で、
興味深い実験結果ではありますが、
魚の脂を摂ると内臓脂肪が燃焼する、
というような短絡的な結論には至らないと思いますし、
ベージュ細胞の問題については、
人間で実際にどうなのか、
と言う検証がないと、
ことの真偽は判断できないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

タニノクロウ「タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
タニノとカントール.jpg
東京芸術劇場の開館25周年の一環として、
ヨーロッパの鬼才カントールに捧げるオマージュを、
庭劇団ペニノのタニノクロウが構成・演出し、
試演会のような形式で上演されています。
明日までです。

庭劇団ペニノは、
一時期活動休止に近い感じでしたが、
今年は東京でも新作の公演がありました。
開業でバタバタした時期なので行けませんでしたが、
評判はまずまずであったようです。
来年は「ダークマスター」の再演があるようですし、
継続的な活動はまずは非常に楽しみです。

今回の作品は、
カントールの生誕100周年の企画の一環で、
東京芸術劇場地下の展示スペースを用いて、
5人のドワーフ(小人)が出演し、
セットに天井桟敷で奇怪な機械などの装置を考案した、
小竹信節博士が協力する、という、
「一体どんなものになるのかしら?」
と楽しみにしていたものです。

ただ、蓋を開けてみると、
ワーク・イン・プログレスと書かれているように、
正式な今後の上演を検討するための試演会、
というような意味付けで、
とても完成形とは言えないような作品でした。

内容もかなりキワどいもので、
ドワーフ達の扱いについては、
僕はそこまでとは思いませんでしたが、
一緒に行った妻は、
「これは悪趣味で差別的で許せない」
と激怒していて、
「こんなものをあなたは許せる訳?」と、
観劇後はとても険悪なムードになってしまいました。

タニノさん、
出来れば僕たち夫婦の関係を壊すような、
そんな芝居はしないで下さい。

以下、ネタバレを含む感想です。

展示のためのフロアの壁に暗幕を張って暗くして、
その中のところどころに、
ダンボール箱やシーツで隠された、
いくつかのオブジェが配置されています。

ピンポン玉を2つに割ったミニライトを手渡された観客は、
特別客席は設けられていないその暗闇の中で、
開演を待つことになります。

やがて、1人の小人が手探りで現れ、
それから小竹博士作成の台車に乗って、
日本に実在する最後の妖精であるマメ山田さんと、
異形な聖女の如き森田かずよさんら、
ドワーフの面々が登場します。

彼らはその闇の空間に閉じ込められている、
という趣向で、
方舟のようなその台車を使って、
闇の世界から脱出を図ろうとします。

しかし、台車は自力では動かず、
最初は旗を振り回して、
精神力で動かそうとしたり、
ケロヨンや仮面ライダーやミッキーマウスの、
偶像の力を借りようとしたり、
20円で一時だけ動く、
遊園地の木馬の力を借りようとするのですが、
全てうまくはいきません。

最終的に、見えない観客の力を借りることになり、
指示された観客は一緒に台車を動かし、
そこにマグネットでライトを装着します。

闇の世界の扉は開き、
台車は外のロビーに出ると、
ドワーフ達は観客を引き連れて、
芸術劇場の外の池袋の野外まで出てゆきます。

ヨーロッパの前衛劇などによくあるような、
観客参加型の面白い趣向です。

ただ、こうして活字で読んで頂いた方が多分面白く、
実際に舞台を観ると、
それほど盛り上がる感じにはなっていません。

タニノさんの作品のいつもの特徴でもあるのですが、
敢えて娯楽にならないように演出しているので、
かなりしんどい思いで観劇することになります。

最初からただの暗闇の中で、
中途半端に長く待たされますし、
音効や照明の協力はなく、
ドワーフ達の芝居も、
かなり本人達の間合いのままに任されているので、
舞台にリズムが全く生れず、
メリハリも皆無なので、
つらい気分になってしまうのです。

もう少し娯楽に配慮したり、
ポイントで美しい場面や、
目や耳を奪うような瞬間が、
存在しないと、
芝居としては成立しないような気がします。

こうした芝居は、
決して全ての観客に向くような性質のものではなく、
観客にもそれなりの資質が必要で、
どのような観客に観て欲しいのかを、
限定しないと成立が難しいと思うのですが、
おそらくはもう少しお上品で、
「芸術的」なものを期待した観客が多かったと思うので、
意図したような観客参加、
という感じにはならず、
また、セットや美術などを含めた雰囲気作りも、
十分な水準のものではなかったと思います。

決してドワーフ達を差別的に扱ったものではないと思うのですが、
妻はその演技のさせ方自体に、
配慮が足りなかったのではないか、という立場で、
非常に不快に感じたようです。
作品にそうした感想を乗り越えるような深みがなかったことが、
一番の問題であったように個人的には思います。

そんな訳で成功した試みではなかったのですが、
こうしたタイプの演劇が、
僕は個人的には大好きなので、
もう少し作品を練り上げて、
ある種の共同幻想を、
より多くの観客に与えるようなものに、
深化させて欲しいと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

小児癌の遺伝子変異について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
小児がんの遺伝子変異.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
小児癌の原因となる遺伝子変異を、
多数例で検証した論文です。

癌が出来るのは何故か、
という疑問に対して、
クヌードソン仮説というものが、
40年以上前に提唱されました。

これは遺伝子の変異が複数積み重なって、
癌の発症に繋がる、という仮説で、
癌の増殖に繋がる変異と、
癌化を抑制する癌抑制遺伝子の変異とが、
ともに起こることが癌の発症に繋がると仮定することにより、
網膜芽細胞腫という癌が、
小児期と成人期で生じるメカニズムを、
説明することに成功したのです。

その後多くの癌遺伝子と呼ばれる、
癌細胞の増殖に繋がる遺伝子の変異と、
癌抑制遺伝子と呼ばれる、
癌化を防ぐ遺伝子の、
作用が妨害されるような変異が見つかりました。

しかし、それで全ての癌の原因が解明されたのかと言うと、
勿論そんなことはありません。

多くの癌の原因が、
まだ不明であることに違いはないのです。

お子さんの時期に発症する「小児癌」は、
環境要因の関与が少なく、
生殖細胞の時点で既に存在している遺伝子変異が、
その主な原因であると考えられています。

しかし、どのような変異が、どの程度の割合で関与しているか、
というような具体的な事項については、
あまり明確なデータが存在していませんでした。

そこで今回の研究においては、
20歳未満で発症した癌の患者さん、
トータル1120例の遺伝子を解析し、
遺伝性の癌との関連が深いとされる60の変異を含め、
癌に関連するという報告のある、
生殖細胞の時点で存在している565の遺伝子変異を、
全て解析してその結果をまとめています。

その結果…

生殖細胞の時点で病原性があるか、
その可能性のある変異は、
小児癌の患者さんの8.5%に当たる95例で検出されました。
癌のない966例の遺伝子解析では、
こうした変異は1.1%しか検出されていませんから、
確かに多いということは言えます。
しかし、遺伝子の変異の積み重ねが、
癌の原因であるという仮説が事実であるなら、
もっとずっと高い比率であっても良さそうです。

検出された変異のうち、
最も多かったのはTP53と呼ばれる遺伝子の変異で、
この遺伝子は癌抑制遺伝子の代表です。
半数の50例にこの変異が認められました。
こうした遺伝子変異が認められた患者さんで、
家族歴に関する情報が得られた58例の聞き取りを行なった結果では、
明確な家族歴が確認されたのは、
全体の4割に過ぎませんでした。

これはどういう意味かと言うと、
生殖細胞レベルで遺伝子変異があり、
それが小児癌の発症に結び付いているとすれば、
そうした癌は家族性と想定されるのですが、
実際には必ずしもそうではない、
ということです。

小児癌の発症に結び付くような遺伝子変異があっても、
家族歴からそのリスクを判断するような現在の手法は、
限界のあるものであるようです。

今回のデータは今後のより精緻な検証への、
たたき台になるという性質のものですが、
小児癌が何故起こるのか、
という問題については、
通常は翻訳されない遺伝子領域の関与などを含めて、
これまでの常識にはとらわれない、
柔軟な思考が必要なのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
メッセージを送る