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ワルファリンとビタミンKについての誤解を解く [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ビタミンKの摂取とワルファリンの効果論文.jpg
Thrombosis and Haemostasisというマイナーな医学誌に、
2010年に掲載された韓国の研究者による論文です。

ビタミンKの摂取量と、
抗凝固剤のワルファリンの効果との関連性を見たものですが、
多くの方が誤解している内容を解き明かした、
目から鱗の部分があります。

ワルファリンは、
今でこそダビガトランなど代わり得る新薬が多く発売されたために、
少しその意義が下がった観はありますが、
それでも世界で最も広く使用され、
その効果が認められている抗凝固剤ではあります。

日本でも心房細動という不整脈をお持ちであったり、
静脈血栓症をお持ちであったりする多くの方が、
このお薬を脳塞栓や肺塞栓の予防のために飲まれています。

この薬を飲んでいる時には、
納豆は食べてはいけない、
と指導がされます。

青汁の類も飲んではいけない、
と言われます。

時にはホウレン草や紫蘇や小松菜なども、
なるべく摂らないように、
というような指導がされることもあります。

何故こうした食品が制限されなければいけないのでしょうか?

その理由はビタミンKが含まれているからだ、
と説明されます。

ビタミンKは骨の健康な発育に必須のビタミンですが、
それ以外に血液が固まる際に必要な、
凝固因子の一部の活性化に関わっています。
ビタミンKが活性化に必要とされる凝固因子を、
ビタミンK依存性凝固因子と呼んでいますが、
このビタミンK依存性凝固因子の生成を妨害するのが、
ワルファリンの働きなのです。

これを単純化して説明する人は、
概ね次のような言い方をします。

「ワルファリンの効果はね、
ビタミンKがあると弱くなってしまうの。
だから、ワルファリンを飲んでいる時には、
なるべくビタミンKを制限しないといけないのよ」

そう言われれば、
なるほどな、と思います。

しかし、この言い方は何となく不正確で、
曖昧模糊としています。

これでは、
ビタミンKが存在しないことが、
ワルファリンが効果を示す必要条件で、
ビタミンKが少しでも存在すると、
その効果はゼロになってしまうように聞こえます。

しかし、
ビタミンKはビタミンと言うくらいですから、
身体にとって必須の物質の筈です。

それをゼロにしてしまったら、
身体にとって大きな弊害があります。

一方でワルファリンはビタミンKの再利用を阻害して、
凝固因子の生成を抑える作用の薬ですから、
ビタミンKそのものの作用と拮抗している訳ではなく、
ビタミンKがある程度存在していても、
それで効果がなくなるような性質のものでは、
理屈から言えばない筈です。

つまり、
ビタミンKが不足していても過剰であっても、
ワルファリンの効果自体は存在する筈です。
ただ、ビタミンKの再利用を妨害する薬ですから、
ビタミンKが不足していたり、
過剰であったりする環境下では、
その効果が不安定になり、
コントロールが難しくなるということは、
当然想定が可能です。

従って問題は、
どの範囲のビタミンKを摂取している状態が、
最もワルファリンの効果が安定するのか、
という点にある筈なのです。

しかし、その重要なことが、
どうもあまり明確には教科書に書かれていません。

上記の文献はそのことを明らかにするために、
1年以上ワルファリンの治療を継続している66名の患者さんを対象として、
ビタミンKの食事からの摂取量を聞き取り、
その摂取量とワルファリンの効果との関連性を見たものです。

こちらをご覧下さい。
ビタミンKの摂取量とワルファリンのコントロールの図.jpg
食事のビタミンKの摂取量を、
1日126.5μg未満の少ない群と、
126.5~195.7μgの中間群、
そして195.7μgを超える多い群の3群に分けて比較すると、
ワルファリンの効果の変動幅は、
ビタミンKの摂取量が少ないと大きく、
多いと少なくなっていることが、
例数が少ないので統計的な説得力は今ひとつですが、
一応見て取ることが出来ます。

ビタミンKの成人の必要量は、
1日75μg程度と言われています。

これは上記の文献にあるデータではありませんが、
他の論文によると、
1日250μgを越える量のビタミンKを持続的に摂取すると、
ワルファリンの抗凝固作用は減弱しますが、
それ以下の場合には、
むしろビタミンKの摂取量が多いほど、
ワルファリンの効果は安定する、
という結果が得られています。

そればかりか、
ワルファリンの効果が不安定な患者さんに対して、
1日150μg程度のビタミンKのサプリメントを使用すると、
ワルファリンの効果が安定した、
という研究結果も存在しています。

つまり、
必要量の3倍程度までのビタミンKの摂取は、
むしろワルファリンの効果を安定化させるので、
この薬の使用時には、
望ましいことであるのです。

1日250μgを超えたからと言って、
すぐにワルファリンが効かなくなる、
というものではなく、
量が多くなるに従って、
同じ量でもワルファリンの効果が、
徐々に減弱するようになります。

従って、
その安全域は意外に広く、
簡単に食事による問題が生じる、
という性質のものではありません。

海外ではワルファリンの使用時に、
特別に食事を制限するような指導は行なわれません。
むしろ、サプリメントとしてのビタミンKを、
推奨する意見があるほどです。

一方で日本においては、
ワルファリンの使用時に、
ビタミンKを制限することが、
物凄く必要性の高いことのように言われます。

この違いの大きな理由は、
納豆という特殊な食品の存在と、
青汁やクロレラという、
これもやや特殊な健康食品の存在にあります。

納豆については、
明日もう少し整理した話をしたいと思いますが、
必ずしも摂ること自体が良くないとは、
言い切れません。

クロレラや青汁は、
通常の食品と比較すると、
かなり大量のビタミンKを含んでいて、
それを「健康に良いから」と安易に考えて、
大量に摂取すると、
場合によっては身体の必要量の10倍以上が、
一時に身体に入ることも有り得ます。

常識的に考えて、
たとえワルファリンを使用していなくても、
これだけ大量のビタミンKが身体に入ることが、
そう健康に良いことのようには、
僕には思えません。

クロレラも青汁も、
含まれているビタミンKの量が明確であれば、
全て禁止する必要はなく、
適正な使用であれば、
むしろワルファリンの効果を安定させる役割を、
果たす可能性もあるのです。

1970年代くらいの時期に、
ワルファリンの効果が、
ビタミンKを含む食品の使用により、
不安定になることが盛んに議論され、
多くの報告がされましたが、
それはその時点では、
ワルファリンの効果が不安定になる要因が、
それ以外には想定されていなかったからです。

しかし、
その後ワルファリンの正確な作用部位が同定され、
その結合部位の遺伝子の変異や、
CYPという薬剤代謝酵素の遺伝子の変異が、
ワルファリンの効きに大きな影響を与えることが分かって来ると、
必ずしも食事の影響は、
以前言われていたほど大きなものでは、
ないことが徐々に明らかになって来たのです。

問題はむしろ、
ビタミンKを多く含む食品を禁ずることではなく、
過剰にはならないレベルで、
充分な量のビタミンKを摂り、
その量をある程度一定に保つことにあります。

多めの量でも少なめの量でも、
一定していれば、
同じ量のワルファリンに対する反応は一定になりますから、
ワルファリンの効果は安定するのです。
逆に極端にビタミンKを制限していれば、
身体はむしろビタミンKに対して敏感になり、
たまたまビタミンKを多く含む食品を、
摂取することにより、
ワルファリンの効果が急激に変動する危険が、
生じることになる訳です。

その目安が概ね、
1日75μgから250μgくらいの間にあります。

明日は唯一特殊な食品である、
納豆について、
現在分かっていることをまとめておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

モカ

こんにちは。
とても興味深い論文のご紹介ありがとうございます。

納豆禁止はワーファリンの代名詞のようになっていますが、こうやって定量的にきちんと調べるとそうでも無い可能性があるのですね。

ありがとうございます。
by モカ (2013-05-09 12:42) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
ワーファリン使用中は、
納豆を食べないのが無難であることは確かですが、
根拠は非常に古いデータが少しあるだけで、
本来は再検証が必要なように思います。
by fujiki (2013-05-10 08:25) 

モカ

先生、ご返事ありがとうございます。

この論文の結果から医師が患者に納豆をある程度解禁するのは難しいかもしれませんね。
患者さん自身が血糖値のようにPTなどを自己管理出来るといいのでしょうね(^_^)
by モカ (2013-05-10 18:22) 

加藤

非常におもしろかったです。
by 加藤 (2013-05-13 08:25) 

isao

私の仲間はステントグループと言っていいぐらい、心臓に風船をつけています。ワーファリン服用をしていますが、1人は納豆の有効性に着目して、半分の量を毎日摂って、TP値2.0~2.1をキープしています。お医者も事情があるだろうから、わざわざゆうことはないさ。と話し合っています。データまで提供していただき考えが色々浮かびました。ありがとうございました。
by isao (2014-12-14 22:37) 

fujiki

isaoさんへ
コメントありがとうございます。
納豆の影響は蓄積する部分があるので、
数日に1回くらいの方が安定し易いかも知れません。
by fujiki (2014-12-16 08:22) 

リュウ

初めてコメントします。宜しくお願いします。
早速ですが先日「納豆」の事で友人と議論になりました。
友人はワーファリンを服用していますがわたしはしていません。議論というのは初歩的な事ですが「納豆は血栓をつくる」か否かです。私は今まで血をサラサラにすると思っていましたので、それは友人がワーファリンを飲んでるからだろうと思ってましたが、ワーファリンを飲んでなくても血が固まるのだと言い張るので、それではそんなリスクがある納豆がなぜ健康に良いと言って売られてるのか正直疑問でなりません。ナットウキナーゼとういうのが血液をサラサラにすると宣伝している通販会社がありますが、あれも宣伝のためなのかと疑いはじめました。本当のところどうなんでしょうか?難しいメカニズムの事は分りませんが、二日に一パック程度食べますが、血栓は出来ますか?私は出来ないと信じてます。低レベルの質問で恐縮です。

by リュウ (2017-03-06 18:50) 

fujiki

リュウさんへ
納豆が血栓を作る、というように言われるのは、
あくまでワルファリンを使用時に、
納豆を食べるとその効果に影響する、
という意味合いなので、
ご心配は全くないと思います。
by fujiki (2017-03-07 06:03) 

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