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プロトンポンプ阻害剤の有害事象(2016年時点のまとめ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
雪は大分心配したのですが、
2年前のような酷い状態ではなかったので、
少しホッとしました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
プロトンポンプ阻害剤の有害事象.jpg
今年1月のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
プロトンポンプ阻害剤という、
今最も多く使用されている胃酸抑制剤の、
副作用と有害事象をまとめた解説です。
この分野においての現時点までの知見が、
簡潔にまとめられていて参考になります。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

こちらをご覧下さい。
プロトンポンプ阻害剤の有害事象の図.jpg
最初の画像にも写っている図を拡大したもので、
これまでに報告された、
プロトンポンプ阻害剤の副作用や有害事象のリスクについての、
主な知見をまとめたものです。

プロトンポンプ阻害剤の使用により、
急性の腎障害と慢性腎臓病、
そして急性間質性腎炎の発症リスクが増加することが、
複数の疫学データの解析により報告されています。
2015年のJAMA Intern Med誌に掲載された、
10439名を13.9年経過観察した疫学データによると、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
慢性の腎臓病の発症リスクは1.5倍有意に増加していました。
また、2015年のCMAJ Open誌に掲載された、
66歳以上の290592名を解析したデータによると、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
急性の腎障害が2.52倍、
急性間質性腎炎のリスクが3.00倍、
それぞれ有意に増加していました。
これはおそらく急性間質性腎炎が急性の腎障害の原因となり、
それを繰り返すことによって、
慢性の腎障害のリスクが増加するのだと想定されます。

低マグネシウム血症は複数の重症事例の報告があり、
そのためアメリカのFDAは、
2011年にその点についての警告を出しています。
2015年のRen.Fail.誌に掲載されたメタ解析の論文では、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
低マグネシウム血症の発症リスクは1.43倍増加するという結果になっています。
FDAの警告によると、
プロトンポンプ阻害剤による低マグネシウム血症は、
使用期間が長いほど発症し易く、
マグネシウムの補充で症状は改善せず、
その改善にはプロトンポンプ阻害剤の中止が必須、
とされています。

プロトンポンプ阻害剤は胃内の殺菌力を低下させるので、
これにより胃腸の感染症のリスクが増加することが予想されます。
2012年のAm J Gastroenterol誌に掲載されたメタ解析の論文では、
39のデータを解析した結果として、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
偽膜性腸炎という難治性の細菌性腸炎の原因菌である、
クロストリジウム・デフィシル菌の感染症のリスクが1.74倍に、
その再発リスクに至っては2.5倍有意に増加した、
という結果が報告されています。
この結果を元に2015年にアメリカのFDAは、
その点についての注意喚起を行なっています。

もう1つ感染症に関して指摘があるのは、
プロトンポンプ阻害剤により肺炎のリスクが増加するのではないか、
という問題です。
これは胃内で細菌が増殖し易くなることにより、
それが逆流して誤嚥に結び付くという想定によるものです。
2011年に発表されたメタ解析の結果では、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
市中肺炎のリスクは1.34倍有意に増加しましたが、
院内肺炎のリスクの増加は確認されませんでした。
しかし、2014年に発表された同様のより規模の大きなメタ解析によると、
市中肺炎の入院リスクは有意な増加が認められていません。
この問題については、
どうも明確なリスクの増加は、
確認されていないと考えた方が良いようです。

プロトンポンプ阻害剤は抗血小板剤と併用されることが多く、
心筋梗塞などの後に頻用されている、
クロピドグレル(商品名プラビックス)との併用が、
クロピドグレルの血液濃度を低下させ、
心血管疾患のリスクを増加させるのでは、
という危惧が指摘されました。
ただ、2015年に発表されたメタ解析によると、
31の観察研究をまとめて解析した結果としては、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
心血管疾患のリスクは1.3倍増加していましたが、
4種類の介入研究という、
より精度の高い研究のみを解析すると、
そして心血管疾患リスクの増加は認められませんでした。
従って、現時点でクロピドグレルとプロトンポンプ阻害剤の併用が、
心血管疾患のリスクであるかどうかは、
明確ではありません。

プロトンポンプ阻害剤の使用により、
低酸になるとカルシウムの腸管からの吸収が低下し、
骨粗鬆症の原因となるのでは、
という危惧も以前から存在していました。
2015年のOsteoporos Int.誌に掲載されたメタ解析によると、
トータルで244109件の骨折を解析した結果として、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
トータルな骨折リスクが1.33倍、
背骨の骨折リスクが1.58倍、
大腿骨頸部骨折のリスクが1.26倍、
それぞれ有意に増加した、
という結果になっています。
この骨折リスクの増加は、
1年以内のプロトンポンプ阻害剤の短期使用においても、
認められています。

このように、
プロトンポンプ阻害剤を、
主に長期間使用することにより、
急性と慢性を含めた腎障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシルによる腸炎、
そして骨折のリスクが増加する可能性があります。

プロトンポンプ阻害剤を数ヶ月以上の長期間使用する場合には、
腎機能やマグネシウム濃度の測定を、
定期的に行なうと共に、
骨折リスクや腸管感染症のリスクが高いと想定される高齢者では、
その使用は極力控えることが望ましいと思われます。

プロトンポンプ阻害剤は、
有用性の高い薬剤であることは間違いがないのですが、
特に長期使用において、
高齢者に大きな影響を与える可能性のある、
複数の有害事象のある薬剤でもあり、
その使用は極力短期間に留めるとともに、
有害事象のチェックのための検査も、
必要に応じて行なう必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

たく

石原先生、私はびっくりしました。
私は1年半前から胃腸と膵臓の疾患で大学病院にて治療を受けているのですが、処方されている薬が消化剤、カモスタット、そしてプロトンポンプ阻害剤なのです。この三種類の薬は1年以上にわたって服用しております。そして恐らく消化剤のお陰で、膵臓の負担が減ったようである程度普通の食事が出来るようになったのですが、まだまだ回復したとは言えない状態なのでこれからもこの三種類の薬を飲み続けていくのだなと思っていたのですが、ずっと気になっていたことがあったんです。それはクレアチニンが上昇を続けていることで、2014年10月時点(治療開始時点)で0.80だったクレアチニンが2015年10月には0.90になり、同年12月には1.01まで上がって、eGFRも80から76、そして67にこの一年3ヶ月で低下したのです。先週の診察の時に主治医にクレアチニンの上昇が気になると伝えたら、じゃあ次回の診察では血液検査に加えて尿検査もやってみましょうと言われましたが、この記事を読んで、なにやらプロトンポンプ阻害剤が怪しいと思うようになりました。私は血圧も高くなく、血糖値も正常で、コレステロール、中性脂肪も基準値内だから、何故腎機能が低下していってるのか不思議だったのです。勿論まだプロトンポンプ阻害剤が犯人だと確定したわけではないですが、今は胃痛も軽減しておりますしオメプラゾールの服用を中止してみようと思います。現在はeGFR67でクレアチニンが1.01ですが、まだCKDガイドラインではG2だと思いますので、服用中止によってある程度の回復が見込めるかもしれませんし、これ以上の悪化を止められればと思います。それに加えてある程度の減塩食とウォーキングなども一応取り入れて見ようと思います。それにしても、CKDについて色々調べていたらこのブログに行き着いたのですが、本当に驚きました。次回の診察時には主治医にも上手くこのことを伝えて見ようと思います。有益な情報ありがとうございました。



by たく (2016-01-18 13:54) 

たく

石原先生、すみません。先ほどのコメントで一部数字を間違えておりました。2014年10月のクレアチニン値は0.87でした。
by たく (2016-01-18 14:00) 

AF冠者

十数年前、ピロリ菌除去を受けました。確かに胃のアクシデントは少なくなったような気がしましたが、数年後の内視鏡検査において逆流性食道炎の傾向と胃酸の分泌が普通の人より多いとの指摘からタケプロンとムコスタそれに以前からの不安神経症でのコンスタンを処方していただいておりましたが、心房細動発病を機にワーファリン服用の必要性からあるDR.の紙面にパリエットの方がいいのではないか、と書かれてオメプラゾールやタケプロンは避けた方がいいとのことでパリエットを胃の調子がおかしいときだけ服用していましたが、素人考えでも胃酸を極度にセーブするのはおかしいとムコスタかアルサルミンに替えております。
それにしても循環器科クリニックの先生にこれほど慢性化したAFの症状(例えようもない気持ちの悪さ・胸苦しさ)が出て苦しんでいるのに「気のせいだ」はお励ましとは受け取れないでおります。
by AF冠者 (2016-01-18 14:46) 

みさき(さきえ)

先生こんにちは、時々お世話になっております。
いつも 私が焦ってうまく説明出来ないこともゆっくり優しく聴いて下さり、ありがとうございます、(>_<)
最近 セレキノンもエクセラーゼもなしで食べれて すこし時間をおけば横になることもできるようになってきていました。
ただ、喉の違和感、声が出にくいなどの症状で 耳鼻咽喉科にかかり、胃酸で声帯に荒れている部分がある。(酸が上がってきた自覚症状はずっとなし)と言うことでパリエットがでました。

2日目くらいから胃もたれが始まり(ずっと胃にある感じ)
3日目は最近無かった胸痛、胸焼けが 逆に出てきました。(;_;)

パリエットで酸が減り、長く胃にとどまり 結果的に胃酸がでてしまったのか、、なんだか だんだん食べれるようになってきた矢先だったので、悲しくて怖くて、いまはたまに飲んでいたガスターにして様子を見ています(;_;) ガスターすら要らなくなっていたのに、、
記事とは症状があまり関係ないですが、PPIのことで、かきこんでしまいました。(;_;)
by みさき(さきえ) (2016-01-26 14:15) 

Otukatakeisi

プロトポンプ阻害薬が関節痛、腰痛に影響しているのではないかと心配しています
by Otukatakeisi (2017-09-10 18:04) 

Otukatakeisi

プロトポンプ阻害薬が関節痛、腰痛に影響しているのではないかと心配しています
by Otukatakeisi (2017-09-10 18:05) 

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