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SSRIによる先天性心疾患のリスクと遺伝子型との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SSRIと胎児奇形.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中とその前後のSSRIの使用により、
上昇する心血管疾患のリスクが、
母体と胎児の代謝系の遺伝子変異により、
どの程度変化するのかを検証した論文です。

SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)は、
現在最も広く使用されている抗うつ剤です。

その安全性を検証する上で常に問題となることの1つは、
その妊娠中の使用における安全性です。

これまでに一部のSSRIについて、
妊娠初期における心奇形の増加と、
妊娠後期の使用により、
新生児遅延性肺高血圧症と、
新生児禁断症候群という病態が、
出産直後に生じる可能性がある、
ということが指摘されていました。

以前ご紹介したことがある、
2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの10カ所の医療センターのデータを活用して、
17652名の先天性の疾患を持って生まれたお子さんを、
9857名の障碍のないお子さんと比較して、
先天性の障碍と妊娠初期(3か月以内)のSSRIの使用との、
関連性を検証しています。

SSRIについては、
シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)、
フルオキセチン(日本未発売)、パロキセチン(商品名パキシル)、
そしてセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)が対象となっています。

そのベイジアン解析の結果として、
個別のSSRIと個別の胎児奇形との間で関連が認められたのは、
パロキセチンと5種類の先天性疾患との関連、
及びフルオキセチンと2種類の先天性疾患との関連のみでした。

具体的には、
パロキセチンについては、
無脳症のリスクが2.5倍、心房中核欠損のリスクが1.8倍、
右室流出路狭窄のリスクが2.4倍、
腸壁破裂リスクが2.5倍、臍帯ヘルニアのリスクが3.5倍、
それぞれ有意に増加している、
という結果でした。

フルオキセチンについては、
右室流出路狭窄のリスクが2.0倍、
頭蓋骨癒合のリスクが1.9倍と、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の抗うつ剤と個々の胎児奇形との間には、
明確な相関は認められませんでした。

ただ、これは必ずしも他の抗うつ剤が安全ということではなく、
使用頻度などによる影響が大きいと、
考えておいた方が良いと思います。

さて、次に問題となるのは、
お母さんやお子さんの体質的な要素が、
このSSRIによる心疾患の発症に関連しているのではないか、
ということです。

先天性心疾患と関連のある代謝異常としては、
葉酸関連の異常がよく知られています。

葉酸はビタミンBの一種で、
その名の通り、
野菜などの葉っぱに多く含まれている栄養素です。

この葉酸は補酵素と呼ばれ、
遺伝子の構成成分である、
核酸をつくる酵素の働きを助ける役目があります。

つまり、単純化して言えば、
葉酸が不足すると、
細胞分裂がスムースに行なわれなくなるのです。

特に女性の妊娠中は、
胎児の細胞分裂のために、
多くの葉酸が必要となるので、
妊娠中には通常より多くの葉酸が必要となります。

妊娠の初期に葉酸が不足すると、
神経管の閉鎖という現象が妨げられ、
先天奇形の増加することが知られています。
このために、アメリカでは1998年、
FDAの指示により、
全ての強化穀物に、
葉酸の添加が義務付けられました。

日本ではこうした措置が取られてはいないので、
葉酸の欠乏が生じ易いのではないか、
というのが1つの問題点として、
指摘されるところです。

葉酸は必須アミノ酸であるメチオニンと、
ビタミンB12の代謝にそれぞれ関連があります。

メチオニンは代謝の過程で、
不安定な中間産物である、
ホモシステインを発生させます。
このホモシステインは身体を酸化させ、
血管の細胞や神経の細胞に対する毒性を持つなど、
試験管の実験のレベルでは、
かなりの悪玉であり、
人間の病気や老化の大きな原因である、
動脈硬化や認知症の原因である神経細胞死にも、
深い関わりを持つとされています。

通常の身体の状態では、
ホモシステインはビタミンB12と葉酸との働きによって、
無害な物質に変化します。

ところが、葉酸やビタミンB12が足りないと、
ホモシステインの蓄積が起こるのです。

今回の研究においては、
葉酸の代謝に関連のある遺伝子多型と、
ホモシステインの代謝に関連のある遺伝子多型、
そしてトランススルフレーション経路といって、
ホモシステインをシステインに変換する過程に関連のある遺伝子多型を、
1180名の先天性の心疾患を持つ新生児と、
1644名の心疾患のない新生児、
そしてその母親で検査して、
SSRIの使用とお子さんの心疾患の発症とが、
遺伝子のタイプによりどのような影響を受けるのかを検証しています。

その結果、
葉酸やホモシステイン、
トランススルフレーション経路に関わる遺伝子多型により、
SSRI使用時の先天性心疾患の発症リスクが、
2から7倍程度増加することが確認されました。
このリスクの増加は母親ばかりでなく、
新生児の遺伝子多型によっても認められました。

つまり、SSRI使用時に生じる胎児の先天性心疾患のリスク増加は、
SSRIが葉酸などの代謝経路の異常を、
後押しするような形で生じている可能性が高い、
という結果です。

こうした知見を活用することにより、
SSRIのリスクが高い患者さんを振り分けたり、
そのリスクに応じて薬の適応を選択したり、
一定の予防策を講じられる可能性が生まれたことは、
意義のあることではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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