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認知症の進行と血糖コントロールについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症の進行へのインスリンの効果.jpg
今月のLancet Diabetes-Endcrinology誌に掲載された、
認知機能の低下と糖尿病の治療との関連性についての文献です。

糖尿病のない方と比較して、
糖尿病や過血糖の患者さんでは、
1.5から2.5倍、
認知症の発症リスクが増加する、
という疫学データが存在しています。

つまり、血糖値が上昇すると、
認知症にもなり易いと考えられます。

認知症においては脳内のインスリン濃度が低下していて、
点鼻でインスリンを使用すると、
認知機能の改善が見られる、
とするデータも存在しています。

それでは、糖尿病の患者さんにおいて、
血糖コントロールを改善する治療を行なうと、
認知症の発症や進行が食い止められるのでしょうか?

認知症を糖尿病の合併症の1つとして考えるのであれば、
血糖値が限りなく正常に近付けば、
それに伴って認知症のリスクも正常に近付いて、
認知症の発症や進行が起こらないのでは、
というようにも思いますし、
糖尿病はせいぜい認知症のリスクを数倍上昇させるだけですから、
大した影響はない、というようにも考えられます。

更には糖尿病の治療の有害事象の1つとして、
低血糖があり、
重症の低血糖を繰り返すことにより、
脳にダメージが加わることはほぼ間違いのない事実なので、
治療により却って認知症が進行してしまうということも、
可能性としては否定は出来ません。

今回の研究は2012年に最初に発表された、
ORIGINと呼ばれる大規模臨床試験のデータを活用して、
インスリンによる厳格な血糖コントロールが、
その後の認知症の発症や進行に与える影響を検証したものです。

ORIGINという試験は、
2型糖尿病もしくは糖尿病予備軍の患者さんに対して、
通常の飲み薬による治療を行なった場合と、
インスリンを使用してより厳格なコントロールを行なった場合とを、
平均で7年間という長期間観察したもので、
付加的にn-3脂肪酸(EPAやDHAなど)の効果も検討しています。

その主な目的は心筋梗塞や脳卒中の発症とそれによる死亡に対する、
インスリンやn-3脂肪酸の効果を検証するというもので、
結果は残念ながらいずれの治療も明確な効果を示しませんでした。

この試験においては、
MMSEなどの認知症の診断や進行の評価のためのデータも、
同時に取られていたので、
今回の文献ではそのデータを活用して、
インスリン治療もしくはn-3脂肪酸の使用が、
認知症の発症や進行に与える影響を検討しています。

患者さんの平均年齢は63歳です。
使用された指標は1つはMMSEと呼ばれる、
質問による認知症の診断のための検査と、
DSSとかDSSTと呼ばれる、
短時間に同じ図形をどれだけ見付けられるかをチェックする、
全般的脳機能検査の1つです。
MMSEは11685名に施行され、
DSSは3392名に施行されています。
この研究に使用されたデータのみの観察期間は、
平均で6.2年となっています。

その結果…

インスリン治療やn-3脂肪酸の使用は、
未使用の場合と比較して、
観察期間中のMMSEやDSSの変化に、
有意な影響を与えませんでした。

経過の中で当然MMSEもDSSも経時的に低下していますが、
その低下は治療により抑制されることもなく、
また促進されることもありませんでした。

この試験は認知症を主眼にしたものではないので、
平均年齢は60台前半と若く、
顕性の認知症の発症は少ないので、
データとしては不充分なものだと思います。

従って、これはインスリン治療の効果を見るというよりも、
有害な影響を認知機能に与えていない、
と言う点により意義のあるものです。

インスリンによる治療は、
血糖を下げる効果が強い一方で、
低血糖のリスクも大きく、
そのため認知症の増悪の可能性も危惧されるからです。

今回のデータでは、
少なくともそうした傾向は認められてはおらず、
厳格な血糖のコントロールは、
現状では認知症のリスクを、
上げることもなければ下げることもない、
と捉えておくのが、
現状の理解としては妥当なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 7

ひでほ

おはようございます。
これからも認知症に関するデーターの紹介お願いします。
最近もとても関心があります。
by ひでほ (2014-06-19 09:05) 

モカ

石原先生こんにちは。
いつも楽しく拝読しています。

高血糖と認知症の関係ですが、その仕組みはまだよくわかっていないのでしょうか。
インシュリンの分解酵素がアミロイドβの分解も担っているので、インシュリンが増えるとアミロイドβの分解が減るという仮説を聞いたことがあります。
もしそうだったらインシュリン投与はむしろアルツハイマー型認知症を促進してしまうような気もします。

仕組みがわかるといいですね。
by モカ (2014-06-19 13:35) 

zzz

モカさんがおっしゃっているのはもしかしてNHKの某番組のことでしょうか?なんとなくですが記憶に残っていて、エーって思いました。

私的には「重症の低血糖を繰り返すことにより、脳にダメージが加わることはほぼ間違いのない事実なので、」というところが気になります。
石原先生に質問ですが、重度の低血糖と軽度の低血糖は具体的にどのくらいの数値になるのでしょうか?そして軽度の低血糖の場合はどうなんでしょう?以前ITTをを行った際、血糖値50ぐらいでもそこそこ平気だったため、主治医から「もしかして低血糖に慣れちゃってるのかも」と言われました。この程度の低血糖でも脳にダメージが来るのでしょうか。
認知症なんて一番なりたくない疾患ですから・・・。
by zzz (2014-06-20 01:07) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
認知症の予防については、
色々なことが言われていますが、
まだ確定的なものはないように思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-06-20 06:21) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
インスリンに関しては両方の話があるので、
現時点では非常に微妙で、
どちらとも言えません。
多分脳内のインスリンが過剰にあると、
病態的には促進的に働くのですが、
神経ネットワークの維持には、
インスリンが必要なこともまた事実なのだと思います。
by fujiki (2014-06-20 06:26) 

fujiki

zzzさんへ
しっかりとした根拠がありませんが、
40を切るくらいが1つの目安のように思います。
上記の文献の内容は、
インスリン注射による低血糖が、
認知症に対して悪影響を与えない、
という内容になっています。
食前に50程度になることは正常でもあり、
大きな問題はないように思います。
by fujiki (2014-06-20 06:30) 

モカ

>zzzさん

はい!その某番組です。
マスコミの情報は不正確なことが少なくないですよね。

>石原先生

まだ未解明なのですね。
今後の研究結果が楽しみです。
by モカ (2014-06-20 15:27) 

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