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美容院脳卒中症候群について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
美容院脳卒中症候群.jpg
これは1993年のJAMA誌のレターですが、
美容院での洗髪後に、
脳卒中を来した主に高齢の女性の症例を、
5例まとめて紹介したものです。

美容院で髪を洗う時に、
首の後ろにシンクを置いて、
首を大きく後ろのそらせるような姿勢をとりますね。

この時に首が過伸展して、
首の骨の中を走行している、
椎骨動脈という頸動脈が屈曲します。

その場所に何もなければそれまでのことなのですが、
動脈硬化が進行していて、
血管が固くなっていたり、
血管に傷がついていたりすると、
その場所の血流が一時的に遮断されたり、
その周辺にあった血栓が、
脳へと飛んで詰まるという可能性が否定出来ません。

椎骨動脈はまた、
脳動脈解離が起こりやすい部位としても知られています。
生まれつき血管に弱い場所があったり、
首に強い衝撃を受けたりすると、
その部分の血管が裂けて、
血管が詰まったり、
その部位の血栓が脳に飛んで梗塞を起こす、
ということも報告されています。

端的に言えば、
首を強く後ろにそらせるだけで、
一時的に脳への血流の一部が遮断され、
意識消失やめまいが起こる可能性は、
誰にでもあるのです。
この症状は年齢に関わらず起こりうるのですが、
首の血管の動脈硬化が進行していれば、
より屈曲による影響が大きくなります。
ただ、症状が基本的には一過性です。

それを図示したものがこちらになります。
2006年のCerebrovasc. Dis誌の1例報告から取ったものです。
美容院脳卒中症候群の図.jpg
これは割と分かりやすい図ですよね。
矢印の部分が圧迫されるのです。

一方で椎骨動脈に生まれつき弱い部分があったり、
動脈硬化で脆くなった血管に傷が付いたりすると、
椎骨動脈解離が進展刺激に伴って起こる可能性があり、
その場合は一時的ではなく持続的な血管の閉塞が生じたり、
その部位の血栓が飛んで、
脳卒中を起こすリスクが高くなります。

こうした現象の最初の報告は1992年のNeurology誌に発表されていて、
美容院脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)という名称も、
そこで初めて登場しています。
これは2例の報告で、
いずれも高齢の女性が美容院の洗髪後に、
脳梗塞の症状を来した、というものです。

上記のJAMA誌のレターはそれに続くもので、
今度は5例の報告がまとめられています。
そのうちの4例は75歳以上の女性ですが、
もう1例は54歳という若い女性です。

高齢者の1例は元々椎骨動脈の血流に問題があり、
過伸展により一時的な閉塞を来したもので、
12時間くらいの経過で後遺症なく元に戻っています。
しかし、それ以外の事例は実際に脳梗塞を発症していて、
症状も完全には改善しないまま後遺症として残っています。

54歳の事例も脳梗塞の症例で、
おそらくは体質的な椎骨動脈の解離が、
元にあったものと推測されます。

この問題では昨年の暮にイギリスで、
45歳の男性が洗髪の2日後に脳梗塞で倒れ、
それが洗髪時の頸部過伸展によるものだとして、
多額の賠償金が支払われた、
という事例が報道されています。

2013年にはアメリカで、
48歳の女性が洗髪時に左手足の違和感を覚え、
その1週間後に脳梗塞を起こして、
これも美容院の過失が問われています。

ただ、この2つの裁判になった事例は、
いずれも中年で高齢者ではなく、
洗髪後2日と7日と大分時間が経ってからの発症なので、
本当に洗髪時の頸部過伸展が、
脳梗塞の直接的な原因であったのかについては、
やや疑問を感じます。

典型的な美容院脳卒中症候群というのは、
首を過伸展した瞬間に、
吐き気やめまいなどの症状を強く生じ、
それからあまり時を置くことなく、
手足のしびれなどの症状が続くものだからです。

高齢者が首の過伸展によって、
一過性の脳虚血の状態になりやすいこと自体は事実です。

ただ、洗髪後の明確な脳梗塞の発症が、
どれだけ関連するものかは、
まだ科学的に実証された事実ではないと思います。

その頻度は不明ですし、
科学的な知見も、
実際には症例報告のようなものしかありません。

最近でまとまった報告としては、
2016年のInternational Journal of Strokeという医学誌に、
「Beauty parlor stroke syndrome revisited: An 11-year single-center consecutive series」
という文献が掲載されています。

これはダウンロードが有料で40ドルという高額なので、
内容もそれほど大したことはなさそうですし、
アブストラクトしか読んでいません。

これは単一施設で11年間の、
美容室訪問後に脳梗塞を来した事例を集計したものです。
母数が分かりませんが、
11年での例数は10例と報告されています。
まあ、それほど多いとは思えません。
興味深いことは頸部の過伸展による解離は2例しか確認されておらず、
心臓からの血栓が飛んだ事例も含まれています。
2例はドライヤーで髪を乾かした際の、
血圧の変動が要因ではないかと推測しています。

つまり、美容院受診後の脳梗塞の全てを、
洗髪時の頸部過伸展に結び付けるのは、
やや単純すぎるのではないかと思われます。

一般的に言って、
お風呂や水泳の後に心血管疾患の多いのと同じ理屈で、
全身、特に頸部から頭部の血流状態が、
変化しやすい美容院の施術という状態が、
こうしたことのきっかけになりやすいのであって、
美容院受診後に脳梗塞を起こしたからと言って、
それを全て美容院のせいにして賠償金というのも、
何処か歪んだ判断にようにも思えてなりません。

この問題については、
もう少し科学的な検証が、
しっかりと行われるべきではないかと思います。

ただ、くれぐれも洗髪時に首をそらせる際には、
急激ではなく様子を見ながら慎重に行うべきですし、
特に高齢の女性や心臓などの持病のある方では、
基本的に強い進展は望ましくはないと、
そう考えた方が良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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