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限局性前立腺癌の治療方針と予後(イギリスでの10年間の観察結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
前立腺がんの10年予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
転移がなく前立腺内に留まった前立腺癌の治療方針と、
その予後との関連を検証した論文です。

遠隔転移のない前立腺癌の、
最も適切な治療は何でしょうか?

前立腺癌は高齢男性に多い、
基本的には予後の良い癌です。
勿論その一部は全身に転移するなどして、
そのために命を落としたり、
骨転移による痛みなどの苦しめられる、
というケースもあるのですが、
比率的には多くの癌は、
特に症状を出すことなく、
その方の生命予後にも影響しない、
というように考えられています。

それでは、
前立腺の被膜内に留まった形で癌が発見された場合、
どのような治療方針が最適と言えるでしょうか?

神様的な視点で考えれば、
その後転移するような性質の悪い癌のみに、
手術や放射線などの治療を行ない、
転移しないような癌は放置するのが、
最善であることは間違いがありません。

しかし、実際には生検の結果である程度の悪性度は評価出来ても、
その癌が転移するかどうかは分かりません。

従って、このことを重視すれば、
全ての患者さんに治療を行なうということになり、
それは本来放置していても生命予後には問題のなかった、
多くの患者さんを「過剰に」治療するという結果に繋がります。
治療は無害ではなく、
合併症などで体調を却って崩すこともありますし、
医療コストも膨大になってしまいます。

そこで1つの考えとしては、
積極的な治療以外に、
当面は無治療で経過観察を行い、
定期的な最小限の検査は施行をして、
悪化が強く疑われれば、
治療をその時点で考慮する、
という方法が次善の策として考えられました。

これを無治療経過観察(積極的監視療法)と呼んでいます。

この無治療経過観察では、
通常は腫瘍マーカーであるPSAを、
定期的に測定し、
それが一定レベル以上上昇すれば、
治療を考慮します。
ただ、このPSAも確実に病勢を反映しているとは言えず、
そうした経過観察によって、
どの程度ただの無治療と比較して、
患者さんの予後が改善するのかも明確ではありません。

この問題を検証する目的で、今回の研究では、
イギリスで50歳から69歳の男性にPSA検査を行い、
そこから振るいに掛けて2664名の限局性前立腺癌を診断しました。
そして同意の得られた1643名をくじ引きで3つの群に分け、
第1群は治療はすぐにせずに無治療経過観察を行い、
第2群は前立腺の全摘手術を行い、
第3群は放射線治療とその後に一定期間のホルモン療法を行います。
そして、10年間の経過観察を行い、
3つのグループの生命予後は病変の進行、
転移の有無を比較検証しています。

対象となった患者さんの年齢は中央値で62歳で、
登録時のPSAは中央値で4.6ng/mL、
実際には3.0から19.9に分布していました。
腫瘍の悪性度の指標であるグリソン・スコアは、
6点が全体の77%でした。
76%はT1cという、
針生検で癌が発見されるレベルのものでした。
これは比較的低リスクの癌が多いことを示しています。

無治療経過観察の方法は、
最初の1年は3か月毎にPSAの測定を行い、
その後は6から12か月に1回の測定を継続します。
1年で50%を超えるPSAの増加があれば、
陽性所見として他の検査も施行します。

放射線治療はトータルで74グレイを照射し、
3から6か月の短期間のホルモン療法を併用します。

その結果…

10年間に17例の前立腺癌による死亡が確認されました。
無治療経過観察群で8例(年間1000人当たり1.5人の死亡)、
手術群で5例(年間1000人当たり0.9人の死亡)、
放射線治療群で4例(年間1000人当たり0.7人の死亡)となり、
死亡率には有意な差は認められませんでした。
また、総死亡のリスクにも差はありませんでした。
一方で転移は、
無治療経過観察群で33例(年間1000人当たり6.3件)、
手術群で13例(年間1000人当たり2.4件)、
放射線治療群で16例(年間1000人当たり3.0件)となり、
転移は有意に無治療経過観察で多い、と言う結果になりました。
癌の進行も同様に無治療経過観察群で有意に多くなっていました。

これは死亡に差が付くには、
もう少し長期の経過観察が必要で、
前立腺癌のゆっくりとした進行を考えれば、
10年はまだ短過ぎた、
というのが通常の判断になるかと思います。
ただ、10年という比較的短期間においても、
癌の進行や転移には明確な差が付いていて、
より長期の観察を行なえば、
治療群との間には有意差が付く可能性が高いと推測されます。

それでは、この結果をどう考えれば良いのでしょうか?

比較的悪性度の低い限局性の癌であっても、
未治療での経過観察では、
治療の倍を超える程度の転移や癌の進行が認められます。
従って、治療を行なうことに一定の意義はある訳です。
ただ、10年では生命予後の差は付かないという点から考えて、
余命が10年に満たないと考えられるケースでは、
積極的な治療は適応にはならない、
と考えた方が良さそうです。

現状は上記の情報を患者さんに提示した上で、
経過観察か治療かの選択を、
医療者と患者さんが一緒に行うことが、
妥当なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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