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機能性ディスペプシアの治療について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診日ですが、
老人ホームとグループホームの診療には廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
機能性ディスペプシア.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
機能性ディスペプシアという病気の総論的解説記事です。

今日はこの内容から、
主に治療薬についての話を、
メモ的にまとめておきたいと思います。
基本的に上記文献の記載を元にしていますが、
治療薬については、
一部僕自身の経験も付け加えています。

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)というのは、
主に食後の上腹部の症状が継続的にあり、
それでいて胃潰瘍などのはっきりした病気が、
見つからない時に適応される診断名です。

直訳で分かり難いのですが、
ディスペプシアというのは胃の消化不良、
というくらいの意味合いですから、
病気の見付からない胃の消化不良、
というくらいの病名です。

胃もたれなどの症状は、
胃炎や胃潰瘍、胃癌など、
多くの胃腸の病気でも生じます。
しかし、実際にはそうした症状で胃カメラなどの検査を行なっても、
特に粘膜の異常が見付からないケースが、
多く存在しています。

胃痛や胃もたれなどの症状で胃カメラ検査を行なった患者さんのうち、
胃潰瘍が診断されるのは10%未満で、
胃癌や食道癌が診断されるのは1%未満。
そして、70%以上は、
実際には機能性ディスペプシアであった、という、
2010年の海外文献が上記解説記事には引用されています。

1990年に国際的にこの病名が議論されるまで、
多くの医者は胃カメラで異常の見付からない胃の症状に対して、
あまり関心を示しませんでした。

しかし、現実的にはこうした症状で、
日々苦しんでいる患者さんは、
胃潰瘍や胃癌の患者さんより遥かに多いのですから、
医療の対応はかなり後手に廻ったものだと言わざるを得ません。

機能性ディスペプシアは現在、
食後愁訴症候群(Postprandial distress syndrome)と、
心窩部痛症候群(Epigastric pain syndrome)の、
2つに分類されています。

その名の通りですが、
食後愁訴症候群は食後の胃もたれ感や、
それほど沢山食べないのに膨満感が生じるもので、
心窩部痛症候群は、
みぞおちの焼けるような痛みが続くものです。
いずれも常に症状が続くということではなく、
主に食後に症状が起こり、
それが慢性的に続きます。

日本ではこうした症状が持続すれば、
胃カメラをすることが一般的だと思います。

ただ、前述のように、
そうした症状の7割は機能性ディスペプシアですから、
全ての患者さんに胃カメラをすることは、
あまり効率的ではない、
という考え方も出来ます。

欧米のガイドラインにおいては、
体重減少があったり、嘔吐を繰り返したり、
55歳以上で初回の症状であったり、
胃癌や食道癌の家族歴があったり、
タール便など消化管出血が疑われる所見があったり、
食事のつかえ感があったり、
鉄欠乏性貧血があったり、
腹部にしこりが蝕知される場合に、
器質的な病気を疑って胃カメラの検査を考慮する、
というように記載されています。

ただ、日本でその通りの診療を行うことは、
実際には難しいように思います。

機能性ディスペプシアの原因は、
現時点では不明です。

ただ、関連があると想定されるものは、
幾つか存在しています。

まず、ピロリ菌の感染で、
それほど精度の高いデータが存在する、という訳ではないのですが、
ピロリ菌の感染者で機能性ディスペプシアの症状がある場合、
ピロリ菌の除菌により、
症状が改善したとする報告が複数存在しています。

そのため、
日本のようなピロリ菌の感染地域においては、
まずピロリ菌の感染の有無を検査で確認し、
感染が確認されれば除菌を検討する必要があります。

それから胃の入り口である噴門のゆるみがあると、
それほど強い酸の逆流がなくても、
機能性ディスペプシアが生じる可能性があり、
また十二指腸が胃酸に敏感であるケースでは、
過酸による胃酸の十二指腸への流入が、
矢張り機能性ディスペプシアの原因となることがあります。

更にはストレスなどによる自律神経系への影響や、
ピロリ菌以外の腸管の感染が、
影響するとの見解もあります。

過敏性腸症候群の一部では、
小腸での慢性の細菌感染が、
原因であるとの見解がありますが、
そうした細菌増殖が、
より上部の小腸で起こると、
便通異常より機能性ディスペプシアの症状が、
前面に立つのではないか、という仮説です。

ただ、現状でその関与が確実とまでは、
言えるようなものはないようです。

それでは、機能性胃腸症の治療はどうすれば良いのでしょうか?

上記文献の解説によると、
まずは器質的疾患を疑う兆候がないかどうかをチェックし、
その可能性が低いケースでは、
ピロリ菌の感染地域であればピロリ菌の検査を行ないます。

結果が陽性であれば、
まず除菌治療を考慮します。

それで改善しない場合や、
ピロリ菌が陰性の場合には、
症状において、
食後のもたれ感が主体であるか、
胃痛が主体であるかにより方針を変えます。

胃痛が主体の場合には、
過酸や噴門の弛緩の可能性を考え、
通常1から2か月間、胃酸の抑制剤の使用を考慮します。
通常はプロトンポンプ阻害剤を使用しますが、
事例によってはH2ブロッカーの方が、
効果的なケースもあるようです。

食後の胃もたれが主体の場合には、
胃の動きを改善する作用を持つ薬剤の使用を考慮します。

メトクロプラミドやドンペリドン。
それから日本において使用されている、
アコチアミド(商品名アコファイド)は、
比較的良いデータが、
日本発で論文になっています。

痛みが症状の主体で、
夜中に痛みで目が覚めるようなことがあり、
それでいて胃酸抑制剤が無効のケースでは、
自律神経の関与を考え、
3環系抗うつ剤の使用を考慮します。

抗うつ剤については、
ベンラファキシン、セルトラリンの臨床試験は、
いずれもあまり良い効果が証明されていません。
ミルタザピンを使用した試験では、
8週間の使用で一定の有効性が認められたとする文献がありますが、
例数は34例と十分なものではありません。
今年発表された、
292名の患者さんを、
偽薬とアミトリプチリン、エシタロプラムにくじ引きで分けた試験では、
10週間の時点で、
アミトリプチリンが他の2群に勝る結果でした。
そうした結果および僕の経験からは、
現時点ではアミトリプチリン(商品名トリプタノール)を、
眠前に少量使用する選択肢が、
現時点では最良と考えられます。
りフレックスやジェイゾロフトを処方される先生が実際には多く、
決して誤りではないのですが、
それほどの根拠はないということは、
強調しておきたいと思います。

痛みが3か月間のアミトリプチリンで改善しない場合には、
プレガバリン(商品名リリカ)の使用は1つの選択肢です。
これはあまりしっかりとしたデータはないのですが、
上記文献にも作者の意見として載せられていますし、
僕自身は他の処方が無効で、
リリカの著効したケースを3例ほど経験しています。
オピオイド系の鎮痛剤(トラムセットなど)は、
痛みは取れても胃腸の動きを低下させ、
病状の悪化に繋がるので禁忌と考えられています。
これも痛みの訴えが強いと、
オピオイドが処方されるケースが、
実際には多いので、
それは絶対に駄目だということは、
強調しておきたいと思います。

今日は機能性性ディスペプシアの総論でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

生体吸収スキャフォールドはステントより優れているのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血管スキャフォールドとステントの比較.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
生体吸収性スキャフォールドという、
心臓の血管のカテーテル治療に用いる、
新しい器具の効果と安全性とを検証した臨床試験の論文です。

ステントという器具があります。
これは金属製の細い管のようなもので、
急性心筋梗塞などで、
心臓を栄養している冠動脈という血管が、
閉塞したり高度に狭窄しているような場合に、
そこに挿入され留置されます。

金属の筒で強引に血管を広げるのですから、
少なくとも一時的には狭窄は解除され血流は再開します。

しかし、その場所に傷を付けて異物を挿入するので、
ただの金属の筒では、
しばらくすると高頻度に血栓が出来たり、
ステントの内側に細胞が増殖して、
ステントが閉塞する、という事態が生じました。

そのために、
細胞の増殖を防ぐような特殊な薬剤が、
ジワジワと染み出すような、
薬剤溶出性ステントと呼ばれる器具がその後開発されます。

この薬剤溶出性ステントの使用により、
ステント挿入早期に生じる血栓や再狭窄は、
かなり減少しました。

しかし、それでもゼロに出来ないのは、
より長期的な合併症の発症です。

かなり時間が経ってから、
ステントの内部に再び血栓が形成されることがありますし、
ステント挿入1年以内に、
20から30%の患者さんは狭心症を再発している、
というような統計もあります。

こうしたことが起こる要因はおそらく、
ステントという金属が、
血管に留置されたままになっている、
という状態にあるように想定されます。

異物が血管内にあることにより、
その周囲では慢性的な炎症が起こっています。
それが、血栓を形成し易くしたり、
動脈硬化を進行させる要因になっているのです。

つまり、急性心筋梗塞を来たした時には、
応急避難的に金属で無理矢理に血管を広げても良いのですが、
そうした状態が長く続いていることは適切とは言えないのです。

それでは、
挿入時には金属と同じように血管を広げるけれど、
徐々に身体に吸収されるような成分で、
ステントを作ることが出来れば、
この問題は極めてスマートに、
解決するのではないでしょうか?

その目的のために開発されたのが、
生体吸収性スキャフォールドという器具です。

これはステントと同様に一時的に血管を広げることが出来ますが、
生物組織と同じ材料で作られていて、
徐々に吸収される性質を持っています。
更にはエベロリムスというステントにも使用されている、
細胞増殖を阻害する薬剤が、
ジワジワと溶出するような機能も持っています。

こうしたステントの代用としての、
血管スキャフォールドには、
2011年に開発されたAbbott Vascular社の製品と、
2013年に開発されたElixie Medical社の製品があります。

今回の臨床研究は、
このうちのAbbott Vascular社のシステムを、
従来の薬剤溶出性ステント(Xienceという製品です)と比較して、
挿入後1年の時点での成績を見たものです。

対象となっているのは、
アメリカとオーストラリアの複数施設で登録された、
2008名の安定もしくは不安定狭心症の患者で、
くじ引きで血管スキャフォールドを挿入する1322例と、
薬剤溶出性ステントを挿入する686例に分け、
挿入後の予後を比較しています。
観察期間は5年間ですが、
今回は1年の時点での結果が報告されています。
試験はまだ続行中です。

その結果…

留置後1年の時点までの、
留置部位の心筋梗塞や虚血による再治療、
そして心疾患による死亡を併せた頻度は、
血管スキャフォールド群が7.8%に対して、
薬剤溶出性ステント群では6.1%に発生していました。
また1年以内の器具内の血栓症は、
血管スキャフォールド群で1.5%に対して、
薬剤溶出性ステント群では0.7%に発症していました。

いずれの比率も、
血管スキャフォールド群の方が高いのですが、
その差は事前に設定された基準以内のものであったので、
血管スキャフォールドの安全性と効果は、
薬剤溶出性ステントより劣ってはいない、
「非劣性」と判断されています。

これはちょっと微妙な結果です。

シンプルに考えると、
金属よりも生体由来の成分で作られた器具の方が、
血栓などの合併症は少なくても良い筈ですが、
実際にはそうはなっていません。
どちらかと言えば頻度的には多いのです。

論文と同じ雑誌の解説記事では、
この試験が通常より血管スキャフォールドの非劣性が生じ易いように、
基準や方法が甘く設定されているのではないか、
という批判的な内容が記載されています。

今後まだより長期の成績を見ないと何とも言えませんが、
施行以前の期待と比較すると、
現行の改良版のステントと比較して、
より優れた効果が血管スキャフォールドにあるとは、
今のところは言えない成績であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

インフルエンザの万能ワクチンの開発について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
万能ワクチン.jpg
今年9月のNature Medicine誌に掲載された、
インフルエンザの「万能ワクチン」についてのレターです。
まだ動物実験レベルのものですが、
同様の報告はScience誌にも載っていて、
かなり将来的には実現性の高いもののように思います。

インフルエンザワクチンは効かない、
というような話は毎年メディアでも蒸し返されます。

現行のインフルエンザワクチンには、
一定の効果はあるのですが、
ワクチンに含まれている抗原と、
実際に流行しているウイルスのタイプが、
マッチングしていないと効果があまりない、
という欠点があります。
特にその変異による差が大きいのが、
A型インフルエンザです。

インフルエンザウイルスは、
HA(hemagglutinin)抗原と呼ばれる、
突起のような部分を持っていて、
そのHA抗原の種類が変化することにより、
A型インフルエンザのタイプが変化します。

更には同じタイプのHA抗原であっても、
その微妙な遺伝子配列の変化により、
ワクチンの効果は減弱することが知られています。

これが、
インフルエンザに関しては、
毎年ワクチンを接種しないといけない主な理由です。
抗原の性質が少し異なれば、
その部位に対応した抗体も異なり、
A型インフルエンザウイルス自体が、
頻繁にそうした変異を繰り返すので、
それに応じて、
抗体も変化を繰り返さないといけないからです。

その一方で交差免疫という現象もあることが知られています。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」騒動の時には、
別個の抗原しか含んでいない季節性インフルエンザワクチンに、
一定の効果があるのでは、
というデータも発表され、
その理由としてウイルスのタイプが異なっていても、
有効な免疫が存在するのではないか、
という推測が語られました。

確かにどんなタイプのA型インフルエンザウイルスであっても、
同じインフルエンザウイルスであれば、
同じように生じるタイプの免疫反応も存在はしているようです。

しかし、変化する抗原に対して誘導される免疫の方が、
通常の状態では優位に立っているように思われます。

さて、
抗原変異を繰り返すHA抗原ですが、
模式的に言うと、幹のような部分の先端に、
球体がくっついたような形状をしています。

そして、抗原変異は専ら先端の球体の部位に起こります。
つまり、幹の部分は、
異なるタイプのA型インフルエンザであっても、
基本的には変化はしないのです。

この幹の部分にも抗原性があり、
抗体の産生に結び付くことは分かっています。

そうであるなら、
この幹の部分は持っているけれど、
変化する球体の部分はない抗原を持つ、
「偽のウイルス粒子」を作り、
それを刺激として免疫反応を惹起させれば、
自然免疫よりも、
より抗原変異に影響されない反応が起こるのではないでしょうか?

この仮定の元に、
HA抗原を持たないただの粒子と、
季節性ワクチンと同じように、
3種類のA型抗原を同時に発現させたワクチン粒子、
そして、
変異する球体部分を持たず、
HA抗原の幹の部分のみを発現させたワクチン粒子の、
3種類を合成して、
ネズミとイタチにそのワクチンを打ち、
その後にH5N1という、
強毒性の鳥由来のインフルエンザウイルスに感染させる実験を行います。

すると驚いたことに、
HA抗原の幹の部分のみを抗原としたウイルスを接種した動物のみが、
ネズミでは完全に、
そしてイタチでも部分的には、
H5N1の感染から生存し、
それ以外の動物は全て感染により死亡しました。

重要な点は、
このワクチンはH5の抗原は含んでいない、
ということです。

より普遍的な幹の部分の抗体が誘導されることにより、
ウイルスのタイプに関わらない免疫が誘導されたのです。

完全なHA抗原を持つワクチンでは、
確かにその抗原に対する抗体は誘導されましたが、
その幹の部分に対する免疫反応は、
幹のみを有するワクチンよりは、
ずっと少ないものだったのです。

つまり、
HA抗原の幹の部分のみを発現させた、
偽ウイルスタイプの粒子状ワクチンは、
自然免疫よりも強力に、
タイプに関わらない免疫を誘導させたのです。

論文のデータは、
ワクチンを接種された動物の免疫グロブリンを、
別の動物に接種した場合に、
同様の感染防御効果の得られることも確認していて、
このような現象が実際にあること自体は、
ほぼ証明されたと言って良いように思います。

このワクチンが実用化されれば、
インフルエンザのワクチンは、
少なくともA型に関しては1種類で済み、
同じワクチンで鳥由来の新型インフルエンザに対しても、
同様の効果のある可能性が生まれたことになります。
要するに新型インフルエンザの誕生に、
その都度怯えなくても良いことになるのです。

勿論まだ動物実験の段階であり、
自然免疫とは異なる免疫反応を惹起する点から、
その安全性にはまだ疑問符が付きますし、
その免疫の持続も明らかではありませんが、
これまでの「万能ワクチン」の研究の中では、
最も実用化に近い知見であることは間違いがなく、
今後の研究の推移を、
注視し続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

吸入型インスリンの効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後とも通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
吸入インスリンの効果と安全性.jpg
今月のLancet Diabetes Endocrinol誌に掲載された、
吸入型インスリン製剤の効果と安全性についての論文です。

インスリンが高度に欠乏した状態における、
糖尿病の治療薬の柱は、
インスリン注射ですが、
毎日自分で皮膚に針を刺して注射をする、
という方法には、
抵抗のある患者さんが多くいらっしゃることは事実です。

より早期にインスリン注射を導入して、
膵臓への負担を避ける、というような治療もありますが、
現実的には自己注射という方法がネックになって、
その導入はあまり積極的には行われていません。

それでは、
注射以外の方法で、
インスリンを補充することは出来ないのでしょうか?

インスリンはアミノ酸が繋がったペプチドホルモンですから、
飲み薬として使用しても、
消化酵素の働きで分解されてしまうので、
有効な形では体内に吸収はされません。

それで次には、
口や鼻の粘膜から吸収させるような方法が考案されました。

ただ、点鼻のインスリンは血液中には、
あまり効率的には移行しません。
口腔粘膜も同じように不安定で、
インスリンの効きを調節することが難しいのです。
そのため、この方法も血糖コントロール目的としては、
現実的でありませんでした。
この点鼻のインスリンは、
脳の刺激作用から、
認知症に対する効果が研究されています。
これは裏を返せば、
あまり全身的に血糖を下げる面での有効性は乏しい、
ということを示しているのです。

そして、唯一残った可能性が、
インスリンを含む粒子を、
口から吸入して肺から吸収させる、
という手法です。

これが吸入型インスリンで、
要するに喘息や慢性閉塞性肺疾患に使用するような、
細かい粉を口から吸引するような方法です。

2006年にファイザー社から、
世界初の吸入型インスリンが発売されました。

しかし、この製剤は発売後1年で販売は中止されています。

その理由は1つには、
吸入器が使いづらく、
あまり実用的な器具ではなかった、
ということで、
もう1つはインスリン粒子の吸引により、
肺が障害され肺の機能が低下する可能性が、
危惧されたからです。

その後、
今度はサノフィ社とアメリカ医薬ベンチャーにより、
Afrezzaと名付けられた吸入型インスリンが、
2014年にアメリカのFDAで認可され、
2015年には全米でその使用が開始されました。

この製品は吸入器が使い易く改良されているのが、
一番の特徴で、
肺への障害性は、
完全に否定された訳ではありませんが、
それほどリスクの高いものではない、
という判断で、
喘息や肺疾患の患者さんには禁忌で、
しかも定期的な肺機能検査を義務付けるという限定の元に、
その使用が許可されたのです。

口からこのインスリンを吸入すると、
15分以内には血液のインスリン濃度がピークに達します。

つまり、従来の食前15分くらいで使用する、
即効型インスリンと同様の効果を示しています。
製剤は4単位用と8単位用が用意されています。

従って、
この吸入インスリンのみでコントロールが可能なのは、
ある程度はインスリン分泌の残っている、
食後血糖が主に高いタイプの患者さんで、
インスリンの分泌が殆どない、
1型糖尿病の患者さんでは、
吸入インスリンの使用に加えて、
持続型のインスリンの注射も併用する必要があります。
つまり、現時点では、
注射をなくす、ということにはならないのです。

今回の論文では、
このタイプの吸入型インスリンに関する、
これまでの臨床試験の結果をまとめて解析して、
その効果と安全性を、
従来注射型のインスリンと比較しています。

その結果…

同じ単位のインスリンで比較すると、
皮下注射より吸入型インスリンのHbA1c低下効果は低く、
その一方で重症の低血糖や体重増加のリスクも有意に低い、
という結果になっていました。
吸入型インスリンの有害事象としては、
軽度の一時的な咳症状と、
呼吸機能の1秒量の有意な低下を認めました。(平均で0.038リットル)

つまり、
これまでのインスリン製剤の問題であった、
低血糖や体重増加という面では、
吸入型インスリンは優れていて、
勿論注射のように針を刺すようなことはないので、
その点では大きな利点があります。

しかし、
肺に吸入することによる肺障害の可能性については、
僅かにはせよ肺機能が低下していることや、
一時的にはせよ咳症状が出ていることなどは、
気がかりな部分ではあります。

今後日本においても、
吸入型インスリンは導入されると思われますが、
注射のインスリンに完全に代用出来るようなものではなく、
吸入インスリン特有の問題点も残っているので、
今後の知見の蓄積に注意を払いつつ、
その導入を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

安定狭心症ではカテーテル治療は予後に影響を与えない(2015年アメリカの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは午前午後とも、
いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
安定狭心症のカテーテル治療の長期予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
安定狭心症におけるカテーテル治療の、
患者さんの予後に与える影響についての論文です。

心臓を栄養する血管を冠動脈と言いますが、
動脈硬化によってその血管の太い部分が狭窄すると、
運動をした時などに、胸が苦しくなる、
狭心痛と呼ばれる症状が出現します。

これが狭心症です。

ある程度の運動でこうした発作が起こりますが、
それ以外の生活では発作は起きない状態が続いている場合に、
安定狭心症もしくは労作性狭心症、
という言い方をします。

こうした狭心症は、
冠動脈のある特定の部位に、
血管が完全に詰まるほどではない狭窄があり、
その時点では血管が詰まる可能性は、
それほど高くはないと考えられています。

その一方で比較的急に出現した胸痛や、
それほど運動などしていないのに、
胸心痛が頻繁に生じる場合は、
病変が不安定で、
心筋梗塞に至る危険性が高いという意味合いで、
不安定狭心症という言い方が使われます。

現在ではこの不安定狭心症は、
急性心筋梗塞と同列に扱われて、
急性冠症候群という名称で総称されるのが一般的です。

さて、
不安定狭心症は予後の悪い病気で、
心筋梗塞に進展する可能性が高いので、
カテーテルで狭窄した血管に風船を入れて膨らましたり、
そこにステントと呼ばれる金属製の管を挿入したりする治療が、
原則入院の上行われます。

どのような病変に心臓バイパス手術を適応するべきか、
というような議論はありますが、
こうした治療を行なうこと自体の意義は、
ほぼ確立していると言って良いと思います。

それでは、
安定狭心症の場合はどうでしょうか?

たとえば、
仮に閉塞すれば大きな問題のある場所に、
90%の狭窄が確認されたとすれば、
その部位が閉塞する可能性が高いと考え、
ステントを挿入するような治療を行なうことが、
少なくとも僕が心臓カテーテル検査をしていた、
20年くらい前には常識でした。

しかし、実際には必ずしも、
狭窄のある部位が閉塞するとは限らないので、
そうした治療により、
胸の痛みは改善しても、
患者さんの生命予後が、
そうした治療により改善するかどうかは、
分かっていませんでした。

つまり、
当時の循環器の医者は、
「そこに狭窄があるから広げる」
というような方針で治療を行なっていたことが多く、
そこにトータルに患者さんの予後を考える、
という視点は、
良くも悪くも希薄だったのです。

ただ、その後の知見により、
コレステロールを強力に低下させるなどの治療により、
安定狭心症の生命予後は、
カテーテル治療を行わなくても、
必ずしも悪いものではない、
ということが徐々に明らかになり、
カテーテル治療の適応も、
少しずつ変わって来ています。

今回の研究はアメリカとカナダにおいて、
同様の病変で安定狭心症の2287名を登録し、
くじ引きで2群に分けると、
その一方は70%以上の狭窄の病変に、
PTCAやステントなどの治療を行ない、
もう一方は内科的な治療のみを行います。

内科的な治療としては、
LDLコレステロール値は当初は60から85mg/dLを目標とし、
その後70未満を目標として薬物治療を行ない、
血圧は130/85未満を目標としてコントロールを行います。
生活指導としては、
禁煙や体重コントロール、栄養や運動の指導が行われます。
こうした指導は両群ともに行なうのです。

その予後の比較は、
まず平均観察期間が4.6年の時点で公開され、
両群の生命予後には有意な差が認められませんでした。

今回は更に最長で15年、
平均で6.2年の経過観察の結果が報告されています。
生存追跡の許可が得られた患者のみの平均観察期間はより長く、
11.9年に達していました。

当初の登録患者のうち1211名が解析対象となり、
観察期間中に561名の死亡が確認されましたが、
両群で差は認められませんでした。

つまり、
安定狭心症の患者さんに対しては、
狭窄があるからといって、
一律にカテーテル治療を行なうのではなく、
コレステロールと血圧などのコントロールをしっかり行なって、
経過を見ることで通常は大きな問題はなく、
不安定狭心症とは別物と考えるべきだ、
ということです。

今回のデータはアメリカのもので、
そのまま日本の患者さんに適応可能とは言い切れませんし、
個々の患者さんによって、
その生命予後はまた別個に考える必要がありますが、
全ての狭心症を同じように考えることが間違いであることは事実で、
こうしたデータがあることは、
頭に置いておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

第2回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は告知です。

こちらをご覧下さい。
第2回健康教室.jpg
来週の土曜日11月21日の午前10時から、
北品川藤クリニック2階の健康スクエアにて、
第2回の健康教室を開催します。

テーマは認知症です。

僕と認知症認定看護師が担当し、
僕が病気の総論を、
認定看護師が患者さんへの対応などを、
お話する予定です。

参加は無料ですので、
お気軽にお出で頂ければと思います。

参加ご希望の方は、
11月19日(木)午後6時までに、
クリニックへお電話を頂くか、
クリニックにメールでお知らせ下さい。

よろしくお願いします。

久坂部羊「無痛」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が担当し、
午後2時からは石原が担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
無痛.jpg
今連続ドラマ化されている、
久坂部羊さんの「無痛」という作品を読んでしまいました。

ドラマがちょっと特殊な素材で、
特に評判の高い病院の天才外科医という称する人物の造形に、
どういう方向にこれで転がるのかしら、
という興味を持ったので、
読んでしまったのです。

作者は現役の医師で、
今は在宅の医療機関で診療に当たっている、
というようなことがネットでは書かれていました。
小説以外に医療のエッセイなども書かれているようです。

読んでかなり驚きました。

医療ネタではあるのですが、
とても現役で臨床に関わっている医者が書いたとは、
信じ難いような内容でした。

登場人物の多くが「変態」なのですが、
その描写が非常に詳細かつ執拗で、
読んでいるとかなり気分が悪くなります。
ストーカーから女性に手紙が送られるのですが、
その文面がさして必要性が高いとは思えないのに、
執拗に長く引用されていて、
吐き気がするような内容です。
ある人物が生きたまま解剖される、
という猟奇的な場面がありますが、
それも物凄く執拗に書かれているのです。
この下品さと露悪的な趣味の悪さに驚きます。

何よりも物語の根幹の部分に、
倫理を踏みにじるようなところがあり、
現役で臨床に関わっている人間が、
そのことを公表しながら、
このような物語を一般に発表することには、
個人的には大きな問題があるように、
思えてなりませんでした。

以下ネタバレがあります。
個人的にはお読み頂かないことをお勧めしますが、
読まれる予定の方は、
先にお読みにならないようにお願いします。

物語はミステリーの体裁なのですが、
これと言った筋のひねりはなく、
意外性もありません。

教師の一家が子供を含めて猟奇的に殺され、
その犯人が不明なところに、
精神を病んだ少女が、
自分が殺したと、
担当の臨床心理士に告げるのが発端です。

そこに謎の天才外科医と、
患者の視診だけで、
全ての病気とその予後が分かってしまうという、
画期的(?)な診断法を持つ冴えない開業医。
そして、天才外科医の助手で患者の、
クレチン症で無痛症という、
怪人物が絡みます。

最初から、
ハンディキャップのある無痛症の若者を、
「不気味な怪人」のように描いていることが、
とても不快な感じがします。

それで結局猟奇殺人の実行犯は無痛症の若者なのです。
ひねりの欠片もありません。
天才外科医が弟のかつての恋人であった、
教師の妻に恨みを持っていて、
訳の分からない薬を若者に飲ませて操り、
復讐のための人殺しをさせていたのです。

それでは何故少女が告白したのかと言うと、
死んだ教師を恨んでいて、
殺しの前日にその家に行った、
というだけのことだったのです。

このプロットは結局、
マッドサイエンティストの外科医が、
自分の患者のハンディキャプを持つ若者に、
薬を盛って殺人マシーンとして利用する、
という後味の悪い話です。

昔のホラー映画では、
こうしたキワどいストーリーは、
一種の定番であったのですが、
最近はあまりに露骨で差別的なので、
おおっぴらには描かれることがなくなりました。

履歴によれば現役の臨床医が、
たとえフィクションとは言え、
このような倫理にもとるような話を、
それも下品極まるようなタッチで描き、
それが平気で出版されて書店に並び、
ドラマ化までされるという事態には、
その構図そのものが病的であるように、
僕には思えてなりません。

作者も問題ですが、
出版社もこうした作品の出版に、
そのままOKを出すのはどうかと思います。
せめて、作者が医師であることは、
伏せるべきではなかったかと思えてなりません。

現役の医者が書くべきではない物語というものも、
あると思うのです。

たとえば現役の警察官が、
警官が無実の市民を、
密かに快楽で殺しまくるような話を、
書くことが許されるでしょうか?
現役の消防隊員が、
消防隊員が密かに放火をして廻るような話を、
消防隊員の作家であることを売り物にしながら、
出版することが許されるでしょうか?

色々な考えがあると思いますが、
矢張りそれは倫理的に問題のある行為であるように、
僕には思えてなりません。

同じテーマを書くにしても、
踏み越えてはいけない一線というものは、
あるのではないかと思うのです。

この「無痛」という作品は、
あまりにそうした点に無自覚で、
不用意に差別的で、
医療への誤解に満ちているように、
思えてならないのです。

海堂尊さんという医師で作家の方がいます。

「チーム・バチスタの栄光」という作品が処女作で、
映画やドラマにもなりました。
その後も精力的に活躍をされています。

彼の作品にも非常にキワどいところはありますが、
それでも久坂部さんのこの作品のような、
露悪的で非倫理的な性質のものはありません。
それに、臨床はされていないと思います。

他にも医師で作家の方は沢山いますが、
矢張り臨床で実際に患者さんを診ていて、
それでいて変態の医師が、
障害のある患者を薬で操って、
自分の恨む人間を殺させる、
というような酷い話を、
自分が現役であるうちに書いた方は、
僕の知る限り1人もいないと思います。

それが表現の自由であるとは到底思えないのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

マクロライド系抗生物質の妊娠中の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
昼には老人ホームの診察に出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マクロライドの妊娠中の安全性.jpg
今年のPharmacoepidemiology and Drug Safety誌に掲載された、
幅広く使用されている抗生物質の、
妊娠中の安全性についての論文です。

妊娠中にはなるべく薬は使用しない方が良いのは、
勿論のことですが、
それでも使用が望ましい状況は存在しています。

母体の感染症はその中でも大きな問題で、
治療の必要な細菌感染症に対しては、
胎児に影響の少ない抗生物質を使用して、
早期の治癒を図ることが重要だと考えられています。

それでは、どのようなタイプの抗生物質が、
妊娠中には比較的安全に使用出来るのでしょうか?

その点についての情報は実際にはとても限られています。

マクロライド系の抗生物質には、
エリスロマイシン、クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、
アジスロマイシン(ジスロマック)などがあり、
抗菌力とともに一種の免疫調整作用があり、
マイコプラズマやクラミジアなどの、
特殊な病原体にも効果があることから、
広く使用されている薬です。
妊娠中にクラミジア感染が明らかになったようなケースでは、
妊娠と出産の安全のためにも、
その治療は必須の医療です。

このマクロライドは妊娠中にも、
比較的安全に使用出来る抗生物質と考えられていましたが、
2005年のスウェーデンでの疫学データにおいて、
エリスロマイシンを妊娠早期に使用すると、
胎児の心臓奇形のリスクが報告がなされ、
大きな問題となりました。

その後、同様の研究が、
ノルウェー、イスラエル、韓国、北アメリカで、
それぞれ別個に施行されましたが、
いずれの研究においても、
奇形のリスクの増加は確認されませんでした。

そのため、この問題は未解決のまま残されているのです。

今回の研究はカナダにおいて、
トータル135839件の妊娠の事例を解析し、
特にリスクが高いと考えられる、
妊娠の初期に抗生物質を使用したケースにおいて、
胎児奇形のリスクを検証しています。

その中には、
アジスロマイシン使用事例が914例、
エリスロマイシン使用事例が734例、
クラリスロマイシン使用事例が686例、
ペニシリン使用事例が9106例含まれています。

解析の結果、
全ての主な胎児奇形の発症リスクは、
アジスロマイシンの使用で1.19倍(0.98から1.44)、
エリスロマイシンの使用で0.96倍(0.74から1.24)、
クラリスロマイシンの使用で1.12倍(0.99から1.42)、
そしてペニシリンの使用で0.98倍(0.91から1.06)となっていて、
いずれの抗生物質も、
有意に奇形のリスクを増加はさせていませんでした。

ただし、ペニシリンと比較すると、
アジスロマイシンとクラリスロマイシンは、
ややリスクが高い傾向は認められるように思います。

そして、心臓の奇形との関連についても、
上記抗生物質と発症リスクとの間には、
有意な関連はいずれも認められませんでした。

今回のデータもこれまでの多くの疫学データと同じく、
マクロライドと胎児奇形との関連に否定的な結果となっています。

ただ、抗生物質が未使用の群においても、
胎児奇形の発症率は平均で9.82%とかなり高く、
アジスロマイシンとクラリスロマイシンを使用した場合の発症率は、
平均で10%を超えていますから、
この結果からマクロライドと心奇形との間に、
全く関連がないとも言い切れず、
今後の検証は継続される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

エナジードリンクの心臓へのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
朝から在宅の準備などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エナジードリンクの影響.jpg
今月のJAMA誌のレターですが、
アメリカでポピュラーな、
エナジードリンクの交感神経への影響を、
結構厳密に検証した興味深い小論です。

エナジードリンクは、
日本の栄養ドリンクに近い飲み物ですが、
レッドブル、モンスターエナジーなどの商品は、
近年日本でも発売され、
宣伝などの効果もあって、
日本でも人気を獲得しつつあります。

その成分は、
基本的には日本のユンケルなどの栄養ドリンクと、
大きな差はありません。

ブドウ糖などの糖液に、
アルギニンなどのアミノ酸や、
カフェイン、タウリンなどの栄養成分、
刺激成分などが含まれています。
漢方薬やビタミンなどを含むものもあります。

日本の場合は清涼飲料の扱いなので、
アメリカで売られているものから、
タウリンなどの成分がカットされていることが通例のようです。
アメリカで売られているエナジードリンクの成分は、
日本の栄養ドリンクにより近いと思います。

さて、近年このエナジードリンクの使用と、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクとの間に、
関連があるとする報告が複数発表されています。

カフェインなどの交感神経を刺激する物質を、
多く含むエナジードリンクを常用することにより、
交感神経が過緊張して心臓に負担を掛けるのではないか、
という推定がその主体です。

しかし、実際にどの程度の具体的な変化が、
エナジードリンクを飲むことにより生じるのか、
というような点については、
これまであまり科学的な検証はなされていませんでした。

そこで今回のレターでは、
18歳以上の24名の非喫煙者で、
健康なボランティアの若者(平均年齢29歳)に、
味は同じに調整された、
刺激成分を含まない偽の飲み物と、
ロックスターというポピュラーなエナジードリンクを、
本人にも検査の施行者にも分からないように、
別々の日に1回ずつ飲み、
飲用前と飲用後30分で採血などの検査を行なっています。

このロックスターのアメリカオリジナル版には、
480ミリリットルの1本に、
カフェイン240ミリグラム、タウリン2000ミリグラム、
強壮作用があるとされるガラナという植物の種子や、
朝鮮人参のエキスなどが含まれています。

その結果…

エナジードリンクの摂取後30分で、
血液中のカフェイン濃度と、
交感神経の刺激ホルモンであるノルエピネフリンの濃度は、
偽飲料と比較して有意に増加し、
血圧は収縮期、拡張期とも有意に増加しましたが、
脈拍数には差はありませんでした。
寒冷刺激などのストレスを加えた時の反応には、
両群で差は見られませんでした。

ノルエピネフリンの増加は、
偽薬でも心因により平均で30.9%増加していますが、
エナジードリンクでは平均で73.6%と、
かなりの比率で増加が認められています。
実際に血圧値も、
平均血圧が6.4%程度の増加ですから、
軽度ではありますが、
有意に増加しています。

しかし、健康な若い人であれば、
その程度の変化が、
心臓の働きやストレスへの自律神経の反応に、
影響を与えるようなことはないようです。

ただし、高齢者や心臓などの病気のある方では、
こうした増加が心血管疾患のリスクに結び付くことは想定され、
今回の結果からも、
ご病気のある方や高齢者の、
エナジードリンクや日本の栄養ドリンクの摂取は、
慎重に考えて方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

DPP4阻害剤とメトホルミン併用の生命予後への影響(2015年台湾のデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4阻害剤の長期予後.jpg
今年のAnn Intern Med.誌に掲載された、
メトホルミンに上乗せで使用した、
SU剤とDPP4阻害剤の作用と安全性とを検証した、
台湾発の論文です。

DPP4阻害剤は日本で特に多く処方されている、
飲み薬の糖尿病治療薬です。
シタグリプチン(商品名ジャヌビア、グラクティブ)、
ビルダグリプチン(商品名エクア)、
アログリプチン(商品名ネシーナ)、
リナグリプチン(商品名トラゼンタ)、
サキサグリプチン(商品名オングリザ)、
アナグリプチン(商品名スイニー)
などがあります。

この薬の効果は、
主に食後血糖をマイルドに下げることで、
少なくとも単独の使用においては、
低血糖を起こし難いことは間違いがありません。

しかしながら、
その長期の安全性という観点では、
必ずしも満足のゆく結果が得られてはいません。

2型糖尿病で生命予後に最も影響を与えるのは、
心血管疾患の発症です。

インスリンなどの治療の進歩により、
血糖上昇自体が生命予後に直結することは殆どなくなりましたが、
糖尿病の患者さんにおいて、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の、
発症率が非常に高く、
その生命予後も悪いことは、
その治療における最も大きな問題です。

その意味で糖尿病の治療薬は、
血糖値を改善するだけではなく、
心血管疾患の発症リスクを下げ、
長期の生命予後を改善することが、
求められているのです。

しかし、実際にはこれはかなり高いハードルです。

サキサグリプチンとアログリプチンの心血管疾患への影響を、
比較検証した、
SAVOR-TIMI53とEXAMINEと名付けられた臨床試験では、
両者の薬剤とも、未使用と比較して、
心血管疾患のリスクを低下させるような効果は、
有意には認められませんでした。

更には予想外の結果として、
サキサグリプチンの試験においては、
心不全による入院のリスクが、
有意に1.27倍高まるとするデータが報告されました。

その一方で今年の6月のNew England…誌に掲載された、
偽薬とシタグリプチンとを比較した臨床試験では、
心血管疾患による死亡や、
心筋梗塞、脳卒中などの発症リスクは、
両群で有意な差はなく、
心不全による入院のリスクにも差はない、
という結果が報告されています。

今回のデータは台湾において、
メトホルミンによる治療を行っている2型糖尿病患者で、
そこにDPP-4阻害剤を上乗せした10089例を、
SU剤を上乗せした10089例とマッチングさせて、
平均観察期間3.3年での予後を比較しています。
患者さんの平均年齢は58歳くらいです。
DPP-4阻害剤はシタグリプチン、ビルダグリプチン、
サキサプリプチンの3剤が使用されています。

これは事例は多いのですが、
患者さんを登録してくじ引きで治療を分けるような試験ではなく、
健康保険の膨大なデータを解析して、
後から比較したものです。

その結果…

メトホルミンにDPP-4阻害剤を上乗せした群は、
SU剤を上乗せした群と比較して、
総死亡のリスクが37%、
心血管疾患のリスクが32%、
脳梗塞のリスクが36%、
そして低血糖のリスクが57%、
それぞれ有意に低下が認められました。
心筋梗塞と心不全による入院のリスクには、
両群で有意な差は付きませんでした。

今回の結果は、
糖尿病の臨床において、
これまでにも言われていたことを、
再度確認するようなものになっています。

メトホルミンを基礎薬として使用して、
治療効果が不充分である時に、
まず使用するべき薬は、
血糖降下作用は強力であるけれども、
低血糖を来し易いSU剤よりも、
低血糖を来し難いDPP-4阻害剤の方が、
生命予後の観点からは望ましい、
という結論です。

ただ、使用されているSU剤は、
トルブタミドなど、
低血糖を来し易いタイプの薬が多く含まれていて、
低血糖を来し難いタイプのSU剤を使用した場合には、
よりその差は少なくなることは想定されます。
更には偽薬との比較はないので、
DPP-4阻害剤が心不全の入院を増やすのか、
という問題については、
明確に結論が得られるようなものではありません。

総じて、
DPP-4阻害剤には、
SU剤と比較して低血糖が起こり難い、
というメリットのある点は間違いがありませんが、
それが本当に患者さんの予後の改善に結び付くかどうか、
という点については、
まだ結論は出ていないと考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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