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脳トレは流動性知性を高めるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脳トレのプラセボ効果.jpg
今年の7月のPNAS誌に掲載された、
脳トレーニングの流動性知性に対する効果を、
プラセボ効果によるものとして否定した論文です。

これも医療サイトなどで少し話題になっているものです。

脳トレと言うと、
日本では任天堂のものが有名で、
2005年頃にソフトが大々的に発売されて、
大ヒットを記録しました。

監修された先生も非常に有名になりましたが、
今では何となくフェイドアウト気味になっています。

1990年代に知性(知能)を、
結晶性知性(crystallized intelligence)と、
流動性知性(fluid intelligence)に分ける、
という考え方が生まれました。

これは元論文には当たっていないので、
孫引きでピンと来ない部分があるのですが、
結晶性知性というのは経験の中で積み重ねられたスキルや知識のことで、
流動性知性というのは、
新しい環境に対応して問題を解決するような能力のことのようです。

加齢によっても、
結晶性知性は低下しにくいのですが、
流動性知性は低下しやすく、
特に認知症においては、
その低下が顕著であると考えられています。

流動性知性というのは、
ある意味知性の本質に近いものですが、
遺伝で決まる部分が大きく、
あまり訓練で増進されるものとは、
考えられていませんでした。

それが2008年にびっくりするような論文が発表されます。
今回と同じPNAS誌です。
それがこちら。
脳トレの効果2008.jpg
この論文では、
少し前の図形の配置や音声を思い出す、
という形式の作業記憶に関する訓練を行うことにより、
短期間で流動性知性が改善された、
という画期的な結果が報告されています。

これはややトリッキーな感じの研究なのですが、
本来作業記憶のテストとは無関係な流動性知性を、
作業記憶のテストに置き換えるという手法を確立して、
それによる検討を行ったところ、
そのタスク自体を繰り返すことにより、
タスクの効率が短期間で改善したので、
それは流動性知性が改善されたことを意味している、
という内容になっています。

流動性知性というのは、
新たな環境に対応して問題を解決するような能力で、
通常「あの人は頭が切れる」と評価されるような状態のことです。
この能力は遺伝によってほぼ決定され、
思春期を過ぎた頃にはほぼ安定すると考えられています。

知識や反応であれば訓練により改善しても良いでしょうが、
流動性知性が簡単な訓練により改善する、
というのはにわかには信じ難いという気がします。

しかし、これが大々的に取り上げられたので、
少しでも賢くなりたいと思う多くの人が、
商品となった流動性知性を高めるという触れ込みの、
脳トレに飛びつきました。

販売した会社は多額の利益を上げました。

しかし、そんな上手い話が本当にあるのでしょうか?

これは単純に一種の暗示の効果なのではないか、
という批判は以前よりあり、
それを科学的に検証したのが今回の論文です。

やることはいたってシンプルで、
25名ずつのボランティアを用意し、
1時間の作業記憶のタスクを行います。
これは基本的に2008年論文と同じものです。
その時一方(プラセボ群)では、
タスクを行う前に、
「こうした訓練により流動性知性が改善する」
という紙を見せて説明し、
コントロール群では同じような紙を見せますが、
そこには知性改善というような効果は記載されていません。

すると、
1時間のタスク終了後、
プラセボ群のみで流動性知性の指標は増加し、
IQテストの数値も5から10ポイント増加しました、
そうした反応はコントロール群では認められませんでした。

つまり、
流動性知性の改善と思われたものは、
「これをすれば頭が良く成るよ」
という暗示で再現が可能な現象に過ぎなかった、
ということになります。

この結果は敢くまで作業記憶のタスクに関してのもので、
他のタイプの脳トレにも拡大可能なものではありませんが、
どのような脳トレを行うにせよ、
訓練によりそのタスク自体は改善しますが、
それは脳全体の機能とはあまり関連はなく、
賢さの本質的な部分というのは、
不公平で切なくなりますが、
矢張り多くの人が直感的に感じているように、
生まれつきほぼ定まっている性質のもののようです。

また、見方を変えれば、
暗示の効果というのは、
短時間でIQをワンランク引き上げるほど凄まじく、
不良高校生がカリスマ教師の指導により、
短期間で一流大学に合格した、
というようなドラマも、
そうしたメカニズムからは、
意外に筋が通っているようにも思います。
そうした意味での人間の「やる気」の可能性というものは、
潜在的にかなりの力を持っていることもまた、
確かなようです。

哀れで不思議で、
何処か物寂しい感じもするのですが、
人間というものは、
結局暗示とやる気で変わるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 1

ゆま

「人間というものは、
結局暗示とやる気で変わるのです。」
先生、これって私にとっては
全然物哀しくないです。
元気出ます☆
ありがとうございます。

by ゆま (2016-09-02 00:15) 

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