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高齢者のアスピリン使用における出血リスクとその予防 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アスピリンの高齢者使用の出血リスク.jpg
先月のLancet誌にウェブ掲載された、
高齢者の抗血小板剤(アスピリンが主)使用の出血リスクについての論文です。

低用量のアスピリンなどの抗血小板剤は、
一般には「血液をサラサラにする薬」などと呼ばれていて、
脳卒中や心筋梗塞などの予防のために、
広く使用をされている薬剤です。
血管などについた小さな傷などを治すための、
糊のような働きをする血小板の働きを弱めることにより、
小さな血栓に伴う血管の閉塞を予防するのが、
その主な作用です。

こうした薬剤は小さな傷の出血を長引かせる訳ですから、
当然有害事象として出血のリスクは増加します。

その場合に大きな問題となるのは、
胃潰瘍などの消化管出血と脳出血です。

従って、脳梗塞や心筋梗塞の予防のためにアスピリンを使用する時、
その適応は病気の予防効果と、
起こりうる出血系の合併症の危険性とを、
天秤に掛けて判断する必要がある、
ということになります。

出血系の合併症のうち、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍からの出血については、
プロトンポンプ阻害剤という胃酸の強力な抑制剤を使用することにより、
70から90%少なくすることが可能だ、
ということがこれまでの検討から明らかになっています。

そうと分かれば、
アスピリンなどの抗血小板剤を使用している患者さんでは、
もれなくプロトンポンプ阻害剤を使用すれば、
問題は解決すると思われるのですが、
実際にはそう簡単ではありません。

プロトンポンプ阻害剤は、
その強力に胃酸を抑えるという性質から、
特に長期連用した場合には、
胃腸の感染症の増加や急性の腎障害など、
多くの有害事象のある薬でもあるからです。

そのため現行の欧米のガイドラインにおいては、
抗血小板剤を使用する場合に、
全ての事例でプロトンポンプ阻害剤を併用することは、
推奨をされていません。

アスピリンの出血リスクにおいても、
併用するプロトンポンプ阻害剤の感染症などのリスクにおいても、
それが高くより問題となるのは高齢者です。

特に脳卒中や心筋梗塞を、
1回起こした患者さんの再発予防(二次予防)の場合は、
再発のリスクが高いため、
原則生涯アスピリンなどの抗血小板剤を、
継続的に使用することが推奨されていますが、
実際にはその元になっているのは、
主に75歳未満の患者さんのデータです。

それでは、
実際に高齢者と若年者では、
抗血小板剤による出血のリスクはどの程度異なり、
プロトンポンプ阻害剤による予防効果も、
どの程度異なっているのでしょうか?

そうした疑問を検証する目的で、
今回の研究においては、
一過性脳虚血発作や虚血性脳梗塞、心筋梗塞に罹り、
その再発予防目的で抗血小板剤(95%以上はアスピリン)
を使用している患者さんトータル3166名を登録し、
10年間の経過観察を行っています。
原則としてプロトンポンプ阻害剤の併用はされておらず、
そのうちの半数が75歳以上の高齢者です。

その結果…

10年間で405件の新規の出血系合併症が認められ、
218件は消化管出血で、
45件は脳内出血でした。
平均の年間出血リスクは3.36%でした。

軽症の出血の事例は年齢に関わりなく発症していましたが、
重症の事例は75歳以上がそれ未満と比較して、
3.10倍(95%CI; 2.27から4.24)有意に増加していました。
特に死亡に至るような出血については、
5.53倍(95%CI; 2.65から11.54)とより高くなり、
そのリスクは観察期間を通じて変わりはありませんでした。

75歳以上の患者さんでは、
後遺症や死亡に結び付くような上部消化管出血が多く、
その頻度(絶対リスク)は1000人当たり年間9.15件に達していました。

ここでこれまでのデータを元にして、
プロトンポンプ阻害剤を併用した場合の、
上部消化管出血の予防効果を試算すると、
65歳未満の患者さんで後遺症や死亡に結び付くような出血を、
1件予防するために338の処方が必要とされるのに対して、
85歳以上の患者さんでは、
25件の処方で1件の重篤な出血が予防される、
という結果になっていました。

つまり、年齢が高くなるに従って、
プロトンポンプ阻害剤を併用することの、
上部消化管出血の予防効果は高い、
ということが分かりました。
ただ、これは試算に過ぎないもので、
実際にそうした効果が確認された訳ではないので、
その解釈には注意が必要です。

いずれにしても、
二次予防であっても、
年齢と共に出血系の合併症のリスクは増加し、
その重症度も上がるので、
そのリスクは従来より重いものと考える必要があり、
75歳以上でのこうした薬剤の適応は、
今後適応条件を絞るなど、
再検討が必要であると考えられます。

上部消化管出血に限れば、
プロトンポンプ阻害剤を使用することにより、
そのリスクはかなり軽減されることは間違いがないのですが、
実際に使用すれば有害事象がより問題となる可能性もあり、
今後実臨床のデータが必須と思います。
日本ではより多いと思われる脳出血については、
現状は有効な予防法はありません。

現状の僕のこの問題に対する考え方は、
自著にも書いたのですが、
75歳以上においては、
たとえ二次予防であっても、
抗血小板剤や抗凝固剤の継続使用は、
その時点での再評価が必要で、
リスクとメリットを天秤に掛けた上での、
個別の判断が重要であるというものです。
要するに「やめるタイミング」を常に考える必要があります。

上部消化管出血に関しては、
定期的に胃カメラ検査が可能であれば、
その粘膜所見を判断の指標にするべきで、
全ての事例でプロトンポンプ阻害剤を併用するべきではないと考えます。
ただ、高齢者で胃カメラの施行も困難な場合には、
抗血小板剤や抗凝固剤の使用の必要性が高ければ、
併用継続もやむなしではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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