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冠動脈疾患の患者さんの安定期の血圧コントロールについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
虚血性心疾患における血圧コントロール.jpg
今年9月のLancet誌にウェブ掲載された、
心筋梗塞や狭心症の患者さんの、
安定期の血圧コントロールの目標値についての論文です。

高血圧の治療の目標値については、
最近議論の多いところです。

疫学データにおいては、
上の血圧である収縮期血圧が115mmHgを超えると、
心血管疾患のリスクはほぼ直線的に増加しています。
その一方で上の血圧を140より低い目標設定でコントロールすることにより、
心血管疾患のリスクや死亡リスクを、
明確に低下させるような結果は、
介入試験としては殆ど報告されていません。

そのため、2014年のアメリカのガイドラインでは、
一時期120から130とされていた、
収縮期血圧の目標値を、
基礎疾患に関わらず140とし、
60歳以上では150に引き上げました。

ところが、2015年にSPRINT試験という、
厳密な手法による血圧コントロールの介入試験の結果が報告されました。

ここではかなり対象は限定されていますが、
その既往のある方を含めて、
心血管疾患のリスクが高い50歳以上の9361名に対して、
140mmHg未満を目標としたコントロールと、
120mmHg未満を目標としたコントロールとを比較したところ、
より強化された120mmHg未満のコントロールの方が、
心血管疾患の発症と死亡のリスクを、
25%有意に低下させていたのです。

その後サブ解析が幾つか発表されましたが、
年齢を75歳以上に限定しても、
矢張り強化されたコントロールの方が、
心血管疾患の予後は改善していました。

ただ、この単独の試験の結果を、
確定された事実のように考えることもまた異論があります。

今回の研究は世界45カ国において、
安定した冠動脈疾患があり、
高血圧の治療を受けている22672例を対象として、
中間値で5年間の経過観察を行い、
血圧のコントロール値と、
その予後との関連を検証いる観察研究です。

例数は多いのですが、
SPRINT試験のように、
最初から血圧のコントロール目標を設定して、
患者さんを分けて経過をみたような、
介入試験ではありません。

安定した冠動脈疾患というのは、
発症3ヶ月以降の急性心筋梗塞や、
心臓バイパス手術や心臓のカテーテル治療後3ヶ月以降、
治療をされて安定している労作性狭心症、
などとなっています。

血圧は毎年1回の診察時血圧が使用されています。
原則として観察期間中の測定値の平均が、
血圧値として解析に使用されています。

その結果…

収縮期血圧が140mmHg以上の群は、
120から129mmHgの群と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞及び脳卒中のリスクは、
140から149で1.51倍(1.32から1.73)、
150mmHg以上で2.51倍(2.17から2.89)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で120mmHg未満の群も、
1.56倍(1.35から1.80)と、
これも有意に増加していました。

拡張期血圧については、
70から79mmHgの群と比較した時に、
同じく心血管疾患による死亡と心筋梗塞及び脳卒中のリスクは、
80から89mmHgで1.41倍(1.27から1.57)、
90mmHg以上で3.74倍(3.18から4.39)、
とそれぞれ有意に増加していました。
一方で60から69mmHgの群で1.41倍(1.24から1.60)、
60mmHg未満の群で1.99倍(1.49から2.67)と、
こちらも有意に増加していました。

つまり、
上の血圧は140mmHg以上で、
明確に心血管疾患のリスクが増加する一方、
120mmHg未満でもそのリスクは増加していました。

下の血圧も80mmHg以上でリスクが増加する一方、
70mmHg未満でもリスクの増加を認めていました。

今回の結果では、
安定した冠動脈疾患の患者さんに限った分析ですが、
血圧は140/80を上回ればリスクの増加に繋がっていますが、
120/70を下回っても矢張りリスクは増加していました。

これだけ見るとSPRINT試験を否定した結果です。

ただ、SPRINT試験は収縮期血圧が120未満を目標としての降圧、
ということになっているので、
結果としての血圧値が120未満であった、
ということではありません。
実際には120以上の患者さんが多かったということを考えれば、
それほど矛盾した結果とは言えないと思います。

数回のみの診察室血圧に、
何処までの精度があるのかを含めて、
この問題は今後更なる検証は必要であるように思います。

当面の個人的な見解としては、
心血管疾患の既往があるかそのリスクのある患者さんに対しては、
診察室での収縮期血圧は120から140程度、
家庭血圧は140を超えず、
110は下回らない程度に、
コントロールするのが妥当であるように思います。
拡張期血圧は正確な測定が難しいので、
補助的に考えた方が良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 3

かーこ

こんにちは
拡張期高血圧って正確な判定が難しいのですか?
やはり上の収縮期血圧が大事なのでしょうか?
by かーこ (2016-10-31 11:11) 

fujiki

かーこさんへ
全ての方で正確に測るのが難しい、
ということではないのですが、
測定にばらつきが出やすいのは事実だと思います。
上の血圧と下の血圧のどちらが大事かについては、
色々な議論があり、
まだ解決した問題ではありませんが、
一時期下の血圧が重要視されていたものの、
現状は上の血圧の方を重視する見解が多いと思います。
臨床試験でも上の血圧のみを解析していることが、
結構あります。
ただ、一部の病気においては、
下の血圧が重要視されることもあります。
by fujiki (2016-10-31 14:01) 

患者a

ベンゾ断薬1.5年後、首の筋肉症状治らず、先生に相談した者です。セルシンを投薬されキンドリングを起こし未だに寝たきりです。ベンゾ離脱後2年以内の再投薬はキンドリングを起こし重症化することをご存知ですか?関連論文の紹介を希望します。
by 患者a (2016-11-13 01:09) 

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