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たけしの家庭の医学にある情報とその根拠を考える(マイオカイン編) [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

「たけしの家庭の医学」という番組があり、
5月20日の放送で、
筋肉から出るホルモンの話が取り上げられていました。

アウトラインはこんな感じです。

消化器内科の先生が登場して、
肝臓に脂肪が溜まる脂肪肝では、
糖尿病を合併していることが多く、
そうした人では痩せていても糖尿病になることがある、
というような話をします。

そこから実は筋肉から出る脂肪を分解するホルモンがあって、
そのホルモンの出が良い人は、
肝臓の脂肪が分解されるので、
脂肪肝や糖尿病にはならないけれど、
その筋肉由来のホルモンの出が悪い人は、
脂肪が分解されずに血糖も上昇するので、
痩せていても糖尿病になってしまう、
と言うのです。

この筋肉から出る「若返り」のホルモンを、
マイオカインと呼んでいて、
これは20種類以上のホルモンの総称だ、
と言う話になります。

実はこのマイオカインを沢山出すためには、
運動することが一番有効で、
そのための運動の方法を、
今度は同じ大学の整形外科の先生がレクチャーします。

あるタレントは運動の前後で測定したマイオカインの数値が、
運動後に上昇しなかったのですが、
先生の指導による運動をしたところ、
マイオカインの数値が上昇した、
と説明されました。

まあこのような感じの内容です。

僕は実際の放映は見ていませんが、
アウトラインを読んで幾つか不思議に感じました。

マイオカイン(myokine)というのは、
筋肉から分泌されて、
他の臓器に働く物質の総称です。
意味合いは要するに筋肉から出る物質、
というだけのことです。
ホルモン産生臓器というのは、
膵臓や下垂体など、
特定のものだけと長く考えられて来たのですが、
実は脂肪細胞や筋肉も、
多くのホルモンと言って良い物質を、
刺激により分泌していることが、
近年明らかになったのです。

その中には炎症性サイトカインでもある、
IL6(インターロイキン6)なども含まれていて、
最もその中での注目株は、
アイリシン(イリシン irisin)という物質です。

IL6は炎症性のサイトカインですから、
脂肪はどちらかと言えば分解に働きますが、
基本的には別に血糖を下げる作用もなく、
むしろインスリン抵抗性は高めます。
一部で代謝に良い影響を与えるという報告もありますが、
アイリシンの発見後はあまり重要視はされていません。
研究によって結構相反する結果が見られているのです。
その一方でアイリシンは、
脂肪を溜め込む白色脂肪細胞を、
熱産生細胞で脂肪をエネルギーに変え易い、
褐色脂肪細胞様に、
変化させる作用があると考えられています。

このアイリシンを発見してその名前を付けたのが、
以下の文献の著者です。
筋肉からのイリシンと脂肪の関連論文.jpg
2012年1月のNature詩に掲載された、
世界的に注目を集めた論文がこれです。

この内容については、
過去に記事にしています。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2012-05-09
2012年の5月の記事で、
この頃にこの話題がピークで盛り上がったのです。
でも、僕の記事に対しては、
殆ど反応はありませんでした。

アイリシンはマイオカインの1つです。

ただ、番組では20数種類のマイオカインがある、
と説明されていましたが、
運動すなわち筋肉の収縮によって、
その分泌が刺激されるのはそのうちのごく僅かで、
しかも、脂肪細胞と明確な関連があり、
糖尿病などの抑止効果があるのでは、
という報告があるのは、
アイリシンなど数種類に過ぎません。

番組での「若返りホルモン」というような主張は、
主にこのアイリシンのことを指していると思われますが、
わざわざそれを明瞭には示していません。
(ただ、番組に出て来た先生の、
認知症や骨粗鬆症に効く、と言うような話は、
古いIL6の知見を意識したようにも思えます。)

タレントのマイオカイン濃度を測定したという部分がありますが、
それは一体何を測っているのでしょうか?

マイオカインというのは様々な物質の総称ですから、
それに特定の濃度が存在する筈はありません。

従って、アイリシンの濃度を測っているのか、
それともアイリシンが発見される前は、
マイオカインの代表として測定されることの多かった、
IL6を測っているのかも知れません。

数値的には2.5pgとかと書かれていて、
それほどの上昇が運動後も見られていないので、
これはおそらくアイリシンではなく、
IL6を測っているだけのように思います。
通常アイリシンの測定はng/mLオーダーになるからです。

こう考えてみると、
何故アイリシンというホルモンが発見され注目されているにも関わらず、
敢えてそれには触れず、
マイオカインという1990年代から使われている、
漠然として言い方をしているのかの裏が透けて見えて来ます。

それは実際にはアイリシンを測定していないからなのです。

運動前後のIL6の濃度を測って、
それで身体の若返り云々を議論するとは、
臍が茶を沸かすような酷い話ですが、
こうした番組を制作する方には、
馬鹿を騙すにはこの程度でいいだろう、
というくらいの認識しかないのかも知れません。

そもそもこの番組におけるマイオカインと言う言葉は、
非常に取って付けたような響きがあります。

それで、登場する某九州地方の大学の先生の業績を見てみると、
最初の消化器内科の先生は、
脂肪肝の栄養療法などがご専門で、
PubMedなどで検索しても、
日本の文献や学会報告を検索しても、
マイオカインのマの字も出て来ません。

次に登場する整形外科の先生は、
ハイブリッドエクササイズなどと称される、
オリジナルの運動療法や、電気刺激による筋肉の維持向上、
などがご専門のようで、
これまた文献検索をしても、
マイオカインやアイリシンとはあまり関係はなさそうです。

推測するに、
製作サイドでマイオカインを「若返りホルモン」として、
扇情的に紹介したい、
と言う意図があり、
協力してくれそうな目立ちたがりの「専門家」を探したものの、
あまり良いターゲットが見付からなかったので、
2人のあまり関連のない専門家を、
強引にマイオカインに結び付けて、
こうした番組をでっち上げたのではないでしょうか?

運動により筋肉から分泌される物質が、
肝臓や脂肪細胞に影響して、
身体の代謝のバランスを取るような仕組みが、
存在することは確かです。

しかし、個々の物質の役割には、
まだ不明の点が多く、
単純に1つの物質が「若返りホルモン」で、
上手く運動すればその効果で糖尿病にもならないで済む、
というような面白話が証明されている訳ではありません。

こういうものがあたかも事実であるかのように拡散され、
無批判にネットなどで引用され拡大されてゆくのは、
甚だしく有害なことのように、
僕には思えます。

そもそもの本丸であるアイリシンについても、
まだその「善玉ホルモン」としての作用には、
疑義が呈せられています。

こちらをご覧下さい。
イリシンについての懐疑レビュー.jpg
今年のJournal of Endocrinology誌のレビューですが、
これまでのアイリシンについての文献をまとめ、
その内容を批判的に検証したものです。

最初のNature誌の論文では、
ネズミに運動をさせることにより、
著明にアイリシンは上昇し、
白色細胞が褐色細胞様の変化を示し、
アイリシンを注射することにより、
肥満のネズミは正常に戻っています。
人間においても同様の結論が示唆されています。

しかし、その後の多くの追試においては、
あまり明瞭な結果が確認されていません。
アイリシンの運動による上昇幅も、
最初の論文よりずっと少ないものに留まっていますし、
何より白色細胞の褐色細胞様変化という、
根幹の部分が明瞭に証明されません。
そうした変化があるとしても、
人間においてはどうやら極一部の脂肪細胞のみに、
起こる変化なのではないか、
というような推論が現状の考えのようです。

アイリシン測定用のキットは既に複数販売されているので、
それをジャンジャン測って病気と結び付けるような論文が、
これも山のように発表されていますが、
上記レビューによれば、
そもそもアイリシンと称して測られている物質が、
均質のものであるという根拠が乏しく、
その数値もキット毎に安定していないので、
現状でのデータの信頼性は低いと記載されています。

Natureの論文は、
オボカタ的と断定するのは失礼ですが、
割烹着程度のお化粧は、
施されていた可能性が濃厚なのです。
「若返りホルモン」というような話は、
夢物語に終わりそうです。

マイオカインは非常に魅力的ですが、
まだそのうちのどの物質が、
どのような影響を身体に及ぼしているのかの研究は、
道半ばなのであり、
現時点で一部の知見を針小棒大に取り上げ、
多くの一般の方に刷り込むような番組作りは、
大概にして頂きたいなと思いますし、
仮にも最高学府の教授様は、
もう少し慎重に出演される番組は選んで頂きたいな、
と思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

いつもの追伸です。
5月15日よりブログ内容を元にした書籍が発売中です。
「たけしの家庭の医学」の記事や本を読んで、
なるほどためになるな、と思われた方は、
是非ちょこっと読み比べて頂ければと思います。

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kenrin

こんばんは。実は私はたけしの健康番組の被害者?なのです。2~3年前、50肩の予防には入浴中に腕を回すとよいと放送していたので、早速その夜、入浴した際に試してみたら、カキッと音がして、左肩を傷めました。どうしても痛みが引かず、今もまだ整形外科で理学療法を受けています。素人があたかも医師になったような態度で司会をするのは、放送コードに抵触するのではないでしょうか。
by kenrin (2014-05-27 23:43) 

fujiki

kenrinさんへ
コメントありがとうございます。
それは災難でしたね。
現実に非常に影響力が大きいので、
もう少し慎重に内容を吟味して頂ければな、
というようには思います。
by fujiki (2014-05-28 06:17) 

aki

こんにちは。
突然、申し訳ございません。

COPDとアイリシンの関係を調べていてこちらのサイトにたどり着きました。

大阪私立大学の先生の研究によると、アイリシンは痩せるというだけではなく、COPDの予防・治療に寄与する可能性とのことです。

(2017年03月06日掲載のレポートがこちらです)
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2016/170306


ただ、先生もご指摘されているように、このアイリシンの測定方法に問題があると指摘する他の先生もいるようです。

「今回の研究で、イリシンの血中濃度を測定するために大部分の研究で用いられていたELISA(enzyme linked immunosorbent assay)という検査技法を用いる(簡易的な)測定キットの抗体に欠陥のあることが明らかになったのです。 その欠陥とは、イリシンではないタンパク質をイリシンだと判定してしまうというものです。

したがって例えば、「運動によってイリシンの血中量が増える」という研究でも、それがELISAを用いてイリシン血中濃度の測定が行われたのであれば、運動によって増えていたのはイリシン以外のタンパク質だったということになります。」

http://kenkounews.rotala-wallichii.com/irisin_myth_elisa/

アイリシンの検出方法は、現在(2017年)、確立されているのでしょうか?
もし、ご存知でしたら教えていただけましたらと思います。
よろしくお願いいたします。


by aki (2017-05-11 14:32) 

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