So-net無料ブログ作成
検索選択

シスタチンCとクレアチニンによる腎機能の評価について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
シスタチンCとクレアチニンの比較.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
腎機能の2つの評価法を比較して検討した論文です。

近年CKD(慢性腎臓病)という概念があり、
その基本となる、
腎機能の評価の指標として、
eGFR(推算糸球体濾過量)という検査値が、
広く使用されています。

糸球体というのは、
腎臓にあって血液を濾しておしっこの原液にする、
濾紙のような働きをしている所です。
そこを一定時間に通過する血液の量が、
作り出せるおしっこの量を表し、
腎臓の働きが低下すれば、
当然作ることの出来るおしっこの量が減るのですから、
これを腎機能の指標にしているのです。

僕が大学にいた頃には、
腎機能の指標は、
もっぱらクレアチニンクリアランス、
という数値が使用されていました。

これは一定時間に腎臓を通過する、
クレアチニンという物質の量を、
糸球体の濾過量に近似したもので、
クレアチニンという物質は、
筋肉の中にある物質の排泄型ですが、
これは糸球体で濾過されると、
ほぼそのまま100%排泄されるので、
血液のクレアチニンの濃度とおしっこのクレアチニンの濃度、
そして単位時間当たりのおしっこの量が算定されれば、
そこからクレアチニンクリアランスという、
糸球体濾過量に近い数値が、
計算されるのです。

腎機能が一定レベル以上低下すると、
排泄されるクレアチニンの量が減るので、
血液のクレアチニンの濃度は上昇します。

従って、
腎臓の機能の低下の指標としては、
簡便には血液のクレアチニンの数値が使用され、
より正確には、
1日のおしっこの全体量や1時間の尿量を測定して、
クレアチニンクリアランスが測定される、
というのが一般的な考え方でした。

ところが、
クレアチニンは腎機能がある程度以上低下しないと、
血液では上昇はせず、
筋肉由来の成分なので、
身体の筋肉の量に左右される、
という欠点があります。

また、
クレアチニンクリアランスは、
その測定が面倒である上に、
正確な尿量が測られないケースが多く、
次第にその臨床における必要性が、
疑問視されるようになりました。

特にCKDという概念がアメリカで導入されると、
「慢性の腎臓病の早期診断」が重要視され、
かつ簡便にスクリーニング出来ることが、
必須と考えられるようになります。

その目的には血液のクレアチニンも、
クレアチニンクリアランスも、
適切な検査とは言えないのです。

そこで導入されたのが、
被験者の性差と年齢、そして血液のクレアチニン濃度から、
簡易的に糸球体濾過量を算定する、
という方法です。
これをeGFRと呼んでいます。

この指標はCKDの提唱国アメリカで始まったものですが、
クレアチニン濃度と糸球体濾過量との関連には、
人種差が存在するため、
そのまま日本人に適応は出来ません。

日本の腎臓学会が日本人用の算定式を作成し、
2006年頃からは、
保険適応からもクレアチニンクリアランスは姿を消して、
eGFRによる腎機能の推定が、
日本でも行われるようになりました。

これは計算式は結構複雑なので、
早見表があり、
それを見て推定することになっています。

しかし、
先刻も触れましたように、
クレアチニンを使用する推定法には、
幾つかの問題があります。

その第一はこの数値は身体の筋肉量に影響を受けるので、
うんと痩せた患者さんや筋肉量の少ない高齢者などでは、
正確な値が出ない、
という可能性があります。
つまり見掛け上少ない値が出てしまうので、
腎機能の低下していない患者さんを、
CKDと診断してしまう可能性があるのです。

実際この基準が導入されたアメリカでも、
導入以降腎臓内科の専門医に、
紹介される患者さんは急増しましたが、
透析の患者さんや心臓の発作を起こす患者さんは、
その後も一向に減っていない、
という報告が挙がっています。

その一方で、
早期の腎機能低下は、
クレアチニンを使用した測定では、
診断はされ難い、
という報告もあります。

クレアチニンの上昇は、
ある程度以上腎機能が低下しないと起こらないので、
本当の意味での早期診断には不向きなのです。

その欠点を補完するために、
現行のCKDの診断では、
おしっこに出るアルブミンという蛋白の排泄量を、
おしっこのクレアチニンで換算した値を、
もう1つの指標にしています。

アルブミンはその大きさから、
正常な糸球体の「濾紙」は通過しないのですが、
腎臓に炎症が起こったりして、
濾紙の機能に障害が起こると、
漏れてはいけないアルブミンが漏れ出て、
おしっこに検出される、
という原理です。

全ての腎機能の低下で、
その初期からアルブミンがおしっこに検出される、
という訳ではありません。

しかし、
アルブミンが検出されれば、
たとえeGFRの数値は正常であっても、
CKDの初期であると判断されますし、
初期からアルブミンが検出されるケースでは、
そのまま放置すれば、
腎機能の低下のペースは速く、その予後も悪い、
ということが分かっています。

従って、
この2つの指標を組み合わせることにより、
CKDの予後をかなり推測することが可能となるのです。

ただ、
それでも問題は残ります。

たとえば、
おしっこにアルブミンは検出されないのに、
eGFRの数値は低い場合。
おしっこに蛋白の出ないタイプの腎臓病であるのか、
何らかの要因でeGFRの測定自体が不正確になっているのかは、
俄かに判断が付きません。

そこで、
クレアチニン以外に、
もっと糸球体の濾過量の推定に使える検査値はないか、
ということになり、
最近注目されているのが、
シスタチンCという数値です。

シスタチンCというのは、
アルブミンなどより大きさの小さな蛋白質で、
糸球体の「濾紙」を通過する性質を持ち、
その後尿細管という部分で再び血液に戻り分解されます。
このシスタチンCは全ての細胞で産生されるので、
クレアチニンのように筋肉の量で左右されません。
糸球体の濾過量が低下すると、
シスタチンCは排泄が抑えられ、
血液に溜まります。
クレアチニンのように、
おしっこに出るのではないので、
より鋭敏に腎機能を反映し、
ごく初期の腎機能低下でも
血液濃度が増加する、
と考えられています。

このシスタチンCをクレアチニンの代わりに使用しよう、
という考え方があり、
その換算式も考案されています。
ただ、血液のシスタチンC濃度は、
甲状腺機能亢進症で増加したり、
ステロイド使用や喫煙、肥満などでも、
増加するという報告があるなど、
その数値の信頼性には、
まだ不確かな部分を多く残しています。

またクレアチニンによる腎機能の評価と、
シスタチンCによる腎機能の評価とを、
どのように両立させるのか、というような点についても、
明確なコンセンサスが得られていません。

今回の文献においては、
これまでの疫学研究のデータをまとめて解析して、
患者さんの腎機能を、
クレアチニンで解析して重症度を判別した場合と、
シスタチンCで解析して判別した場合、
そして両者を併用して解析した場合の3通りを測定して、
その違いを検証しています。

その結果…

通常慢性腎臓病と言う場合には、
eGFRという数値が、
60mL/min/1.73㎡未満であることを、
1つの指標にしていますが、
一般集団9万例余の検討では、
シスタチンCによる換算を用いると、
その比率は13.7%であるのに対して、
クレアチニンによる換算では、
その比率は9.7%になりました。

つまり、
シスタチンCを用いた方が、
病気と判断される患者さんは増えることになります。

これは主に痩せている人において、
筋肉量が少ないとクレアチニンによる換算は、
実際より高く出ることになるので、
腎機能の低下を見落としてしまう結果になるからだと、
考えられます。

ただし、
クレアチニンでの換算のeGFRの数値が、
45~59という軽度の腎障害の患者さんを、
シスタチンCで再換算すると、
そのうちの42%の患者さんは、
eGFRは60以上になりました。

つまり、
軽度の腎障害の患者さんで、
特に筋肉量の多い人では、
クレアチニンでの換算値は、
過剰診断になっている可能性が少なからずある、
ということになるのです。

このように状況に応じて、
クレアチニンとシスタチンCの換算式を、
適宜組み合わせて使用することが、
より適切な慢性腎臓病の診断と治療に、
結び付くことは間違いがなさそうですが、
以前の文献においては、
シスタチンCの使用を追加しても、
あまり診断の正確さには結び付かなかった、
というようなデータもあり、
まだこの問題に結論を出すのは時期尚早のようです。

またこのデータは、
白人と黒人が主体となっていて、
アジア人にこの結果を、
そのまま当て嵌めることは出来ません。

従って、
現行シスタチンCの測定は、
健康保険の範囲内でも可能ですが、
それをどう活用するのかの判断が、
難しいところです。

個人的には、
おしっこにアルブミンが出ているのに、
換算したGFRが正常である時と、
おしっこにはアルブミンが出ていないのに、
GFRだけが計算上低下している場合には、
補助診断として、
シスタチンCを追加することが、
有用なのではないかと考えて、
実施はしています。

今後日本においても、
この問題についての大規模な疫学研究の実施を、
期待したいと思いますが、
日本の研究環境では無理かも知れません。
その場合は矢張り中国様の研究を、
待つしかないのかも知れませんね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(30)  コメント(9)  トラックバック(0) 

nice! 30

コメント 9

モカ

石原先生こんにちは。
今回もものすごく勉強になりました。

初期の腎機能障害をシスタチンCで見つけられるかどうかは以前から興味がありました。
(2年半前に自分でも測ってみたところ正常でした)

この論文によると、シスタチンCも指標にはなるが、クレアチニンや尿中アルブミンもやはり大切なのですね。

ありがとうございます。
これからもよろしくおねがいいたします。
by モカ (2013-09-11 10:29) 

今野祥山

何時もお世話になっています。
去年の人間ドックで腎臓機能低下度がレベル3と説明を受けクレアチニンの値をこれ以上にあげないようにと、減塩と降圧剤の投薬を続けていますが、日ごろからかなり健康的な生活をしているだけに、何が原因でそうなるのか。高齢になれば目や歯も若い時と同じはずがなく腎臓も歳相当に機能ダウンしても当たり前のようにも思いますが、やたら透析になったら大変ですよと言われると気が滅入りますが、レベル3の段階では身体的な症状は何か出るものなのでしょうか。

by 今野祥山 (2013-09-11 16:43) 

fujiki

モカさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
日本の場合シスタチンCの正常値はありますが、
eGFRの換算式が出来ていないことが、
現時点で一番の問題のような気がします。
by fujiki (2013-09-13 08:18) 

fujiki

今野祥山さんへ
通常は症状はあまりないと思います。
主に急速な悪化の原因になるのは、
急性の病気や脱水などの影響ですから、
体調管理に気を付けて頂くのが、
最善のように思います。
by fujiki (2013-09-13 08:23) 

こてっちゃん

初めまして、自分のクレアチニン値が心配でこの記事にたどり着きました。
ずいぶんと前の記事にコメントするので申し訳ありませんが、
もし可能でしたらコメントいただければと思います。

32歳の男で9月に受けた健康診断のクレアチニン値が1.00(基準値上限1.04)でギリギリでした。
尿蛋白は(-)で、検診上は問題なしと判断されています。
173センチで60キロと身長の割にはやせ気味ですが、体脂肪率10%強です。
暑い時期で喉もかなり乾いた状態で採血しました。
筋肉量や脱水にクレアチニン値は影響されるようなのですが、ギリギリの数値だったため、シスタチンCも測ったほうがいいのかなとちょっと迷っています。
by こてっちゃん (2015-01-08 01:00) 

fujiki

こてっちゃんさんへ
一度シスタチンCを測ることは、
意義があると思います。
by fujiki (2015-01-08 08:15) 

あるく

はじめまして。
シスタチンCについて教えて頂けますと幸いです。

IgA腎症のため、現在定期的に検査を受けています。
普段は腎機能を見るのにクレアチニンを測定していました。0.85~0.95で、eGFRは51~56くらいです。
先日、試しにシスタチンCも測ってみようとのことで、検査したところ、シスタチンの値は0.68、シスタチンeGFRは112.5でした。
eGFRの数値があまりにも違い過ぎ、それぞれの結果をどう受け取ってよいのか分からなくなってしまいました。
担当医からは、「シスタチンCは筋肉量の影響を受けない物ではあるけれど…○○さん、そんなに筋肉質?」と言われました。
確かに、同年齢の女性と比べると、少しは筋肉質な方(昔から筋肉は付きやすい方ではあります)ですが、今は身長155cm、体重47kg、体脂肪率は23%程度なので、そこまでがっちりしている訳でもないと思います。
こういった場合、どちらの数値を信用すれば良いのでしょうか。
 
また、採血をした時、タリオンというアレルギー薬を飲んでいました。
こういったものの影響でシスタチンCの数値が実際よりも低く出たのではないかなど、色々と考えてしまいます。

お忙しい所を大変申し訳ございませんが、ご回答を頂けますと幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
by あるく (2017-08-01 18:07) 

fujiki

あるくさんへ
以下は一般的見解ではなく、
私の個人的な意見としてお読み頂きたいのですが、
軽度の腎機能低下でも上昇するのがシスタチンCの特徴ですので、
それが正常範囲であるという時点で、
腎機能の低下はあるとしても軽度である、
というように考えて頂いて良いと思います。
換算式についてはまだ参考値として判断した方が良いと思います。
従って、基本的にはクレアチニンによる換算を基本として、
考えて頂いた方が良いと思いますが、
筋肉量に影響する数値であるため、
換算値より実際の糸球体濾過量は、
もう少し高いと考えて頂いて良いと思います。
いすれにしても今後経過を見て、
同じ測定値の推移を見ることの方が意味があると思いますので、
現状はそれぞれの換算式は、
別物として考えて頂いた方が良いように思います。
by fujiki (2017-08-01 18:43) 

あるく

ご回答をどうもありがとうございます。
クレアチニンを基準に捉えていこうと思います。
スッキリしました。
by あるく (2017-08-03 10:43) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

メッセージを送る