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藝術という物語をどう考えるか? [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。

今日は雑談です。

Sさんという、
耳のご不自由な20代でロックバンドを結成していた方が、
全くの独学でクラシックの作曲を始め、
ゲーム音楽を手始めに本格的な交響曲を作曲して、
各界の絶賛を浴び、
多くの方がその曲に感動を覚え、
現代のベートーベンともてはやされました。

テレビ局はスペシャル番組を作成し、
それによるとSさんはテレビのスピーカーに手を当てたり、
バイオリンの絃に触るだけでその音色を感じ取り、
全く音を聞くことが出来ないのにも関わらず、
純粋に頭の中だけで五線譜に音楽を組立て、
それを一種の秘儀のように、
1人だけの秘密の時間に譜面化するのだそうです。

こうしたことが本当にあるのであれば、
奇跡のような素晴らしい物語ですが、
その後発覚したことによれば、
Sさんの作品は殆どが現代音楽の作曲家の代作で、
聴力の低下についても、
少なくとも完全に聞こえないという状態では、
ない可能性が高いということのようです。

この話題は多くの有識者の方が、
その方なりのコメントを発表していますし、
暴露のきっかけとなった週刊文春の取材を行なった、
神山さんというジャーナリストの方は、
僕の大学の先輩で以前一緒に演劇の舞台に立ったこともあるのですが、
大変きっちりとした取材をされる方なので、
おそらくは本も出るのだと思いますし、
今はまだ情報が錯綜していますが、
周辺の取材なども緻密にされているのだと思います。

つまり、真相はかなりの部分まで、
今後明らかになる可能性が高いと思います。

ですから、僕が何かを言ったところで、
別にさしたる意味はないのですが、
非常に興味深い話なので、
僕なりの感想をまとめておきたいと思います。

まずこの問題の医療的な側面についてですが、
代理人の如何にもなお顔をされた弁護士の方が、
障害者手帳を持っているので難聴は間違いがない、
というお話をされていましたが、
難聴には心因性の難聴も結構あるのですから、
ある程度は器質的な障害がないかどうかを、
検査する方法はあるものの、
基本的には本人が聞こえないと強く一貫して主張をされれば、
手帳が交付されるケースは実際にはあるように思います。

ご本人の映像を見ると、
非常にスムースにお話をされていて、
完全に聴力を喪失して時間が経っている状態で、
あれだけ自信を持ってよどみなく話すということは、
困難ではないかと感じました。
人間は常に自分で発した声を自分で聴き、
それを再度インプットしながら声を出しているので、
自分の発した声が全く聞こえない状況では、
話は出来ても、
よどみなく会話する、ということは、
困難であるように思えるからです。

次にこの問題の藝術的な側面についてです。

Sさんが作曲したとされた交響曲を多くの専門家が絶賛され、
日本のクラシックの金字塔のように語られました。
一般の方の多くもこの曲に感動して涙を流し、
被ばく体験というテーマ性にも感銘を受けました。

しかし実際には、
その交響曲は現代音楽の作曲家で音楽大学の先生の手になるもので、
昔の交響曲のある種パロディ的なものとして創作され、
そこに大仰なテーマが、
プロデューサーたるSさんの手で付け加えられたものでした。

このことが発覚してから、
多くの方が「騙された」と感じ、
絶賛した専門家は口をつぐみ、
それまでSさんに関心のなかった方は、
こんな詐欺に引っ掛かった奴は馬鹿だと、
ここぞとばかりに発言しています。

しかし、この資本主義社会における藝術というのは、
こうしたものではないでしょうか?

感動というのは、要するに物語から生まれるものです。
純粋の音楽という音の配列のみで、
感動したり泣いたりすることが、
勿論ない訳ではありませんが、
それは概ねパーソナルなもので、
普遍性を持つものではありません。

藝術はそれ自体では感動を生まないのです。

感動というのはある種の集団催眠のようなもので、
今回の事例で言えば、
被ばく者としての苦悩と、耳が聞こえず、
常に耳鳴りなどの症状に苦しめられながら、
神の啓示のようなものを受けて、
音楽と格闘する、という物語を、
マーラーのパロディの音楽の中に、
皆が感じたからこそ生まれたものです。

僕は個人的にはこうした物語が大嫌いで、
ですからSさんのことには今回のことがあるまで、
全く興味はありませんでした。
集団で感動する、という感覚自体に興味がないからです。

ただ、現代の藝術というのはそうしたものであることは事実で、
内容よりもその提示する物語の方に、
より大きな「売り物」としての意味があるのです。

藝術を商品として扱うクリエーターや音楽家の多くが、
何となくSさんに擁護的になるのは、
そのせいではないかと思います。

マスメディアの方の追及も何となく及び腰になるのは、
自分達が常にしていることを、
Sさんが代わりにやっているだけだということに、
無自覚ではいられないからだと思います。

つまり、
お金を生んだのは、
被ばく者で聴力を失った主人公が、
耳鳴りなどの症状に苦悩しながら、
独学でクラシックの大作を完成させる、
という物語の方にあるのです。

そして、この資本主義の社会では、
全ての価値はお金で換算されるものなのですから、
この交響曲と言うものの価値は、
その多くがSさんの構築した物語の持つ感動性にあるのであって、
マーラーのパロディ交響曲にあるのではないのです。

問題は一点のみ、
皆が集団催眠に掛かって、
それが事実であると信じなければ成立しない物語が、
実際には虚構であったことにありました。

冷静に考えれば、
何の音楽的素養もなく、
ロック歌手を志望していた若者が、
独学で専門家も驚嘆するような交響曲を作曲し、
独力で完璧に譜面に残す、
と言うこと自体が、
まともに信じられるような物語ではありません。

しかし、それを簡単に信じてしまうのが、
常に感動したいと願う、
人間の業のようなものなのかも知れません。

人間の本質とは何でしょうか?

昔のSFに、異星でエイリアンに捕えられた地球人が、
自分達が知的生命体であることを、
証明しようと苦労する、と言う物語がありました。

言葉は勿論通じませんから、
何かの行為で自分達が知的な存在であることを表現しないとならないのです。

その物語のオチは、
捕えられた地球人が別の小生物を檻に入れて飼い始めると、
それでエイリアンに解放される、というものでした。

要するに、他の動物をペットにするのが、
知的生命体の特徴だ、と言うのです。

その考え方でいくと、
人間の特徴は他の人間を騙すことにある、
というように僕は思います。

嘘を吐き騙すことこそ人間の本性で、
それは悪事であると同時に、
社会を円滑に廻すための知恵でもあり、
人間が生きるために必要な、
物語を形成する源泉でもあるのです。

人間は物語という虚構を信じなければ、
生きている意味という虚構を信じることも出来ず、
生きることが困難となる生き物だからです。

Sさんの行為が何となく胸騒ぎのようなものを、
僕達の心に湧き起こすのは、
人間の本質がそうした騙しにあり、
それを表面的には否定しながらも、
詐欺師の物語によってしか、
心底感動することが出来ない僕達の限界を、
思い知らされるからかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 4

ルーシー

石原さん、こんばんは。
医療の話や小説の話をいつも興味深く読んでいます。
私も有川浩が好きです。
最近は梓崎優に注目しています。
「叫びと祈り」は秀逸です。

実は一つご相談があります。
私は50歳女性で、橋本病でチラーヂンを服用しています。
2,3日前から喉が腫れているような、
物を飲み込む時にしっかりごっくんとできない感じがあります。
病院で調べてもらうべきでしょうか?
その場合何科に行けばいいでしょうか?
今チラーヂンを処方してもらっているのは、
近所の消化器内科です。
胃炎の検査の時、甲状腺の大きさに気づいてくれて血液検査で橋本病と診断されました。
超音波などの検査はしていません。
お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願い申し上げます。
by ルーシー (2014-02-11 21:05) 

fujiki

ルーシーさんへ
症状自体はお風邪など、
甲状腺とは関連のない可能性もあると思います。
ただ、甲状腺腫があって、
超音波検査をされていないとすれば、
一度はして頂いた方が良いように思います。
内分泌内科でご相談されるか、
内分泌に詳しい先生にご相談されるのが良いかも知れません。
また、消化器内科の先生に、
超音波検査など、
一度甲状腺の精密検査をしたいのでとお話して、
ご紹介を頂くのも1つの考えです。
私の立場としては、
最後の選択肢をお薦めします。
by fujiki (2014-02-11 21:21) 

恵子

こんにちは。
石原先生による、この騒動についての見解を、心待ちにしておりました

詐欺師がこしらえた虚構の物語よりも、明らかになった真実の物語のほうが数百倍興味深いですね
新たな物語を得たこの交響曲、まだ録画機に残っているので、改めて2回聴きました
自分の好みの曲ではありませんが、ところどころに素晴らしい部分があります

私は人間という生き物が嫌いでたまりません (まさに石原先生がおっしゃる「他人を騙す性質」なんか特に。)
こういう生き物が誕生したことは不幸だと思います

ゴーストライターという仕組み自体、何か感覚的に受け付けられません
正直に、書いた人本人の名前を明記してほしいです
芸術性の高い優れた作品が売れず、軽い流行歌が大ヒットするというのも、おかしいし納得がいきません
そのような世の中であるということが残念だし、
このことに限らず、人間が作って現にそうなってしまっているこの社会の現象や仕組みに、失望しています
by 恵子 (2014-02-11 23:44) 

ルーシー

アドバイスありがとうございました。
次に薬をもらいに行った時に病院で相談することにします。

私は以前出版業界で働いていました。
そこではゴーストライターは当たり前の世界でした。
著者の名前によって売れる売れないが決まるのは
しようがないと思っていました。
今回の騒動で、実際に作曲していた人がどうなるのか気になります。本人は共犯者と言っていますが
交響曲を作曲できる、しかも物語の支え付きとはいえ
それなりの評価されたものを生み出したのですから、
今後も音楽に携わっていけるといいけど。
きっと難しいでしようね。
by ルーシー (2014-02-12 16:32) 

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