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23価肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果(2017年日本の報告) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
23価肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果.jpg
2017年1月のLancet Infectious Dieases誌にウェブ掲載された、
日本で高齢者に主に使用されている、
23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)の効果を検証した日本の論文です。

65歳以上の高齢者に対して、
「肺炎予防ワクチン」という名目で、
1人1回のワクチン接種が公費で行われています。

皆さんも西田敏行さんなどを起用したCMで、
お馴染みかと思います。

ここで65歳以上に公費が適応されているのは、
ニューモバックスという商品名の23価肺炎球菌ワクチンのみです。

ただ、65歳以上の肺炎球菌性肺炎の予防ワクチンはもう1種類あって、
それがプレベナー13です。
このプレベナー13は2か月齢からのお子さんに対して、
肺炎球菌による髄膜炎などの予防のために、
4回接種されているものと同一です。

この2種類のワクチンにはどのような違いがあるのでしょうか?

ニューモバックスは、
その原型は1911年には既に存在していた、
非常に古い製法によるワクチンで、
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン
と呼ばれています。
略してPPV23 です。

肺炎球菌は莢のような構造に包まれており、
その莢の成分により、
90種類以上の莢膜型に分類されています。

その型によってどのような病気になり易いかが概ね決まります。
また、大人に病気を起こし易い型もあり、
逆に大人には病気を起こし難く、
子供に病気を起こし易い型もあります。
更には日本で流行している型と、
海外で流行している型では、
若干の違いがあることも知られています。

ニューモバックスは、
そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、
23の型を選んで、
その莢膜の成分をワクチンとしたものです。

その型を順番に並べると、
1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F
ということになります。
基本的にはこの23種の型に対して、
ニューモバックスを一本打てば、
ある程度の予防が可能だ、
ということになります。

このワクチンの適応は、
原則2歳以上とされています。

現状の対象者は主に高齢者です。

それは何故でしょうか?

このワクチンは蛋白質を抗原としていません。
そのために、
T細胞というリンパ球による免疫は誘導せず、
IgM抗体という種類の抗体を、
上昇させる効果しか持ちません。

これはどういう意味かと言うと、
まずこのワクチンはブースター効果を持ちません。
つまり、ワクチンの効果が薄れた時点で、
肺炎球菌による感染が起こっても、
過去の感染を記憶していて、
より強い免疫反応が起こる、
というようなことはないのです。

従って、抗体が減少した時点で、
その効果は全くなくなりますし、
たとえば1ヶ月毎に接種を2回しても、
副反応が強くなることはあっても、
免疫の持続がそれにより長くなることはありません。

つまり、インフルエンザのワクチンのようなものとは、
基本的に性質が違うのです。

ワクチンというよりも、
免疫グロブリンを打つような治療に、
どちらかと言えばその効果は似ているかも知れません。

ただ、その代わり、打った場所の腫れ以外には、
重症の副反応は殆どありません。
ワクチン接種後に亡くなった、というような報告も、
このワクチンに関しては、
現時点で一切ありません。

免疫グロブリンの注射の効果は数ヶ月で消失しますが、
このワクチンにより誘導される抗体は、
4~5年はその有効性が確認されています。

このワクチンは更には粘膜の免疫は誘導しません。

肺炎球菌が定着するのは、
人間では主に鼻や口の粘膜です。

しかし、それを排除する力はこのワクチンにはなく、
従って、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などの予防効果はないのです。
このワクチンが効果を現わすのは、
あくまで肺炎球菌が大量に身体で増殖し、
貪食細胞が出動するような場合のみです。

2歳未満の子供では、
免疫系が未成熟のため、
このワクチンの誘導するような抗体を、
充分に産生出来ないことが分かっています。

従って、このワクチンは2歳未満の予防効果はないのです。

それでは、
高齢者に対してこのワクチンはどの程度の効果があるのでしょうか?

理屈から言えば、
有効性があるのは23種類のタイプの、
肺炎球菌の感染による肺炎のみです、
更には「菌血症性肺炎」と言って、
血液中に細菌が増殖し検出されるような、
特殊な重症のタイプの肺炎が、
その主なターゲットと考えられます。

これまでの観察研究のデータをまとめて解析した文献によると、
ニューモバックスは高齢者の菌血症を伴うような重症化した肺炎に対しては、
50%の予防効果を示しています。
その一方で全ての肺炎に対する予防効果や、
全ての肺炎球菌性の肺炎に対する予防効果は、
統計的に有意なものとは確認されていません。

ニューモバックスは肺炎の重症化予防に有効、
というのは、
主にこうした結果を元にした言説です。

それに対して、
2000年にアメリカで認可され使用が始まったのが、
プレベナーというワクチンです。

これは肺炎球菌多糖体蛋白結合型ワクチン
と呼ばれています。
最初に開発されたのは7価のもので、
PCV7と呼ばれています。

このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、
人工的に無毒性変異ジフテリア毒素を、
くっつけて製造されています。
つまり、人工的に蛋白質をくっ付けているのです。
このため、このワクチンは、
T細胞にも認識され、
通常のワクチンと同じように、
ブースター効果も持つことが推定されます。
更には粘膜の免疫を、
誘導する作用も確認されています。

このワクチンを打つと、
その有効な型の肺炎球菌は、
鼻や咽喉の粘膜に、
定着することが出来ません。
つまり、ニューモバックスとは異なり、
感染自体を予防する効果があるのです。

7価というのは7種類の型のことで、
4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの7種類です。
基本的にはニューモバックスに含まれている型のうち、
7つをセレクトした、
という格好になっています。

ただ、このワクチン特有の問題も存在します。

その最大のものは、
このワクチンを使用すると、
そこに含まれる7つの型の肺炎球菌は、
人間の粘膜に定着出来なくなるので、
それ以外の菌の感染が却って増える結果になる、
ということです。

実際にこのワクチンの使用後、
含まれていない19A という型の感染が、
増加しているとの複数の報告が存在します。

そうした指摘を受けて、
2010年からアメリカで導入され、
日本でも今使用されているのが、
プレベナー13という、
プレベナーと同様の効果を持つ、
13価のワクチンです。

これはプレベナーの7つの型に加えて、
1、3、5、6A、7F、19Aの6つの型の抗原を、
追加したタイプのワクチンです。

ポイントは問題になった19Aが追加された点と、
ニューモバックスにも含まれていない、
6Aが追加されていることです。

ただ、6Aは6Bと交差免疫が確認されていて、
不要視する意見もあります。

ここまでの経緯を見ると、
65歳以上の高齢者に対しても、
ニューモバックスよりプレベナー13の方が、
有効性が高いように思われます。

実際にオランダで施行されたCAPITA試験と呼ばれる臨床試験では、
65歳以上において、
プレベナー13に含まれる抗原型の肺炎球菌による肺炎と、
重症化した肺炎球菌性肺炎による予防効果が、
有意に認められています。

現状アメリカにおいても日本においても、
ニューモバックスとプレベナー13が、
共に65歳以上の年齢層における肺炎球菌性肺炎予防として、
その使用が認められていますが、
上記のような経過を踏まえて、
高齢者の肺炎予防にもニューモバックスではなくプレベナーを使用するべきだ、
という見解を主張される専門家もいます。

ただ、実際にはその両者を直接比較したような臨床試験は、
まだ行われていませんし、
特定の抗原型の肺炎球菌による肺炎に限定した場合の予防効果は、
ニューモバックスにおいてはあまり検証されていません。

そこで今回の研究においては、
日本の複数施設において、
2621名の65歳以上の肺炎の患者さんを登録し、
喀痰の培養や遺伝子検査によって、
抗原型を含めて肺炎球菌の検出を施行。
ニューモバックスの使用と肺炎の罹患との関連を検証しています。

登録された2621名中、
585名は喀痰の検体の採取が出来なかったため除外されています。
残りの2036名中、21%に当たる419名において、
肺炎球菌が検出されました。
また26%に当たる522名では、
ニューバックスの接種が確認されました。

そこでニューモバックスの有効性は、
肺炎球菌全体としては27.4%(95%CI:3.2から45.6)で、
ニューモバックスに含まれる23の抗原型による肺炎に限定すると、
33.5%(95%CI:5.6から53.1)になっていました。
その一方でニューモバックスに含まれない抗原型に対しては、
明確に無効と確認されました。

統計的な有意差はありませんでしたが、
そのワクチンによる予防効果は、
75歳未満で女性で、大葉性肺炎や施設や病院での感染事例で、
より高いという傾向が認められました。

ここでプレベナー13に含まれる13の抗原型による肺炎に限定すると、
ニューモバックスの今回の研究における予防効果は、
40.1%(95%CI:9.9から60.2)と算出されています。
その一方でプレベナー13の効果をみた臨床試験の結果では、
その予防効果は45.0%(95.2%CI:14.2から65.3)となっていました。

こうしてみると、
そこに含まれる抗原型に限れば、
ニューモバックスもプレベナー13も、
それほどの大きな差はない、
ということが分かります。

ニューモバックスの効果は5年後には消滅するので、
5年毎の接種が必要となります。
一方でプレベナーはもっと長期の効果が期待出来ます。
ただ、高齢者での長期の予防効果のデータは、
まだほとんどありませんから、
それはまだ仮定の話に過ぎません。

先日のNHKの番組では、
プレベナーの効果は生涯有効という表が示されていましたが、
それは実証された事実ではないと思います。

このように、
高齢者の肺炎球菌性肺炎の予防に、
ニューモバックスとプレベナーのどちらが優れているのか、
と言う点はまだ未解決の問題で、
今後より高いレベルの検証が必要な事項であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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