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佐藤信「キネマと怪人」(2016年西沢栄治演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原の担当になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
キネマと怪人.jpg
昔の黒テントで上演された、
佐藤信の「キネマと怪人」が、
流山児祥さんのプロデュースで再演されました。
その楽日に足を運びました。

この作品は「喜劇昭和の世界3部作」の1つとして、
1970年代に黒テントで連続上演されたものです。

第1作が「阿部定の犬」で、
第2作がこの「キネマと怪人」。
第3作が1979年の「ブランキ殺し上海の春」です。

何度も書きましたが、
僕はこの中で「阿部定の犬」だけを実際に観ていて、
それが黒テントの初体験でした。
それまでにつかこうへいの舞台などは観ていましたが、
アングラの初体験と言って良い観劇で、
非常に感銘を受けましたし、
すぐに2回目を観ました。
その個々の場面は、
今でも鮮やかに脳裏に甦ります。

その後学生劇団でも「阿部定の犬」を上演したので、
台詞も場面も殆ど暗記しているほどです。

「阿部定の犬」は、
226事件と阿部定事件を重ね合わせ、
幻想の世界で阿部定が、
切り取った男根が姿を変えた拳銃で、
昭和天皇を射殺し、
ラストでは本当に昭和が終わる、
という戯曲です。

今、昭和が終わる、と言っても、
「平成になったんでしょ」
と言われるだけですが、
当時「昭和が終わる」ということを、
劇中で実際に表現することは、
もっと戦慄的な表現であったのです。

続く第2作のこの「キネマと怪人」は、
元々は226事件と江戸川乱歩の怪人二十面相、
そして満州映画を絡めた「二月とキネマ」がオリジナルですが、
226事件は「阿部定の犬」で描かれたので、
その要素を排除して、
満州国の建国から滅亡を、
映画と絡めて描くという内容に改められました。

作品の中では満州国の皇帝溥儀によって、
昭和天皇が射殺されるのが眼目で、
ここでも川島芳子と李香蘭を合体させたような謎の女性によって、
拳銃が用意され火を吹くのです。

第3作の「ブランキ殺し上海の春」では、
ある革命家の夢として、
226事件が革命として成功し、
昭和天皇は廃位となって、
満州国に新たな政府が生まれる、
という筋立てになっています。

つまり、
この3部作では、
幻想の中で昭和が終わり、
昭和天皇が死ぬ、
という共通項があります。
黒テントが掲げる、
革命の演劇の最たるもので、
昭和の真っただ中の1970年代において、
歴史を第二次大戦に巻き戻し、
昭和をその時点で終わらせて、
「幻想の革命」を成立させよう、
という試みなのです。

この3部作の連続上演以降、
黒テントはその活動を継続はしますが、
革命の演劇という過激なニュアンスは、
次第に影を潜めるようになります。

政治的な演劇としてのアングラというのは、
おそらくこの辺りで完全に終焉したように思います。

さて、この「キネマと怪人」を、
演出西沢栄治、音楽諏訪創というコンビが、
流山児祥さんのプロデュースのもと、
小劇場での上演として新たに作り直して再演しています。
前回「阿部定の犬」も同じスタッフで上演されたのですが、
個人的には「阿部定の犬」は、
本家を観ていて思い入れが強いので、
劇場へは足を運びませんでした。

「キネマと怪人」は、
黒テント版は観ていませんし、
3部作の中では一番馴染みの薄い作品であったので、
興味を持って劇場に足を運びました。

これはかなりレベルの高い上演で、
作品の活かし方としては、
疑問に思う点はあったのですが、
オープニングからワクワクするようなハイテンションで、
若手主体のキャストに、
流山児さんのようなアングラ世代が数人混ざっている、
というバランスも良いですし、
声がしっかり出ていて、
テンションも持続されているので、
とても楽しい気分で観ることが出来ました。

音効は新たに作曲されたものですが、
作品世界にも上手く合っています。

ただ、元は3時間くらい掛けて上演された作品を、
1時間45分くらいで畳み掛けるように上演するので、
テンポは小気味よく楽しいのですが、
佐藤信さんの戯曲に特徴的な、
前半で謎めいた伏線が張り巡らされ、
それが後半になって非現実的な「儀式」の場面で、
解き明かされることによって、
カタルシスを産む、
という基本的な構図の持つ意味合いが、
ややボケてしまったようなきらいはありました。

以下、作品の内容にもう少し踏み込みます。

最初に満州国の建国から消滅までの年号が提示され、
ホテルひばりが丘では、
あらゆることが起こった、
という謎めいた言葉が音楽と共に語られます。

それから謎のホテルひばりが丘を舞台として、
物語は展開します。

まず「阿部定の犬」でご町内の3人組として登場した3人が、
映画の夢を語りながらホテルを目指していると、
同時に車に轢かれて死んでしまいます。
ジェームス・ディーンを名乗る青年が、
セレブのための石鹸の行商で、
ホテルに宿泊するのですが、
マリリン・モンローを気取った謎の金髪女性が現れ、
どうやら彼女はホテルで撮影されている、
謎の最終映画の登場人物のようです。
ホテルには明智小五郎がいて、
その助手の小林君は、
「オズの魔法使い」のライオンの扮装をしています。

ホテルの地下には謎のボイラー室があり、
そのボイラーの炎の中には、
セミの鳴く真夏の風景が広がっていて、
昭和天皇の声が旧式のラジオからいつも響いています。
最初に死んだご町内の3人組は、
ボイラー室で亡者となって働いています。

ホテルの頂上の部屋には、
腑抜けになった満州国皇帝溥儀と、
最終映画の想を練る監督、
そしてモンローのような女優と同じ浪子を名乗る、
女装の怪人がいます。

ラジオから皇帝円舞曲が流れると、
それに合わせて皇帝が踊り、
ジェームス・ディーンが襲い掛かると、
皇帝になり替わってしまいます。
軍服のマントを翻して、
怪人と共に男装の麗人が踊り、
明智小五郎は怪人二十面相を追い続け、
監督がフィルムを編集でちょん切ると、
女優の波子の胸から血が流れます。

そして、
朝には1匹の金魚が翌日には100匹になる、
という謎の言葉が発せられます。

要するに、物語に登場する、
殆ど全ての人物は、
セルロイドのフィルムに写し取られた亡者であって、
現実にはもう生きてはいない人間達です。
そこでは満州映画もハリウッドの映画も、
混ざりあってフィルムが保存されているので、
両方の登場人物が徘徊しているのです。
明智小五郎はその亡者を怪人二十面相と呼んでいます。

日本は満州国という幻想の国家を作り、
溥儀という傀儡の皇帝を置いて、
そこでアジア統一の夢を見たのですが、
それは幻想のままに消滅し、
多くの実在の日本人はその存在すら忘れてしまいました。

しかし、
そこで撮影された映画のフィルムに焼き付けられた人物や情景は、
そのままに残り、
戦後30年に積み重なって、
ホテルひばりが丘という迷宮を作り上げたのです。

壊れたボイラー室の炎は、
フィルムを焼いて燃え広がり、
それが頂上に達した時に、
漸く監督による最終映画は完成しますが、
金魚の謎は金魚を愛した溥儀の存在が、
キネマのフィルムによって再生産させることを意味していて、
炎の中で昭和天皇を溥儀が殺し、
溥儀も殺されて幕は下ります。
最後の台詞は、
これは1人の少女の孤独な死に過ぎない、
という女優の独白で終わります。

この複雑で如何にもアングラという戯曲を、
今回のプロダクションは、
小劇場の演技の方法論を身に着けた質の高い役者陣が、
途切れることのないテンションで、
疾走するように描きます。
これぞ小劇場というような、
ほれぼれとする気合いです。

僕は80年代の前半から、
流山児さんの芝居を観ていますが、
正直当時の役者陣は、
かなりムラのある芝居をしていました。
役者のレベルは、
今回の方が遥かに上だと思います。

当時はそんなことは思いもよらないことでしたが、
今滅びゆくアングラ芝居を、
部分的にせよ唯一継承しているのは、
流山児さんのところだけかも知れません。

ただ、そうした疾走感を重視したために、
物語の流れが単調になり、
クライマックスの最終映画の完成に向けて、
盛り上がるべきパートが、
そのまま流れてしまった感はありました。

昔の黒テントの芝居は、
ヴォードビル的な呼吸、
軽演劇的な呼吸があって、
迫力押しというのとはちょっと違っていました。
それが、クライマックスに至ると、
凄みのある緊張感にスイッチするのです。
力押しはラストに取っておくような感じがありました。

だからこそ、
落差があってクライマックスは見事だったのだと思うのですが、
今回の上演では、
最初から力押しで物語が展開されるので、
迫力のある反面、遊びがなく、
ラストの盛り上がりには欠ける、
という点があったように思いました。

たとえば、
溥儀が皇帝円舞曲で踊るという場面など、
初演時の劇評では、
グロテスクで不気味で、
それでいてコミカルなムードがあった、
と書かれているのですが、
そうした雰囲気のようなものは、
今回の上演では感じることは出来ませんでした。

来年は「ブランキ殺し」に挑むということなので、
この作品はより長大で、
あまり軽い要素はないので、
ちょっと同じような上演では、
気がかりな部分もあるのですが、
楽しみにして待ちたいと思います。

最後に僕の希望としては、
以前に上演して好評だった、
「鼠小僧治郎吉」のシリーズを、
是非もう一度上演して欲しいと思います。
前回は観られなかったので、
是非観たいのです。
流山児さん、よろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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