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岩松了「市ヶ尾の坂ー伝説の虹の三兄弟」(2018年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
市ヶ尾の坂.jpg
1992年に竹中直人の会で初演され、
当時から非常に世評の高かった、
岩松了さんの代表作の1つ「市ヶ尾の坂」が、
何と26年ぶりに再演されました。

その間別の演出家による再演はありましたが、
岩松さん自身の演出による再演は今回が初めてです。

これは凄い芝居なんですよね。

岩松さんの劇作は、
何気ない日常会話だけを淡々と連ねながら、
そこに別個の感情や心理を、
見えないように忍ばせて物語りが進行し、
それがラストになって急に目に見える形に浮上して、
観客に衝撃を与えるという構成が特徴です。

それが結構急な暴力であったり、
事件であったりする作品もあるのですが、
この「市ヶ尾の坂」では本当に最後まで、
劇的と称されるようなことは何も起こらず、
物語にちりばめられた謎が、
明らかになるようなことも何もありません。

それじゃ日常と同じで、
何も面白いことはないじゃないか、
と思われると思いますし、
凡百の劇作家が描けば、
そうなってしまうと思うのですが、
そこがそうはならないのが、
岩松さんの天才たる所以です。

この作品はラストが凄いんですよね。
それも、階段を女性が1人降りてくる、
というただそれだけのことなんです。
本当にそれだけなのに、
それがとてつもなく衝撃的で戦慄的で、
何か物凄いものを見た、
という気分にさせてくれます。
これは本当に見事なラストだと思いますし、
ちょっと演劇史の中でも、
あまり類例のないような場面ではないかと思います。

真面目にこのラストを見るだけで、
この作品を観る値打ちは充分にあると思います。

ただ、今回の再演に関しては、
台本が竹中直人の会に対するかなりあて書き的なものなので、
その点に違和感を感じる部分はありました。

初演の3兄弟は竹中直人、田口トモロヲ、温水洋一という、
極めて濃いおじさんメンバーですから、
26年前で皆さん若いとは言え、
それでもイメージ的には得体の知れないおじさん三兄弟であったのですが、
今回はそれを大森南朋、三浦貴大、森優作という、
とてもすっきりしたメンバーで演じていて、
特に幼児性のあるような三男のイメージが、
本当の少年のようなイメージに置き換わっているので、
全体のムードはかなり初演とは異なるものになっています。

それは岩松さんの狙いでもあるので、
それはそれで良いと思うのですが、
大森南朋さんの芝居は、
明らかに竹中直人さんが透けて見えるようで違和感がありますし、
四角い顔のお手伝いさんというのは、
これはもう初演の片桐はいりさんへの当て書きそのものですから、
それを他の女優さんが演じるのは、
それが手練れの池津祥子さんであったとしても、
かなり無理があるようには感じました。

まあでも現代小劇場を代表する素晴らしい戯曲であることは、
これはもう間違いがありませんし、
岩松さんの演出も普段より少し演出を華やかにしながらも、
前半は敢えて退屈さを出して観客の眠りを誘いつつ、
ラストでそれを後悔させる凄味を見せる、
ある種の意地悪さがさすがですし、
岩松さんの演出に載った麻生久美子さんの芝居が、
また格別に素晴らしくて、
これも惚れ惚れするような気分になったのです。

いずれにしても岩松さんの代表作が、
今回本人の演出で再演されたことは、
この上もなく貴重な機会で、
これはもう小劇場演劇がお好きな方であれば、
「これを見ずに死ねるか」と言っても、
決して大袈裟ではないのです。

皆さんも是非。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(追記)
この舞台の3場の終わりに流れるレコードの曲名を、
どなたかご存知はないでしょうか?
あのチークダンスを踊る奴です。
これは唐先生の「二都物語」のオープニングに流れたんですよね。
気になって気になって仕方がありません。

(再追記; 平成30年5月31日午前6時)
曲が気になったのと、
初見でよく分からないところがあったので、
無理をしてもう一度観に行きました。
パンフレットに岩松さんの記載があって、
曲はスタイリスティックスの「From the mountain」と判明しました。
唐先生はこの前奏だけを、
リピートで使っていました。
芝居はより練れていて、
掛け値なしに素晴らしいものでした。
坂の上と下で時間が移動していたり、
家の2階が無意識の欲望を解放していたり、
この作品は唐先生的なところもあります。
坂の上と下とを象徴的に使うのは、
「秘密の花園」と「海の牙」でありましたよね。
松葉杖は僕には「ジョン・シルバー」
のオマージュであるようにも感じられました。
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ひでほ

石原先生
門外漢だし、観たこともないしわかりませんが、以下に問い合わせてみたらどうかと思いました。曲の件、にわか検索でヒットしませんでした。WEBでお問い合わせ欄があったのでメールしてみるってどうですか?。ってここで合ってるか???ですが。

M&Oplays 03-6427-9486(平日11:00~18:00)

http://morisk.com/info.html

by ひでほ (2018-05-26 21:07) 

fujiki

ひでほさんへ
ありがとうございます。
ダメもとで聞いてみます。
by fujiki (2018-05-26 22:20) 

やまねこ

岩松さんの作風もほとんど知らないなかで、縁あって舞台を観てきました。
人物たちの語る他愛ない細かい細かい回想話にクスクス笑いながら、いつしか観る自分自身の幼少の記憶とリンクしていくような、そんな不思議な感覚に捕らわれました。
手元に台本があるのですが、麻生久美子さんの役名が3場までは朝倉、4場からはカオル、とト書き上で変化しているのが興味深いですね。3場ラストのダンスのくだり、曲名は書いてありませんが、「私のラバさん、しゅうちょうのむすめ、色は黒いが南洋じゃ美人」と踊る学が歌っているようです。でも違ったような気も。すみません、わかりませんでした。
by やまねこ (2018-05-26 23:32) 

fujiki

ひでほさん、やまねこさんへ
気になってもう一度観に行ったのですが、
パンフレットに岩松さんの記載があって判明しました。
曲はスタイリスティックスの
「From the mountain」でした。
これは初演からの選曲で当初から曲のイメージで、
執筆されたようです。

by fujiki (2018-05-31 06:09) 

カミツレ

石原先生、こんにちは。先生の感想を読んでから行ったので最初から集中して観ることができ、前半も全く眠くなりませんでした(笑)。

正直に言うと、観劇直後の印象は三兄弟とマドンナの人妻のほのぼのした心の交流を描いた劇なのかな、というものだったのですが、後になってじわじわと怖くなってきました。兄弟の母親の浴衣を着て階段から降りてくるラストは、三兄弟を掌握したことの象徴なのですよね。それを楚々とした美しさの麻生さんが演じることで、肝が冷えるような凄みを感じました。

先生の感想、特に「戦慄」という言葉を読まなければ、「ほのぼの」から先に進めなかったかもしれません。ありがとうございました。

それにしても、これからますます生涯独身者が増える時代、人が大人になる、成熟するとはどういうことなのか、どのような道筋でそれを目指せばいいのか、考えさせられます。長文失礼しました。
by カミツレ (2018-06-05 11:31) 

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