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認知症の増悪をどう考えるか? [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は最近の診療の中で、
印象に残った事例についての話です。

実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける見地から、
敢えて細部を変えた部分のあることを、
予めお断りしておきます。

患者さんはAさん。
一人暮らしの90代の女性で、
高血圧と心不全の持病をお持ちです。
杖を突いてではありますが、
診療所まで1人で定期的に受診され、
自然な記憶の衰えはあるものの、
認知症を疑わせるような症状は見られませんでした。

ところが…

雪の日に玄関の前で足を滑らし、
尻餅を突いてお尻を強打しました。

辛うじて立ち上がり、
部屋までは戻りましたが、
その後腰の痛みが強くなり、
起き上がることも困難な状態になりました。

近隣に住むご家族は、
非常に熱心な方だったので、
すぐに1人暮らしのAさんのところに駆け付け、
毎日必ず数時間は、
Aさんの家でAさんの身の回りの介護をするようになりました。

僕は依頼があり往診をして、
整形外科への紹介状を書きました。

それから1週間ほどが経った時のことです。

ご家族からAさんの言動がおかしい、
という連絡が入りました。

腰の痛みが少し落ち着きつつあったので、
ご家族は1日だけAさん宅の訪問を休んだのですが、
その日にAさんから連絡が入り、
「家の中に得体の知れない動物を連れた男が入り込み、
家の中をめちゃくちゃにして行った」
と言うのです。
驚いてAさんの元に駆け付けると、
そんな男や動物の姿はなく、
しかし今度は、
死んだおじいさんがそこに座って、
恨みがましい目をして自分を見ている、
と言ったり、
家族が1週間食事を取らせてくれない、
と泣いたりもします。

僕はご家族が家に行かなかった日に、
Aさんを不安にさせるようなことが、
何か起こったのではないかと思いました。

ご高齢ですから、
全く認知症がない、ということはないと思います。

安定した状態の時には、
日常生活に支障のないレベルの認知症が、
ストレスなどをきっかけとして、
一気に悪化したように見えることは、
よく経験することです。

その可能性をお話すると、
ご家族は、
自分も同意見だ、と言われました。

こうした場合、
心配だからすぐに入院をさせて欲しい、
というようなことを言われるご家族も、
実際にはよくいらっしゃいます。

しかし、そのご家族はそうではなく、
これからまた毎日Aさんのところへいつものように通って、
なるべく安心してもらうように心掛け、
3日くらい様子を見てみる、と言われました。

僕はその見識に感心しました。

それで僕もその方針に賛成で、
Aさんの不安が最小限になるような、
環境づくりが大切だと思う、
と言いました。
それから、Aさんのご様子が更にお悪くなるような兆候があれば、
その時はすぐに連絡をしてもらうように言いました。

そして、それから3日後。

再びAさんの家に訪問診療に行くと、
状態はかなり落ち着いていて、
「自分はどうかしていたような気がする」
と言いました。
若干の現実と夢との混乱のようなものは、
残ってはいるのですが、
それ以外の点では極めてクリアで、
早く立って歩けるようになろう、
という強い意欲も感じられました。

僕はほっと胸をなで下ろしました。

それとは逆に、
こんなこともありました。

Bさんは80代の女性で、
非常に気丈でプライドの高い方です。
マンションの経営をされていて、
診療所には高血圧で通われていました。

それがある時から、
物忘れが目立つようになります。

朝家族に頼まれた買い物などを、
その時は記憶したつもりでいて、
忘れてしまうのです。

Bさんが非常に気の付く人であることを、
よく知っているご家族は、
自分の頼んだ買い物が、
されていないことに驚き、
「どうして忘れたんだ!」とBさんを怒鳴りつけます。

Bさんはかつては非常に家族にも厳しく、
落ち度があると、
やや感情的に叱り付けるのが常でした。

そうして育てられたご家族は、
その意識が染み付いているので、
「Bさんともあろう人が物忘れをする」
という事実が許せなくて感情的になってしまったのです。

Bさんはこのことに非常なショックを受けます。

物忘れの自覚は少し前からあり、
「歳のせいね…」とは感じてはいました。

ご家族もそのように自然に対応してくれれば、
そのことを自然に受け入れることが出来たのではないかと思うのですが、
些細なことを忘れても、
ご家族から怒鳴りつけられるので、
次第にそのことを隠すようになり、
忘れたことも素直には認めないようになります。
感情が不安定になると、
猶更に物忘れは強くなり、
マンションの契約でも問題が生じるようになります。

問題が発覚すると、
それでご家族はBさんをまた怒鳴り付け、
Bさんは萎縮して更にそれを隠そうとします。

Bさんからその話を聞いて、
僕はBさんのご家族と話をしました。
お話しを聞くと、
ご家族はBさんを愛していることが分かり、
それでいて物忘れが進行する状態のBさんを、
受け入れることが出来ずに、
感情的になってしまう苦しみを抱えていることが分かります。

僕は物忘れは自然なこととして受け入れ、
Bさんがなるべく安心出来るように、
ご家族にBさんの記憶の代わりを、
してもらうのが良いのではないか、
という話をしました。

ご家族もその場では理解はされたのですが、
診療所からの帰りには、
再びBさんのことを、
「ほらまた忘れた!」と叱り付けていました。

感情のコントロールというのは、
理解はしていてもそう簡単なものではないのです。

全ての認知症がこうだ、
というように主張するつもりはありませんが、
概ね認知症が急性に増悪する時というのは、
このように心理的な要因のあることが多いように、
経験的には思います。

人間は「物忘れ」のように、
当然出来る筈のことが出来なくなり、
自分の中の何かが欠落する時、
そのことに混乱し、
感情が理性を支配して、
人間としての心棒の部分を、
一時的に喪失してしまうことがあるようです。

その時に「病気が進んだ」と突き放されれば、
一気に状態は悪化して固定してしまう可能性が高く、
ご家族や周りの人が、
それがないことを自然なこととして、
受け入れて補うような姿勢があると、
本人もその欠落を受け入れて、
精神的な均衡を取り戻すのではないかと思うのです。

全ての認知症が、
心理的に了解可能だとは思いません。
しかし、可能な場合は結構多いことも確かで、
その場合はそれを認知症の自然経過のように捉えるのではなく、
心理的な解釈を、
むしろ優先して考えた方が、
理に適った対応であり、
それが予後の改善にも結び付くのではないかと、
最近は思えて仕方がないのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

tamura

新聞、雑誌では伺い知れない大切な記事をお伝え下さりありがとうございます。

私は69歳の主婦です。骨粗鬆症の薬を10年ほど投与されていますが、ボナロンは胃痛が始まり、他に歯周病にて抜歯などがあり中止。新薬のエディロールは服用後半年で尿管結石となり中止。残るエビスタ錠なのですが、下肢静脈瘤があり手術を勧められました。
ストリッピング手術を受ければ、エビスタを服用できるようになるのでしょうか。

お教え頂ければ幸いです。
by tamura (2012-03-15 12:54) 

fujiki

tamura さんへ
お読み頂きありがとうございます。
静脈瘤の手術をしても、
完全に血栓形成のリスクがなくなる、
ということではありませんから、
エビスタが慎重投与の方針となることには、
変わりはないと思います。
ただ、勿論リスクが低くなることは確かで、
使用が完全に不可といことではないと考えます。
ボナロンは5年の使用により、
その後の骨折リスクの、
ある程度の回避が期待出来、
また5年以上の使用の安全性は、
必ずしも確認はされていません。
従って、5年以上ボナロンを使用されていたとすれば、
何も使用せずに経過を見るのも1つの考え方です。

問題は現時点で骨の量がどのくらいで、
どの程度の骨折リスクがあるか、
ということで、
リスクが高い場合には、
高価な薬で注射という欠点はありますが、
副甲状腺ホルモンの注射薬も、
選択肢の1つではあると思います。

後、ビタミンDで尿路結石が生じたとのことですので、
尿にカルシウムが出易いような、
ご病気が隠れていないかどうか、
という点もちょっと気になります。
もうされているかも知れませんが、
副甲状腺機能亢進症や、
クッシング症候群などの可能性も、
もしまだでしたら、
念のためチェックされた方が良いのではないかと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-03-16 08:59) 

tamura

先生、速くご丁寧な返信をいつも感謝しております。

ボナロンは5年になります。
経過を見るという選択もあると言うことが判り、少し安堵しました。

副甲状腺機能亢進症や、クッシング症候群などの可能性の
チェックはしておりませんでした。
近く受診する所存です。

本当にありがとうございました。



by tamura (2012-03-17 13:22) 

tsworking

こういった細かい現場の知見をもっともっと活かした研究が何故進まないのでしょうか。
現場と上層部の乖離が進んでいると大学在学中から感じていて、いますが先生のように問いかける方と大学の先生方がもっと手を組んで当たり前の社会にしたいと、スポーツ・健康体力作りの立場からもいつも考えています。
by tsworking (2012-03-17 23:15) 

fujiki

tsworking さんへ
コメントありがとうございます。
個人的にはアルツハイマーにおける、
初期の記銘力障害と、
その後の周辺症状の発症とは、
基本的に分けて考えるべきではないかと考えます。
記銘力障害の治療は、
薬物治療に大きな可能性があり、
その面に集中して開発を行なう必要性が高く、
周辺症状の発症は、
むしろ医療とは別の領域に、
その進行抑制のヒントがあるような気がします。
by fujiki (2012-03-19 08:40) 

karakoba

先生の最後のまとめのコメント、なるほど、と思いました。周辺症状の抑制のために家族が認知症の家族にできる接し方として、怒らない、とか否定しない、とよくいわれるのですが、とても難しいです。認知症の症状をみて病気の進行に不安と恐れを感じるための自然なリアクションとして、感情的になってしまいます。ひたすら訓練、とも思いますが、何かよい考え方はないでしょうか。家族と思わずに一人の人間と思って接する、などとも聞きますが、どうしてもうまくいきません。
by karakoba (2017-09-04 17:10) 

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