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PCSK9阻害剤の糖尿病への影響(FOURIER試験のサブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PCSK9阻害剤の糖尿病への影響.jpg
今年のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
新しい注射薬のコレステロール降下剤の、
糖尿病への影響を検証した論文です。

コレステロール降下剤の代表は、
スタチンと呼ばれるコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
心筋梗塞などの病気を繰り返していて、
動脈硬化の病気の危険性が非常に高いような患者さんや、
家族性の高コレステロール血症で、
コレステロール値が非常に高いような患者さんでは、
スタチンを高用量で使用しても、
充分に病気の予防が可能なレベルまで、
コレステロールを低下させるのは難しいケースがしばしばあります。

こうした場合に併用で使用可能な薬が、
これまではあまりなかったのですが、
昨年から日本でも使用されるようになった、
PCSK9阻害剤というタイプの注射薬は、
LDL受容体を増やして、
細胞内へのコレステロールの取り込みを増やすという、
スタチンとの相乗効果が期待されるメカニズムを持つ、
強力なコレステロール降下剤として注目されています。

現状はスタチンへの上乗せとしての使用のみ、
日本では健康保険が適応されています。

このPCSK9阻害剤の効果を検証した大規模臨床試験が、
2017年のNew England…誌に結果が掲載された、
FOURIER試験です。

この臨床試験は、
世界42か国の1242の専門施設が参加した大規模なもので、
心筋梗塞や脳虚血性梗塞、閉塞性動脈硬化症などの心血管疾患の既往があり、
再発のリスクが高くでスタチンを使用している患者さん、
トータル27564名を、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2群に分け、
一方はスタチンに上乗せで、
PCSK9阻害剤であるエボロクマブ(商品名レパーサ)を、
2週間毎に140ミリグラム、もしくは月1回420ミリグラムで皮下注射し、
もう一方は偽薬を注射して、
平均で2.2年間の経過観察を行っています。

その結果、
治療期間48週間の時点で、
偽注射と比較してスタチンに上乗せしたPCSK9阻害剤により、
LDLコレステロール値は平均(最小二乗平均)で59%低下し、
中央値は使用前が92mg/dLで使用後は30㎎/dLまで低下していました。
要するに通常のガイドラインで推奨されるレベルより、
遥かに低値に下げています。

観察期間において、
心血管疾患による死亡と、心筋梗塞、脳卒中、
不安定狭心症による入院と心臓カテーテル治療を併せた発症は、
PCSK9阻害剤群では9.8%に当たる1344名で生じたのに対して、
偽注射群では11.3%に当たる1563名で生じていて、
PCSK9阻害剤によりそのリスクは15%(95%CI;0.79から0.92)、
有意に抑制されていました。

これを心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中のみの発症でみると、
PCSK9阻害剤では5.9%に当たる816名で生じていたのに対して、
偽注射群では7.4%に当たる1013名で生じていて、
PCSK9阻害剤によりそのリスクは20%(95%Ci;0.73から0.88)、
これも有意に抑制されていました。

個別に見ると、
総死亡や心血管疾患による死亡のリスク、
脳梗塞のリスクには有意な差はなく、
冠動脈疾患のリスクのみが個別では有意に抑制されていました。
心筋梗塞のリスクは27%有意に抑制されていて、
コレステロール降下の主な効果は虚血性心疾患にある、
というように考えて大きな問題はないようです。

有害事象については、
接種部位の反応やアレルギーが多く、
筋肉痛などの筋肉関連の有害事象や、
糖尿病の新規発症などは比較的多く見られましたが、
単独での差はなく、
スタチンの影響は主であることが推測されました。

このように、
冠動脈疾患の予後を改善するという意味においては、
このような強力なコレステロール降下療法に一定の意義があり、
ただ、死亡リスクの改善や、
他の脳梗塞などの心血管疾患の予後の改善につながるかどうかは、
まだ明確ではないようです。

ここまでは今年5月の時点での知見です。

さて、スタチンによるコレステロール降下療法において、
問題となることの1つは、
新規糖尿病リスクの増加です。
これは個々のスタチンにより差があるとする報告もあるのですが、
遺伝子変異による検証なども併せて考えると、
スタチンの作用であるコレステロール合成酵素の阻害作用自体に、
その要因があるというのが現時点での主要な見解です。

糖尿病はそれ自体動脈硬化を進行させる上で、
非常に大きなリスクとなりますし、
糖尿病の患者さんでは積極的にスタチンの使用が、
心血管疾患のリスクの高い場合には推奨されています。
しかし、糖尿病のない患者さんでのスタチンの使用においては、
スタチンにより糖尿病の発症リスクが増加するとすると、
その使用のバランスには頭が痛いところです。

それではPCSK9阻害剤と糖尿病リスクとの関連はどうなのでしょうか?

この点についてもこれまでに複数の見解があり、
新規糖尿病発症リスクとは無関係という報告がある一方で、
同じくらいのリスクがあるという報告もあります。

今回のFOURIER試験の再解析においては、
登録の時点での糖尿病のあるなしに関わらず、
心血管疾患の発症リスクや死亡リスクには差がありませんでした。
また登録の時点で糖尿病のない患者さんにおいて、
治療による新たな糖尿病リスクの増加は認められませんでした。

このように今回のスタチンへの上乗せ試験での検証では、
PCSK9阻害剤による新規糖尿病発症リスクの増加は、
認められませんでした。

ただ、これはあくまで1つの臨床試験の解析に過ぎず、
スタチンにおいても個別の試験では、
糖尿病リスクの増加は明確ではないことも多いので、
これでPCSK9阻害剤では血糖は上昇しない、
と結論づけるのは時期尚早で、
今後の実地臨床のデータの検証などの蓄積にも、
注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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