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デング熱ワクチンについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デングう熱ワクチンの臨床試験.jpg
今年の7月Lancet誌にオンライン掲載された、
デング熱のワクチンの臨床試験結果についての論文です。

今年の8月26日に最初の発表があって以降、
日本国内で蚊より感染した、
デング熱の事例が続々と報告されています。
今のところ出血熱を呈するような重症の事例の報告はありませんが、
今後出現しない、と言う保証もありません。

診療所のある渋谷区においては、
検査の窓口や提携病院が先週末より明確にされていて、
2009年の「新型」インフルエンザの時などと比較すると、
対応も早く的確であるのにちょっとほっとします。

ただ、先週初めにデング熱の患者さんを紹介した時には、
まだ態勢が明確でないので苦労しました。

現時点でデング熱に対する、
有効な治療法も有効な予防法も共に存在しない、
というのが公式な見解です。

ただ、ワクチンに関しては、
上記論文において、
第3相の臨床試験が行なわれている、
サノフィ・パスツール社の生ワクチンが、
最も臨床応用に近い位置にあります。

武田製薬の関連企業による別個の生ワクチンは、
今月のLancet Infect Dis誌にコロンビアにおいて健常成人に接種した、
第1相臨床試験の結果が論文化されています。
従って、こちらはまだ実用化は先の話になります。

デング熱のワクチンは長く実用化に至りませんでしたが、
その大きな理由はこの病気において、
「抗体依存性感染増強現象(Antibody-dependent enhancement)」という、
ちょっと特殊な病状があるからです。

デング熱のウイルスには、
1型から4型という4つの血清型が存在していますが、
このうちの1つに感染した患者さんが、
それから時間を置いて別個の血清型のウイルスに感染すると、
高率に重症化する、という特徴があるのです。

これは一種の交差免疫の作用によると考えられています。

デング熱のある型に感染すると、
人間の免疫はその型のみに反応する抗体ではなく、
別の3種類の型に対しても反応する抗体を産生するのですが、
それが充分に機能しないばかりか、
不充分な抗体があることによって、
むしろ再感染時の病状の悪化に結び付いてしまうのです。
(実際には複数の抗体が誘導され、
その一部がこうした現象に関わると考えられています)

抗体と言うのは一種の目印の働きをして、
特定の免疫細胞とウイルス抗原とを結び付け、
そこから連鎖的な反応が起こって、
ウイルスを死滅させるのですが、
この場合は有効な反応を惹起出来ないのに、
抗体でウイルスと細胞とを結び付けてしまうので、
その細胞内でウイルスは増殖して、
病状を悪化させてしまうのです。

従って、複数の血清型が流行している地域では、
デング熱の重症化は起こり易いのです。

日本で現時点で流行しているのは、
1型のみのようですが、
これが今後別の血清型が国内に侵入して、
感染が拡大するような事態になると、
別の血清型による再感染が起こり、
重症化のリスクが高くなることが想定されます。

現状で注意するべきは、
これまでに海外でデング熱に感染したか、
その可能性のある人で、
臨床においては、
そうした点の聞き取りを、
重視する必要があるように思います。

デング熱の流行地域においては、
生後半年以内では感染の事例も重症化も少なく、
生後半年から1年に掛けてが、
重症化の事例が多いということが知られています。

これはお母さんの抗体がお子さんに移行しているためで、
それが消失する時期よりも、
やや低下した時期により重症化の多いことが分かります。

つまり、抗体依存性感染増強現象は、
抗体価のやや低下した時期に起こり易いのです。

こうしたことから考えると、
デング熱のワクチンは4種の血清型全てに対して、
同時に免疫を誘導するような作用がなくてはならず、
またその4種において充分な抗体の上昇がなければ、
抗体依存性感染増強現象のリスクを高める可能性がある、
ということになるのです。

旧来の手法によるワクチン、
すなわち培養を繰り返して病原体を弱毒化したり、
病原体をバラバラにして、
特定の抗原を集めたりするワクチンでは、
この条件に合うワクチンを作ることは不可能です。

それでは、臨床応用が近いと考えられる、
サノフィ・パスツール社のワクチンは、
どのようにしてこのハードルを、
クリアしようとしているのでしょうか?

サノフィ社のワクチンは、
遺伝子操作の手法により、
4種の血清型の全ての抗原を含むキメラワクチンです。
黄熱病という同じタイプのウイルスに対するワクチンをベースとして、
そこに4種類のデング熱ウイルスの全ての血清型の抗原を、
発現させる手法によって作られた、
合成生ワクチンです。

理屈の上ではこれにより、
全ての血清型の免疫が同時に誘導されるので、
抗体依存性感染増強現象は起こらない、
ということになります。

ワクチンは半年の間隔を空けて3回、
筋肉注射で施行されます。

2012年のLancet誌に、
第2相(2b)のタイで行なわれた臨床試験の結果が発表されました。

しかし、この結果は満足の行くものではなく、
トータルなワクチンの有効率は、
33%という低率でした、

今回の第3相臨床試験は、
アジア大西洋地域の複数の地域において、
2から14歳の健康なお子さんトータル10275例を対象として、
偽のワクチンとデング熱ワクチンとに振り分け、
接種後の抗体の上昇と、
25ヶ月の観察期間中のデング熱の予防効果を検証しています。

その結果…

接種後の25ヵ月間に、
偽ワクチンでは4.1%がデング熱に罹患したのに対して、
ワクチン接種群では1.8%に抑制されていて、
トータルな予防効果は54.8%(intention to treat analysis)
と算定されました。

しかし、血清型毎の有効率を見ると、
2型では34.7%と低く、
1型は50%で、3型と4型では75%を越えています。

その一方で抗体価の測定においては、
ワクチンの接種により全ての血清型において、
充分な抗体の上昇が確認されています。

つまり、現状測定されている抗体価のみでは、
デングウイルスワクチンの効果は計れない、という、
今後に課題を残す結果となっています。

問題のワクチンによる、
抗体依存性感染増強反応の有無についてですが、
25ヶ月の経過観察においては、
明瞭な事例は報告されていません。

しかし、こうした現象は5年や10年後にも起こり得るのですから、
現時点でこのワクチンの安全性が担保された、
ということにはまだなりません。
シンプルに考えれば血清型によってかなり有効率に差があるということは、
リスクはあると考えた方が理に適っている、と言う気がします。

おそらく数年以内には、
このワクチンの臨床への使用が行なわれることになると思いますが、
色々と問題の多いワクチンであり、
デングウイルスの免疫の全てが、
解明されているという訳ではないので、
より慎重な検証が必要なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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