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虫垂切除と消化管の癌のリスクとの関連について [医療のトピック]

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
虫垂切除とそのリスク.jpg
2016年のPLOS ONE誌に掲載された、
盲腸の手術とその後の消化管の癌の発生との関連についての論文です。

虫垂というのは、
大腸から部分的に突出した尻尾のようにも見える構造で、
それを含む周辺の腸の部分を盲腸と呼んでいます。
その部分は行き止まりの袋のようになっているので、
細菌による炎症を起こしやすく、
それを放置すると腸が穿孔し、
腹膜炎を来すなどして生死にかかわる事態となることもあります。

これが急性虫垂炎です。
一般には「盲腸」とだけ表現されることが多いと思います。

急性虫垂炎の治療は軽症であれば抗生物質を使用し、
進行性で穿孔などの危険性があれば、
手術で虫垂の切除を行うのが一般的です。

歴史的に言うと1970年代から80年代くらいまでは、
抗生物質を使用するより、
手術による治療を優先することが一般的でした。
その後合併症のリスクの低い事例であれば、
抗生物質の使用と手術との間で、
予後に違いがないとするデータが複数報告され、
虫垂切除術を行うケースは減少するようになりました。
これは世界的な傾向と考えられます。

虫垂切除術が第一選択であった頃には、
虫垂はあっても無用の長物である、
という考え方があり、
そのため患者さんの希望によっては、
別個の外科的治療の時などに、
正常の虫垂を切除することも、
しばしば行われていました。

確かに本当に虫垂が身体で何の役割も果たしてはおらず、
それがある限り急性虫垂炎のリスクがあるとすれば、
それを取ってしまえば安全、
という考え方は成立します。

しかし、それは本当に正しい考え方でしょうか?

2000年代になり虫垂には腸内細菌を保持するような作用があり、
それを切除することにより腸内細菌叢が変化するのではないか、
という考え方が報告されるようになりました。

そこで問題となる人体への悪影響として想定されるのは、
胃癌や大腸癌などの腸内細菌の変化との関連が想定される癌の増加です。

それでは、実際に虫垂の切除を行うと、
そうした癌の危険性は増すのでしょうか?

1965年から1993年のスウェーデンの統計を元にした研究では、
虫垂切除後に胃癌リスクは増加するが大腸癌リスクは減少した、
という結果が報告されています。
ただ、このデータは未成年の虫垂切除のみを対象としていて、
年齢も48歳までしか観察していない、
と言う点で癌のリスクの検証としては問題があります。

デンマークの1998年の報告では、
矢張り急性虫垂炎後に胃癌のリスクが増加していましたが、
大腸癌のリスクの増加は認められませんでした。

2015 年には台湾での研究が論文になっていて、
こちらは胃癌のリスクには差はなかった一方で、
大腸癌のリスクは虫垂切除群で14%有意に増加した、
という結果になっています。

このように報告により虫垂切除の影響はかなりまちまちで、
そこには地域差もある可能性があり、
また対象としている年齢や観察期間の違いによる影響もまた考えられます。

今回の研究は国民総背番号制を取るスウェーデンにおいて、
48万人を超える虫垂切除術施行者の医療データを解析して、
その後の消化管の癌の発症率と、
平均的な罹患率との差を検証しているものです。

きちんとしたコントロールがないのが弱いのですが、
例数はこれまででも最も大規模なものですし、
年齢も若年から高齢者まで幅広く、
観察期間も3割は25年以上と長く取られています。

その結果は胃癌や大腸癌のリスクについては、
虫垂切除による上昇は有意には認められず、
唯一食道の腺癌に限り、
虫垂切除により1.32倍(95%CI;1.09から1.58)と、
有意な増加が認められました。
ただ、この増加も虫垂炎による虫垂切除のみで解析すると、
有意差は消えていて、
それほど明確なリスクの増加とは、
言えない性質のものだと思います。

このように虫垂切除が、
その後の消化器癌の発症に、
影響を与える可能性はないとは言えないのですが、
かなり大規模な疫学データで比較をしても、
あまり一定の傾向は得られておらず、
現時点で神経質になり過ぎる必要は、
ないように思います。

ただ、以前と比べて虫垂切除の件数自体が、
世界的に減少していることは事実で、
勿論必要な場合には速やかに外科的治療は行われるべきですが、
以前のように「無用の長物で取った方が安心」というような考え方が、
適切でないことも事実であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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