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桜庭一樹「私の男」 [小説]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
雨なので駒沢公園へは行けず、
朝食を摂って、今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
私の男.jpg
今まとめ読みしている桜庭一樹さんの、
直木賞受賞作で、
つい先日映画化もされた作品です。

昨日ご紹介した「赤朽葉家の伝説」とはうって変わって、
1人の男と1人の女の、
社会性無視の本当に滅茶苦茶な性愛を、
川端康成的な文体で、
妙に格調高く綴った、
ある種の怪作です。

いつもの桜庭さんの得意技ですが、
これもともかくオープニングが素晴らしくて、
詩的で格調が高いのに、
官能小説めいた胡散臭さも散りばめられていて、
一気に作品の世界に惹き付けられます。

それが視点を変えながら、
進むにつれて時間を遡る、
という構成になっていて、
24歳の主人公の女性が、
どんどん若くなって最後は小学生になります。

一種の連作短編のように読むのが適切なのかも知れませんが、
進むに連れて、
もう既に分かっていることを確認するような作業になるので、
徐々に興味が薄れて来て、
ラストはさすがに一ひねりあるのだろう、
と少し期待して読み進むと、
何のひねりもなく終わってしまうので驚きます。

これで本当に良いのでしょうか?

まあ、絶賛される方もいるので、
良いのかも知れません。

主人公の女性が24歳の第1章で、
ほぼ全ての伏線が張られているので、
充分全体の構成を吟味した上で、
書き進められたのが分かるのですが、
その割には第2章で幽霊が出たりして、
リアルさから距離を取るのかと思いの外、
幽霊のパートはそこだけで終わってしまうので、
何だかなあ、という気分になります。
その後も主人公の男女の本当の関係を、
第4章で割ってしまったりと、
わざわざ先を読む興味を減弱されるような、
逆回転の構成には疑問が残ります。

ただ、構成の下手糞な純文学として捉えれば、
これでありなのかも知れません。
志賀直哉の「暗夜行路」だって構成は目茶苦茶ですが、
オープニングを読むだけで名作ですし、
島尾敏雄の「死の刺」も、
起承転結など欠片もありませんが、
狂気の妻の情念だけで、
名作となっているからです。

この作品に描かれている執拗な情念も、
昔からある、別に目新しい素材ではないのですが、
それがここまでねちっこく描出されたことは、
おそらく日本文学史上初めてのことだと思うからです。

とても万人向けではありませんが、
良い人ぶった「赤朽葉家の伝説」よりも、
僕は桜庭さんらしくて面白く読みました。
でも、後半は結構苦痛になります。

以下ネタばれを含む感想です。
必ず読了後にお読み下さい。

母親に心理的な虐待を受けて育った男が、
親戚の年上の女性と、
まだ高校生の時に一夜限りの情事で生んだ自分の娘を、
震災孤児として自分の養女にもらいうけ、
9歳の初潮の時から、
お母さんと呼びながら凌辱することを繰り返します。
そのまま客観的に見れば娘への性的虐待なのですが、
女の方が男を虜にする魔性のようにも見え、
また「血」というものに対する、
人間の反逆のようにも思えます。
この2人が一旦出逢ってしまえば、
こうした愛欲の海に沈み、
人間であることを止めてしまうのが、
抗いようのない宿命であるかのようです。
女は2人の秘密を知り、
引き離そうとした世間の大人を殺し、
北の果ての街から東京まで逃げるのですが、
追って来た警察官を今度は男が殺します。
死んだ男が腐って行く部屋の中でも、
2人は愛し合い月日を過ごすのですが、
女が24歳で結婚すると、
男は姿を消します。

この物語を結婚式の直前から語り起こし、
視点を変えながら徐々に時間を遡って、
最後は女が9歳の時の2人の出逢いで終わります。

川端康成を思わせるような、
格調のある、それでいて何処か胡散臭さもある、
オープニングの描写からの展開が絶妙で、
北の海の情景描写がまた美しく卓越しています。
その一方、2人の絡みはひたすらねちっこく、
作品の半分は濡れ場ではないか、
と思えるほどのボリューム感です。
それも唾液を何度も相手の口に落として喜んだりするので、
僕にはちょっと苦手のジャンルです。
正直官能的というより、
時々生理的に気分が悪くなります。

プロットは緻密に構成されているのですが、
結婚式から時間を遡るという構成は、
前述のようにその効果は甚だ疑問です。

ただ、桜庭さんの初期の代表作の1つとされる、
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」でも、
最初にバラバラ事件の被害者を明示してしまう、
と言う構成が、
とても効果的とは思えなかったので、
桜庭さんと僕の感覚が、
合わないだけの話なのかも知れません。

また、犯罪事件についてのディテールも、
被害者の遺品のカメラのフィルムが、
大事な証拠の筈なのに現像されないなど、
細部がかなり杜撰に出来ていて、
犯罪物語としての側面には、
あまり力の入っていない作品になっています。

いずれにしてもかなり奇怪な作品で、
一種の官能小説を書こうとしたのか、
真面目に純文学をしようとしたのか、
ある種の悪ふざけなのか、
いささか判然としないところがあるのですが、
前半の凄みだけでも、
読む価値はある1作だとは思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 3

人力

お久し振りです。

お待ちしておりました、先生の桜庭一樹評論。
実は初期作品の「荒野」(或いは「荒野の恋)が一番素直で素晴しい。
それと「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」がやはりお薦めです。

作家はやばり完成する前が一番オイシイ。

桜庭一樹の旬は過ぎてしまいましたが、先生が取上げられた2作はやはり絶頂期ですね。特に赤朽ち葉は・・・ミステリーファンとして、強要出来るギリギリ限界かと。
by 人力 (2014-09-09 18:39) 

人力

訂正

誤) 強要出来る
正) 許容出来る


by 人力 (2014-09-09 18:56) 

fujiki

人力さんへ
コメントありがとうございます。
「荒野の恋」はなるべく前のヴァージョンで、
読んでみます。
今のところの一番の好みは、
「少女七竈…」です。
by fujiki (2014-09-10 08:27) 

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