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薬剤誘発性内臓血管性浮腫の1事例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

今日は興味深い事例の紹介と、
そのメカニズムについての話です。

実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける観点から、
一部実際とは細部を変えていることをお断りしておきます。

Aさんは40代の女性で、
39歳の時に検診で高血圧を指摘され、
その後数年は生活改善で様子を見ましたが、
下がらないので、
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
というタイプの降圧剤である、
ロサルタンカリウム(商品名ニューロタンなど)が処方されました。

使用開始1か月後に、
あまり誘因のなく、
お腹の右下が強く痛み、
嘔吐と下痢も伴いました。
熱は寒気はありませんでした。

痛みが強かったので救急病院を受診しましたが、
血液検査では白血球も炎症反応も異常なく、
盲腸は否定的でした。
医師の診察では、
お腹を押すと確かに強い痛みを訴えますが、
筋肉が固くなっているような所見はなく、
強い炎症は否定的で、
腸の動きは低下していることが示唆されました。

その時の診断は「お腹の風邪」で、
より正確にはウイルス性胃腸炎です。

対処療法で経過を見ると、
すぐにすっきりはしませんでしたが、
強い痛みは1日で治まりました。

ところが…

それからも、
同様の痛みはしばしば彼女を襲いました。

決まって熱はなく、
あまり全身症状もないのですが、
強い痛みが突然襲い、
下痢と吐き気を伴って、
1から数日間持続してから治まります。

痛みの強い時期は、
食事を摂ることも困難となり、
病院の外来で点滴をしてもらったり、
翌日によくならないような時は、
入院することもありました。

しかし、
血液検査ではいつも異常がないので、
次第に医者の態度も冷淡な感じのものになり、
「何かストレスはありませんか?」
と、露骨に精神的な原因であるかのような対応に変わります。

勿論考えれば、
悩み事の1つや2つはありましたが、
特に強い症状の引き金になるようなものではありません。

それでも症状は繰り返し起こり、
その原因は身体には見付からないので、
次第にAさんも、
これはひょっとしたら精神的なものなのではないかしら、
とそんな風にも思えて来るのです。

それで、心療内科を受診すると、
ざっと話を聞いただけで、
「それでは薬を出しておきますね」
と抗うつ剤と安定剤が3種類処方されました。

説得力のある診断根拠が説明されるのなら、
そうなのかな、と思ったかも知れませんが、
あまりに最初から決め付けたような対応なので、
Aさんはとても納得が出来ません。

それでも藁にでも縋る思いで薬を飲みましたが、
頭がボーッとして吐き気とめまいがするだけで、
我慢して2週間飲んでも、
何の変わりもなく、
2週間後に再び腹痛の発作が起こったので、
これは意味がない、と飲むのは止めてしまいました。

以前ブログで「原因不明の腹痛の話」というのを、
書いたことがあります。
これは結論的には卵巣と腸との癒着による症状だったのですが、
それを読まれたAさんは、
診療所を受診されました。

診察上お腹は少し張っていて、
腸管の蠕動は落ちている印象ですが、
はっきりとした圧痛点はなく、
筋性防御もありません。

超音波検査では、
全体に腸管のガス像が多く、
小腸の一部に消化液の貯留と壁肥厚が疑われましたが、
はっきり腸閉塞と言えるような所見ではありませんでした。

それで造影CTを撮ると、
矢張り小腸壁の肥厚が認められました。
こちらをご覧下さい。
内臓血管浮腫のCT画像.jpg
これは実際のAさんの画像ではなく、
後でご紹介する文献にあったものです。
お腹の輪切りのCT画像ですが、
画面の左上(実際には右)に、
浮腫上の小腸が見えます。
ここまでクリアではなく、
現在画像が手元にないのですが、
Aさんも同様の所見を示していました。

そこから、
ロサルタンカリウムによる内臓血管性浮腫を疑い、
血圧値を見ながら、
ロサルタンを低用量のアムロジピンに変更して、
経過を見ました。

すると、
その後発作性の腹痛の症状は、
ほぼ完全に消失しました。
ここまではっきりなくなるとは想定しませんでしたが、
実際にはロサルタン中止後、
一度も腹痛発作は出ることはありませんでした。

勿論これだけで薬剤が腹痛の原因であると、
断定出来るものではありませんが、
少なくともAさんが、
その症状から解放されたのは事実です。

それでは、
仮にこの症状が薬剤によるものだとして、
何故高血圧の治療薬により、
内臓の浮腫が生じるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
内臓血管性浮腫の文献.jpg
これは昨年の、
Journal of Community Hospital Internal Medicine Perspectives誌に、
掲載された、
薬剤性内臓血管性浮腫の総説です。

上気のCT画像もここから取ったものです。

昨日の記事でご説明しましたように、
血管性浮腫はACE阻害剤の比較的よく知られた有害事象です。

この血管性浮腫は、
顔面や頸部、上気道に起こるのが典型的ですが、
内臓、主に腸管の浮腫として生じることがあります。

この内蔵血管性浮腫は、
繰り返す吐き気と下痢を伴う腹痛が特徴で、
症状は数日以内に治まりますが、
それから何度も繰り返します。

この血管性浮腫は、
ACE阻害剤にはあっても、
ARBにはないと最近まで考えられていました。

しかし、実際にはARBの事例も複数報告されています。

それは何故でしょうか?
こちらをご覧下さい。
ARBによる血管性浮腫のメカニズムの図.jpg
これも現状は仮説ですが、
ARBで血管性浮腫の起こるメカニズムを図示したものです。

ARBはアンジオテンシン2の受容体を阻害する薬ですが、
それによりアンジオテンシン2は増加します。
するとその影響でACEは抑制されるので、
結果としてACE阻害剤と同じように、
ブラジキニンやサブスタンスPが増加して、
症状が発生する、という理屈です。

ただ、同じメカニズムが関与している筈の、
空咳の副作用は、
明らかにARBでは少ないので、
ちょっと理屈に合わない部分はあります。

いずれにしても、
ACE阻害剤は勿論のこと、
ARBにおいても、
その使用後に生じる、
原因不明で繰り返す腹痛は、
この病気の可能性を想定し、
可能であれば一旦当該薬剤を中止して、
数ヶ月の経過を見ることが望ましいと思います。
全ての事例ではなく、
症状出現時以外は明確でないこともありますが、
造影CT検査による腸管壁の肥厚は、
一定の診断能を持つことが多いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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