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スタチンでどれだけ寿命は延びるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

きょうはこちら。
スタチンによる寿命延長効果.jpg
今年のOpen Heartという、
British Medical Journal系列の医学誌に掲載された、
臨床医としては、
大変興味深い内容の論文です。

これは抜群に面白いので、
是非原文を読んで頂きたいのですが、
内容はあまりかいつまんで説明すると、
ちょっと誤解を招く部分があります。

なるべく慎重に、
誤解を招かないようにご紹介したいと思いますが、
内容を疑問に思われた方は、
どうか自分流に解釈はせずに、
元ネタに当たって頂きたいと思います。

高血圧や喫煙、糖尿病などが動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを高めることは、
多くの疫学データで確認され、
そのメカニズムも検証され実証されている事実です。

こうした病気になる可能性が高いと想定される場合には、
それを予防するための治療が行われます。

高血圧の患者さんに対する降圧剤の使用や、
高コレステロール血症の患者さんに対する、
スタチンと呼ばれるコレステロール降下剤の使用は、
その予防効果の判明している、
内科的な治療の代表です。

そうしたデータを信じて、
僕も日々の診療において、
降圧剤やスタチンを処方していますし、
そうした治療を受けている患者さんも、
基本的にはそうした予防効果を期待して、
治療を継続されています。

それでは、
実際にこうした治療を受けることにより、
受けない場合と比較して、
どれだけ寿命は延びるでしょうか?

これは聞かれても、
なかなか答えることは難しい問題です。

たとえば、スタチンによるコレステロール降下療法の効果は、
心筋梗塞などの一定の期間の発症が、
どれだけ予防されたか、というような指標で、
測られることが通例です。

概ねそのリスクの高い患者さんにおいては、
治療により5から10年間の発症リスクが、
2割から3割程度低下する、
と言う結果になっています。

ただ、これは敢くまで、
そうした症状を起こしたかどうかを比較しているもので、
治療により寿命が延びるかどうかを示したものではありません。

死亡リスクを比較したデータも確かにありますが、
一定期間(通常は5年程度)の間に、
死亡した頻度を比較しているだけで、
寿命自体を比較している、
というデータではありません。

しかし、僕のようなクリニックの医者にとって、
その日に受診をされた患者さんが、
仮にスタチンによる治療をその日から開始された場合、
その治療を継続することによって、
その患者さんの生涯にどのくらいのメリットがあるのか、
ということを推測することは、
医者患者双方において、
大きな意義のあることです。

ただ、実際にはそうしたデータは殆ど存在していないのです。

勿論寿命というのは、
1つの指標にしか過ぎないものですが、
それでも誰もが興味ある、
重要な指標であることは間違いがありません。

そこで、今回の研究では、
幾つかのモデルを用いることにより、
スタチンなどの治療による、
寿命の延長効果を数学的に推測しています。

まず、疫学データから、
年齢毎の死亡率と、
心血管疾患による死亡率を算出します。
心血管疾患の発症リスクとしては、
喫煙と収縮期血圧、年齢と性別、そして総コレステロール値が、
パラメーターとして考慮されています。
リスクの高い人は、
心血管疾患に罹患して死亡する可能性も高くなるので、
その分寿命は短縮します。
そこで、ある単独の治療により、
心血管疾患の発症率が、
20から30%低下する、
ということを仮定します。
これは架空の治療ですが、
スタチンが想定されています。

たとえば、
タバコを吸わない50歳の男性で、
収縮期血圧が160、
総コレステロールが270という状態を想定すると、
心血管疾患のリスクを30%低下させる治療を、
一生涯継続することにより、
そうしない場合より平均で12.6か月の、
寿命の延長効果が期待出来る、
という推測が成り立ちます。

これまでにあまり例のない、
興味深い推測のデータです。

これは集団を平均化した場合のリスクの計算です。

それでは次に、
平均化されたコレステロール値と血圧値を示す、
心血管疾患のリスクも同一の、
50歳の男性のグループを仮定します。
この集団に対して、
スタチンの治療を生涯継続的に行ない、
そのことによって30%心血管疾患のリスクが低下する、
というように想定します。
すると、この集団での平均の寿命延長は、
7か月程度と計算されます。

今度は平均でどれだけ寿命が延長するのか、
ではなく、
全体の中でどれだけの比率の人が、
寿命延長の恩恵を受けるのかを推計します。

すると、
非常に興味深いことには、
全体の93%の患者さんでは、
寿命の延長効果は得られず、
残りの7%の患者さんにおいて、
平均で99か月という、
長期の延長効果が得られることが推測されました。

これはかなりインパクトのある結果ですが、
良く考えると当然の結果とも思えます。
心血管疾患に受傷した患者さんのみで、
そのことによる寿命の短縮が起こるのですから、
同じリスクはあっても、
9割の患者さんではそうしたことが起こらず、
従って、寿命の延長も起こらないのです。

医療関係者の中には、
コレステロールを下げる治療は、
9割の人にとっては意味のないものだ、
という言い方をしたり、
9割は過剰診断と過剰治療だ、
という言い方をされたりする人がいます。

ただ、そうした言い方は個人的には、
あまり適切なものとは思えませんし、
非常に誤解を招くもののように思います。

確かに、
平均的なリスクの集団に対して、
寿命の延長目的でスタチンを使用しても、
結果として大きな恩恵を受けるのは、
1割には届かないということは事実です。

しかし、実際に病気の発症が予防された場合には、
その恩恵は想像より遥かに大きいのです。

これは、
残りの9割の患者さんには、
スタチン治療のメリットがない、
という意味ではなく、
潜在的には多くの患者さんに、
動脈硬化を抑制するような効果は得られていて、
それは多くの場合には体感は出来ない、
目には見えないものなのですが、
一部の患者さんにおいては、
その使用により起こり得た病気の発症を予防して、
明確な寿命の延長という結果と結び付く、
ということなのだと思います。

その一方で、
こうした治療の明確な恩恵を受け取るのは、
矢張り一部の患者さんに限られる、
ということもまた事実です。

僕のような末端の医療者は、
こうした情報を元に、
その時点で患者さんがこうした治療を行なうことにより、
将来的にどのようなメリットが想定されるのかを、
なるべく正確に情報として提供し、
その上で双方に納得のゆく条件の元に、
治療を始めるのが、
現時点での理想的なあり方であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

モカ

石原先生こんにちは。
いつも拝読しています。
自分自身少し前からスタチン飲んでいます。
これが一生続くと思うと愕然とします。

論文は、つまり、スタチンを投与していなければ心血管イベントが起きたのに、それがスタチンのおかげで起きずに健康に暮らせた人が結構いたということなのでしょうか。

論文入手しましたので、少しチャレンジしてみます。
by モカ (2016-03-30 12:02) 

ヤマダ

はじめまして
ブログ初めて拝見しました
全般的に非常に関心がある内容が多く
これからも拝聴しようと思います

by ヤマダ (2016-04-03 14:34) 

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