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虫歯菌と認知機能との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ミュータンス菌と脳出血.jpg
2016年12月のScientific Reports誌に掲載された、
虫歯菌と脳の微小出血と認知機能低下との関連を検証した、
日本の研究者による論文です。

感染症と脳卒中などの動脈硬化性疾患が、
関連があるという報告は多く存在しています。
動脈硬化には血管内皮の損傷や炎症が、
大きな要因となっていて、
そこに特定の細菌やウイルスなどが関与しているのでは、
というような推論も多くなされています。
ただ、実際に特定の感染と動脈硬化性疾患との関連が、
明確に証明されたような研究結果は殆どありません。

その1つとして口腔内の虫歯や歯槽膿漏などの感染と、
動脈硬化性疾患、特に脳卒中との関連が、
最近注目を集めています。

上記論文の著者らのグループは、
特に特定のタイプの虫歯の原因菌と、
脳の病変との関連性を精力的に研究されています。

虫歯の原因菌であるミュータンス菌という細菌には、
コラーゲン結合蛋白質であるcnmをコードする遺伝子を持つものがあります。

このcnmという蛋白質を持っていると、
コラーゲンという繊維組織に結合することが可能となります。
虫歯のミュータンス菌としては、
エナメル質の下にある象牙質にコラーゲンがあるので、
そこに接着することで虫歯が進行するのです。

一方で、血流に乗って脳に運ばれたミュータンス菌が、
血管内皮にあるコラーゲンに接着すると、
そこで炎症を起こして血管病変を形成しやすくなるのではないか、
という推論が可能となります。

ミュータンス菌を感染させたネズミにおいては、
血液から脳に達したcnm陽性のミュータンス菌が、
脳血管の内皮のコラーゲンに結合して、
そこに病変を作ることにより、
血管が脆くなって出血を来すことが報告されています。

これは実験的な条件下でのことですから、
虫歯の細菌が簡単に血液脳関門を通過して、
脳血管に接着するとは通常は考えにくいと思うのですが、
cnm陽性のミュータンス菌の感染が、
脳の微小出血のリスクになる、
という疫学データは存在しています。
その菌のコラーゲン結合活性が高いほど、
脳深部の微小出血の数も増加する、
というような報告もあるので、
満更関連のない話とも言い切れません。

今回の論文においては、
279名の平均年齢70歳の一般住民を対象として、
まず唾液の検査でcnm陽性のミュータンス菌がいるかどうかを確認し、
脳MRI検査で微小脳出血の有無と、
認知機能を計測してその間の関連を検証しています。

論文中に紹介されている脳の微小出血の事例がこちらです。
脳内微小出血画像.jpg
MRIのちょっと特殊な条件での画像により、
黒く抜けた点のように見えている部分が、
小さな出血病変です。

その結果…

cnm陽性のミュータンス菌は、
91名で検出されていて、
そのうちの59%に当たる54名で、
MRI上の微小脳出血が認められました。
一方でcnm陽性のミュータンス菌が陰性であった188名では、
微小脳出血が認められたのは、
10%に当たる19名に過ぎませんでした。
これは明らかにコラーゲン結合能のあるミュータンス菌があると、
微小脳出血が有意に多い、と言う結果になっています。
このうち実際にコラーゲン結合能を測定して、
それが10%以上あるという条件で絞り込むと、
そうした結合能の高いミュータンス菌は、
71名で検出されていて、
そのうちの61%に当たる41名で、
MRI上の微小脳出血が認められたのに対して、
それ以外の208名中では、
微小脳出血が認められたのは14%に当たる30名に過ぎませんでした。

次に認知機能との関連ですが、
MMSEという現在最も広く使用されている、
認知症の診断のための検査の結果では、
コラーゲン結合能のあるミュータンス菌のあるなしで、
認知機能の差はありませんでした。
唯一ある特定の音から始まる言葉を、
どれだけ多く言えるかの試験において、
若干の差が認められました。

結果は正直微妙なもので、
確かにコラーゲン結合能の高いミュータンス菌があると、
脳の微小出血が多いことは事実だと思います。
ただ、これが本当にミュータンス菌が脳に移行して、
血管壁に吸着したせいなのか、
と言う点については、
ある種の口腔内の不潔な環境や、
虫歯が進行しやすいような体質などが、
影響している可能性を否定は出来ないように思います。

個人的には血液脳関門を通過したミュータンス菌が、
脳血管に付着して出血の原因となり、
それが認知症の原因にもなるという仮説は、
大分無理があるように感じるのですが、
それでもミュータンス菌の特定の性質と、
脳内病変との間に関連があるという結果は興味深く、
また別個のアプローチで他の研究グループが、
検証を行うようなことがあれば、
脳卒中や認知症の原因としての、
画期的な発見に結び付く可能性を、
秘めているようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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