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久坂部羊「無痛」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が担当し、
午後2時からは石原が担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
無痛.jpg
今連続ドラマ化されている、
久坂部羊さんの「無痛」という作品を読んでしまいました。

ドラマがちょっと特殊な素材で、
特に評判の高い病院の天才外科医という称する人物の造形に、
どういう方向にこれで転がるのかしら、
という興味を持ったので、
読んでしまったのです。

作者は現役の医師で、
今は在宅の医療機関で診療に当たっている、
というようなことがネットでは書かれていました。
小説以外に医療のエッセイなども書かれているようです。

読んでかなり驚きました。

医療ネタではあるのですが、
とても現役で臨床に関わっている医者が書いたとは、
信じ難いような内容でした。

登場人物の多くが「変態」なのですが、
その描写が非常に詳細かつ執拗で、
読んでいるとかなり気分が悪くなります。
ストーカーから女性に手紙が送られるのですが、
その文面がさして必要性が高いとは思えないのに、
執拗に長く引用されていて、
吐き気がするような内容です。
ある人物が生きたまま解剖される、
という猟奇的な場面がありますが、
それも物凄く執拗に書かれているのです。
この下品さと露悪的な趣味の悪さに驚きます。

何よりも物語の根幹の部分に、
倫理を踏みにじるようなところがあり、
現役で臨床に関わっている人間が、
そのことを公表しながら、
このような物語を一般に発表することには、
個人的には大きな問題があるように、
思えてなりませんでした。

以下ネタバレがあります。
個人的にはお読み頂かないことをお勧めしますが、
読まれる予定の方は、
先にお読みにならないようにお願いします。

物語はミステリーの体裁なのですが、
これと言った筋のひねりはなく、
意外性もありません。

教師の一家が子供を含めて猟奇的に殺され、
その犯人が不明なところに、
精神を病んだ少女が、
自分が殺したと、
担当の臨床心理士に告げるのが発端です。

そこに謎の天才外科医と、
患者の視診だけで、
全ての病気とその予後が分かってしまうという、
画期的(?)な診断法を持つ冴えない開業医。
そして、天才外科医の助手で患者の、
クレチン症で無痛症という、
怪人物が絡みます。

最初から、
ハンディキャップのある無痛症の若者を、
「不気味な怪人」のように描いていることが、
とても不快な感じがします。

それで結局猟奇殺人の実行犯は無痛症の若者なのです。
ひねりの欠片もありません。
天才外科医が弟のかつての恋人であった、
教師の妻に恨みを持っていて、
訳の分からない薬を若者に飲ませて操り、
復讐のための人殺しをさせていたのです。

それでは何故少女が告白したのかと言うと、
死んだ教師を恨んでいて、
殺しの前日にその家に行った、
というだけのことだったのです。

このプロットは結局、
マッドサイエンティストの外科医が、
自分の患者のハンディキャプを持つ若者に、
薬を盛って殺人マシーンとして利用する、
という後味の悪い話です。

昔のホラー映画では、
こうしたキワどいストーリーは、
一種の定番であったのですが、
最近はあまりに露骨で差別的なので、
おおっぴらには描かれることがなくなりました。

履歴によれば現役の臨床医が、
たとえフィクションとは言え、
このような倫理にもとるような話を、
それも下品極まるようなタッチで描き、
それが平気で出版されて書店に並び、
ドラマ化までされるという事態には、
その構図そのものが病的であるように、
僕には思えてなりません。

作者も問題ですが、
出版社もこうした作品の出版に、
そのままOKを出すのはどうかと思います。
せめて、作者が医師であることは、
伏せるべきではなかったかと思えてなりません。

現役の医者が書くべきではない物語というものも、
あると思うのです。

たとえば現役の警察官が、
警官が無実の市民を、
密かに快楽で殺しまくるような話を、
書くことが許されるでしょうか?
現役の消防隊員が、
消防隊員が密かに放火をして廻るような話を、
消防隊員の作家であることを売り物にしながら、
出版することが許されるでしょうか?

色々な考えがあると思いますが、
矢張りそれは倫理的に問題のある行為であるように、
僕には思えてなりません。

同じテーマを書くにしても、
踏み越えてはいけない一線というものは、
あるのではないかと思うのです。

この「無痛」という作品は、
あまりにそうした点に無自覚で、
不用意に差別的で、
医療への誤解に満ちているように、
思えてならないのです。

海堂尊さんという医師で作家の方がいます。

「チーム・バチスタの栄光」という作品が処女作で、
映画やドラマにもなりました。
その後も精力的に活躍をされています。

彼の作品にも非常にキワどいところはありますが、
それでも久坂部さんのこの作品のような、
露悪的で非倫理的な性質のものはありません。
それに、臨床はされていないと思います。

他にも医師で作家の方は沢山いますが、
矢張り臨床で実際に患者さんを診ていて、
それでいて変態の医師が、
障害のある患者を薬で操って、
自分の恨む人間を殺させる、
というような酷い話を、
自分が現役であるうちに書いた方は、
僕の知る限り1人もいないと思います。

それが表現の自由であるとは到底思えないのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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