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キスペプチンとその不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
キスペプチンと性衝動.jpg
今年のThe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
キスペプチンという脳ホルモンと、
大脳辺縁系の働きについての論文です。

最近脳視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌に、
大きく関連するもう1つの物質として、
キスペプチン(KISSI)が新しい話題となっています。

キスペプチンは54個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、
視床下部や大脳辺縁系などの神経細胞から、
産生される神経ペプチドです。

発見は1996年で、
ペンシルバニア大学のグループがその遺伝子を発見し、
当初は癌抑制能を持つ遺伝子と考えられました。
キス・チョコレートで有名な工場がそばにあったことなどから、
Kiss1遺伝子と命名されたのです。
2001年には別個に日本の研究者が、
癌抑制作用を持つペプチドを発見し、
メタスタチンと命名しましたが、
それがKiss1遺伝子がコードするペプチドであることが、
その後判明します。

それからキスペプチンの遺伝子がないと、
思春期が来ないことなどが報告され、
キスペプチンは生殖と関連のある脳ホルモンであることが、
徐々に明らかになって来たのです。

女性ホルモンの分泌には幾つかの謎がありました。

普通ホルモンはネガティブ・フィードバックと言って、
刺激ホルモンにより刺激されたホルモンが増加すれば、
それにより刺激ホルモンは逆に抑制される仕組みで調節されています。
しかし、女性ホルモンに関しては、
そのネガティブ・フィードバック以外に、
高度にホルモンが増加すると、
それが更に刺激ホルモンを刺激するという、
ポジティブ・フィードバックの仕組みも兼ね備えています。
何故このような仕組みが成立しているのかは謎でした。
また、女性ホルモンの最も高次での調節をしている、
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、
パルスのように間欠的に放出されているのですが、
その調節の仕組みも謎でした。

実はこの2つの謎の答えに、
キスペプチンが大きく関わっていることが明らかになったのです。

こちらをご覧下さい。
キスペプチンの作用の図.jpg
2003年の海外文献を翻訳した解析記事からの引用ですが、
キスペプチンの分泌様式を図示したものです。

キスペプチンは、
前腹側室周囲核から内側視床前野の部分と、
視床下部弓状核の部分の2か所の神経細胞から分泌され、
それぞれ異なる役割を果たしながら、
交互に関連を持っています。

女性ホルモンであるエストロゲンによって、
視床下部弓状核からのキスペプチン分泌は抑制されます。
これはネガティブ・フィードバックです。
一方で前腹側室周囲核から内側視床前野においては、
エストロゲンにより更にキスペプチン分泌が促進するという、
ポジティブ・フィードバックが成立しています。

キスペプチン分泌細胞は、
神経伝達物質であるダイノルフィン(オピオイドの一種)と、
ニューロキニンBという2種類のペプチドも、
分泌していることが分かっていて、
キスペプチン細胞がニューロキニンBの作用により活性化し、
少し遅れて出るダイノルフィンにより抑制される、
というサイクルを繰り返します。
それより分泌されるキスペプチンも脈動的になり、
それがGnRH分泌細胞を刺激することで、
GnRHのパルス状の分泌が行われているのです。

つまり、GnRH分泌細胞がその特有のパルス様分泌の主体ではなく、
それは実はキスペプチン細胞の性質であったのです。

今回ご紹介する論文は、
このキスペプチンが性欲や性衝動にも関連している、
大脳辺縁系にも発現していて、
それが性衝動のコントロールをしているのではないか、
という仮説の元に、
29名のボランティアの異性に性欲を感じる男性に、
キスペプチンを75分間持続的に注射し、
性欲を促すような写真や、
男女の幸せな結びつきを示す画像、
更には非常にネガティブな感情を刺激する画像などを見せて、
その時の大脳辺縁系の神経活動を、
偽薬の注射と比較して、
機能性MRIで解析しています。

その結果、
他の画像では得られなかった大脳辺縁系の神経活動の亢進が、
キスペプチンを注射した際の、
性的な画像や男女の結び付きの画像で惹起され、
偽薬ではそうした反応は見られませんでした。
またネガティブなイメージ画像を見せた際には、
キスペプチンの注射で前頭葉が興奮し、
ネガティブな感情が打ち消されていることが示唆されました。

要するにキスペプチン産生細胞は、
一種の脳内麻薬を産生し、
性欲による興奮や性衝動に関わっています。
ただ、その性欲は性交渉と切り離した、
男女の結び付き自体も求める方向に働いていて、
性的なパートナーを求め、
その相手を一緒に生活することで、
感情的な安定と充足を得るという一連の流れが、
脳の中にすでに用意されていることを、
示唆してもいるのです。

まあ、こうした少人数の脳の機能に関わる研究は、
結果がその後否定されることも多いので、
今の時点では話半分で受け取った方が良いように思いますが、
生殖と性欲と人生の充足、
また今日は触れませんでしたが、
肥満などの代謝とも結びついた機能を持つキスペプチンは、
今後生殖や内分泌のトレンドとして、
多くの知見を生み出すことは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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