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唐十郎「鯨リチャード」(2015年唐組上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
クリニックも開院して一ヶ月が過ぎました。
色々と反省点もありますが、
今後に繋げたいと思います。

今日は休みの日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
鯨リチャード.jpg
先週の日曜日に、
唐組の秋公演を観に、
雑司が谷の鬼子母神境内に足を運びました。

唐先生が脳挫傷で倒れてから、
旧作の再演が続く唐組ですが、
今回は2000年に初演された「鯨リチャード」の再演です。

この作品の初演は、
紅テントと中野の光座という今はない古い映画館で上演されました。
僕は光座版のみを観たのですが、
テントと同じ演出を、
劇場に強引に持ち込み、
外が開いたりする訳でもないので、
かなり失望した覚えがあります。

作品も1幕が30分という短さで、
しかも場所の違う2場に分かれていて、
転換の段取りも悪かったりしたので、
ありゃりゃ、と思いました。

ただ、後半合体するダンボールの馬が出て来るところは、
シュールな荒っぽさが素晴らしく、
さすが唐先生とそれだけは印象に残っています。

この時期の唐組は、
他にも「赤い靴」という芝居を、
渋谷の映画館で映画上演後にやったりしていたのですが、
こちらも作品自体はテントでやればそう悪くないのに、
場違いな感じがしてガッカリした記憶しかありません。

今回の上演は15年ぶりに、
この作品の真価を感じさせるもので、
ベテランが出なかったり、
出番が少なく、
若手主体のキャストは、
今後はどうなるのかしら、と、
ちょっとモヤモヤも感じはしましたが、
力感の籠った「誠実」な舞台で、
とても楽しく観劇しました。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公は妄想癖の清掃員の若者田口で、
ションベン横丁の鯨カツ屋のせむしの主人が、
シェークスピアの「リチャード三世」に見えて仕方がありません。

田口には片思いの女性がいるのですが、
彼女はプロザックという薬の中毒になっていて、
もう薬を止めるので、
最後の薬を買って欲しいと田口に頼みます。

売人から薬を全て盗む結果に、
ひょんなことからなってしまった田口は、
当然の如く売人達から追われ、
鯨カツ屋に逃げ帰るのですが、
鯨カツ屋の主人も、
地上げ屋に最後通告を出されている身です。
そこでプロザックを餌に、
鯨カツ屋は町の底辺のろくでなしを組織して、
自分と田口の共通の敵に、
立ち向かおうとします。

これだけの話に、
唐先生は、
プロザック中毒の女が、
ディズニーランドで買った城の模型に、
生身の人間が入るための馬として、
プロザックが必要だ、
という趣向を加え、
リチャード三世の物語と田口の物語を、
馬と王国というキーワードで結び付けることで、
作品世界を構築しています。

シンプルで、どちらかと言えば文学に傾斜した作品ですが、
改めて丁寧な演出で観直すと、
如何にも唐先生らしい、
シンプルな中にロマンチズムの溢れる小品で、
対立の構図が明確である点も、
好ましく感じます。

プロザックは最初に開発されたSSRIで、
「人格を変える薬」というようなニュアンスで、
一時期テレビや書籍で宣伝されたことがあります。
実際にはそうした薬ではなかったのですし、
それで中毒になり、
幻覚を見たりするというのは、
ややLSDや覚醒剤と混同している感がありますが、
唐先生なので許します。

ポイントは主人公の田口と鯨カツ屋の主人が、
そうした薬に頼ることなく、
より過激な妄想にふけるという点にあり、
妄想や想像力という人間の精神の「翼」が、
薬などで管理される現実を嗤う、
という辺りに、この作品の真価があるような気がします。

概ね今回の再演は、
その緻密さの面でも、
役者の密度の高さの面でも、
工夫された舞台装置においても、
初演を遥かに超えたと思うのですが、
唯一後半に登場するダンボールの馬は、
ちょっと凡庸な出来栄えでした。
合体する馬の造形は、
もっとシュールリアリズムに傾斜したものでなければ、
ならないように思います。
その点だけは今回残念でした。

唐先生の舞台がこの完成度で上演される至福が、
いつまであるかは分かりませんので、
ご興味のある方には、
是非にとお薦めしたいと思います。
意外に分かり易く、
面白いですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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