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ヒトメタニューモウイルスの疫学 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヒトメタニューモウイルスの頻度.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
風邪の原因ウイルスの一種である、
ヒトメタニューモウイルスの頻度や症状の特徴についての、
疫学研究の論文です。

ヒトメタニューモウイルスという言葉は、
耳慣れない方が多いかも知れません。

ヒトメタニューモウイルス
(human metapneumovirus )は、
呼吸器感染症を起こすウイルスとして、
2001年に初めて発見されました。
所謂「風邪症候群」の原因ウイルスの1つです。

訳語は日本語と英語のちゃんぽんで、
奇怪な感じがします。

風邪の原因ウイルスには、
ライノウイルスやインフルエンザウイルス、
RSウイルスなど多くがありますが、
そうした原因の判明したウイルスを除いても、
まだ何割か、原因が不明の風邪が存在していました。

その正体の1つが、21世紀になって、
ようやく明らかになったのです。

それがヒトメタニューモウイルスです。

このウイルスは、大雑把に言えば、
RSウイルスに良く似ています。

乳幼児期に多くの人間は感染を受け、
一度の感染では免疫が充分に出来ずに、
再感染を繰り返します。
そして、ある年齢になると、
免疫が獲得され、感染することが少なくなります。
しかし、高齢者や免疫機能が低下する病気の方には、
お子さんと同じような重症の症状を出すのです。

その症状は、RSウイルスと同じく、
典型的な風邪症状です。

数日の潜伏期の後に、
咳が先行してすぐに発熱し、
熱の持続が4~6日とかなり長く、
「喘息様気管支炎」と呼ばれるような、
ゼーゼーという感じの咳が続きます。
通常は1週間程度で回復しますが、
中には肺炎を起こしたり、
呼吸機能が悪化して重症化する事例が存在します。

ただ、RSウイルスが1歳未満での初感染が多いのに対して、
このヒトメタニューモウイルスは、
1~2歳からの初感染が多く、
RSウイルスが、ほぼ100パーセント2歳以下で、
その血液の抗体が陽性になるのに対して、
ヒトメタニューモウイルスは、
10歳までは抗体の陰性者が存在します。

その流行も、日本においては、
RSウイルスの流行のピークが、
11~12月にあるのに対して、
3月~6月頃にそのピークがあります。

RSウイルスとインフルエンザ、そして、
このヒトメタニューモウイルスの、
症状は基本的には同一です。

いずれも急な高熱が出て、
こじらせれば肺炎になります。

従って、症状のみから、
この3つの病気を区別することは出来ません。

日本の場合、大雑把に言えば、
寒くなって来る、11月~12月の時期は、
RSウイルスが多く、年が明けて、
1~2月には季節性インフルエンザが多く、
3月になると、ヒトメタニューモウイルスが多くなる、
という1つの流れが存在します。

つまり、以前の「インフルエンザ様疾患」には、
RSウイルスとヒトメタニューモウイルスが、
一体となって含まれていたのです。

現在、インフルエンザは簡易診断が存在しますが、
RSウイルスの簡易診断は、
存在はするものの、健康保険の弊害で、
使用が限定され、
ヒトメタニューモウイルスの診断は、
遺伝子検査かウイルス培養しかありません。

ちょっと気になることは、
ヒトメタニューモウイルスは中耳炎の原因となったり、
インフルエンザ脳症に良く似た、
脳炎を来たす事例が、複数報告されていることです。
インフルエンザ脳症の多くとは異なり、
実際にウイルスの遺伝子が、
亡くなった方の脳から検出されています。
また、インフルエンザとの「重感染」が、
これも複数報告されています。

今回の文献はアメリカにおいて、
2003年~2009年に3つの地域の、
5歳未満のお子さんで、
呼吸器症状や発熱を伴う、
医療機関への外来受診や入院の事例を、
全てリストアップして、
そのうちのどのくらいの事例が、
ヒトメタニューモウイルスによるものであるのかを、
検証しています。
診断は全て遺伝子診断で行なっています。
アメリカにおいても、
このヒトメタニューモウイルスの感染に関しては、
不明の点が多く、
この研究はこれまでにない大規模なものです。

トータルな結果としては、
5歳以下のお子さん1000人当たり、
年間1人がヒトメタニューモウイルスが原因で、
入院治療を受けています。

この入院の比率は、
インフルエンザウイルスによる感染や、
パラインフルエンザウイルスによる感染と、
同じくらいの頻度で、
RSウイルスの3分の1程度です。

つまり、
5歳以下のお子さんの、
重症になり易いお風邪の原因としては、
勿論その季節によっても変わりますが、
まずRSウイルスの可能性を考え、
次にインフルエンザなどと共に、
ヒトメタニューモウイルスの可能性を、
同時に念頭に置く必要があります。

呼吸器疾患や発熱で入院した、
5歳以下のお子さん3490例中、
6%に当たる200例が、
ヒトメタニューモウイルスによる感染で、
これは外来受診した患者さんでも、
救急外来を受診した患者さんでも、
7%とほぼ同様の比率になりました。

ヒトメタニューモウイルス以外のお子さんと比較して、
このウイルスによる感染症では、
肺炎や喘息症状と診断される比率が高く、
集中治療室への入院日数も、
酸素治療を必要とする比率も、
それぞれ高くなっていました。

年齢では外来の患者さんでは、
ヒトメタニューモウイルスによる感染と、
そうでない感染との間で、
あまり違いはありませんでしたが、
入院した重症の事例に関して見ると、
ヒトメタニューモウイルス以外の感染では、
ほぼ半数の事例が月齢6ヶ月未満でしたが、
このウイルスの感染ではその比率は3割弱で、
より高い月齢の感染が、
多いという傾向が見られました。

重複感染の事例は、
入院事例の10%に認められ、
その内訳はRSウイルスが最も多く、
次がインフルエンザウイルスで、
それにパラインフルエンザウイルスが続いています。

入院の事例では血液と尿の細菌培養も施行されていて、
その2割では尿の細菌培養が陽性で、
その比率はヒトメタニューモウイルス陰性例で、
より頻度の高いものになっていました。

現行保険診療上の問題はありますが、
RSウイルスとインフルエンザウイルスは、
迅速診断で一般臨床のレベルでも一応の鑑別が可能で、
両者が陰性で喘息様気管支炎や肺炎症状のある時には、
5歳未満のお子さんでは、
ヒトメタニューモウイルスの感染も同時に疑う必要があります。

現時点では対処療法以外に治療はなく、
ワクチンのような予防法もありません。

しかし、
お子さんの風邪症状に対して、
より多角的な目を持って診療に当たることが、
一般臨床においては、
重要なことなのではないかと思いますし、
海外のデータではありますが、
基本的な診断スキルを向上させるために、
貴重な情報なのではないかと思います。

今日はヒトメタニューモウイルスの疫学についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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