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インフルエンザの診療を巡るあれこれ [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

体調不良のため、
今日は小ネタでお許し下さい。

インフルエンザが昨年12月より流行しています。

先日ある医師の方が、
次のような経験を、
ネットで書かれていました。

うろ覚えなので、
実際の文面とは異なる点があると思います。
1つの架空の事案としてお読み下さい。

病院の外来に発熱の母親と小学生の男児が受診され、
問診で男児の妹さんが、
数日前に他の医院でインフルエンザと診断され、
薬を処方された、という話が聞かれます。

外来は混んでいましたし、
対応した医者は殆ど診察はせず、
「それではお母さんとお子さんもインフルエンザですね。
お薬をお出しします」
と診察を終わろうとしました。

すると、お母さんは、
「検査をしないでどうしてインフルエンザと分かるんですか?」
とやや詰問調に言います。

こうした場合の医者の対応には、
色々なパターンや考え方があると思いますが、
その医者は面倒を嫌ったので、
「分かりました。それでは検査をしますね」
と言い、
お母さんとお子さんの両方に、
鼻の奥に綿棒を入れて粘液を採取する、
インフルエンザの迅速検査を行ないました。

結果は陰性だったので、
「検査は出ませんでしたので、
インフルエンザの薬は出しませんね」
と医者が話をすると、
お母さんはそれはおかしいと言います。

「さっきは検査をしないで、
インフルエンザだから薬を出しますと言ったのに、
今は検査をして陰性だから薬は出さないというのは、
おかしいのじゃないですか?
何のために検査をしたんですか?」

その医師は結局薬を出したのか、
それとも出さなかったのかは、
はっきりしないのですが、
検査をしろと言われたからしたのに、
結果が気に入らないと、
今度は何故したのか、と言うとは、
これほど理不尽なことはない、
という趣旨のことを述べられ、
それに対して多くの医療関係者が反応されていました。

医療関係者の反応は、
概ねこの医師に同情的で、
インフルエンザの診断は確定的なものではなく、
迅速診断の検査も絶対的なものではないのだから、
医師の判断に従うべきなのに、
無理に検査を強要するような患者さんの姿勢は、
おかしい、というものです。

確かにそうした見方は出来ます。

ただ、この事例については、
最初は検査をしないで、
「インフルエンザです」と診断しているのに、
その後に検査で陰性であると、
「陰性なのでインフルエンザの薬は出しません」
と言っているので、
その論理が一貫していない、
という点については、
お母さんの指摘の方が、
的を射ているように思います。

何故こうした結果になるのかと言えば、
インフルエンザという、
極めて一般的な病気の診断と治療の手順が、
必ずしも理詰めで成立している訳ではないからです。

まず診断については、
臨床症状の経過が重要な要素で、
それに付随するものとして、
インフルエンザのワクチン接種の既往の有無や、
周辺での発生状況の情報などがあります。
それに追加するものとして、
インフルエンザの迅速診断があり、
より確定診断としては、
遺伝子検査があります。

インフルエンザの確定診断は遺伝子検査で、
海外の疫学データの多くも、
この遺伝子検査で確定した事例のみを扱っています。
しかし、日本においては、
遺伝子検査は保健所などを窓口にして、
極一部の事例に行われているだけなので、
日本の臨床では、
簡易の迅速診断が、
ほぼ確定診断として使用されています。

ただ、この迅速診断は、
一定の抗原量がないと陽性にならないので、
感度や特異度も、
施行する者の手技によっても、
かなり左右される性質の検査であるということが、
大きな問題です。

一方でたとえば家族内で感染した可能性が、
極めて高いという状況があり、
そのうちの1人がインフルエンザで確定していて、
その数日後に家族の成員が、
ほぼ同じような症状を発症したとすれば、
その事例はインフルエンザで、
ほぼ間違いないので、
迅速診断をその患者さんにする意義は、
そう大きなものではない、ということが言えます。

この臨床診断による診断は、
臨床においてはそれなりの意味を持っています。

家族内感染という条件などもそうですし、
扁桃腺の肥大を伴わない咽頭の後壁の強い発赤、
など所見もそうです。
予兆のない急な寒気や関節痛を伴う高熱、
というような症状もそうです。

臨床医としてはそれ以上に、
毎日の臨床の中で、
流行している感染症の症状が、
多くの患者さんを見ているうちに、
分かって来るので、
流行の最初は、
一般的なインフルエンザ感染のパターンで見ているのですが、
そのうちに今の流行では、
こうした症状の経過であれば、
インフルエンザの確率が高い、
ということが分かって来ます。

迅速診断が当てにならない場合のあることは事実です。

ただ、それに頼り過ぎることさえなければ、
臨床上の所見に基付く診断を、
サポートしてくれる有用な情報であることは確かです。

次に治療について考えると、
インフルエンザにはタミフルなどの、
ノイラミニダーゼ阻害剤という、
その作用もほぼ明確な治療薬があるのですが、
その有効性は自然治癒が望め、
重篤な合併症の発症リスクが少ない事例においては、
せいぜい1日程度発熱などの期間を短縮するに留まる、
という限定的なものです。

ただ、重症化の予防というような点については、
その有効性の有無に、
まだ明確に白黒は付いておらず、
重症化や合併症のリスクが高いと思われるケースでは、
より積極的な使用が、
否定をされてはいません。

つまり、ノイラミニダーゼ阻害剤の効果は、
かなりの幅を持って認識されていて、
一部の重症事例以外には、
使用する必要はない、という見解から、
重症化や合併症のリスクが想定されれば、
ある程度積極的に使用しても良いのではないか、
という見解まで存在しているのです。

ここにも1つの混乱の要因があります。

煎じ詰めれば、
インフルエンザの臨床現場におけるトラブルは、
迅速診断とノイラミニダーゼ阻害剤の使用の、
2点がそのほぼ全てで、
そこに明瞭な適応の基準がないために、
個々の診療の現場において、
患者さんと医療者との間で、
個別にある種の「一致点」を、
見出す努力が必要なのではないかと思います。
それは固定的なものではないので、
個々に設定する努力が、
患者さんと医療者の双方に必要です。

前述の事例で言えば、
最初に家族内感染の病歴が疑われた時点で、
医師は迅速診断が不必要と判断したのであって、
「無駄」と判断したのではないのです。
一方患者さんの側では、
基本的に迅速診断でインフルエンザは確定する、
という認識があるので、
それを行なう必要がない、
ということを字義通りに受け止めることは出来ないのです。
迅速診断に対する認識が、
両者で異なっているので、
そのままではトラブルの要因になります。

僕の個人的なこうした場合の対応は、
まず患者さんの診察所見をしっかりと取ることで、
病歴と診察所見からは、
これこれの病気が疑われる、
という話をまずします。

その上で、インフルエンザの迅速診断をすることの、
その時点での必要性がどのくらいかを説明します。

病状と診察所見が合致していれば、
迅速診断にはそれを少しサポートする以上の役目はないのです。
しかもそこには、
検査が診断をサポートしてくれないケースもある、
というリスクが潜んでいます。

個人的に考えるもう1つのポイントは、
インフルエンザの迅速診断が陽性であることと、
ノイラミニダーゼ阻害剤を処方することとを、
同義のものには絶対にしない、
ということです。

まず診断の確からしさを判断した上で、
ノイラミニダーゼ阻害剤を使用するという、
選択肢のあることは提示しますが、
その使用の是非は、
どちらかと言えば患者さんとご家族に、
委ねる態度を取ります。

ノイラミニダーゼ阻害剤の適応は、
明瞭に定まっているものではないので、
「この場合には処方は出来ません」
というような対応は矢張りあまり適切なものではなく、
患者さんとの間で、
理解出来る共通の1点を、
探す必要があると思うからです。

ネットの治療法などの議論は、
余白のない、白か黒か、というようなものになりがちで、
影響力のある声の大きな先生が正解を言えば、
それに追従するより他はないような空気が流れます。

ただ、インフルエンザの診療1つを取っても、
人間同士のコミュニケーションのコツのようなものが、
科学的事実以上に大きな部分があり、
末端の臨床医の1人としては、
基本的な診察の手技と情報収集という原点に返って、
それこそを患者さんにも見てもらい、
その後の検査や治療の適否に関しては、
あくまで患者さんと共同で、
個別に一致点を探す努力が、
必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

AF冠者

知人T君、インフルエンザの予注をしたのだけれど、喉の違和感で受診したところインフルエンザだはない、との診断。それでも抗生剤を含む3剤が処方された。飲まずに治った。
by AF冠者 (2015-01-06 08:58) 

オレンジ

私は抗議したお母さんの気持ちがわかります。
一言で言えば不信感です。
その不信感を打破するにはやはりお医者様からの説明が必須です。
なぜインフルエンザの検査が不要なのか、
なぜ薬が不要なのか、
インフルエンザの検査とはどういうものか
の説明があればすんなりと診察が済んだと思います。
インフルエンザの検査がそれほどあいまいなものだとは
知りませんでした。
不調後すぐに検査をしても陰性になってしまうということは知っていましたが。

そんなあいまいな結果がでるインフルエンザの簡易検査なのに、
登校や登園許可の絶対的な判断根拠となっているのには
違和感があります。
by オレンジ (2015-01-06 12:11) 

CountryBoy

明けましておめでとうございます
本年も宜しくお願い致します
by CountryBoy (2015-01-06 15:28) 

こごみ

明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします冠動脈バイバスの手術をしてから1年半たちますが、
のみ薬が減りませんこのままずっとのまなくてはいけないのでしょうか?今飲んでいるのはバイアスピリン100ミリ、ラブペラゾールNa錠10ミリアトルバスタチン錠5ミリ、ニコランマート錠5ミリ、ベニジピン塩酸えんじょう2ミリ、他に糖尿病のお薬を飲んでいますが、内科の先生は血糖値だけが高いあとはだいじょうぶですといいながらいつも同じくすりがつづいています。これでいいのでしょうか?
by こごみ (2015-01-06 22:06) 

Silvermac

お母さんは、検査して客観的な診断がほしかったのでしょう。若い母親はこういう方が多いように思います。
by Silvermac (2015-01-07 06:10) 

通りすがり

医者にこう言われたとお母さんが鵜呑みにしてると、
家族や学校やその他もろもろが、検査もせずに・・・とお母さんが医者を問い詰めたと同じことを、お母さんに向かって問いつめるんじゃないかなあと思いました。
by 通りすがり (2015-01-07 10:22) 

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