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有川浩とノロウイルス感染症の話 [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

今日は雑談的なものです。

本屋さんへ行って、
有川浩の「フリーター、家を買う。」の単行本を探し、
1冊あったのでそれをレジに持って行きます。

すると、
訳知り顔の店員さんにこんなことを言われます。

「お客さん、この本は来月文庫本が出るので、
それまで待った方がお得ですよ。
同じ作者の単行本でしたら、
『植物図鑑』がお薦めです」

善意で言われていることは分かります。
すぐに文庫が出版される単行本を、
買いに来るのは文庫化を知らないからだとは、
推測されるところです。
「フリーター、家を買う。」は、
図書館戦争のシリーズを別にすれば、
連続ドラマ化されるなどして、
有川さんの作品の中でも、
一般によく知られているものですから、
それを今買うという時点で、
この人はあまり有川浩のことを知らないな、
というのは、
これも蓋然性の高い推測になります。

ただ、実際には僕はそれまでに、
20冊以上は有川さんの作品は読んでいて、
「フリーター、家を買う。」は後の楽しみにとっていたのです。
文庫化が翌月ということは知りませんでしたが、
そのうちには出ることは知っていました。

それでも、
買うのなら単行本の方が良かったのです。
「植物図鑑」は勿論読んでいて、
短編の「クジラの彼」に似ていることや、
マンガの美味しんぼに似ていることなどで、
1時間くらいの時間はもたせられるくらいの知識はありました。
感想としては、
とても面白いのだけれど、
ラストで男の正体が分かると、
何かガッカリするので、
あの正体なら最後まで謎のままの方が、
良かったのじゃないかな、
ということです。

しかし、
そんなことを言ったところで仕方がありません。
僕はただ、
「そのままで大丈夫です」
と言ってレジを済ませます。

店員さんにとって僕はどのような存在に思えたでしょうか?

せっかく有益な情報を提供したのに、
分からず屋で聞く耳を持たないように思えたかも知れません。

ブログやツィッターで、
そのことを文字にするかも知れません。

より良い結果に至り、
より顧客に満足のゆく結果が得られるように、
その店員さんは努力をしたのですが、
結果的にはそれはあまり意味のないことになり、
そのことをその店員さんは決して知ることはありません。

こんなことは他にもありそうです。

ノロウイルスの感染症が蔓延しています。

多数の食中毒を出した事例や、
高齢の死亡者を複数出した事例などは、
他人事とは思えません。

このことについては、
多くの医療関係者の方が、
色々なことをつぶやいたり発信したりしています。

個人的には
あまりそんなことは言わない方が良いのに、
と思いますが、
言いたい方は言いたいのでしょうから仕方がありません。

ある人はノロウイルス感染症は、
通常は放っておけば治る病気なのであり、
点滴するくらいしか治療はないのだから、
医者などに行くべきではない、
というようなことを言われます。
重症化のリスクのある場合にのみ、
医者へ行けば良いのだ、
というのです。

またある人は、
学校でノロウイルスの検査をするように言われた患者さんが、
検査を希望して来院されたのに対して、
検査をして陽性になったところで
治療が変わるということはないのだから、
そんな必要は全くなく、
生徒に検査を強要するような学校は、
非科学的でどうしようもないのだ、
という考えのもとに、
外来では患者さんにそう言って、
検査をすることは拒否した、
と書かれていました。

言われることはいちいちもっともではあります。

ただ、
最初にご紹介した本屋の店員さんのように、
患者さんやそれを取り巻く社会というものを、
自分より無知なるものの世界として、
一面的に捉え過ぎているようにも思います。

つまり、
「フリーター、家を買う。」
の単行本を買おうとしてレジに差し出した時点で、
こいつは分かっていないな、
と一方的に判断し、
説教をしてお客さんを追い返すような行為に似ています。

本屋の店員さんは決してそのようなことはしないでしょう。
しかし、医療関係者は平気でします。

それは何故でしょうか?

勿論本を買うことと病気の検査をすることとでは、
問題の性質は違います。
ただ、そうではあっても、
似た部分もまたあるのです。
医療従事者が患者さんをどう捉えているのか、
という関係性の問題が、
ここには潜んでいるように思います。

先日患者さんから次のようなお問い合わせがありました。

食品関連の会社に勤めているOLの方で、
嘔吐と下痢の症状があり、
医療機関に行くべきかどうか、
風邪の時などに受診する医療機関に問い合わせをしたところ、
その必要はないと言われたので、
自宅で療養して数日で症状は改善しました。
それでその翌日から出社する旨会社に言うと、
ノロウイルスの診断が間違いないなら、
治ったかどうかを検査で確認し、
その証明書を持って来てもらわないと、
出社は認められない、
というのです。
それで再度医療機関に問い合わせをすると、
そんな目的で検査をするのは非科学的でナンセンスであり、
検査をすることは出来ない、
という返事でした。
他にも幾つかの医療機関に問い合わせをしましたが、
何処も検査をしてはくれません。
あるところでは必要がないから駄目だと言われ、
別の医療機関では、
症状のある時に掛かっていないのだから、
そんなことは出来ない、
という返事です。

それで僕は、
自費になりますがそれでも構わなければ、
検査はいつでも可能です、
ただし、ノロウイルスの抗原が陰性でも、
それは周囲に感染しないことの証明にはならず、
症状がノロウイルスであったことの証明にもならないので、
そのことは頭において検査を受けて欲しい、
と言いました。

患者さんは納得されたので、
来て頂き便の検査をしました。

結果は陰性だったので、
その旨の結果のみを記した証明書を書きました。

患者さんとお話をしましたが、
こうした検査が手続き的で便宜的なものに過ぎない、
ということは充分理解をされていました。

しかし、
会社や学校というのは、
100%の安全を目標として努力をした、
ということに重点を置きますから、
会社が検査で問題なしとの証明書を持って来い、
と言うことの必然性も理解は出来ます。

その2つの考えの板挟みに、
その患者さんは困っていたのであり、
科学的に正しい判断とは言え、
医療従事者がその板挟みに手を貸すのは、
あまり良いことのようには僕には思えません。

こうしたケースでは、
誰かが安全の責任を持たなければいけないのです。

それはその施設や企業の、
産業医や学校医、そして安全管理の責任者の仕事になります。

しかし、
その責任の所在が明確でない場合には、
その患者さんに対応した医療従事者が、
責任を持つことも必要なことなのではないかと思います。

これは別の患者さんから最近言われたことですが、
もしノロウイルスと思われるような症状があった時には、
受診しても構わないでしょうか?
と改めて聞かれたので、
勿論構わないのですが何故ですか、
と問い返すと、
先日テレビの医療系のコメンテーターが、
ノロウイルス如きで医者に行くのは間違いで、
医者にとっても迷惑な行為なので、
アルカリイオン飲料を少しずつ飲んで、
治るのを待つのが正解だ、
と目を吊り上げてのたまったのだそうです。

勿論そのコメンテーターのような方は、
医者には行かずに家で唸っていれば良いのです。
しかし、人間はそれぞれ違いますから、
全ての人がその通りにする必要はないのだと僕は思います。
健康状態で不安を感じれば、
些細なことでもお問い合わせ頂いて良いのですし、
受診をされても良いのです。

ただ、ものは感染症ですから、
流行状況によっては、
なるべく最初からは受診するべきではない、
というような状況も有り得ます。

しかし、
少なくとも今はそうした状況ではありませんし、
そうした状況かどうかを判断するのは、
行政の仕事だと思います。

僕が医療従事者以外の方に分かって頂きたいことは、
医者にも色々な立場があり、
その立場によって考え方が異なるので、
1つの意見で全てが代表されるようには考えないで欲しい、
ということです。

地域の基幹病院の外来に、
いきなり沢山の嘔吐下痢症の患者さんが大勢詰め掛け、
その多くは症状の軽い患者さんであったりすれば、
当然そこに勤めている医者は、
「ノロ如きで病院へ来るな!」
という感想を持つのです。
その先生にはもっとその先生の専門分野の患者さんを診たり、
もっと重症の患者さんを診たりするという、
仕事があり、
その仕事の時間が盗られるように感じるからです。
その先生の仕事にとって、
軽症だけれど病状に不安を持つ患者さんの、
お話を聞き診察をして、
その不安を和らげるような仕事は、
仕事とは見做されていないか、
少なくとも「俺でなくても出来ることだ」
と思われているからです。

一方で僕のような立場の医者にとっては、
そうしたことの方がメインの仕事であり、
「たかがノロウイルス感染症」であっても、
時に深刻な問題になることも現実にはあるのであり、
その見極めをすると共に、
そうではない患者さんの不安を和らげ、
適切な対応に対してのアドバイスをすることは、
無意味なこととは思えないのです。

ですから医療機関を上手く使って頂いて、
些細なことでもご不安があれば、
それを解消することこそが、
医療のプロの仕事だと思いますし、
お問い合わせや受診を躊躇う必要はないように思います。
また、分からず屋と思える患者さんに、
イライラされている先生も、
ひょっとしたらその見方が違うだけで、
その患者さんなりの理屈があり、
その理屈と先生の理屈とが、
ぶつかるのではなく融和するところにこそ、
真の医療の姿があるのではないかということに、
今少しその賢い頭脳を使って頂ければな、
と思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

kei

こんにちは
いつも読ませていただいています

小児科に勤めているので 嘔吐下痢の患者さんは多いです
ただ検査はしていなのでほんとにノロなのかの判断は出来ません。
ノロの検査をして欲しいという患者さんは多いのですが
保険がきかないので自費になりますよというと
ほとんどの方がではいいですと言いますね(笑)
中学生まで医療費無料の地域なので
お金払ってまではいいやという感じです。

有川浩さんは私も大好きでほとんど読みました
フリーターも原作好きで ドラマ見ましたが
あれは別物でちょっとがっかり・・・
図書館戦争も来年実写化されるようですが
どうなんでしょうね~!?

by kei (2012-12-27 19:08) 

fujiki

kei さんへ
コメントありがとうございます。
インフルエンザの迅速診断もそうですが、
色々と限界やピットフォールはありながらも、
導入されることによって、
一般の医師の診断能力は確実に向上したと思います。
1人1人の患者さんにしっかりと診断を付けるということは、
僕は非常に重要なことだと思いますが、
そう思われない方も多いように思います。

フリーターは随分違いましたね。
図書館戦争もそのままでの実写化は、
色々な意味で無理だと思いますので、
かなり設定を含めて、
別物になるのではないでしょうか。
by fujiki (2012-12-28 08:41) 

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