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たこつぼ型心筋症の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

10月1日の北品川藤クリニックの開院に向け、
今日も慌ただしい日程が続く予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
たこつぼ型心筋症の予後について.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
日本で最初に報告された原因不明の心臓疾患の、
長期予後についての論文です。

たこつぼ型心筋症(Takotsubo Cardiomyopathy)は、
1990年に日本で初めて報告され(文献は日本語です)、
その後世界的にもその存在が認知された、
特殊なタイプの心臓の病気です。

心筋梗塞を疑わせるような、
胸の痛みの発作が起こります。

心電図でもST上昇と呼ばれる、
心筋梗塞で見られるような変化が見られます。
しかし、心臓のカテーテル検査で心臓を栄養する血管の状態を見ると、
血管の高度の狭窄や閉塞などの、
急性冠症候群に見られるような血管の所見はないのです。

その代わり、
全身に血管を送り出す左心室の造影検査を行なうと、
心尖部と呼ばれる心臓の「底」の部分が、
まるで動いていない、
という特徴的な所見が認められます。

この造影所見が、
蛸壺(たこつぼ)の形に似ていることから、
たこつぼ型心筋症という特殊な名前が付いているのです。

この発作と心機能の低下は、
通常は数ヶ月以内に正常に戻ります。
ただ、急性期は心不全や重症の不整脈の発症なども、
認められることがあるので、
慎重な管理が必要となります。
動きの悪い左心室内に血の塊が出来、
急性期を過ぎた後で、
脳塞栓の原因となることもあるとされています。

基本的にはこの病気は、
予後は良いものと考えられています。

しかし、実際には長期予後についての、
信頼のおける疫学データは殆ど存在していません。

今回の研究はこの病気の基礎的な疫学データを目指したもので、
アメリカとヨーロッパにおいて、
この病気の登録を行ない、
この病気の臨床像と長期予後とを検証しています。

登録患者数は、
9カ国の25施設でトータルで1750例という、
この病気に関しては、
かつてない大規模なもので、
更には455例のこの病気の患者さんと、
同数の急性冠症候群の患者さんとを、
マッチさせた比較も行われています。

その結果…

たこつぼ型心筋症の患者さん1750例のうち、
89.8%は女性で平均年齢は66.8歳でした。
この病気はメンタルなストレスが誘因であると考えられていましたが、
今回の検討では、
精神的なストレスが誘因であったのは27.7%で、
身体的なストレスが36.0%という結果になり、
明らかな誘因の認められない患者さんも28.5%に認められました。

急性冠症候群(急性心筋梗塞とそれに近い病態)の患者さんとの比較では、
うつ病などの精神疾患を有していた患者さんが、
急性冠症候群では25.7%出会ったのに対して、
たこつぼ型心筋症では55.8%と有意に高く、
左室の機能を示す数値である躯出率は、
たこつぼ型心筋症において、
著しく低下していました。

入院中の急性期において、
死亡率はトータルで4.1%、
急性冠症候群との比較では、
急性冠症候群が5.3%に対して、
たこつぼ型心筋症が3.7%で、
統計的には両者に差はありませんでした。

そして、最長10年を超える長期予後を見ると、
たこつぼ型心筋症の患者さん総死亡のリスクは、
年間で5.6%という高率で、
心血管疾患の発症及び死亡のリスクも、
年間で9.9%に達していました。
その内訳では、
心筋梗塞の発症は非常に少なく、
脳卒中や一過性の脳虚血が年間1.7%に発症し、
たこつぼ型心筋症の再発は、
年間1.8%に発症していました。
再発は初回発作後25日より、
9.2年後まで分布していました。

興味深いことにこの病気は圧倒的に女性に多いのですが、
長期予後は男性が悪く、
男性のみの総死亡のリスクは、
年間12.9%という高率でした。

治療に関しては、
ACE阻害剤とARBの使用は、
発症後1年の予後を改善しているのに対して、
β遮断剤の使用はその予後の改善に寄与していませんでした。

今回のデータはこの病気に関する認識を一変するもので、
これまでは良性の病気で予後は良いとされていましたが、
実際には急性心筋梗塞の患者さんと比較して、
短期的な予後も長期的な予後も違いはなく、
死亡率も年間5.6%という高率です。

つまり、この病気の発作の後には、
慎重な経過観察を長期続ける必要があります。

従来ストレスによるカテコールアミンの過剰な反応が、
心臓に影響を与えるという仮説があったため、
β遮断剤は交感神経の緊張を緩めるメカニズムから、
理に適った治療と考えられていましたが、
今回の検証では有用とは言えず、
その治療を含めて、
今後の検証のたたき台となる、
貴重なデータと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ゆう

過去記事にコメントで失礼します。

昨年母が胸が苦しいと病院に担ぎ込まれ診断されました。
その際、必死になって検索して調べその際こちらのエントリーも拝見していました。
迅速な対応をしてくださったおかげですんなり改善したのですが専門家である筈の先生の判断は予後は良いとされているとのことでした。
他にも同じ論文を扱ったネット記事なども見て(とは言え専門家が書いたかどうかは怪しいものではありましたが)いましたし、心配になり先生に相談しました。
とても丁寧で優しい先生ですが
さすがに素人がネットで見た記事を詳細に説明していろいろ聞くのは失礼な気がして
そのような論文もあるようですしとやんわりと質問してみたのですが
比較的最近分かってきた病気なので長期の本当のことは分からないけれど
予後は良いとされている病気だからそんなに心配しなくても大丈夫だと。
何がどう起こるのかも分からないし確かに論文もお年寄りが多い様ですので病気の影響が健康な人とどのくらいあるのかは私には全く実感できません。
でも、やはり経過観察はしていただく必要はあるのではないかと感じています。
しかし先生としてはそれも必要ないという感覚のようです。
丁重にお願いしてせめて年に一度は検査をとお願いして了承いただいたのですが
お忙しいからなのか、それとも過度に心配していると心配してくださっているのか
問題なくもう元通りなのだと丁寧に何度も説得されました。
それでも年1回は診ていただけるようですし
何かあれば診てもらえるという繋がりがあるだけでも安心とは思うのですが
患者としてできることは他に何かあるでしょうか?
治療してくださった先生にはとても感謝しているのですが
こちらを拝見すると私たちの対応は間違っていないと思う反面
医師が大丈夫だというのに勝手に不安になって忙しい医師を煩わせているような気もしてきたりします。
慎重な経過観察といっても何をしてもらえばいいのかも分かりませんし
どちらかというと心臓よりも脳外科の方での検査をしてもらう方がいいのかとも思ったり。
よろしければできる範囲で結構ですので先生のご意見をお聞かせください。
by ゆう (2017-10-11 00:21) 

fujiki

ゆうさんへ
お母さまご心配なことと思います。
論文の内容自体はこの通りのものですが、
現状どのような経過観察をすれば、
患者さんの予後を改善出来るのか、
という明確な指針はないので、
定期的な検査をすることに、
意味があるかどうかも分からない、
というのが実際なのではないかと思います。
1年に一度診察をして頂き、
市町村の健診でも良いので、
別個に健診の機会は持って頂いた方が良いと思います。
後は心疾患と脳卒中については、
通常より起こり易い可能性を想定して、
急な体調不良やふらつき、胸苦しさなどの症状があれば、
様子を見ずにすぐに医療機関を受診する、
というくらいかと思います。
by fujiki (2017-10-11 11:34) 

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