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被爆量をトータルで考えるということ [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日も事情あって、
いつもより早い更新となります。

それでは今日の話題です。

先日妻が大学病院で腸の造影検査を受けたのですが、
その当日放射線科の担当医師から、
次のような説明がありました。

「この検査は放射線の被爆を伴うものなので、
その影響についてご心配かも知れませんが、
今では従来の5分の1から7分の1に、
被爆線量は軽減していて、
あなたの受ける検査は、
従来の5分の1になっているので、
ご心配は要りません」
という趣旨のものでした。

素朴に疑問に思うことは、
従来とはいつのことで、
いつからそんなダイナミックな被爆量の軽減が、
行なわれたのだろうか、
と言うことです。

そのことを妻が訊くと、
放射線科の医師は何となく気まずそうな顔をして、
つい最近のことだと言葉を濁しました。

妻は1年半ほど前にも同じ検査を受けましたが、
その時にはそうした説明は一切ありませんでした。
つまり、今回の5倍の放射線量の検査がされていたのです。

そして現在でも、
施設によっては放射線量が5倍の検査が、
同じ医療費を使用して、
特に説明なく行なわれているのだと思います。

放射線関連の学会は、
「放射線は危ないぞ」みたいな指摘に対しては、
「医療放射線は安全です!」
と目を吊り上げて反論しますが、
安全な筈のものをどうして急に5分の1にするのか、
いつそうしたことを決めて、
いつから実施したのか、
施設間の放射線量の格差をどう考えどう対処するのか、
というような点については、
一般にはなかなか教えてくれません。

うまく言えませんが、
何か釈然としません。
何かがアンフェアな感じがします。

PROTECTIONⅠというアメリカの臨床研究があり、
これは心臓の造影CTの被爆線量を、
多施設で検証したものですが、
これによると同じ検査にも関わらず、
その被爆線量には7倍の開きがあった、
という結果になっています。

つまり、CTやシンチ、血管造影検査のような、
被爆線量の多い検査というのは、
その設定などのちょっとした匙加減と、
手技的な配慮によって、
その患者さんの内臓への吸収線量に、
大きな差が生じるもののようです。

日本は間違いなく世界一CT検査を行なっている国です。
アメリカは意外にCT大好き国ですが、
それでも日本には及びません。

2004年のLancet誌に載った有名な論文では、
日本の年間の癌の発症のうち、
3.2%は医療放射線の誘発によるものと算出される、
という計算結果が載っています。
これは勿論放射線治療は除外した場合の話です。

ただ、この計算は広島長崎の被爆者のデータを解析した、
所謂Life Span Studyをベースにして、
Linear No-Threshold model、
所謂LNTモデルから導かれたものなので、
当てにならない、というお考えの方も、
日本には多いと思います。

何シーベルトという単位で表現される、
実効線量という考え方は、
その放射線の性質がどのようなものであっても、
被ばくの形態が内部被曝であっても外部被爆であっても、
ある種の平均化と重み付けをして、
シーベルトという単位で比較を可能にしたもので、
つまり1シーベルトの与える人体への影響は、
常に一定である、
という考えがベースになっています。
しかし、これは仮想の標準人体というものを、
計算の根拠にしているので、
皆さん1人1人の被ばく量を、
正確に反映したものではそもそもありません。

シーベルトという単位の意義は、
近似的なものではあっても、
人間が様々な形で吸収する放射線の総量を、
トータルに見ることが可能になる、
ということです。

現代の地球に生活をしていて、
たとえ原発事故などがなくとも、
僕達は放射線と無関係に、
生きることは出来ません。

しかし、このような世の中であれば、
自分がどれだけの放射線を日々吸収していて、
その内訳はどのようになっているのか、
ということを知った上で、
放射線防護の問題を考えることが、
重要なのではないかと僕は思います。

こちらをご覧下さい。
放射線被曝の比率の年次推移.jpg
これはアメリカにおいて、
全てのアメリカ人が、
1年間に被ばくする放射線の量と、
その内訳を図示したものです。
勿論放射線治療は除外しています。

右の大きな図が2006年のもので、
左の小さな図が、
1980~1982年のものです。

これを1人当たりで割り算すると、
1980年の医療放射線が0.53mSv。
それ以外の主に自然放射線が3.1mSvです。

それに比較して、
2006年の1人当たりの医療放射線は、
1980年の5倍を超える3.0mSvですが、
それ以外の被ばく線量は3.2mSvで、
1980年と殆ど変わりません。

1980年から2006年に掛けて、
大衆の被ばく線量は1.7倍に増加し、
その殆どが医療放射線の増加です。

日本において、
僕はこうしたデータを見たことがありません。

本来は日本人が平均で、
どれだけの被ばくを通常しているのか、
という論点は、
非常に重要なことの筈です。
それがなければ、
今回の原発事故による被ばくの影響の判断も、
あまり意味のないものになってしまうからです。
しかし、自然放射線は1年間で1.5mSv程度で、
世界平均の2.4mSvよりずっと低い、
という数値は何処にでも書かれていますが、
医療放射線をそれと比較して、
1つにまとめたものはありません。

それが何故かということは、
推論で語ればお叱りを受けそうなので、
その点の推測は避けます。

ただ、間違いなく、
日本のCTの稼働率や、
その他の放射線検査の施行頻度を考えれば、
アメリカより遥かに被爆線量は多く、
かつ医療放射線の占める比率は、
遥かに大きなものであることは、
間違いがないと思います。

今回の原発事故において、
否応なく多くの皆さんが低線量の被ばくをしている訳です。

その低線量の被ばくと、
癌の発症の確率との議論をすることも大事ですが、
より重要なことは、
トータルな被ばく量であって、
それは医療被ばくと切り離しては、
考えられないものだということに、
もう少し目が向けられるべきではないかと、
僕は思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 12

midori

ひやー、コワっ。
その病院が独自に調査・判断してそうしているのか、
それとも上ーのほうから何かしら通達が内密に出ているのか。。。

健診結果出ました。
小物で全然病気のレベルではないですが、
やはり引っ掛かりがいくつか。
加齢によるものと思われますが、
胃カメラの件も含め、ご相談に。
今は寝る間もないほど忙しい(これが不調の原因ともいえる)
ので、月末くらいに伺いたいと思います。
by midori (2012-02-10 12:57) 

北の国

はじめまして。
いつも、拝見させて頂いています。

娘は生まれた時に、心臓に疾患があり手術をしたのですが、する前もした後もレントゲン写真をかなり撮りました。この先も経過観察中なので、撮るものと思われます。撮る時に気になり聞いても、一生の内で考えると、大した事では無いですよ。と言われてました。ブログを拝見させて頂いていると、大した事なのでは‥と、心配になりました。でも、経過観察を止めるのも選択には無いので、このまま、モヤモヤしたまま病院に行くしか、ないのですね。
by 北の国 (2012-02-11 01:54) 

患者

今日は診療所やすみでしょうか?
患者さんいりぐちでまちぼうけです
by 患者 (2012-02-11 09:29) 

ドクター・ヘル

私も、何度か注腸造営検査を受けたことがありますが、被爆量については、何の説明もありませんでした。
また、自分自身も、「胸や胃のレントゲンと同じくらい」としか思っていなかったので、聞く事もありませんでした。

今、世間では「放射線狂騒曲」が鳴り渡っています。これは、検査による被爆と、検査をしなかった事による病状の見落としとを天秤にかけてみる事を忘れてしまっているようで滑稽にすら思えます。

そもそも、人間の体自体が体重(㎏)に100をかけたくらいの放射線(ベクレル)を出しているのですから、「放射線はダメ」というのなら、誰とも接触できないという事を、せめて、先生のこのブログを見に来る人たちだけでも理解して欲しいものです。

※例
体重60kgの人なら、約6000ベクレル
by ドクター・ヘル (2012-02-11 13:13) 

fujiki

midori さんへ
了解しました。
こちらもバタバタで、
結構シンドイ状態が続いています。
by fujiki (2012-02-11 14:11) 

fujiki

北の国さんへ
コメントありがとうございます。
この記事でご不安に思われたとしたら、
大変申し訳ありません。
必要性のある放射線の検査は、
ご心配されずにお受け下さい。
ただ、誰でも放射線の被爆は、
少なからず受けているのが、
現代人の生活なのですが、
その点について、
実際にどれだけの被爆を受けていて、
それがどの程度状況によっては軽減出来るものなのか、
と言う点については、
1人1人がもう少し関心を持つことが望ましいのではないか、
というのが僕の言いたいことの1つで、
特に造影を伴うような検査の被爆量については、
個々に聞いて頂くのが、
良いのではないかと思います。

勿論心配をし過ぎる必要はありません。
ただ、放射線の検査のリスクは、
ゼロではないので、
不必要な検査はしないようにして、
被爆量の軽減を、
常に頭の片隅には置いておくことは、
僕はこうした時代には重要なことだと思います。
by fujiki (2012-02-11 14:26) 

fujiki

患者さんへ
申し訳ありません。
今日は祝日のため休診です。
ブログをお読みになっている方のために、
前日の記事に祝日の場合には、
告知をするように、
今後は気をつけたいと思います。
by fujiki (2012-02-11 14:28) 

fujiki

ドクター・ヘルさんへ
いつもありがとうございます。
何より正確な情報を持って頂くことが、
重要だと思いますし、
不用意に不安を煽らないような書き方を、
改めて心掛けたいと思います。
by fujiki (2012-02-11 14:30) 

北の国

丁寧なお返事、ありがとうございます。
必要か不必要なのかそのつど、担当の先生などに聞いて、自分も考え判断していく事が、大切ですよね。
これからも、ブログを拝見させて頂きながら、色々勉強させて頂きます。
本当に、ありがとうございました。
by 北の国 (2012-02-11 16:57) 

くうさん

 こんばんは。
 注腸造影検査を検索していてたどり着きました。
 週刊現代の記事に、大腸バリウム検査はCTより被爆量が
多く書いてあったのですが、そんなにすごいんでしょうか。
 過去に1回うけており、心配になりました。
  
by くうさん (2017-07-13 20:04) 

fujiki

くうさんへ
これは透視をするので、
どうしても線量は多くなります。
ただ、やり方によってかなりの差があるかとは思います。
1回のみの検査で特に心配はありませんが、
次回は問題がなければ、
大腸ファイバーを優先にお考えになった方が、
良いかも知れません。
by fujiki (2017-07-13 21:53) 

くうさん

 大腸ファイバーが怖くて、注腸やってしまいました。
 今は、CTでの被爆量など問題になってますが昔は気にもしておりませんでした。
 ありがとうございました。
 
by くうさん (2017-07-14 12:12) 

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