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アッヘンバッハ症候群と症状に名前が付くことの重要性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アッヘンバッハ症候群.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
症例報告の画像ですが、
自治医科大学の先生がご提供をされたもののようです。

見てお分かりのように右の中指の一部が紫色に変色して、
少し腫れています。

画像の説明によれば66歳の女性で、
特に前兆なく指の痛みがあって、
見るともう腫れて変色していたようです。
症状は数日で改善しています。
聞き取りをすると3週間前にも、
同様の症状が見られていたようです。

この紫の部分は紫斑で、
皮膚の下の浅い部分に出血が起こったことを示しています。

こうした場合に考えることは、
まず外傷、つまりぶつけたりしていないか、
ということと、
アスピリンのような抗血小板剤や抗凝固剤など、
出血が止まりにくくなるような薬を患者さんが飲んでいないか、
ということです。

しかし、この患者さんにはどちらも心当たりがありません。
また、寒い日に手足の先の血行障害が起こる、
レイノー症状もありませんでした。
血液検査を行いましたが、
血小板の減少や凝固系の異常も認められませんでした。

それではこの患者さんの診断は一体何なのでしょうか?

それがアッヘンバッハ症候群(Achenbach's Syndrome)です。

アッヘンバッハ症候群は、
1955年にドイツのアッヘンバッハによって最初に報告された症候群で、
その後日本を含む世界各地で報告されています。

特徴は上記の事例のように、
外傷や血液凝固異常、膠原病などの基礎疾患なく、
突然に生じる痛みやしびれを伴う小さな血種で、
周辺に広がって紫斑となり、
数日から数週間のうちに吸収されて治癒します。
好発部位は手の人差し指や中指で、
中年以降の女性に多いとされています。
治療の必要はなく自然に治癒しますが、
繰り返すことが多く、
その原因は不明です。

僕もクリニックの診療では、
しばしば高齢の女性の患者さんで、
同じ症状を経験しています。

患者さんは急に強い痛みと共に出血が生じるので、
結構強い印象を持つことが多く、
ほぼこの病気だなとは思っても、
血液検査などはその時点で行うことが多いのです。
何か悪い病気の前兆ではないかと、
不安に思うことが多いからです。

こうした病気に対して、
患者さんに「これはアヘンバッハ症候群です」のように告げることは、
あまり意味のないことのように思われるかも知れません。

治療もなければ原因も不明で、
ただ名前が付いている、
というだけだからです。

ただ、意外にそうではないのです。

原因不明だけれども心配ない、
というような説明では納得も安心もしない人でも、
アッヘンバッハ症候群という名前が付いていると説明すると、
そうか、それなら大丈夫、
というようにある種の権威を感じて、
安心することが多いからです。

同様のことで印象に残っているのは、
変形性関節症(ヘバーデン結節)です。

この病気も原因不明の関節炎で、
加齢に伴う何等かの変化と考えられています。
ただ、指の関節が痛みを伴って腫れて変形するので、
患者さんは不安になり、
関節リウマチではないか、などと検査を希望されて、
来院をされることが多いのです。

以前クリニックで高血圧などで診療をしていた患者さんは、
この症状のために何か所もの整形外科のクリニックを受診しました。
何処でも心配はありません、リウマチではありません、
というような話があり、
もう来なくてもいいですよ、
というように言われるのですが、
それでは納得をすることが出来ませんでした。
最終的にある大学病院の整形外科を受診すると、
これはヘバーデン結節ですよ、
という話があり、
その説明が書かれた小冊子が手渡されました。
すると、そこに書いてあることは、
それまでの整形外科のクリニックで言われたことと、
基本的には同一であったのにも関わらず、
患者さんは「初めてどんな病気か納得のいく説明を受けた」と言って、
それまでの不安が解消されたのです。

病気に明確な名前が付く、
というただそれだけのことが、
これほど大きな意味を持つのか、
と強い印象を受けた経験でした。

そんな訳で原因不明の病気であっても、
予後の良い病気については、
その診断名が明確に患者さんに説明されることには、
大きな効果のある場合があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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