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イキウメ「太陽」(2016年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
イキウメ「太陽」.jpg
2011年に青山円形劇場他で初演された、
イキウメの代表作の1つ「太陽」が、
今三軒茶屋のシアタートラムで再演されています。

ほぼ1ヶ月のイキウメとしては一番のロングランではないでしょうか?
僕が観劇したのは水曜日で平日でしたが、
ほぼ満席の盛況でした。

劇団員が初演と同じ役を演じ、
それに清水葉月さんと中村まことさんが加わるという、
こんな言い方は失礼ですが、
キャストだけで集客が出来るようなメンバーではなく、
実力とアンサンブル優先のキャストです。

それでこの集客というのは、
間違いなく作品の力だと思います。

この作品は震災の2011年の秋に初演され、
その後改訂版が蜷川幸雄さんの演出で、
綾野剛さんや前田敦子さんら、
集客の出来るメンバーで大々的に上演されました。
映画の公開も予定されていますし、
作者による小説版も発表されています。

初演も蜷川演出の上演も観ているのですが、
正直初演はそれほど面白いとは思いませんでした。

僕はそれまでのイキウメの、
トリッキーでどんでん返しのある作風が好きだったので、
そうした部分のまるでない、
擬似未来のSFのような設定が、
どうしても違和感があったのです。

震災後の暗さが写し取られたような、
希望の欠片もないような暗いムードも、
初演の当時は好きになれませんでした。

それが、蜷川さんの演出により改訂されスペクタクル化された、
「太陽2068」と題された舞台を観ると、
この作品の世界が、
これまで考えていたより遥かに大きく、
そして深いものであることが分かりました。

今回の再演は、
殆ど初演と同じキャストにより、
初演版がより深化した形で上演されていて、
非常に感銘を受けましたし、
これまでのイキウメの作品の中でも、
僕が観た舞台では間違いなくベストと言って良いと思います。

通常舞台は先入観なく観劇した方が良いと思うのですが、
この作品に限っては、
先入観のない初見よりも、
作品の設定や構造を理解した上で、
再見した方が、
より面白く感銘も深いのではないかと思います。

この作品で前川さんが構築された架空世界は、
かなり複雑で緻密なものなので、
初めて作品を観ると、
その世界の仕組みを理解するのが精一杯で、
なかなか作品の中に生きるキャラクターの心情にまで、
心が届かないのです。

以下ネタバレを含む感想です。

作品の世界はバイオテロによるウイルス感染によって、
人口の激減した近未来の世界で、
そこではノクスという新たな人種が現れます。

ノクスは吸血鬼のイメージで描かれ、
太陽を浴びると死滅してしまいます。
人間はバイオテロの原因となったウイルスに感染すると、
殆どは死んでしまうのですが、
生還して体内にウイルスに対する免疫が成立すると、
トランスフォームしてノクスになるのです。

ノクスは旧人類とは違って老いることがなく、
人間的な感情を持たないので、
感情に左右されて争うようなこともありません。

そのうちにウイルスに対するワクチンが開発され、
ワクチンを接種して抗体を誘導してから、
血液でウイルスを感染させると、
死ぬことなく旧人類はノクスにトランスフォームすることが可能となります。

世界は次第にノクスに支配されるようになり、
旧人類はくじ引きで当選した者のみが、
ノクスへのトランスフォームを許されるという仕組みが成立します。

旧人類は感情的な対立を繰り返し、
高齢化して衰退に向かっているのですが、
ノクスは生殖能力が低いので、
自分達だけで子孫を増やすことが出来ず、
旧人類を売買して自分の子供にすることにより、
その種を維持するしかない、という欠点があります。

こうした背景のもとに、
長野県の村で物語は始まります。

その村にはノクスを憎む男がいて、
ノクスの1人を太陽で焼き殺して逃亡してしまいます。
そのため、その村はノクスからの支援を受けられなくなり、
人口は減少して高齢化し、
衰退して行きます。

10年後に村の閉鎖は解かれるのですが、
その村はほぼ壊滅に向かっていて、
そこに暮らす少女と少年が、
ノクスになる道を選ぶのか、
それとも旧人類のままでいるのかの選択を迫られるのです。

ノクスの門番と交流した少年は、
最初はノクスになることを切望していながら、
最後はその選択を放棄し、
ノクスを嫌っていた少女は、
ノクスである自分の母親の元で、
ノクスにトランスフォームします。
少女の父親と交流のあったノクスの医師は、
ノクスの限界に絶望し、
夜明けの太陽を待つという選択をします。

それほど劇的なことはあまり起こりません。
ただ、主人公の少年の心情が、
極めて繊細かつ的確に描かれていて、
絵空事の設定であるのにそこに引き込まれ、
その苦悩を現実の出来事のように、
観客に体感させる劇作の巧さと、
役者の演技が優れています。

キャストの1人1人が非常に深い部分まで役柄を理解していて、
初演より間違いなく深く、その人物を演じています。
この作品の演技に関しては、
全てのキャストが「名優」であったと思います。

作品は架空の世界ですが、
震災後の暗い気分や、
感染症や放射能に恐怖する心、
先の見えない世界で、
脱出するべき出口を探す若者の足掻きなど、
日本の今が抱える問題の多くが、
そこに形を変えて描かれています。

くだらないアジテーションや、
安易な敵の造形などはなくても、
心情の中に「今」を描くことは可能なのだと、
この作品は示しているのだと思いますし、
それこそが演劇の可能性だと、
僕は信じて疑いません。

いずれにしても、
イキウメという集団が到達した、
演劇史に残る名品であることは間違いなく、
東京公演は明日までですが、
これはもう是非にお薦めしたいと思います。

傑作です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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