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血圧の変動と病気との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

朝から診察室の片付けなどして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血圧の日内変動と予後.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
外来の診察室での血圧の変動が、
患者さんの予後に与える影響についての論文です。

血圧が健康の大きなバロメーターの1つであり、
高血圧が多くの病気のリスクであることは、
これまでの多くの研究により実証されている事実です。

つまり、血圧の数値には健康上の大きな意味があります。

その一方で、
血圧の数値が不安定で、
変動し易いこともまた事実です。

家で自己測定して頂く血圧値が、
診察室での血圧と大きく違っている、
というようなことはしばしばあります。
これは環境による変動もありますし、
測定の仕方による違いもあると思います。

また、健康診断などで血圧を測定すると、
普段より極端に高い数値が出る、
という話も良く聞くところです。

高血圧の診療を20年以上続けて来て思うことは、
患者さんによって、
血圧値が大きく変動し易い場合と、
極めて安定している場合との、
2つに大きく分かれる可能性が大きい、
という経験的な知見です。

近年家庭血圧の重要性がしばしば指摘されますが、
それでも血圧値のスタンダードは、
診察室で医者が測る血圧であることには違いはありません。

それでは、その血圧値がその時により大きく変動することが、
患者さんの予後にどのような影響を与えると、
考えれば良いのでしょうか?

診察毎の血圧を集計した時に、
その収縮期血圧の変動幅が大きな患者さんは、
小さい患者さんよりも、
脳卒中や心筋梗塞のリスクが増加した、
とする報告が幾つか存在しています。
しかし、その一方でそうした関連はない、
とする報告も同じように存在しています。

臨床試験のデザインも様々で、
単純に比較が可能という訳でもありません。

今回のデータは、
3種類の降圧剤治療の予後を比較した、
ALLHATと呼ばれる大規模臨床試験のデータを活用して、
心血管疾患のリスクのある患者さんにおける、
診察室血圧の変動と、
その予後との関連を再解析したものです。

対象患者数は25814名で、
登録後3から4ヶ月毎に、
合計7回の外来受診において、
それぞれ血圧測定が行われています。
この7回の血圧の変動幅を、
収縮期と拡張期とに分けて、
その変動幅と予後との関連を、
検証しています。
平均の観察期間は2.7から2.9年ですから、
それほど長くはありません。

血圧の変動幅を5分割して検討すると、
収縮期血圧の最もばらつきの大きな群の、
標準偏差(ばらつきの指標)は、
14.4mmHg以上で、
最もばらつきの小さな群では6.5mmHg未満でした。

そして、
最もばらつきの大きな群は、
小さな群と比較して、
致死的心血管疾患と致死的ではない心筋梗塞のリスクが1.30倍、
総死亡のリスクが1.58倍、
脳卒中のリスクが1.46倍、
心不全のリスクが1.25倍、
それぞれ有意に高いという結果になりました。

つまり、血圧の受診日毎の変動が大きいほど、
患者さんの予後は悪かった、という結果です。

このことの臨床的な意義はまだ不明で、
臨床の現場で、
仮に患者さんにこうした傾向があったとしても、
その時どのような対応をすれば、
患者さんの予後に良い影響が与えられるのか
といった点もまだ不明ですが、
臨床の末端にも大きな関連のあるデータでもあり、
今後のデータの蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

地中海ダイエットの認知機能への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は石原が健診説明会出席のため、
午後の診療は5時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
地中海ダイエットの認知症への効果.jpg
JAMA Intern Med.誌に今年の5月ウェブ掲載された、
「地中海ダイエット」と呼ばれる食事療法の、
認知機能低下の予防効果を検証した論文です。

これは2013年4月のNew England…誌に、
心血管疾患の一次予防効果を検証した論文として掲載されたものと、
同じデータを認知機能に絞って解析したものです。

地中海ダイエットと言うのは、
地中海沿岸の地方で、
心臓病の死亡率が低いことに注目して発案され、
1960年代から提唱されている食事療法です。

その内容は、
オリーブオイルや魚介類、果物やナッツ、野菜を多く摂り、
その一方で赤身の肉や肉の脂身、
卵や乳製品、バターや生クリームなどは制限する、
という食事法です。
アルコールはワインが推奨されています。

この地中海ダイエットが、
心筋梗塞や脳卒中の予防効果を有するのではないか、
という考えは以前からあり、
これまでに観察研究のデータや、
心筋梗塞を起こした患者さんの再発予防のデータは存在していましたが、
まだそうした発作は起こしてはいないけれど、
起こすリスクの高いような方においての、
予防効果について精度の高い研究は、
最近まであまり存在していませんでした。

その点で画期的であったのが、
前述の2013年のNew England…に掲載された論文です。
これはスペインにおいて、
7447名の心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い方を、
ほぼ2500名ずつの3つの群に分け、
1つの群はコントロールとして、
低脂肪の指導のみを行ない、
もう1つの群は通常の地中海ダイエットに、
エクストラヴァージンオリーブオイルを強化し、
3つ目の群ではオリーブオイルではなくナッツを増やして、
その後の経過を観察したものです。

試験はもっと長期間の予定でしたが、
明確な差が付いたために、
平均観察期間が5年弱の段階で中途終了となっています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

心筋梗塞や脳卒中の発症とそれによる死亡は、
トータルで288名に発症し、
内訳はコントロール群で109件に対して、
オリーブオイル強化の地中海ダイエットでは96件、
ナッツ強化の地中海ダイエットでは83件となり、
いずれもコントロールと比較して、
ほぼ30%の相対リスクの低下を有意に認めました。

興味深いことには、
このリスクの低下は、
心筋梗塞よりもより脳卒中において多く見られ、
脳卒中のリスクの低下は、
40%に達していました。

脳卒中の発症予防に、
これだけ明確な差のついた食事療法のデータというものは、
これまでに存在しなかったと思います。

さて、今回ご紹介する論文では、
今度は認知機能低下の予防効果を見る目的で、
この研究の対象者のうち、
詳細な認知機能検査を行ない、
その結果が正常であった447名(平均年齢66.9歳)を選択し、
主試験と同じように、
コントロールとオリーブオイル強化の地中海ダイエット群、
そしてナッツ強化の地中海ダイエット群の3つにくじ引きで振り分け、
平均で4.1年の経過観察を行なっています。

観察期間の前後で、
再度認知機能検査を行ない、
その群間の比較を行なっているのです。

使用されている認知機能検査は、
認知症の診断に広く使用されているMMSE(ミニメンタルテスト)以外に、
RAVLT(レイ聴覚性言語学習検査)や、
カラートレイルテストなどが含まれています。

RAVLTというのは、
15個の言葉を覚えてもらい、
記憶の機能を見ると共に、
学習の効果を見る、というタイプの試験です。

カラートレイルテストというのは、
数字をまず順番に線で結ぶタスクを、
なるべく早く行なう、というのがパート1で、
数字に2種類の色分けがあり、
それを交互に選んで結んでゆく、
というタスクをこれもなるべく早く行なう、
というのがパート2です。
パート1はルールを守って作業を行なう能力を計測し、
パート2は色を交代せずに結ぶ、
という行為を抑制しながら作業を行なう、
というより高次の実行機能が要求されるのです。

その結果…

RAVLTとカラートレイルテストのパート2の成績は、
コントロールと比較して、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群では、
有意にその低下が抑制されていました。
つまり、認知機能の低下が予防されていた、
ということになります。

幾つかの試験データを統合し、
記憶機能と前頭葉機能、そして認知機能全般に、
データを分類してスコア化し比較したところ、
記憶機能ではコントロール群と比較して、
ナッツ強化の地中海ダイエットで有意に改善していて、
前頭葉機能では、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群で、
矢張り有意に改善、
認知機能全般では、
オリーブオイル強化の地中海ダイエットでのみ、
有意な改善効果が認められました。

この観察期間中に、
認知症を発症した対象者は1人もいませんでしたが、
軽度認知機能低下(MCI)は、
コントロール群の12.6%、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群の13.4%、
ナッツ強化の地中海ダイエット群の7.1%で認められていて、
群間の差はありませんでした。

認知症診断のための検査であるMMSEの数値は、
全ての群で、
平均すると若干の低下を示しています。

つまり、
個別のデータでは、
個別の機能において、
食事による改善が認められるのですが、
トータルに見ると、
どの群でも認知機能は低下傾向にはあり、
群間にその予後においては、
明瞭は差は見られていない、
ということになります。

この結果は地中海ダイエットに、
一定の認知機能低下の予防効果があることを示唆するもので、
その意味では画期的なものだと思います。

ただ、観察期間は4年強程度と短く、
顕性の認知症の発症はゼロなので、
果たしてより長期の観察期間を設定すれば、
認知症が予防出来たかどうかは、
明確ではありません。

今後より長期の観察において、
実際に病気としての認知症が、
予防可能であるのかの検証が、
是非必要なように思います。

現状では向かうところ敵なしの感のある、
最強の食事療法である地中海ダイエットですが、
認知機能低下を予防する、
と言い切るにはまだ道のりは平坦ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ピオグリタゾン(アクトス)の発癌リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アクトスの癌リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
ピオグリタゾンという糖尿病治療薬の、
発癌リスクについての論文です。

ピオグリタゾン(商品名アクトスなど)は、
インスリンの効きを良くする薬として、
むしろ国外でその評価が高く、
欧米のガイドラインにおいても、
メトホルミンに次ぐ第二選択くらいの位置にあります。

ただ、この薬の大きな問題は、
発売当初から、
膀胱癌のリスクを上昇させるのでは、
という危惧があったということです。

これはまず発売前の動物実験において、
オスのラットの膀胱癌の発症が増加した、
という知見から始まっています。
ただ、メスのラットではそうした結果はなく、
同じネズミの仲間であるマウスでも再現されませんでした。

2003年にアメリカのFDAは、
ピオグリタゾンによる膀胱癌の発症について、
発売後10年間の観察研究を指示しました。

その5年間の時点での中間解析の結果では、
トータルにはピオグリタゾンの使用と、
膀胱癌の発症との間には、
有意な関係は認められませんでした。
ただ、2年を超えて使用している患者さんに限ると、
1.4倍という若干ですが有意な、
膀胱癌リスクの増加が認められました。
この結果を受けてFDAは、
ピオグリタゾンのラベルに、
その点の記載を求めています。

今回のデータはその観察研究をより延長し、
平均で7.2年の解析を行なった結果です。
膀胱癌のみではなく、
全部で10種類の癌のリスクが解析されています。

その結果…

193099名の膀胱癌の患者さんが対象となり、
そのうちの18%に当たる34181名が、
ピオグリタゾンを使用していました。
平均の使用期間は2.8年です。
幾つかの別個の解析を行なった結果として、
ピオグリタゾンの使用者では、
若干膀胱癌の発症率が高い傾向がありましたが、
その差は有意なものではありませんでした。

その一方で、
ピオグリタゾンの使用者では、
前立腺癌のリスクが1.13倍、
膵臓癌のリスクが1.41倍、
それぞれ有意に高いという結果が得られました。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

膀胱癌のリスクに関して言うと、
その若干のリスクの増加は、
否定は出来ないのですが、
因果関係を証明出来るような性質のものではなさそうです。

前立腺癌と膵臓癌のリスク増加については、
気になるところですが、
今回初めての知見であり、
いずれの癌も多くの危険因子の影響を受けるので、
まだ明確に関連があると、
断定出来るようなものではないと思います。

ただ、ピオグリタゾンのこれまでの経緯を見ると、
その継続的な使用により、
若干の発癌誘発があることには、
一定の蓋然性があるので、
処方の時点で医療者と患者の双方において、
一定の認識を共有した上で、
その処方を行なうことが必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

腹部大動脈の治療法による予後の違いについて [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腹部大動脈瘤の予後比較.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
腹部大動脈瘤の治療法の差による、
予後の差を検証した論文です。

腹部大動脈瘤は、
動脈硬化や高血圧の合併症の1つです。
以前は破裂するより前には見付かることが少なかったのですが、
最近は腹部の超音波検査が行われることが多くなり、
それにより見付かることが多くなりました。

この腹部大動脈瘤は、
概ね大きさが5センチを超えるか、
経時的に大きさが増大する時に、
その治療が考慮されます。

治療法には、
お腹を切開して人工血管に取り替える開腹手術と、
カテーテルでステントグラフトと呼ばれる人工血管を、
血管の中から挿入する血管内治療とがあります。

近年では血管内治療が身体への負担の少ないことから、
国内外を問わずに急速に広まっていますが、
術前後の予後については、
血管内治療が開腹手術より良いという知見がありますが、
より長期の成績については、
現時点で明確な結論が出ていません。

長期の生命予後には差がない、
という報告がある一方、
人工血管のトラブルによる再治療や、
周辺の血管の破裂などは、
血管内治療の方が多いことを、
示唆するような報告も存在しています。

今回のデータはアメリカの医療保険のデータを用いて、
腹部大動脈瘤の開腹手術と血管内治療の8年までの長期予後を、
比較検証しています。

最近流行りの傾向スコアという手法を用いて、
39966組という膨大な患者さんのデータを解析しています。

その結果…

手術前後の死亡率は、
血管内治療では1.6%であったのに対して、
開腹手術では5.2%で明確な差が認められました。
生存率は術後3年までは血管内治療群の方が、
有意に高いという結果でしたが、
その後は変化は認められなくなりました。
8年間の観察期間中、
大動脈瘤の破裂率は、
血管内治療群では5.4%であったのに対して、
開腹手術群では1.4%でした。
2001年時と2007年時とを比較すると、
血管内治療後のトラブルは減っており、
治療の進歩が予後の改善に、
部分的には結び付いていることを示唆しています。

このように、
血管内治療が開腹手術より、
術前後の予後が良く、
長期予後も徐々に差が付きつつある、
ということは間違いがなさそうです。

ただ、3年を超える長期予後については、
まだ血管内治療が上だという根拠はなく、
今後の検証が必要であることには留意する必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

低炭水化物ダイエットの長期効果について(テレビの疑問) [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
低炭水化物食の長期リスク.jpg
2010年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
最近流行の低炭水化物ダイエットの、
20年以上という長期効果を検証した論文です。

どうして古い論文を持ち出したかと言うと、
先日テレビに有名な某先生が出演されていて、
この先生は「炭水化物をドシドシ食べましょう」という、
低炭水化物ダイエットに真っ向から反するようなことを、
日頃から良く発言をされているのですが、
低炭水化物ダイエットが身体に良くない根拠として、
この論文をテレビで引用されていたからです

その説明は、
「低炭水化物食と高炭水化物食を20年続けた結果を比較すると、
低炭水化物食では男性で1.5倍癌のリスクが増加していた」
というようなものでした。

低炭水化物ダイエットは、
日本よりむしろアメリカで流行しています。

僕もこのジャンルの文献は結構目を通しているつもりで、
昨年上梓した本にも、
その話題を入れました。

ただ、概ね極端ではない炭水化物制限食の、
アメリカでの評価はほぼ確立していて、
むしろ脂肪や蛋白質の組成をどうするかという、
炭水化物制限以外の部分の質的な議論に、
トレンドは移りつつある、
という印象を持っていました。

ですから、
低炭水化物食を20年続けたら、
病気のリスクや癌のリスクが増加した、
というような論文が、
果たして一流紙に載るようなことがあっただろうか、
と疑問に思ったのです。

それで読んでみました。

すると、
某先生がテレビでプレゼンされていた内容とは、
実際はかなり違っていました。

これは内容は看護師や医療スタッフを対象とした、
アメリカの有名な大規模疫学データを解析したものです。

食事のアンケート調査を何度か行なっているのですが、
その内容と20年に渡る予後との関連を見ているのです。

総エネルギーに占める炭水化物の比率を、
その程度により分類して、
多いものと比較して少ないものがどうであったか、
ということを見ています。

更にポイントとしては、
同じ低炭水化物食でも、
野菜や果物の比率が多く、
脂肪や蛋白質の多くを植物由来で摂っている食事と、
赤身肉の多い動物性蛋白質優位の食事とを、
比較検討しているのです。

すると、
トータルには炭水化物の比率を高度に減らすと、
減らさない場合と比較して、
総死亡のリスクは1.12倍(1.01から1.24)高い傾向を示しました。

その中身を見てみると、
動物性蛋白主体の低炭水化物食では、
総死亡のリスクが1.23倍(1.11から1.37)、
心血管疾患のリスクが1.14倍(1.01から1.29)、
癌のリスクが1.28倍(1.02から1.60)、
いずれも上昇していました。
その一方で野菜主体の低炭水化物食では、
死亡リスクは0.80倍(0.75から0.85)と有意に低下し、
心血管疾患のリスクも0.77倍(0.68から0.87)と、
これも有意に低下していました。

某先生が強調されていた癌のリスクですが、
これはトータルには男性においてのみ、
そのリスクは1.32倍と有意に増加していましたが、
野菜主体の低炭水化物食では、
そのリスクは1.00倍と、
増加は認められませんでした。
テレビの発言の1.5倍というのは、
男性の動物性蛋白主体の低炭水化物食の場合の、
1.45倍という数値が元であると考えられます。

このように、
論文の内容をトータルに見ると、
むしろ低炭水化物食自体は、
健康へも良い影響があるという捉え方で、
しかし、赤身肉の摂取が増えて、
野菜や果物、植物性の脂肪と蛋白とが低下するような、
そうした偏った食事になってしまうと、
病気のリスクの増加に繋がる、
という趣旨のものなのです。

これはどうでしょうか?

論文の一部の数値のみを強調して、
強引に持論を強化するデータとして活用する、
というのは、
たとえその結論に誤りがなくても、
研究者としての倫理観からすると、
かなり個人的には疑問を感じるところです。

先生のホームページなどを拝見したのですが、
その主張にはなるほどと感じる部分があり、
個人的には極端な低炭水化物食より、
理に適っているように思います。
ただ、教育用ということもあるのでしょうが、
資料などを読むと、古いデータが多く、
あまり情報がアップデートされていないような印象を持ちました。

特に今回のテレビの説明は、
かなり一般の誤解を招くもので、
データの切り張り的なことは、
幾らテレビとは言え、
してほしくはなかった、というのが、
偽らざる思いです。

少なくとも、
最近の海外の一流紙に載った論文の数から言えば、
適度な低炭水化物食は健康に良い、
という結論が圧倒的であるからです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

1枚の写真 [告知]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

今日はちょっと告知があります。

六号通り診療所の所長を、
今年の8月31日で退職することになりました。

診療所は新所長の元、
9月1日以降は新体制で診療を継続する予定です。
ただ、心療内科は継続はされませんので、
その点はご了解下さい。

引き続きご愛顧のほど、
よろしくお願い申し上げます。

僕自身は17年おりました幡ヶ谷の地を離れ、
品川区で新たな診療所を開設する予定です。
10月1日に開院の予定です。
徐々に差し障りのないように、
情報を開示してゆく予定ですので、
よろしくお願いします。

ブログのタイトルも、
本日より仮変更とさせて頂きます。
試行錯誤中なので、
また何度か変わるかも知れません。

さて、今日は1枚の写真をお見せします。
こちらです。
石原医院縦長.jpg
これは昭和15年の写真ですが、
僕の曽祖父が開いていた医院の、
表で撮られたものです。
場所は今の渋谷区の神宮前の辺りです。

映っている男性は書生さんで、
曽祖父ではありません。
一番右の女性は、
非常に有名な俳優さんのお母様です。
それが誰かは今はまだ秘密です。

僕の父は医療関係ではありませんが、
祖父の代には少し関わりがあります。

今回新たな出発に当たり、
こうした今は失われつつあるような笑顔に、
多く出会えるような医療現場を目指して、
精一杯の努力を続けたいと思いますので、
どうか今後ともよろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」(2015年上演版) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から診察室の片づけなどして、
それから今PCに向かっています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
墓場、女子高生.jpg
脚本・演出の福原充則さんと、
役者の富岡晃一郎さんのユニット、
「ベッド&メイキングス」の第4回公演として、
旗揚げ作品でもある「墓場、女子高生」が、
今池袋の芸術劇場で再演されています。

これは第2回公演の野外劇が、
大変評判が良かったのですが観ることが出来ず、
今回は非常に楽しみにしていました。

作品はその題名の通り、
墓場で学校をずる休みした女子高生達が、
大騒ぎしているうちに…
という話ですが、
想像していたほどブラックな感じではなく、
それほど明るい話、ということではないのですが、
何か清々しい気分で劇場を後にすることの出来る作品です。

基本ラインはクドカンの戯曲に似ていると思うのです。

ただ、クドカンなら後半ゾロゾロゾンビなど出して、
殺し合いのカタストロフになりそうなところですが、
福原さんのこの作品は寸止めというのか、
悲劇は全て寸前で最悪は回避されるので、
現実とそうは違わない世界に着地するのです。

話はかなりブラックでどぎついのに、
それを「青春幽霊物」みたいな感じでパッケージしているのが、
この作品の特徴と言っても良さそうです。

これはでも結構楽しくて、
大勢の自称女子高校生が現れて、
大騒ぎをしたり合唱したりするだけで、
何か祝祭的な気分が高まります。
その歌声も動きも、
意外にしっかりトレーニングされていて美しいのです。
キャストも実力派を選りすぐっていて、
演技合戦にも見応えがあります。
また、アングラ風味の音効や演出も、
なかなかに高品質で素敵なのです。

演劇初心者向きとは言えないのですが、
「最近昔ほど芝居を観てないけど、
何か面白いのある?」
と言うくらいの向きには、
是非にとお薦めしたい力作です。

以下ネタバレを含む感想です。

非常にガッチリとして上下に大きな、
墓地のセットが組まれています。

まず1人の女子高生と、
2人の謎の男が話をしているところから物語は始まります。

実はこの3人は幽霊か妖怪で、
人間ではなく、人間にはその姿が見えません。

幽霊は生者が死者のことを覚えている間だけ、
存在を許されていることがそこで説明されます。

さて、その墓場に授業をさぼった大勢の女子高生が、
遊びに集います。

楽しそうに歌い騒ぐ女子高生達ですが、
下手にある日野という墓には何らかの思いがあります。

実は最初に出て来た、
幽霊女子高生がその日野さんで、
彼女は墓場女子高生の仲間だったのですが、
全く唐突に、
墓場にある桜の木で首を吊って自殺したのです。

それがあまりに唐突で、
とても死にそうには思えないような女性であったので、
残された友人達は却って不安になり、
ひょっとして自分が何の気なしに言ったあの一言が、あの行為が、
自殺の原因なのではないかと、
疑心暗鬼に陥っています。

その墓場には彼女達の先生である女性と、
近所の勤め人で墓場で食事をするのが楽しみな中年男も、
定期的に出入りしています。
その2人も日野さんとは交流があり、
矢張り死の原因が自分ではないかと、
気に掛けています。

女子高生の中にオカルト部の生徒がいて、
死んだ日野さんを呪術で甦らそうとしています。
それはバカバカしいお遊びと思えたのですが、
次第に皆でその意志が共有され、
全員で蘇りの儀式が行われると、
突然墓場の石が砕け散り、
中から泥まみれの日野さんが復活します。

友人達は感激して驚きますが、
肝心の復活した日野さんは、
生き返ることなど望んでいなかった、
と逆に悪態を付きます。

皆はせめて自殺の理由を知りたいと言うのですが、
そんなものはないと、日野さんは言い放ち、
皆に美しい死の理由を考えさせると、
もう一度桜の木に首を吊って2度目の自殺を遂げます。

最後にそれほど交流のなかった2人の女子高生が、
どちらかが死んだ時のために、
予めさよならを言うという、
暗示的な場面がエピローグとして置かれて、
物語は終わります。

そもそもの元になった戯曲は、
もっと短く、
自殺した女子高生を友達が甦らせるも、
自殺の理由も言わずにもう一度死んでしまう、
という身も蓋もない、と言う感じのものだったようです。
そこに他の人間ならざる者との交流などを加えて、
何となく青春ものめいた甘さをまぶしたのが、
今回の作品です。

女子高生の呪文で死者が甦るという、
超常現象が起こるのですから、
その後の展開はもっと過激で強烈でも良い筈です。
昔の長塚圭史やクドカンであれば、
当然そうしたのではないかと思います。

しかし、福原さんはそうした方向には進まず、
夏休みのキャンプのような盛り上がりの後に、
再び唐突に日野さんが2度目の死を遂げる、
という展開に留めています。

その死は徹頭徹尾の謎で、
理不尽なものですが、
「生きていることの方が余程面倒くさい」
という女子高生の姿は、
危険な匂いは放ちながらも、
何か人間の真実を言い当てているような気もします。

この作品の魅力は、
何よりも登場する「女子高生」達の、
セーラー服姿での大暴れと歌の数々で、
これはもう打掛け値なしに楽しいのです。

特に日野さんの墓場からの復活の場面で、
皆で一糸乱れぬ振付の元に、
「トロイカ」を合唱する奇怪さなど、
アングラチックでワクワクする名場面です。

台詞は正直女子高生とは思えないようなところも、
散見されるのですが、
今回は20代半ばくらいが主体のキャストが、
「女子高生」を演じているので、
それほどの違和感は感じられませんでした。

キャストは抜群で、
実力優先なのが嬉しいところです。
復活する女子高生日野さん役の清水葉月さんは、
明るさに秘めた暗さがピタリの感じですし、
如何にもの屈折キャラを演じた山田由梨さんや、
ひねた美形の望月綾乃さんなど、
鉄壁に近い布陣です。

お馴染み根本宗子さんは、
さすがに踊りはセンターでしたが、
役柄は一種の賑やかしで、
楽しそうに演じていました。

偏執狂の先生に猫背椿さん、
妖怪に中山祐一朗さん、
という辺りも鉄板です。

そんな訳で、
一見の価値は充分にある怪作で、
上演は明日までですが、
迷われている方には、
是非とお勧めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

放射性ヨード治療によるバセドウ眼症の悪化とステロイドの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バセドウ眼症と放射性ヨード治療.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
放射性ヨード治療とバセドウ病の眼症状悪化との関連と、
その予防のためのステロイド治療の効果についての論文です。
これは日本の伊藤病院のデータです。

バセドウ病で最も問題となる症状の1つが、
眼突などの眼の症状です。
これは一見命に関わることはないので、
軽く扱われがちですが、
決め手となるような治療がない上に、
顔貌が変化し、
酷くなると目が瞑れないような状態となるため、
患者さんの苦痛は非常に大きいものなのです。

バセドウ病眼症は、
甲状腺機能が不安定な時期に起こり易いとされていますが、
必ずしもそれは常に成り立つことではなく、
僕の実際に経験した重度の眼症の患者さんは、
むしろ抗甲状腺剤の治療により、
甲状腺機能が安定した時期に悪化していました。

喫煙がリスク因子であることは多くの報告があります。

それ以外に、
バセドウ病を放射性ヨードの内服で治療する際に、
その治療後にバセドウ病眼症が悪化する事例が知られていて、
その予防のために、
欧米では喫煙患者や甲状腺自己抗体が高値であるなど、
バセドウ病眼症の悪化のリスクが高いと想定される場合には、
予防的にステロイドの内服を行なうことが通例です。

ただ、この治療の効果を示す臨床データは限られていて、
ステロイドの使用法もまちまちです。

そのため今回の研究では伊藤病院において、
バセドウ病眼症がないか、活動性ではない、
放射性ヨード治療が適応の患者さん295名を、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は放射性ヨード治療前にステロイドを使用し、
もう一方は何も使用しないで、
その後1年までの眼症の経過を比較検証しています。

これは患者さんにはステロイドを飲んだか、
そうでないかは分かった状態の試験です。
偽薬は使用していません。

ステロイドはプレドニゾロン1日15㎎で開始し、
2週間毎に5㎎ずつ減量して、
6週間継続します。

バセドウ病眼症の悪化は、
MRIにより計測されます。

その結果…

放射性ヨード治療後のバセドウ病眼症の悪化は、
全体の9.8%である29名に認められ、
眼科的治療を要したのは7名のみでした。

これまでの海外の報告は概ね20%の発症率ですから、
その半数以下という頻度です。

そして、ステロイドの予防的治療群と未治療群との間で、
眼症の悪化に有意な差は認められませんでした。

眼症の悪化と関連があったのは、
臨床的なバセドウ病の活動指標と、
甲状腺刺激性の自己抗体の力価でした。

論文の結論としては、
日本人での放射性ヨード治療後の眼症の悪化は少なく、
その予防には低用量のステロイドは無効で、
リスクの想定される患者さんには、
高用量のステロイドが必要ではないか、
というものになっています。

日本では海外より少ないとは言え、
1割近い患者さんが放射性ヨード治療後に眼症の悪化を見ており、
その説明が周知されると共に、
有効な予防法の検証を今後に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

尿酸降下剤による重症薬疹リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルプリノールと薬疹のリスク.jpg
今月のJAMA Intern Med.誌に掲載された、
痛風治療薬による重症薬疹の、
発症リスクを検証した台湾発の論文です。

薬の副作用として、
過敏症の一種としての湿疹(薬疹)は、
非常に頻度の高いものです。

その多くは軽症で、
薬の中止により速やかに改善するものですが、
中には命に関わるような深刻なものもあります。

そうした重症の薬疹の代表が、
Stevens-Johnson 症候群です。
この薬疹は原因となる薬剤が使用されてから、
概ね2週間以内に、
発熱と共に水疱を伴う重症の湿疹が出現します。
口の中や唇、肛門の周囲や目の周りなど、
皮膚と粘膜との移行部に、
水疱や出血が現われるのが特徴です。

目は真っ赤に腫れ、口の周りは爛れますが、
それを薬の副作用ではなく、
ヘルペスや麻疹のような、
ウイルス感染と誤診して、
原因の薬剤を中止しないと、
病状は更に悪化します。

この病気のより重症なタイプは、
全身の皮膚が水疱化して、
表皮が壊死して剥がれ、
酷い火傷のような状態になるもので、
これを中毒表皮壊死症(TEN )と呼んでいます。
以前は別の病気という捉え方がありましたが、
現在ではStevens-Johnson 症候群の重症型と捉えるのが、
一般的です。
治療が遅れると現在でも2割以上が死に至るという、
非常に怖い病気です。

Stevens-Johnson 症候群というのは、
端的に言えば薬による全身の火傷です。
(厳密には薬以外の原因による、
同様の症状が存在しますが、
この項では薬の副作用に限った話とします)
症状は薬の中止とステロイドを主体とする治療で改善しても、
皮膚や肝機能障害などの後遺症を残すことが稀ではなく、
中でも主に角膜の障害による目の後遺症は、
有効な治療が確立されておらず、
失明に至ることもある深刻な問題です。

この薬剤過敏症による重症薬疹には、
発症頻度の高い薬剤が存在しています。

カルバマゼピン(商品名テグレトールなど)とともに、
その横綱級であるのが、
痛風の際の高尿酸血症の治療薬である、
アロプリノール(商品名ザイロリックなど)です。

アロプリノールについては、
つい最近まで代替薬がなく、
国際的にはほぼ唯一の尿酸降下剤として、
使用が行われていました。

今ではフェブリクスタット(商品名フェブリク)など、
数種類の代替薬が発売されていますが、
本当に重症薬疹が少ないのかを含めて、
その評価はまだ確実とは言えません。

重症薬疹は確かに怖いのですが、
その頻度はそれほど多いという訳ではありません。
これまでの報告では、
アロプリノールを処方された患者さんの、
0.4%に軽度のものを含む薬剤過敏症が発症したとされています。

それでは、
どのような患者さんに使用した場合に、
重症薬疹のリスクは高くなるのでしょうか?

1つには患者さんの体質により、
薬剤過敏症が起こり易くなる、
というメカニズムが想定されます。

その候補の1つがHLA(ヒト白血球抗原)です。

HLA(ヒト白血球抗原)は、
主要組織適合抗原とも呼ばれるように、
自己と非自己の鑑別に、
重要な役割を果たしています。
このHLAには多くのタイプがあり、
そのタイプが一致すると、
臓器移植の定着率が高いことは、
皆さんもよくご存知だと思います。

2004年に台湾の研究者の手によって、
ちょっとびっくりするような論文が発表されました。

カルバマゼピン(商品名テグレトールなど)は、
Stevens-Johnson 症候群を起こし易い薬剤として知られています。

この症状を起こした44例の患者さんのHLAを解析したところ、
全例で特定のタイプのHLAが検出され、
その薬剤を飲んでも問題のなかった人では、
殆ど検出されなかった、というのです。
これはHLA-B*1502 というタイプのものです。
その後事例は2006年までに60例に増え、
そのうちの59例が同じHLAタイプの陽性者でした。
これが仮に副作用と直結しているものだとすれば、
予めこのタイプのHLAがないかを調べた上で薬を使用すれば、
深刻な薬疹の副作用を怖れながら薬を使う必要がなくなり、
かつ深刻な副作用に苦しむような患者さんがいなくなるのですから、
これは素晴らしい発見だと言えます。

ところが…

ヨーロッパと日本で行なわれた同様の検討では、
2004年の論文と同じ結果は出ませんでした。

つまり、当該論文が全くのでっち上げ、
ということはないと思いますが、
どういう集団を対象にするかによって、
その結果は異なるものになることは確実で、
「重症薬疹を起こす体質」は、
ある薬剤とHLAのタイプが、
1対1で対応する、というような、
単純なものではないようです。

僕の手元にある2010年9月投稿の文献では、
カルバマゼピン使用後に生じた、
日本人の重症薬疹の患者さん7例のうち、
HLA-B*1502 の陽性者は1人も存在しませんでした。
元の論文は漢民族を対象としたものですが、
日本人ではこのタイプのHLAの陽性頻度は極めて低く、
マーカーとして有効な可能性は、
どうもあまり高くはなさそうです。

同様のHLAのタイプと重症薬疹との関連で、
本日のテーマであるアロプリノールによる薬疹と、
HLA-B*5801 との関連性が、
別個に指摘されています。
これも最初の報告は海外で、
漢民族との関連性が最も高く、
白人でも漢民族ほどではないものの、
同様の傾向は認められています。
日本人での検討においては、
アロプリノール使用後の重症薬疹10例中、
同じHLAの陽性者は4名であった、
というデータが存在しています。
ただ、通常日本人における陽性率は0.6%程度なので、
これは有意に高い確率なのです。

しかし、上記論文においては、
このタイプのHLAと薬剤過敏症との関連は、
陽性的中率が低く、
遺伝子マーカーであることは確かであるけれど、
それでリスクを判定するには適していない、
という立場を取っています。

今回の論文は台湾において、
遺伝的素因以外のどのような要素が、
アロプリノールによる重症薬疹の発症と、
関連があるのかを、
2300万人に及ぶ膨大な健康保険のデータを解析する形で、
検証しています。

特有の症状が最初の処方から3か月以内に出現したものを、
アルプリノールによる薬剤過敏症と定義し、
症状出現後1か月以内の関連する入院と、
症状出現後2ヶ月以内の関連する腎機能低下と死亡の、
頻度も計算しています。

495863件のアロプリノールの初回処方が解析されています。

その結果、
アロプリノールの新規処方1000例中、
4.68件の頻度で薬剤過敏症が発症し、
2.02件の入院がそのために起こり、
0.39件の死亡が確認されています。

元データは2005年から2011年に掛けて取られていますが、
その間、発症率は増加を続けています。

この過敏症は女性や60歳以上、
初回投与量が1日100mgを超える場合、
患者さんが腎機能低下や心血管疾患を伴う場合、
痛風発作のない無症候性高尿酸血症の患者さんに処方された場合に、
有意にリスクが増加していました。

特に無症候性の高尿酸血症に使用され、
その患者さんが腎障害を伴っていると、
そうでない場合と比較して、
重症薬疹による死亡リスクは5.59倍に増加し、
心血管疾患を伴っている場合にも、
3.57倍に増加していました。

つまり、今回のアジアの貴重なデータから分かることは、
アロプリノールの処方は、
100㎎より少量から開始し、
60歳以上の高齢者では、
特にその使用を慎重に考える必要があります。

更に重要なことは、
この薬を痛風発作の既往のない、
無症候性の高尿酸血症に使用する場合には、
過敏症が発症し易いのでより注意が必要であり、
腎機能低下や心血管疾患のある患者さんでは、
原則禁忌と考えるべきではないのか、
という指摘です。

現実には無症候性の高尿酸血症に対する処方は、
たとえば腎機能低下時や、
心機能低下で利尿剤を使用している場合の副作用対応などとして、
頻用されている実態があり、
今後こうした治療については、
再検証が必要となるように思います。

日本においては、
新規の尿酸降下剤がシェアを伸ばしていますが、
その安全性はまだ未知数の部分があり、
日本でも台湾と同様の検証が、
是非必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スタチン治療の費用対効果(アメリカの試算) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別箇の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチン治療の費用対効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
アメリカの新ガイドラインにおける、
心血管疾患のリスクに応じた、
コレステロール降下療法の、
費用対効果を検証した論文です。

その治療効果に応じて、
どれだけの医療費が妥当であるのかを分析したもので、
如何にもアメリカらしい視点ですが、
日本においても、
こうした検証は必要不可欠のように思います。

2013年の11月に、
アメリカの心臓病予防のための臨床ガイドラインが改訂されました。

これは主に予防のための、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤の適応を、
決めたものですが、
日本のガイドラインとはかなり趣の違うものとなっています。

LDL コレステロール(所謂悪玉コレステロール)が、
190mg/dL以上であれば、スタチンによる薬物治療が考慮され、
年齢は45から75歳で糖尿病がないケースでは、
コレステロールは70から189の間であっても、
その後の10年間の心血管疾患リスクが、
計測上7.5%以上であれば、
スタチン治療の適応となっているのです。

ここにおける心血管疾患のリスクの計算は、
アメリカではフラミンガム研究と呼ばれる、
大規模な疫学データを元にしていて、
年齢、性別、血圧治療の有無と収縮期血圧、
総コレステロール値とHDLコレステロール値、
そして喫煙の有無から算定されます。

さて、問題はこの7.5%以上という指標が、
果たして妥当なものなのかどうか、
という点にあります。
これは以前の基準では10%以上となっていたのが、
より低く改訂されているのです。

10年間の心血管疾患リスクが高ければ、
それだけ病気の起こる可能性が高いので、
それをスタチンによって予防出来るという可能性も高まります。
しかし、その一方で適応とならない人でも、
それなりの比率では病気になるので、
そうした人を救えない可能性がある、
ということになります。
一方でこの心血管疾患リスクの指標を低く設定すれば、
今度は非常に多くの人がその治療対象となり、
結果としてスタチンを使用していることで、
病気が予防される人の比率は低下します。
つまり、実際には不必要であるのにスタチンを使用していた、
という人の数が増え、
医療費は莫大な額に膨らむという可能性が高いのです。

それでは10年の心血管リスクの7.5%で線引きをする、
という方針が妥当であることを、
どのようにして検証すれば良いのでしょうか?

今回の文献では、
これまでにも何度か記事で登場した、
マイクロシュミレーションモデルという手法を用いて、
仮想の40から75歳のアメリカ人で、
スタチンを使用している集団を想定し、
スタチンを利用することによる医療コストと、
その健康に対する効果を検証しています。

その効果は、
増分費用対効果(ICER)という指標で計算しています。
これは従来と別個の方針に変更した場合に、
ある対象者の寿命を、
1QALY延長するのに必要な費用が、
どれだけ余計に掛かるのか、
ということを示した数値です。
では、QALYというのは何かと言うと、
質調整生存年という指標です。
これは1であれば完全な健康で、
0であれば死亡という効用値という数値を、
年数に掛け算して得られた数値で、
健康状態が悪ければ、
数年の寿命で1年分ということになるのです。

そして、標準的なアメリカ国民でシュミレーションしたところ、
ガイドラインの7.5%の数値を適応すると、
これは同年齢層の48%がスタチンの治療適応ということになり、
10%の数値を適応することと比較して、
ICERは1QALYを達成するのに、
37000ドルが必要という試算になりました。
1人の健康な1年を買うのに、
日本円で450万円掛かるということになるのです。

この金額が5万ドル以下というのは、
まずまず妥当な変更だ、ということになり、
試算結果としては、
この7.5%に10%を変更したという判断は、
妥当なものであった、ということになっています。
ただ、5万ドルから15万ドルを許容範囲と考えると、
3.0%から4.0%でも適応とはなり、
より多くの対象者が、
心血管疾患を予防可能になる、
という利点はあります。
ただ、3%では適応年齢層の3分の2がスタチンを使用することになり、
それではあまりに過剰な医療ではないか、
という考え方も出来るのです。

これは1つの試算ではありますが、
具体的な医療行為に対して、
こうした費用対効果がしっかりと出来る、
という点がアメリカの長所でもあり、
日本もこの点はもっと見習うべきのような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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