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機能性ディスペプシアの治療について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診日ですが、
老人ホームとグループホームの診療には廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
機能性ディスペプシア.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
機能性ディスペプシアという病気の総論的解説記事です。

今日はこの内容から、
主に治療薬についての話を、
メモ的にまとめておきたいと思います。
基本的に上記文献の記載を元にしていますが、
治療薬については、
一部僕自身の経験も付け加えています。

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)というのは、
主に食後の上腹部の症状が継続的にあり、
それでいて胃潰瘍などのはっきりした病気が、
見つからない時に適応される診断名です。

直訳で分かり難いのですが、
ディスペプシアというのは胃の消化不良、
というくらいの意味合いですから、
病気の見付からない胃の消化不良、
というくらいの病名です。

胃もたれなどの症状は、
胃炎や胃潰瘍、胃癌など、
多くの胃腸の病気でも生じます。
しかし、実際にはそうした症状で胃カメラなどの検査を行なっても、
特に粘膜の異常が見付からないケースが、
多く存在しています。

胃痛や胃もたれなどの症状で胃カメラ検査を行なった患者さんのうち、
胃潰瘍が診断されるのは10%未満で、
胃癌や食道癌が診断されるのは1%未満。
そして、70%以上は、
実際には機能性ディスペプシアであった、という、
2010年の海外文献が上記解説記事には引用されています。

1990年に国際的にこの病名が議論されるまで、
多くの医者は胃カメラで異常の見付からない胃の症状に対して、
あまり関心を示しませんでした。

しかし、現実的にはこうした症状で、
日々苦しんでいる患者さんは、
胃潰瘍や胃癌の患者さんより遥かに多いのですから、
医療の対応はかなり後手に廻ったものだと言わざるを得ません。

機能性ディスペプシアは現在、
食後愁訴症候群(Postprandial distress syndrome)と、
心窩部痛症候群(Epigastric pain syndrome)の、
2つに分類されています。

その名の通りですが、
食後愁訴症候群は食後の胃もたれ感や、
それほど沢山食べないのに膨満感が生じるもので、
心窩部痛症候群は、
みぞおちの焼けるような痛みが続くものです。
いずれも常に症状が続くということではなく、
主に食後に症状が起こり、
それが慢性的に続きます。

日本ではこうした症状が持続すれば、
胃カメラをすることが一般的だと思います。

ただ、前述のように、
そうした症状の7割は機能性ディスペプシアですから、
全ての患者さんに胃カメラをすることは、
あまり効率的ではない、
という考え方も出来ます。

欧米のガイドラインにおいては、
体重減少があったり、嘔吐を繰り返したり、
55歳以上で初回の症状であったり、
胃癌や食道癌の家族歴があったり、
タール便など消化管出血が疑われる所見があったり、
食事のつかえ感があったり、
鉄欠乏性貧血があったり、
腹部にしこりが蝕知される場合に、
器質的な病気を疑って胃カメラの検査を考慮する、
というように記載されています。

ただ、日本でその通りの診療を行うことは、
実際には難しいように思います。

機能性ディスペプシアの原因は、
現時点では不明です。

ただ、関連があると想定されるものは、
幾つか存在しています。

まず、ピロリ菌の感染で、
それほど精度の高いデータが存在する、という訳ではないのですが、
ピロリ菌の感染者で機能性ディスペプシアの症状がある場合、
ピロリ菌の除菌により、
症状が改善したとする報告が複数存在しています。

そのため、
日本のようなピロリ菌の感染地域においては、
まずピロリ菌の感染の有無を検査で確認し、
感染が確認されれば除菌を検討する必要があります。

それから胃の入り口である噴門のゆるみがあると、
それほど強い酸の逆流がなくても、
機能性ディスペプシアが生じる可能性があり、
また十二指腸が胃酸に敏感であるケースでは、
過酸による胃酸の十二指腸への流入が、
矢張り機能性ディスペプシアの原因となることがあります。

更にはストレスなどによる自律神経系への影響や、
ピロリ菌以外の腸管の感染が、
影響するとの見解もあります。

過敏性腸症候群の一部では、
小腸での慢性の細菌感染が、
原因であるとの見解がありますが、
そうした細菌増殖が、
より上部の小腸で起こると、
便通異常より機能性ディスペプシアの症状が、
前面に立つのではないか、という仮説です。

ただ、現状でその関与が確実とまでは、
言えるようなものはないようです。

それでは、機能性胃腸症の治療はどうすれば良いのでしょうか?

上記文献の解説によると、
まずは器質的疾患を疑う兆候がないかどうかをチェックし、
その可能性が低いケースでは、
ピロリ菌の感染地域であればピロリ菌の検査を行ないます。

結果が陽性であれば、
まず除菌治療を考慮します。

それで改善しない場合や、
ピロリ菌が陰性の場合には、
症状において、
食後のもたれ感が主体であるか、
胃痛が主体であるかにより方針を変えます。

胃痛が主体の場合には、
過酸や噴門の弛緩の可能性を考え、
通常1から2か月間、胃酸の抑制剤の使用を考慮します。
通常はプロトンポンプ阻害剤を使用しますが、
事例によってはH2ブロッカーの方が、
効果的なケースもあるようです。

食後の胃もたれが主体の場合には、
胃の動きを改善する作用を持つ薬剤の使用を考慮します。

メトクロプラミドやドンペリドン。
それから日本において使用されている、
アコチアミド(商品名アコファイド)は、
比較的良いデータが、
日本発で論文になっています。

痛みが症状の主体で、
夜中に痛みで目が覚めるようなことがあり、
それでいて胃酸抑制剤が無効のケースでは、
自律神経の関与を考え、
3環系抗うつ剤の使用を考慮します。

抗うつ剤については、
ベンラファキシン、セルトラリンの臨床試験は、
いずれもあまり良い効果が証明されていません。
ミルタザピンを使用した試験では、
8週間の使用で一定の有効性が認められたとする文献がありますが、
例数は34例と十分なものではありません。
今年発表された、
292名の患者さんを、
偽薬とアミトリプチリン、エシタロプラムにくじ引きで分けた試験では、
10週間の時点で、
アミトリプチリンが他の2群に勝る結果でした。
そうした結果および僕の経験からは、
現時点ではアミトリプチリン(商品名トリプタノール)を、
眠前に少量使用する選択肢が、
現時点では最良と考えられます。
りフレックスやジェイゾロフトを処方される先生が実際には多く、
決して誤りではないのですが、
それほどの根拠はないということは、
強調しておきたいと思います。

痛みが3か月間のアミトリプチリンで改善しない場合には、
プレガバリン(商品名リリカ)の使用は1つの選択肢です。
これはあまりしっかりとしたデータはないのですが、
上記文献にも作者の意見として載せられていますし、
僕自身は他の処方が無効で、
リリカの著効したケースを3例ほど経験しています。
オピオイド系の鎮痛剤(トラムセットなど)は、
痛みは取れても胃腸の動きを低下させ、
病状の悪化に繋がるので禁忌と考えられています。
これも痛みの訴えが強いと、
オピオイドが処方されるケースが、
実際には多いので、
それは絶対に駄目だということは、
強調しておきたいと思います。

今日は機能性性ディスペプシアの総論でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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