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妊娠中の甲状腺ホルモン補充療法の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の甲状腺ホルモン補充療法の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
妊娠中の甲状腺機能低下症(潜在性を含む)に対して、
甲状腺ホルモン補充療法を行った場合の、
お子さんへの影響についての論文です。

この問題については、
これまでにも何度も取り上げています。

橋本病などの原因による、
甲状腺が原因での甲状腺機能低下症では。
血液の甲状腺ホルモンの数値は低下し、
下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値は上昇します。

ここでTSHは高めではあるけれど、
甲状腺ホルモンは正常範囲であるものを、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。
一方でTSHは正常範囲で、
甲状腺ホルモンであるT4のみがやや低いこともあり、
これを低サイロキシン血症と呼んでいます。

一般的に正常と言われるTSHの数値は4を超えないレベルで、
確実に治療が必要になるのは、
通常は10を超えるくらいのレベルです。

ただ、その例外として考えられているのが、
妊娠中の場合です。

妊娠の初期には胎盤からのホルモン(hCG)の働きにより、
甲状腺が刺激されて甲状腺ホルモンの数値は、
正常よりやや高くなり、
それに伴ってTSHは通常より少し抑制されます。
胎児の甲状腺が機能し始めるのは、
妊娠16から20週の間と言われていますから、
それ以前の時期において、
胎児の甲状腺機能の維持には、
母体の甲状腺ホルモンが充分あることが、
重要であると考えられるのです。

母体の甲状腺ホルモンとの関連で問題になるのは、
主に流早産のリスクとお子さんの脳の発達の異常です。

2010年のJ Clin Endocrinol Metab.誌に掲載された、
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症に対する、
T4製剤による介入試験の報告によると、
橋本病の自己抗体である抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合に限って、
TSHが2.5以上である場合にホルモン剤を使用すると、
流早産などのリスクが有意に抑制されていました。

2017年のEur J Endocrinol誌に掲載された新しい介入試験でも、
ほぼ同様の結果が確認されています。

こうした知見があるため、
現行のアメリカ甲状腺学会のガイドラインにおいては、
抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合には、
妊娠中のTSHの数値を2.5未満とすることが推奨されています。

しかし、この2つの介入試験では、
お子さんの出産後の脳の発達については、
検証をされていません。

これはブログでも以前ご紹介していますが、
2012年のNew England…誌に、
妊娠12週の時点で潜在性甲状腺機能低下症の有無を診断し、
T4製剤を150μg使用して、
生後3.5歳の時点でIQなどを測定した論文が掲載されました。

そこでは、生後3.5歳の時点でのIQには、
治療の有無で有意な差は認められない、
という結果になっています。

つまり、お子さんの脳の発達を正常にする目的で、
妊娠中に甲状腺ホルモン剤を使用することは、
意味がないのではないか、ということを示唆する結果です。

ただ、この研究では13週以降でホルモン剤が開始されていて、
胎児の甲状腺の発達から考えれば、
それでは遅すぎる可能性がある上に、
ホルモン剤も150μgというかなり多い量が、
調節なく使用されている点にも問題があります。

それ以外に今年のBritish Medical Journal誌には、
潜在性甲状腺機能低下症において妊娠中に、
ホルモン剤を使用しているケースとしていないケースの比較として、
流産には予防効果があったけれど、
早産や妊娠糖尿病、子癇前症については、
むしろホルモン剤使用群で多い傾向があった、
という結果が報告されています。
ただ、これは介入試験ではなく、
橋本病の自己抗体の有無なども検証されていません。

このように、
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症に対して、
どのような対象者にどのようなタイミングで、
どのくらいの量の甲状腺ホルモン剤を使用することが、
最も妊娠の経過やお子さんの経過にとって有益なのか、
と言う点については、
まだ未解決の点が多いのが実状なのです。

今回の研究は、
TSHがやや高めで甲状腺ホルモンは正常な潜在性甲状腺機能低下症と、
TSHは正常で甲状腺ホルモン(T4)濃度が低めの低サイロキシン血症を、
妊娠20週未満の時期において採血により診断し、
診断された時点からTSHおよびT4濃度を正常化することを目標に、
T4製剤の使用を行って、
妊娠の経過とお子さんの5歳までのIQを含む脳の発達との関連を、
検証しているものです。

潜在性甲状腺機能低下症が677例、
低サイロキシン血症が526例登録され、
それぞれ妊娠した本人にも実施者にも分からないように、
クジ引きで2群に分け、
一方は甲状腺ホルモン製剤を使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
これまでで最も厳密な検証を行っています。

その結果…

潜在性甲状腺機能低下症と低サイロキシン血症、
いずれの検証においても、
甲状腺ホルモン製剤を使用した場合と使用しない場合との間で、
生後5歳までの脳の発達に明らかな違いは認められませんでした。

抗ペルオキシダーゼ抗体の有無もこの結果には影響を与えず、
妊娠の転帰についても差は認められませんでした。
その一方で甲状腺ホルモン製剤を使用することによる悪影響も、
明確なものは認められませんでした。

今回の結果は、
少なくともお子さんの脳の発達の観点からは、
潜在性甲状腺機能低下症や低サイロキシン血症の、
妊娠中のホルモン補充療法は、
必要ないというものになっています。

これまでのデータを統合して考えると、
潜在性甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモンの補充効果は、
橋本病の患者さんにおける、
妊娠早期の流産の予防に限って、
その適応を考慮するべき性質のもののようです。

今回の研究は妊娠17週くらいからホルモン剤の使用を開始していて、
流産の予防にはそれでは遅すぎる可能性が高いからです。
勿論妊娠前に甲状腺ホルモン剤の補充療法をされていた方は、
量の微調整は必要な場合はありますが、
基本的にはそのまま内服して妊娠を継続することで、
何ら問題はないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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